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影の流れ星  作者: えりさかりお
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03エリス_01

“美”=“支配力”を奪われ力が弱まった愛し子達を敬わなくなった民に、アリアードは闇の支配力を解放し反乱を起こさせた。平和の祈りを捧げるラルンドに危害を加える民の仕打ちに憤ったエリスが、闇の力の恐ろしさを見せつけ、一旦は反乱の勢いが収まったかに見えた。しかしアリアード自身が現れ、さらにラルンドは追い詰められていく。


 愛し子達が“美”=“支配力”を奪われたことが発端で、民の心は神に対しての畏敬の念を忘れ、疑念、焦燥、絶望それらの思いが強くなっていた。

 国の運行を守るとされる七人の神々の力が弱まった為、希望の支配者である女王は、民の嘆く声に力を侵され、病に伏せったのである。

 女王が倒れたことにより、一度、不安に駆られた民による反乱が起こった。

 それを愛し子達が鎮め、一旦は平静が戻ったかに思えたが、その平静も長くは続かなかった。


【エリス】


 この国に住む民は、日々、自分が成すべきことを忠実に行っていた。

 これといった争い事も無く、平穏な日々が続いていた。

 国での生活に不満があるわけではない。だが同様に、喜びを感じている訳でもなかった。

 最初の反乱の際、人々は愛し子達の力によって争い事の種になる思想を封じられた為、何の変哲もない日々を過ごしていたのだ。

 だが沈黙を守っている人々に、ある日、見えない闇が近付いて来た。

 夜、倉庫の隅、強い光を見た後の一瞬の眩惑。闇は日常の至る処に点在している。

 しかし、その目に見えない闇は、民の頭上から言葉となって降り注ぎ、人々の心の闇に同調しようとしていた。

【沈黙を守っている民よ、目覚めよ…本来の意思を復活させるのだ】

 はじめ、その声は人々に聞き入れられることはなかった。

 だが、その声は意思を持っていた。言霊とも呼べる力が働いていたのだ。

 聞き届けられなかった声は大地に染み込み、人々の食べるもの、飲み水に至るまで全てに溶け込んでいった。

 いわゆる食物連鎖の要領で、極めて小さな闇を秘めた植物を草食動物が食べ、その闇の力を貯めた動物を肉食獣が食べ、更成る闇となったものを人々が食したのである。

 沈黙の生活を続ける中、闇が徐々に人々に取り込まれ、やがてそれは心の闇と同調を始めた。

 不快な鳴き声をあげる鳥、むやみに吠える犬。些細なことが苛立つようになっていった。

 人は誰しも、少なからず闇を持っているのだ。

 意思の弱い者がまず、心に闇を巣喰わせた。

 弱いもの同志が結束して、傷を舐め合うように、闇は容易に意思の弱い者の心を蝕んで行く。

 次に、心が無垢に近い子供達が善悪の区別もつかないままに闇を受け入れた。

 更には善悪を理解している筈の大人達が、最後には、己を捨て、神に祈りを捧げる殉教者までもが闇を巣喰わせていったのである。

 そして人々は黒い思考を始めた。

《こんな平凡な生活を送っていていいのか》

《本来の自分は果たして、こんなにも無気力だったのか》

《変化のない生活が幸せと言えるのか》

《自分だけが損をしているのではないか》

 普段の生活の中では考えないような思想が芽生え出していた。

【おまえ達の意思は愛し子達によってねじ曲げられたのだ。“心を支配する者”から“支配力”を奪わねば、おまえ達に真の自由はない】

 人々の心が闇と同調するにつれ、頭上からの声は増々強くなり、遂に沈黙は破られた。


「沈黙は何も生まない。愛し子の呪わしき支配から逃れるのだ」

 初めはごく一部の血気盛んな若者が、ラルンドの支配力から意志を解放した。

 若者達は同志を募り、声高に呼びかけた。

「押し付けられた生活は偽物だ」

 それに連られるように、人々の沈黙の心が闇の力に押しやられていく。

 何の不自由も感じていなかった生活に、欲望が紛れ込み始めた。

