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碧と白の珠玉   作者: 真緑 稔
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㊻-①第三部 第四章 無有(ムウ)の国へ 二節 神獣秘伝 一

  一 猿に小判


 十二月五日(1615年1月4日)。

 風太郎が白装束を身に纏っている。

 身を清めて神妙な面持ちだ。

 五千の兵を前に語る。



「いよいよいよ、今宵は真田忍法の奥義を披露しますぞ。

 真田に古来より伝わる伝説の秘技でござる。

 土蜘蛛のごとき下賤のものではござらぬ。

 これぞ忍法の尊厳をなり」


 厳かな声で呼びだした。

 さすが風磨の頭領である


「海野六郎殿、玄武」「うむ」

「筧十蔵殿、朱雀」「可」

「根津甚八殿、青龍」「おお」

「望月六郎殿、白虎」「良し」


 清海も興奮気味だ。

「わしも死ぬまでには一回見たいと思っておったのじゃ。

 風太郎も小助の代わりをよう務めてくれた。

 今宵は小助の法要でもある」

「兄者の言う通りじゃ。

 成功すれば小助もきっと喜んでくれるに違いない。

 のう、鎌之助」

「大丈夫でござる、猿飛様も才蔵様も珝もすでに空に上がっておいでじゃ」


 総指揮は信繁が執っている。

「よし、護摩壇から二間空けて結界を張る。

 北は太郎、南を鎌之助、東が清海、西は伊佐入道。

 しっかり頼むぞ」


 信繁も含めた九人全員が白装束だ。

 太郎も銀色の艶を放っているがもとは白だ。


 良く晴れて天頂にある利鎌の月の白刃が鋭い。

 大気が凍るような厳冬の夜だ。

 結界を張る四隅には篝火が焚かれている。

「パチ、パチ、パチ」

 勢いの良い音を立てて火の粉が舞い上がる。


 風太郎は護摩壇の前に静かに座した。

 その横には護摩木が高く積まれている。


 護摩壇の北隅に海野六郎。

 南に筧十蔵。

 東に根津甚八。

 西に望月六郎が中心を向いて座している。


「リリリーン。リリリーン。リリリ・・・」

 鈴音が鳴り響き、辺りを清めていく。


「よし、太郎。

 まずは真田丸のお祓いじゃ」


「ウオオオーン。ゴオオオーン。ウオオオオオーーン」

 地響きとともに護摩壇も揺れた。


「おったまげたのう。

 やはり太郎は神狼じゃ。

 遠吠えに地が応えておるわい」

 清海は大声で喚いているが、声の大きさほど驚いているようには見えない。


 空堀へ逃げていく者達がいる。

 珝が急降下して「空弾波動の術」で次々になぎ倒す。

 その後を真田衆が縄を掛けていく。


 空に戻りゆっくり旋回する。

 再び急降下する。

 真田丸の中に気絶している者達がいる。

 今度は真田衆にその者達の所在を教えている。


「よし、逃げようとした者と失神した者は別々にして一隅に縛っておけ。

 自害せぬように口を縛るのも忘れぬな」

 信繁の厳しい声がとぶ。

「赤沢殿、おぬしらも手伝ってくれ」

 見物に来ていた抜け忍組が信繁に指名されて喜んでいる。

「待っておりました。

 仰山でんな。

 三十人はおりまっせ!」


「では始めようぞ!」


 澄みきった鈴の音が鳴り渡る。

 清海と伊佐が読経を始めた。

 真言密教の金剛頂経である。

 風太郎が護摩木を組んでいく。


 白珠が二つ、碧玉が二つ、天から降りて来た。


 発動している。

 玉の緒を引きながら組まれた護摩木の上で回っている。


 白珠の一つが黒に、碧玉の一つが朱に変わっていく。


 黒、碧、朱、白の四つの玉から護摩木に向かって光が出る。


 光が当たった護摩木に火がつく。

 たちまち勢いよく燃え上がる。


 風太郎が小さな声で清海達の読経に合わせて金剛頂経を唱えはじめた。

 読経しながらどんどん護摩木を足していく。

 火が大きくなる。

 紫色の煙が天頂の月まで届きそうな勢いだ。


 六郎達四人は瞑想をし、黙したまま心身統一の境地に入っている。

 時が経つにつれて風太郎の読経の声が高くなる。

 羯摩印(かつまいん)を切りはじめた。


 まず亀と蛇の様な動きをし、鳥の様な動きに変わり、龍の動きになり、虎の動きをした。


 五人が同時に九字の印を結ぶ。

(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)!」

 一字一字に対応する結印の指の動きに僅かなずれもない。

 四人が完全に一体化して動いている。


(おん)()()() ()()(てい)(えい)()()()!」


 四つの宝珠が烈火の中に飛び込んだ。

 火が一段と高く燃え上がる。

 煙の色が、黒、赤、青、白の四色に分かれる。

 四色の煙は、それぞれ、北、南、東、西に向かって漂うと、四人の姿を包み見込んだ。


「エーイ!」

 五人の気合が入った。

 風太郎を残して四人は四色の煙と一体化している。

 煙は利鎌の月を目指して昇る。


 真田丸の上空に四色の雲が浮かんでいる。


 まず南の赤い雲から朱雀が現れた。

 火の鳥である。

 真っ赤な鳳凰の様に見えるが燃えているので炎で形はよく判らない。


 東の青い雲の中から青龍が現れた。


 北の空には玄武である。

 黒い亀に四匹の蛇が巻き付いている。

