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あなたは敵を探している

 村の中で生存者を探した。

 おびただしい数の蠅が飛び、カラスの鳴き声が止むことなく村のあちこちに木霊している。

 家の一つ一つを訪ねた。それでもあるのは気の狂った格好をした死体だけだった。

 腐敗した死体がこちらを見ている。

 腐った肉の中を虫が蠢いているのが分かった。

 一日中歩き回り、逃げ延びた村人はいないかと森の仲間で探したが、わかったのは全員死んでいることだけだった。

 家に戻ると穴を掘り両親と妹の死体を埋めた。

 涙が出た。止まらなかった。

 村人は全員死んでいる。それも皆おかしな格好で死んでいるのだ。どうして腕を口に突っ込む必要がある?どうして首ねじれ逆さを向いている?どうして腹が裂け内蔵のない死体になる?

 村人が恨みを持たれることなどないはずだ。少なくとも殺されるような恨みは。

 他所の村とも大した交流はない。魔物が繁殖した時だけ街まで冒険者を雇いに行くことはあったがそれでも……。

 冒険者か……。

 村を出るときに会ったあの男はいただろうか?死体の中にあの冒険者風の男はいただろうか?

 俺は死体をもう一度一つ一つ確認した。

 背が高くひょろりとした髪の長い男だった。

 外にある死体は鳥に啄まれ崩壊しかけている物もあったが、それでも当たりは付く。

 男はいなかった。

 この死体の山の中にいなかったのだ。

 探さなくては……。

 この惨劇に何の関係もないかもしれない。だが何があったか分かる可能性のあるのはあの男だけなのだ。

 探す。

 探して何があったのか問いただす。

 いや違うな。

 犯人なら殺す。

 そうじゃなくても――。

 俺は村に火をつけた。家にも畑にも全て燃やした。

 死体に群がる虫も鳥も見たくはなかった。


 冒険者ギルドは腕輪を買った街にあった。

 村長は魔物が手に負えなくなると、ここで人を雇った。

 外観は酒場といった方がいい。客がゴツイ男たちで剣やら槍を持ったまま中で酒を飲んでいることを除けばであるが。

 場所は街の正門から入って西に少し離れた場所、この辺りだけ血なまぐさい臭いがほのかに漂っている。

 中に入るとカウンターがあり若い女と筋肉質の色の黒い中年の男が書類の整理をしている。カウンターを通り越して奥に進むとテーブル席が数席有り、酒を飲む冒険者たちの姿があった。ギルドは酒場に併設されていることが多いのだ。

 俺はカウンターに近づくと色黒の中年男に話しかけた。

「少し話を聞きたいがいいか?」

 中年の男は書類を置くと、立ち上がりこちらに来た。

「なんだい兄ちゃん?依頼か?」

「ああ、依頼の件で聞きたいことがある。マルンの村から魔物の駆除の依頼が来ているだろう?その話を聞きたい。誰が依頼を受けたのか」

 俺は一息にそう言った。

「誰が受けたってなんで教えにゃいかん。お前さんはそもそも誰なんだ?」

 中年の男は訝しげな顔をしてこちらの顔を観察しているようだった。

 カウンターの中の若い女もこちらを見ている。

「俺はマルンの村から来たんだ。依頼を受けている奴に話がある」

「おいおい答えになってないぜ兄ちゃん」

 中年の男は苦笑いをし、肩をすくめながら指で頬を掻いた。

「だがしかしだ。答えてやってもいい。本当なら守秘義務ってやつがあるんだがまあいいだろう。答えは誰も受けちゃいないだ。マルンの村から来たって言ったな。兄ちゃん。村長に報酬が安すぎると言っておいてもらおうか。誰が銀貨数枚で魔物の駆除なんかすると思ってるんだ?とな」

 それを聞いてカウンターの中で若い女が笑ったのが見えた。

 俺は体が熱くなるのを感じた。

「誰も依頼を受けちゃいないんだな」

「そう言っただろう。……もういいかい?」

 迷惑そうな顔だった。

「村は……みんな死んでいた」

「あん?」

「村人はみんな死んでいた」

「……」

「男がいたんだ。俺が村を出てからすれ違った冒険者のような男がな」

「そいつが家の冒険者だと言いたいのか?」

「……違うかもしれない。だが……可能性は高い」

「やれやれ。疑われるのは癪だが、あっちで酒でも飲んでる分には何も言わん。勝手に探すんだな。……本当かどうかわからんが村の件で話も聞きたいしな。」

 そう言うと中年の男はテーブル席の方を指さした。

「夕方になれば大半の冒険者は戻ってくる。護衛の依頼で外に出てる奴もいるが……3日もすれば戻ってくるだろうよ」



 一週間通ったが村の近くで見た男は見つからなかった。

 ギルド職員の中年男が話しかけてくる。

「村が燃えていることは確認が取れた。どうやら生き残りがいないこともな」

「……」

「お前さんが見た男ってのは見つかったのか?」

「……見つからない」

「名前も何もわからないんだろう?」

「わからない。髪が長くて体が細長い男という他には、短剣を腰の2本に差していることだけしかわからない」

「冒険者ってのは人探しだってやるんだ。俺も昔はやった。だがなそんな情報だけじゃ見つけられんよ。腰に剣を2本付けるってのは珍しくともなんともない」

 中年男は俺を諭すように話しかけてくる。

「情報が無さ過ぎるんだ。そもそもが冒険者どうかもわかってないんだろう?村人を殺した犯人かどうかさえもな。……こういっちゃなんだが色々な場所を探したほうがいいだろうね」

「色々な場所?」

「やったのが冒険者だとしても、この街の冒険者じゃないだけかもしれないって話さ。お前さんがここと街の正門で張り込んでいたのは知っている。それで見つけられなかったんだろう?」

「そうだな」

 実際のところはわからなかった。

 犯人はこの街にいるかもしれないしいないかもしれない。ただ顔が分かるのは俺しかいないのだ。人を雇うにも情報が無さ過ぎた。

「殺された村人は奇妙な死に方をしてたと言っていたな?その点から調べていったほうがいい」

 中年男は酒を飲みながらそう言った。

 彼はこの一週間で村のことを話す内に助言をくれるようになった。若い頃は冒険者をしていたが、今はギルドの職員として若い者に昔得た経験を教えたりしているらしい。ここでは煙たがられる存在だと自分で言っていた。

「奇妙な死に方の背後には、邪教徒やら魔術師やらが潜んでいることが多いんだ。精霊と契約したての奴らも怪しいな。だが見つけるのは至難の業だろう。邪教徒も魔術師も酒場で酔って口を割るような奴らは少ないんだ」

「俺はどうしたらいい?」

「探し歩くほかないだろうな。偶然見つけるほかないだろう。一応だが王国にもマルンの村のことは報告を上げたが期待はしないほうがいい。それにもしも犯人が見つかってもお前さんは知らないままに終わってしまうだろうよ」

 そう言うと中年男はため息をついた。

「はあ、しかしなんだ。お前さんに言いたくはないんだが、こちらも仕事だ」

「なにかあったのか?」

「いや、探し歩くにも金はいるだろう。本当は冒険者に誘えればいいんだが冒険者は街単位で契約になっちまう。街からそう離れられん。そこで、つまりなんだ、お前さん討伐者にならないか?」




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