「自由を取り戻せ」

 闇の言葉の力は日を追うごとに強さを増し、やがて、言葉の中に狂気さえ帯びはじめていった。

【自由を取り戻したければ愛し子達を殺せ】

 人々の思考はいつの間にか頭上からの声に占領され、憎悪の炎を伴って膨れつつあった。

 もちろん、ラルンドはおろか、全ての愛し子達にもその声は届いていた。

 希望の支配力が日に日に弱くなっていく女王は、頭上からの声の主の名を呼んだ。

「アリアード…」

 かつては母子として同じ宮殿に住み、慈しんだ者の名を。

 アリアードの声の力は、人々の心を支配するラルンドの力をもってしても、抑えることが出来ない程強大であった。

 そして、この国に二度目の反乱の種が芽吹いたのである。


 宮殿を取り囲む空気が重くなっていた。

 柔らかい日の光に変わり、灰色の空が全てのものをモノトーンに染めていた。

 宮殿ばかりではない。今やこの国の全てが色を失いつつあった。

 意思の解放という念のもとに各地で民が立ち上がっていた。

 もし、民の心が平常のものであったならば、この時点で既に意思が解放ではなく、統合されていることに気付いた筈であった。

 だが、声の力はそれに気付かせぬほどの強さを持っていたのである。

 今まで女王の希望の復活を信じ続けていた者までもが沈黙を破り始めた。

 ラルンドの呼掛けは人々に受け入れてはもらえなかった。

「もう騙されないぞ」

 人々の憎悪は募り、平和を祈り愛情を支配する神エロースすらも、人々の心に付け入る魔として嫌悪されていった。

 そればかりか、国の運行を守る愛し子達までもが、嫌悪の対称となっていた。

 昨日までと何ら変わることの無い景色の中で、人々の心のみが黒く染まって行ったのである。

 感情を支配する他、愛、平和、美の象徴であるラルンド。

 闇を支配する他、裁き、死、安息をもたらすエリス。

 風を支配する他、季節、時刻を告げるウィンディギル。

 物質を支配する他、石に宿る力、噴火、地震を操るファリアス。

 空間を支配する他、目に見えないもの(言霊、時間、等)の象徴であるスカエルス。

 植物を支配する他、癒し、再生、誕生を助けるサンフィール。

 水を支配する他、雲、治癒の使い手であるウォータリアス。

 これらの愛し子達から受ける恩恵すら、人々は忘れ去っていた。


 民の生活は日を追うごとに荒れ出した。

 誰もが他人からの忠言を拒み、協調することは自分の意思を閉じ込めることだと信じて疑わなくなっていたからである。

《まだまだ手緩い。闇の力の強大さを知るのはこれからだ》

 色を失った空の一点に、闇に紛れていたアリアードがゆっくりとその姿を現した。

 一呼吸する毎に、その輪郭がはっきりとしてくる。

 腕にラルンドの剣によって付けられた傷が生々しく残っていた。

 アリアードは宮殿の一角を見下ろしていた。ラルンドの部屋として与えられている、中庭に面した南西の方角に位置する部屋を。

 良子であった時の記憶と赤ん坊であった時の記憶を手繰る。

 未だ、力を充分に使いこなせないでいる自分と、それに付け込むように力を奪って行ったラルンドの姿が、アリアードの中に更成る憎悪をかきたてた。

《せっかく手に入れた力を、あいつは二つも奪った…》

 アリアードは爪が肉に食い込む程手を握り締めていた。あまりに強く握っているため、両腕が痙攣して細かく震えている。

《そして、この私に、傷まで付けたラルンド》

 ぶつっ。

 アリアードの呼吸が乱れた。

 ひゅーひゅーと息の漏れる音に混じって、じゅるっ、という音が聞こえる。

 唇の端から、生き物のように赤い液体が這い出してくる。

 両腕を震わせ、唇を噛み切ったアリアードが灰色の空に浮び上がっていた。

 ラルンドに対する恨みのみが、彼女の心を占めていることが、その姿を見ただけで窺える。

 幼い頃より生活を共にしていた分、家臣達のアリアードに対する過剰な保護、執拗なまでの監視、そういったもの全ての不満のはけ口が、ラルンドに向けられたとしても不思議は無かった。

