【第9回】同人女の感情
ある日Twitterに
『おけけパワー中島』
という単語が席巻したことがある。
どいつもこいつも『おけけパワー中島』について語っているのだがその『おけけパワー中島』が誰なんだかなんの話をしているのだかわからない。
だだ、もう、みんな熱く語っているのである。
タイムラインをさかのぼっても『???』が頭に増えていくばかり。
ようようヒントをくれるツイートにたどりつき、それが真田つづるさんという方の『同人女の感情』という漫画であることがわかった。
なんとTwitterに連載されていたのである。
灯台下暗しとはこのこと!!!!(さかのぼって読むならpixivです)
そこで私は『おけけパワー中島』というのが『神字書き(すごい2次小説を書いてくる人)』とメッチャ距離が近い人だと知ったのであった。
主人公は『おけけパワー中島』の一言一言に心が千々に乱れてしまい『神字書き』に自分を見つけてもらうためひたすら2次小説を書く。しかし全然見つけてもらえず落ち込むのである。
よくわからなかった。
大前提として私の『同人誌』を読んだ冊数が全部合わせて10程度だったということかあげられる。もちろん2次小説は書いたことない。圧倒的に『同人女の感情』がわからない人なのだ。
まず最初に
え?好きなら好きと本人に直接言えばよいのでは?
と思ってしまったのだ。
後述するが、私もただ一度だけ『好きなジャンル』というのができたことがある。そして『神字書き』に出会ったことがある。
その方のホームページに
「大好きですぅぅぅぅ」
と書き込んだことがあるのだ。
『おけけパワー中島』の位置に行けなくともコメント欄に好きなら好きと書けばえーーやんけ。なんでそんな回り道すんの。失礼なことさえしなきゃコメント返してくれるよーーんと思ってしまったのだ。同人女の感情がわからない女だ。
逆に北村薫に自分の小説読まれたら死んでしまう。即死だ。口からダバーッと血を垂らして死ぬ。「私のことなど見つけてくれるな」と神棚に祈る。
ダイイングメッセージは
『恥ずか死』である。
ある日ネットニュースに指の先で『恥ずか死』と書いて死んだオバサンの話が載ったら私である。北村薫先生におかれましては一生私の存在には気づかないでもらいたい。粛々と新刊を買わせてもらいたい。私だって命は惜しい。
自分からは話しかけられないが小説は読んでもらいたいというのがよくわからない。
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この『同人女の感情』についてカレー沢薫さんという方が的確に書かれていた。
『議論の余地がありすぎる』とカレー沢さんはおっしゃる。そーなんですねー。
すごく、余白を感じる漫画だ。そしてついつい語りたくなってしまうのだ。わざとギチギチに、全方位に神経を張って描いてない。主人公に必ずしも共感できるわけでもない。
これがこの漫画のスゴいところなのだ。
漫画はバズりにバズり、pixivに更新されるたびTwitterのトレンドに上がるようになった。意味がわからない単語がトレンドに上がれば『同人女の感情』が更新されたなと気づく。『私のジャンルに「神」字書きがいます』という題名で書籍化された。
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最近は『同人』がTwitterに漫画をあげるようになった。うっかり目にすることがあるが不思議な気持ちになる。
あのチョーユーメー漫画のライバル同士がイチャイチャしている。
私の中では『ライバル』でしかないので、なぜ2人の間に恋愛感情が芽生えているのかわからない。しかも絵はすんっっごくウマイというかそっっっっくりなので脳がバグる。
どうもこの界隈すごく進化しているらしい。どのカップルのどんなシュチュエーションがアリなのか議論が起こるらしい。エンピツと消しゴムの恋愛考えたりできるらしい。
私もひどい妄想癖のある女だが、ここまでくるとわからない。
日本人の恋愛は極まっているのだなあと思う。置いていかれている。
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一度だけ『2次小説』にはまったことがある。
私はそのときツワリであった。布団に寝てるしかない。1日中気持ち悪い。つらい。
大好きな漫画は事情があって続きが出ない。
あまりに出ないので2次小説が次々出される事態になった。『続きがないなら私が書きまーーす』だ。
新刊でない。続きが読みたい。ツワリつらい。
私はスマホ片手に2次小説をネットサーフィンした。
その時に『編集者の手を経ていない文章』を初めて読んだ。素人の文章が面白いわけがない(私含む)と思っていたので、意外に面白くてびっくりした。
いやそもそもだ。起承転結組み立てられる段階でその人はかなり高度に文章が書けるのだ。自分の視界の狭さを恥じた。
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ただ色々読んでいくうちに気づくこともあった。
キャラクターをトレースできてない人がいるのだ。
キャラクターには『絶対この人はこんなことをしない』という領域がある。『こんなことは言わない』
言ってもいいんだけど『そうなる事情』がきちんと書けてないといけない。
『あなたが』『こういう方向の話が書きたい』と思ってもキャラクターがそうしないならそれは書けない。
例えば『俺』と言っている人が『僕』というときには事情がいる。婚約者の両親に会うとか、謝罪の場であるとか。
それを『僕』を意味もなく連発する人がいる(これはあくまで例えだが)
そうすると違和感が膨らんで話に集中できないのだ。
ところがあるときそのキャラクターを完璧にトレースしている人がスマホ画面に現れた。『そのキャラクターならそうする』としか思えない。
さらにさらに起承転結がきちんとしていて話に意外性がある。
さらにさらにさらにオリジナリティがあったのだ。
オリジナリティというのは他のサイトに寄稿した文をたまたま見ても「あ、これAさん?」とわかるということだ。
2次小説でこの域に達せる人はほぼいない。原作という大きなハードルを1つ越えないといけないからだ。原作を踏まえた上で原作を超えるのだ。
すっげぇぇぇぇぇなんでこの人プロじゃないの!?すっげぇぇぇえええええええ(だんだん声が大きくなる)
生まれて初めて『同人誌』買いました。計5000円くらいしたけど、この人の作品にはお金払えるぅぅぅぅ。
えこさだりは2次小説の素晴らしさに目覚めた!!!!(チャラララッチャラー♫レベルが上がった!)
そんで「あなたの小説死ぬほど読みましたーーー!!!」的感想を書いた。
好きなら好きと言えばいいのだ。あなたが好きと言わなければある日その人は筆を折るかもしれない。『like』をもらえず『dislike』だけもらってたらその人の良さなんかその人本人には伝わらないのだ。
思っているだけでは伝わらないのだ。
でもどんな動機であろうと小説を書くのは良いことだ。好きな世界に浸って好きなキャラクターに好きなセリフを言わせて欲しい。
ある日『神字書き』があなたの作品に『like』を押すかもしれない。
夢のような世界だ。
【次回】2020年を振り返って
同人女の感情をテーマにした漫画にまつわるエトセトラ|カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~|カレー沢薫 - 幻冬舎plus https://www.gentosha.jp/article/16943/
「私のジャンルに『神』がいます」
真田つづる
https://www.kadokawa.co.jp/product/322008000266/
(KADOKAWAのページに飛びます)
2020年11月20日初稿