 今や闇の力により、民の意思はアリアードの声に完全に支配されていた。

 愛し子達の持つ“美”を“汚れ”として受け、守りよりも破壊を自分の主張としたのだ。

 誰もその行為が他者からの声に動かされているなどとは思いもせず、人々は“己の意思を表すこと”=“破壊”を喜びと感じ、それは驚異的な速度で国全体に拡がって行った。

 公共の場所、種を蒔いた他人の田畑までもが破壊の対象となっていったのである。

 各地に点在する神像は壊され、神に花を捧げる替わりに、泥が投げられていた。

 黄泉に眠る神々が、地上に一斉に現れたかとも思える程の混乱、狂気、破壊が満ちて行く。

 人々は次第にやつれ、安息を求める声があがったが、頭上の声はそれすらも打ち消した。

【安息こそが、愛し子達に付け込む隙を与える忌まわしきものなのだ】

 不安は妄想を駆り立てた。それにより人々は他人を信用することすら忘れてしまった。

 子供を他人に預けている間に、子供が破壊の対象になってしまうかも知れない。出かけている間に家が壊されてしまうかも知れない。

 僅かな隙を見せることが、即、破壊に繋がると人々は思い込んでいた。

 もはや誰が何と言おうと、他人の忠言を聞き入れるだけの余裕も無い。

《ラルンド、見ているがいい。もうすぐお前は絶望の淵に立たされるのだ》

 破壊という狂気と安息のない不安が、精神の糸を細く削っていく。

 昼も夜もなく不信が辺りに満ちていた。

 何処からか聞こえて来る悲鳴が、何時、自分のものになるとも限らないのだ。

 力の無い者は怯え、助けを求めるべき神がいないことを呪った。

 力のある者は、神を冒涜し、弱々しく生きる者達を嘲った。

 力に溺れた者は、己の欲望のままに振る舞った。

 憔悴した人々が限界を感じ、恐慌が頂点に達したのを見計らって、アリアードは先導しはじめた。

《エリスから奪った闇の力を、今こそ全て解き放とう》

 アリアードは肩幅に足を開き、腕を伸ばすと、両手の人指し指と親指の先を付け、三角形を天に向けて作った。

「我が中に眠りし闇の力よ、民に根付いた闇で増殖するがよい」

 天に向けられた三角形を見上げ、そう叫ぶと、額を割って黒い塊が凄まじい勢いで飛び出した。

 紛れもなくそれはエリスから奪った闇の力そのものだ。

 その塊は三角形の間を通り抜けると、細かい霧状となり地上に降り注いだ。

 外に出ていた者はもちろんのこと、家の中にいた者にも、家の僅かな隙間から闇は入り込み、染み込んでいった。

 更成る不安が人々を襲う。

【全ての原因は民から意思を奪ったエロースの愛し子、ラルンドである】

 人々の心にアリアードの声が届いた。

 そう教示する声を、誰もが疑わなかった。

 ラルンドが安息を奪ったのだと、愛し子を殺せば自分達が救われるのだと信じたのだ。

 怯える者は息を潜めて成り行きを見守り、奢れる者はここぞとばかりに奮起した。

 人々は安息を求めて、ラルンドを襲う行動を興し始めた。


 淡い光沢を放つ布の向こうに女性が横たわっていた。

 中庭に面して北側に位置するその部屋には、本来ならば一日中陽光が降り注いでいる筈だった。しかし今、その部屋は陰り、薄ら寒くすらあった。

 庭に面した南側の窓に視線を送る。

 小鳥の囀りさえ聴こえては来ない、ひっそりとした空間がそこにはあった。

 薄い布越しに女性を見遣りながら、ため息ともとれる息を吐く。

 ここ何日もずっとこんな調子だった。

 希望を支配する力が増々弱まっている。

 目覚めの時間が日毎に短くなっている女王の側で看病していたラルンドは、ある決意を固めていた。

「お母さま、私にはまだ希望の光が届いています。民にもきっと、お母さまの光が見えると信じています」

 眠ったままの女王へそっと告げると、ラルンドは部屋を出て行った。

 扉の脇でエリスが待っていた。

「容体は?」

 その答えに首を横に振る。

「エリス、話したいことがあるの。皆を呼んでもらえるかしら」

「既に皆ここへ来ている」

 ラルンドはエリスと目を合わすことなく廊下を歩いた。

 民の動向を心配して宮殿に集まって来た愛し子達は、広間で話をしていた。

 エリスとラルンドが広間の扉を開けると、一斉に扉を振り返った。

 ラルンドを扉の前に残し、エリスが皆の方へと動いたことで、愛し子達はラルンドが何かを決意したことを悟った。

 ゆっくりと愛し子達一人ひとりの顔を見渡す。

「このままでは民の心が持ちません。私の死をもって、人々に安息をもたらしましょう」

 いつもと何ら変わらぬ声で告げた。

「何を言い出すのだ」

 愛し子達は慌てた。

「今の私に出来る唯一の力は、人々に幸福を歌うこと」

「ラルンドが出向くことはない。人の力には限りがある、今のこの惨状も時がたてば治まるのだ」

 エリスの言葉にラルンドは静かに首を横に振った。

「時がたてば、それだけ人々が苦しむわ」

 ラルンドはこれ以上、民の心が荒むのを見てはいられなかった。それは彼女の感情を支配する力によるところが大きい。

 安息を失った民の心は飢えていた。

 その飢えを満たすことが出来るならば、他に何も望むものは無いと思える程の、民の絶望の声を聞いたのだ。

 ラルンドは心配そうに見守る愛し子達に向かって微笑み、一人ひとりに挨拶をした。

 愛し子達はそれぞれ剣を取り出すとそれを額に翳し、助けが必要な時は自分達の名を唱えるようにと言ってラルンドを見送った。

 力を支配する者は、自分の支配する力によって他の人が傷つくのをひどく嫌う。

 ラルンドの決意は良く理解できた。

 見守ることがラルンドを尊重することに繋がる。誰も彼女を止めようとはしなかった。

 あたかも散歩でもするように、ラルンドが部屋を出て行く。

 エリスが後を追おうとした。

「おやめなさい、エリス。ラルンドを追ってはいけない」

 ファリアスが声を掛けた。

 声の主を振り返りはしたが、エリスは無言で扉を開けた。

 廊下を足早に進みながら叫ぶ。

「ラルンド!」

 彼女は表に通じる扉に手を掛けていた。

「ラルンド、待ちなさい」

 エリスの声に扉を押す力を弱める。

 追い付いたエリスに向かって声を掛けた。

「エリス、お願いがあるの」

 ラルンドにとってエリスは腹心の友といえる。つき合いの深さからエリスがラルンドを追うであろう事は予想出来た。

「私が倒れたならば、私の意思をあなたが継いで」

 ラルンドの意外な言葉に、エリスは一瞬声を詰まらせた。言葉の意味を理解するまでに僅かながら間が開いたのだ。

「いや、それを言うのはわたしだ。人々に巣くっているのは闇の力だ。わたしが民の前へ立とう」

 そう言ってラルンドの肩に手を置いた。

「それは違うわ。人々の心に闇が入り込んだのは私の力が足りなかったせい」

 ラルンドは肩に置かれた手をゆっくり外すとエリスを見つめた。

「お願いよ」短く言う。

「ラルンド、はやまってはいけない。わたしは闇を支配する者だ。あなたの力を受け継いだならば、人々の心は闇に囚われてしまう」

「エリス、あなたは自分の力を知らないだけよ。闇は本来、人々に安らぎを与えるわ。夜は人々に一日の休息をもたらすものの筈」

「いや、あなたはわたしを買い被っている。闇の一族の力は安息とは程遠い黒い力だ。あなたはその力の残酷さを知らない」

 ラルンドは右手で軽くエリスの口を抑えた。

「でも、エリスは善悪を見極める力を持っている。そして、何者にも動かされない心を持っているわ」

 一呼吸置いて、「私の力を託せるのはあなたしかいないわ」そう加えた。

 ラルンドの目は真剣だった。今、民の前に立てばどんな目に遭わされるかは、本人が一番良く理解している目だった。

 自分の力を与えた愛し子が危険な決断をしようとしているのに、ラルンドを止めようとしないエロースが腹立たしい。

 引き止められない自分が不甲斐ない。

「解ったよ、ラルンド。何者もあなたを止められないのだね」

 寂しそうに声のトーンを落としたエリスに明るく声を掛けた。

「エリス、もう一つお願いがあるの」


 ラルンドは守り神の像の前に跪き祈りを捧げていた。

 エリスの力で闇の中を伝い丘まで辿り着くと、約束通りラルンドを一人残し、エリスは去った。

 もう一つのラルンドの願い、ラルンドが剣を渡すその時まで、決して人々の前に姿を現さないで欲しいというものを聞き届ける為に。

 安息の祈りを捧げるラルンドの行為は、狂気を伴った人々の目には、民から意思を奪う祈りに映った。

 狂気の集団から奇声が上がる。

 宮殿へ詰めかけていた人々が守り神の丘へと集まりだした。

 守り神の丘は神聖な場所である。

 神と交信出来る聖域として、人々が意味無く立ち入る事を許されない場所であった。

 その為、像の回りには赤土が敷かれてある。

 赤は血を意味する。無闇に汚してはならない色であるのだ。

 はじめは遠くから脅かすように物が投げられた。

 しかし、祈りを続けるラルンドを見て、彼女を取り囲む人々の輪は次第に狭められていった。

 人々の狂気は聖域でさえも破壊の対象となったのだ。

 始めこそ木の枝や小石であったものが、刃物へと変わって行く。

 ラルンドの皮膚を裂いて血が流れ出した。

 祈りが続く。

「そんなことをしたって無駄だ!」

「騙されるものか!」

 安息の無い不安を、目の前の愛し子を罵倒することでごまかしている。そんな気を起こさせるほど、人々の行動は常軌を逸していた。

 闇に身を溶かし、ラルンドを見守っているエリスは自分自身がラルンドを責めているような、胸をかきむしりたくなる程の思いに耐えていた。

 —剣を渡すその時まで、決して人々の前に姿を表さないで欲しい—

 微笑みながら言ったラルンドの顔が頭を過る。

《いっそ、人々を闇の彼方へ追い払ってくれと言われた方がましだ!》

 エリスは闇の中で叫んだ。

 ラルンドの額に付けられた石が変化した。

 人々の狂気からラルンドを守るように、柔らかい光が漂いはじめる。

 アイテールの名の元に与えられた石には、身に付けた者を守る力があるといわれている。

 その石は以前、物質を支配するファリアスから、守護神アイテールの名の元に贈られたものだった。

 ラルンドの額の光が増す。そのことが人々の狂気を更に煽った。

「祈りをやめろ!」

「殺されたいのか!」

 ラルンドの髪に刃物が当たった。

「くっ」

 背中に付き刺さる刃物の痛みに、ラルンドの口から呻きを堪える声が発せられた。

 長い髪が束になって地に落ちる。

「いいぞ、丸坊主にしてやれ!」

 愛し子に対してとは思えない野次がとんだ。

 追い詰められた者は、更成る弱者にその矛先を向けることにより、自分を守ろうとする。

 集団心理によるところも大きかった。

 背中に次々と衝撃を受けた。

 長い髪を狙って刃物が投げつけられたのだ。

 衝撃を受ける度に、ラルンドの身体が揺らぐ。既に、民の心には手加減という言葉は存在しない。

 服がじっとりと汗ばむように濡れているのが解る。無論それは、刃物によって付けられた傷から流れ落ちる鮮血によるものだ。

 ラルンドは自分の力の無さを思い知っていた。

 人々の憎しみの力の何と強大なことか。自分の力など無力に等しい。

 安息の祈りは、人々に聞き届けられることは無かった。

「エロースとアンタレスの血にかけて…私に人々の憎悪を消す力を…」

 ラルンドは左手で大地から天に向けて弧を描くと剣を取り出した。エリスに渡すためである。

 左手に剣を握り締めながら、腕の烙印を見る。

 肩から流れた血がラルンドの腕に幾筋もの流れを描き出していた。

「アリアード…」その先の言葉は失われた。

 もはやラルンドには、体を支えるだけの力も残ってはいなかった。

 意識が遠のく。

 今までラルンドの意思に任せ見守っていたエリスが、ラルンドの影より現れると、重心を崩し倒れそうになっている彼女を支えた。

 人々は一瞬身を凍らせたが、すぐさま新たに現れた狂気のはけ口に罵声を浴びせ始めた。

「こいつも仲間だ!」

「仲間はみんな死ぬがいい!」

 エリスに刃物が向けられる。

 支えているラルンドの額の光が弱まって行くのを見て、エリスはラルンドを横たえるとその腕から剣を抜き取った。

 エリスがラルンドの剣を手にしたことで、民は半狂乱となった。

 石が飛ぶ。

 剣がエリスのマントに突き刺さる。

 罵声の叫び声が上がる。

 エリスは無言のまま、もう一方の手で自分の剣を引き抜いた。

 その剣の神々たる威厳に、人々は狂気の声を止めた。

 ぞわっ。

 薄暗い景色が一層暗さを増した。

 息を飲む気配が伝わる。

 見る者を闇に引き込むような、魂に直に剣を突き立てられたような嫌悪感が辺りに漂い始めた。

 エリスの人々に対する怒りが、そのまま形となって現れていた。

 エリスは二つの剣を交差させ、左右に引きながら剣先を重ね合わせていった。

 人々の心に恐怖がよぎる。

 高い鈴の音を思わせる澄んだ音と錆び付いた扉を無理にこじ開けるような音とが重なる。

 その行為と共にラルンドの額の光がエリスの剣へと吸い込まれて行くのが解った。

 エロースの愛情が闇へと吸い込まれて行く恐怖。

 自分の信頼する者が反旗を翻し、首筋に刃物を突き立てたような、絶望的な心情が人々の心に広がった。

 人々の安息を求める声は、ラルンドからの光が弱まることによって、それこそが安息の最後の灯火だったことにようやく気付いたのだ。

 しかし、エリスの行為を止める声は上がらない。ただ、成されるがままにエリスの行為を見ている。

 エリスの怒りは更に募った。

 目の前で愛と平和の象徴である現人神の力が失われつつあるというのに、何もしない民に対して。

「これが、この国の民の心か!ラルンドが命を掛けて守ろうとした心なのかっ!」

 エリスが叫んだ。

「こんな心などいらぬ!」

 そう言って闇に溶け込み始めたラルンドの剣を放り上げると、自分の剣でそれを砕いた。

 剣の腹を攻撃された刃は、いとも簡単に二つに折れ、柄にはめ込まれていたアンタレスの血と呼ばれる石が宙に舞う。

 石は光を発しながら、綺麗な弧を描いて地に落ちた。

「こんな心なぞ支配するものか!我が闇に取り込んでくれようぞ!」

 叫びながら守り神の像を切り付けた。

 その瞬間、人々の目にはその像が自分の大切な、例えば恋人、自分の子供、親、そういった苦楽を共にする、喜びを分かち合う者に見えた。

 狂気の叫びが悲鳴に変わる。

 エリスによって、愛しい者が切り付けられているのだ。

「まだ解らないのか!破壊の愚かさがどういうことか」

 エリスは剣を振り続けた。

 人々の目には、今まで自分がしてきた破壊の行為により、自分の大切な人が傷ついていく様が見えていた。

 田畑を荒らした男の家族は食料を強奪されて飢える日々を送っている。

 神像を破壊した女の親は理不尽な暴行を受けて重傷を負った。

 友を疑った自分も周りから冷たい目を向けられている。

 守り神の像はズタズタに打ち砕かれ、もはや形を留めてはいない。

「己の欲のままに他人を傷つけることのどこが自由だ!」

 守りが要らないのならば望み通り消えてやろう。不甲斐ない自分自身に刃を向けるかのように剣を振るう。

「安息を願う者に罵声を浴びせることが貴様らの正義か!」

 エリスの剣も刃がこぼれ、とても剣とはいえない黒い塊と化している。それでもエリスは剣を打ち下ろし続けた。

《何故ラルンドの心が届かぬ》

 キンッ。

 寒さの中で鉄を打ったような高い音がした。

 見ると、エリスの剣の半分から先が回転しながら水平に飛び、重い鉄の塊となって地面に刺さった。

 同時に守り神の像が傾き、土煙を上げ崩れ落ち、人々の前に傷ついた像の首が転がる。

 悲鳴は静まり、自分の愛しい者の首を前にした絶望とも虚無ともとれる思いが、人々の心を満たし始めた。

 肩で息をしているエリスの足元に、僅かに光る赤黒い石があった。

 エリスは半分に折れた剣を守り神の像の台座へと突き立てると、変わり果てたアンタレスの血を拾い上げた。

「ラルンド、やはりわたしはあなたの力を引き継ぐことは出来ない」

 掌の中の石に向かって言う。

—闇は本来、人々に安らぎを与える。夜は人々に一日の休息をもたらす—

 ラルンドがエリスに、力を受け継いでほしいと語った時の言葉だ。

《どうすれば民に思いが届くのだ》

 苦悩するエリスの耳に砂利を踏む音が聞こえた。

 ラルンドの気配が弱まったことに気付き、愛し子達が守り神の丘へ現れたのだ。

「我が守護神の力を持ってしても、憎悪の炎から守ることはできぬのか」

 横たわったラルンドを見下ろし、ファリアスが低くつぶやく。

 ファリアスは砕け散ったラルンドの剣を集めると、元の形に戻した。しかし、アンタレスの血はエリスに握られたままだ。

《わたしにラルンドと同じことが出来るのか?》

 エリスは人々の中に巣食っている闇を通して呼びかけた。

「民よ、もしそなた等に人を思いやる心が残っているのならば、ラルンドの心に呼びかけて欲しい。彼女は今、そなた等の心を救う為、自らの心を捨ててしまった」

 エリスは言葉を切り、民を見渡した。

 人々の顔には虚無が張り付いていた。

 さらにエリスは続けた。

「ラルンドはわたしにその力を託し、消滅しようとしている。それを止めるにはわたしの力では足りないのだ」

 エリスの呼掛けは次第に叫びへと変わって行った。

 が、人々の心は動かない。

「思い出して欲しい。過去、彼女は人々を憎むこと無く、罪無き身で戒めの烙印を押された、あの時のことを」

 人々の頭の中に過去の情景が浮かんだ。

 あの時もラルンドは、人々の誤解による彼女への怒りを寛容に受け入れたのだった。

 その時悔いた筈だった。

 自分達のしてきた罪の深さを知り、もう二度と罪を犯すまいと、この愛し子に誓った筈であった。

 目の前に白い肌を一層白くして横たわっているラルンドがいた。

 その頭の少し先には砕けた守り神の像が—自分の愛しい者の顔が—あった。

 そして、アンタレスの血を手にしたエリスが涙していた。

《ラルンド、あなたは今まで何と言う重い枷を背負っていたのだ。わたしは人々の心なぞ捨ててしまいたい。人々の心を闇の彼方へと溶かし、我々だけで静かに暮らしたい》

 エリスは横たわっているラルンドの横に跪くと彼女の冷たい手を取った。

 その手にアンタレスの血を握らせ、ラルンドの手を包み込むようにして握り締める。

《あなたがあれ程人々の為に祈ったというのに、あなたの為に祈ってくれる者はおらぬではないか》

 握り締めているエリスの手が震える。

 それは人々に対する憤りでもあり、むざむざとラルンドをこんな目に合わせてしまった、自分自身に対しての怒りでもあった。

《…人々に、幸福を歌うことが、私に出来る唯一の力》

 力無いラルンドの声が聞こえた。

 握られているアンタレスの血がラルンドの想いを伝えたのだ。

「わたしにはそのような真似は出来ぬ」

《闇は本来安息をもたらすもの、安らぎは心の焦燥を取り除くもの。あなたには本来、その力が秘められている筈。エリス以外に私の力を受け継ぐ人はいないわ》

「わたしには出来ぬ。わたしは民の為になぞ祈りたくもない!」

 エリスがアンタレスの血に向かって叫ぶと、その手に触れてくるものがあった。

 ラルンドの手を両手に握り締めたエリスに触れる温かなもの。

 それはまだ幼い子供の指先だった。

 何事かと顔を上げると、簡素な服をまとった少女がそこにいた。

 少女は何も語らないながらも意志を表した。エリスの呼びかけた声が少女を動かしたのだ。

《…これが…エロースの力か…》

 少女の触れている指先からエリスに温もりが伝わって来る。

《…これが、ラルンドの守ろうとした、心なのか…》

 少女の瞳はこれ以上エリスの心が闇に染まらないように訴えていた。

 少女の行いは、人々の無力さを嘆いていたエリスの心に光をもたらした。

「今解ったよ、ラルンド。この少女の心が黒い力によって染まらぬように、この少女の心が悲しみに染まらぬように、わたしは人々に幸福を歌おう」

 そのエリスの言葉に共鳴して人々の心が動いた。

 それはまるで水面に小さな石を投げ入れた時のように、ほんの小さな波紋が段々と人々の輪に広がっていった。

 誰かがつぶやいた。

「お許しください」

 その声の主は先程ラルンドに向けて刃物を投げつけた男だった。

「我らの最後の灯火が消えませんように」

 ラルンドに死ねと叫んだ母親が子供と一緒に跪いた。

「私達の為に愛し子様が犠牲になりませんように」

 ラルンドの血を流す姿を、薄笑いを浮かべながら平然と見ていた若い女が泣いた。

《何を今さら、調子のいいことを…》

 エリスの手に添えられている少女の指に力がこもった。不安そうな瞳をしてエリスを見上げている。

《あぁ、そうだったね。民の心は闇に操られていたのだ。これが本当の民の心なのだね》

 民に心を開いたことで、エリスの中に一斉に声が流れ込んできた。

「愛し子様の命が助かりますように」

「我らの罪が許されますように」

「私達の心を救う為、血を流してくださったことを感謝いたします」

「どうかもう一度私達を導いてください」

 人々の願いは力となりアンタレスの血へと注がれていった。

 それに呼応するように、赤黒く濁っていた石から本来の輝きが溢れ出した。

 それを見た人々の祈りの声が大きくなる。

「どうか愛し子様が助かりますように」

 民の心は一つになった。

 心が熱い。

 エリスはあれ程忌まわしく思っていた民へ、今は自分が感謝していることを知った。

 先程とは違う感動による震えが、エリスの身体を小刻みに揺する。

 涙を止めようと天を仰いだエリスの目に、色を失っていた空に僅かな光が点っているのが写った。

 厚く覆われていた雲が薄れたように白く光っている。

 どくん。

 掌に衝撃が伝わったかと思うと、アンタレスの血が熱くなり、思わずエリスは握っていた手を離した。

 瞬間、アンタレスの血が蒸発した。

 辺りを見回すも、無い。

 光を感じて振り返ると、先程ファリアスによって直されたラルンドの剣の柄に、今まで以上の輝きを放ったアンタレスの血が収まっていた。

 人々の祈りの強さと同調して、光は益々大きく、強くなっていく。

 守り神の丘全体が、白一色に包まれていた。あまりの光の強さに色の感覚が失われているのだ。

 だが、目を射るような強い光の印象はない。

 雲の中に入っているような感覚だった。

 もし、死者が訪れる喜びの野があるとしたらこんな感覚なのかも知れないと思わせる柔らかな空気に満ちていた。

 時間の概念すら忘れさせる光は、国の隅々まで広がり続けた。

 人々の中に巣くっていた闇は、剣から放たれた光に当たると、濃い影となって体から抜け出し、虚空へと溶け込んでいった。

 全ての人々に光が行き届くと、役目を終えたかのように、ラルンドの剣はゆっくりと大気に溶けて行った。

 エリスは手を握っていた少女に笑いかけてから、離れるように告げた。

 同様に愛し子達にも下がるように目で合図を送る。

「ニュクスの名において、エリスの元に集うがよい」

 エリスは中程から折れてしまった剣の柄を、守り神の像の台座から引き抜くとそう唱えた。

 虚空へと吸い込まれた闇が集う音が辺りにたち始める。

 それは、ずるずると大きな蛇が地を這う音にも思えた。

 闇は或る程度集まると、エリスの足元で渦を創り出した。

「集いし民よ、見るがよい。これがそなた達の心が育て上げし闇の力だ」

 次々に闇が集まり、渦に加わって行く。

 それは人々の心を表していた。

 おぞましい形相をした人影が闇の中で蠢いている。

 集まってくる闇によりその人影は増え続け、闇の中から他の人影を追い払おうと喰い合いを始めた。

 内臓の喰いちぎられる音。

 ゴリッ、ゴリッ、という骨を砕く音。

 湿った液をすする音、肉を噛み切る咀嚼音。

 人と人とが喰い合うと、こうもおぞましい情景になることを人々は初めて知った。

 内臓を喰われながらも他の者の目玉をすする亡者の群に、人々は自分の中の闇の深さにおののいた。

 破壊の行為に酔っていた人々の心の中を、目の前で亡者達が再現していたからである。

 亡者達は他人を喰らいながら、歓喜の笑みを浮かべていた。すぐさま他の亡者により自分も喰われてしまうことなど考えてもいないように。

 悲鳴と狂気の笑い声とが渦巻いている。

 エリスが剣を翳したことにより、喰い合いをしている亡者が人型からアメーバのように形を変え始めた。

 人々は何が起きようとしているのかも解らず、ただエリスの一挙手一投足を見つめている。

 やがて亡者の渦は一筋の流れとなり、エリスの剣に吸い込まれて行った。

 それに伴い、半分に折れたエリスの剣が神々しさを纏った元の形に戻っていく。

 アリアードの解き放った闇は、主である剣を持つ者の元へと還ったのである。

 エリスの封印によって、この先人々に取り憑く程の力にはならないはずであった。

 エリスは闇を全て取り込むとラルンドの元へと戻った。

 白い肌が土色に変わっている。

「ラルンド、しっかりしろ」

 冷たくなったラルンドの手を必死に擦ったが、そんなことでは彼女の熱が戻らないことは顔色を見れば解る。

 それでもエリスは手を止めようとはしなかった。

「みんな、力を貸しておくれ」

 エリスの言葉にウィンディギルが剣を取り出した。

「エーオースの翼にかけて」

 ウィンディギルは黄金色に輝く細い剣を振り、安らぎを運ぶゼピュロスから微風を分けてもらった。

「ラルンドには借りがある。このまま黄泉に送るわけにはいくまい」

「オーケアニデスの歌声にかけて。私も彼女によって力を取り戻すことが出来たのですもの、見過ごすわけにはまいりません」

 ウォータリアスは水の流れを思わせるレリーフが彫られた剣を右手に握り、泉の精から養いの水を送ってもらった。

「アイテールの名において、私の贈り物は既に彼女のもとにある」

 そう言うとファリアスはラルンドの額に剣を翳した。

 額の石がラルンドにぬくもりを伝える。

「レートーの瞳にかけて。私は再生の力を贈りましょう」

 サンフィールは瞳を閉じ両手を首に当て天を仰いだ。彼女の髪が剣に変わる。

 ラルンドの体の周りに薬草が敷かれ、ばっくりと口を開けている全身の傷に剣を翳すと、見る間に傷口が塞がれていった。

 スカエルスが胸の前で掌を合わせると、柄の部分に星を象った剣が現れた。

「カオスの名において、大気の力を贈らせてもらうわ」

 最後にエリスが口を開いた。

「エリスの名において」

 ニュクスの名にかけず、己の名において剣を翳す。

《我が支配力をもって、ラルンドを黄泉には行かせない》

 そう言葉にしようとしたエリスの声が途切れた。

 ラルンドがエリスの手を握り返したからだ。

 静かにラルンドは瞼を開いた。

 横で手を取っているエリスに視線を送る。

 エリスが言おうとした言葉が伝わったのだろう。

「あなたが、闇の一族の掟を破ってしまったら、それこそ、私の死をもって、償わなければ、いけなくなってしまうわ」

 掠れた声を詰まらせながらも、ラルンドはエリスに告げた。

「ラルンド!」

 まだ起き上がるだけの力は再生されていない。

 ラルンドはエリスに笑いかけた。

 愛し子達もラルンドを囲むようにして集まった。

「ありがとう。…ありがとう」

 ラルンドは言葉に詰まった。言いたい言葉は胸の奥に後から後から沸いてきているのに、そのどれも舌にのせることが出来なかった。

 以前、ファリアスから額の石を贈られた時にも感じた想い、《私はこんなにも多くの力に支えられている》そう思った途端、胸が一杯になり言葉が出てこなかったのである。

 ラルンドは自分を見下ろしている愛し子達の顔が自分の涙に歪められよく見えなかった。



 ここにもう一人、ラルンドを見下ろしている者がいた。

 他ならぬ、アリアードである。

 ラルンドの魂が黄泉に染まるところを見届けようとしていたアリアードは、闇の本質に気がつかなかったことを後悔していた。

《闇は善悪を見極めるだと…》

 まさか国の民がラルンドの為に祈るなどとは考えてもみなかったのである。

 憎い。

 ラルンド、おまえが憎い。

 おまえは神々から新たな“美”を授けられた。

 何故だ!

 小さい頃からおまえは自由だった。

 おまえは泣くのも、笑うのも、何処へ行くのも自由だった。

 私は何時も宮殿に閉じ込められて、本来なら姉のおまえが継ぐべき女王の座の為に、自由を奪われていたというのに。

 何故私には誰も何も与えてはくれぬのだ!

 アリアードの中で何かが弾けた。

 ふふ。

 どうでもいいことだ。

 くくく。

 あはははは。

「もう私は自由を手に入れたのだ。簡単な事ではないか。奪われた“美”は奪い返すまで」


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