 銀色の蛇は亀に絡み付く様に鎌首をもたげ唸りをあげている。


 西の空には白虎だ。

「ガオオオオオオーーーン」

 耳を(つんざ)くような唸り声をあげた。


 真田丸の五千の衆からどよめきと歓声があがる。

「おおおー!!」


 風太郎は護摩壇で護摩木を足しながら一心に金剛頂経を唱えている。

 清海と伊佐も風太郎に合わせて読経を続ける。

 太郎と鎌之助は北と南から睨みつけながら結界を守っている。


 青龍、白虎、朱雀、玄武は、それぞれ大坂城の天守閣の空の東西南北に移っていく。

 城内の兵達からも驚嘆の声を上げている。


 四神獣は天守閣の最上階である七階に侵入すると順次下に降りていった。


 二階の部屋に居た淀殿は間近で見る四神獣に恐れ慄いた。

 敵か味方か区別がつかないのである。


 白虎が淀君の方を睨んで「グワオーーン」と一吼えする。

 吼えられた淀君は失神寸前で秀頼に抱きとめられたが秀頼が気絶してしまった。

 望月六郎がここでも毒舌ならぬ『毒吼え』を吐いたのだ。


 四神獣は天守閣の地下二階まで降りた。

 その後は手分けをして本丸、二の丸、三の丸、武家屋敷、寺院、町家の隅々まで飛び回った。

 大坂城内が終わると徳川軍の方を向いて飛んでいく。


 東軍の陣に着くと、再び東西南北の四方に分かれた。


 朱雀はもっとも南にある茶臼山の家康本陣に飛んでいった。

 地上すれすれに飛ぶ尾の後から火が燃え上がっていく。

 次は岡山の秀忠の陣だ。

 火薬に火が燃え移り、あちこちで爆発音が炸裂する。

 兵達はたまったものではない。

 ただ逃げ惑うばかりだ。


 その後北に上がり前田隊を荒らした。

 前田隊は大坂城の南惣構(そうがまえ)堀に沿って布陣している徳川軍の東端の部隊だ。

 その前田隊から西に向いて七つの部隊を総なめにして西端の伊達隊まで飛んで行く。

 勢いあまって、惣構(そうがまえ)堀の部隊からは離れて西南の角に陣取っていた福島、毛利、徳永隊まで突っ込んだ。


 城の南側には徳川軍二十万の内、十一万が配置され重厚な布陣が敷かれていた。

 十蔵のせいで三割以上の武器弾薬が焼失した。

 火のような性格の十蔵が火の鳥になり、狂ったように暴れまくったが死者は出さなかった。


 東側では青龍が空から水を吹きかけている。

 猫間川を越えて陣を進めていた上杉景勝隊以下、酒井家次隊に至る迄、水浸しになってしまった。

 陣が猫間川まで流されて押し戻された。

 ここには真田信之の二人の息子の信吉と信政も参戦していた。

 甚八と碧玉の合体らしく落ち着いた動きだ。


 次は城の北側である。

 黒い大亀が陣を薙ぎ倒していく。

 蛇の方はというと、腰を抜かしている兵を次々と巻き付けて川に落とす。

 ここには天海の秘策である新式の大砲が八門も運び込まれていた。

 黒亀が八門ともくわえて天満川に放り込んでしまった。

 やりたい放題だ。

 怪物を相手に池田利隆(いけだとしたか)隊を中心とする徳川勢は竦んでしまって手出しが出来ない。

 海野六郎の器が大きいのをいいことに、気性の激しい白珠がやりたいように暴れまくった。

 だが、ここでも死傷者は出していない。


 西側は白虎が縦横無尽に走っている。

 野田、福島、博労ケ淵、木津川口の戦いで圧勝した徳川勢は阿波座を落とし西横堀を越え、船場も落とし、惣構(そうがまえ)の水堀の手前まで押し出していた。

 秀忠はこの西側に準主力の五万を布陣していた。

 木津川からの補給路を断つための戦略上の要地である。


 浅野長晟隊は水堀の南端に陣を張っていた。

 白虎が突然姿を現して「ゴー、グワオオーーン」と吼えるだけで波動が起きた。

 白虎はとどめを刺すように南から北へまく)り上げるように走る。

 兵は吹き飛ばされた。

 北端に陣を張っていた池田忠継いけだただつぐは、追い回されあげく白虎の前足で殴打され天満川に叩き込まれた。

 望月六郎と白珠の合体だ。

 この程度で済めば良しというところである。

 こちらも大暴れの割には軽症者が数人だった。


 四神獣はそれぞれに暴れまわった。

 その後、時を同じくしてそれぞれ赤、青、黒、白の煙となり、雲となって空を漂った。

 雲は真田丸の上まで来ると、護摩壇から立ち昇る煙に吸い込まれる様に消えた。


「ウーーン!!」

 風太郎の気合が入ると、甚八、十蔵、両六郎が元の位置に座していた。


 清海の割れ鐘が鳴り響く。

「おおーっ、見事。

 さすが真田十勇士。

 恐れ入った。

 わしの蝦蟇蛙とは確かに次元が違う。

 天晴れ、天晴れ。皆の衆、拍手じゃ!」


「ウォーッ。天晴れ、天晴れ!」

 (しわぶ)き一つしなかった真田丸は湧きに湧いた。

 大喝采で凄い盛り上がりだ。


「実を言うと、どうなる事かと気が気でなかった。

 真田忍びの秘伝があるとは聞いてはいたが、この様な事になるとは!!

 これも猿飛様と才蔵様に紀見峠で特訓をして貰ったお陰じゃ。

 宝珠が出てくるとは思いもせなんだぞ!!」

 風太郎も予想をしていなかった展開に驚きを隠さない。



 …一方焼け出された秀忠は七十八歳の老齢になった正信に意見を求めている。

「爺、何か打つ手は無いか。

 このままでは士気も落ちるし虎の子の大砲までやられた」

「そう、慌てる事はありますまい。

 今宵は美しい見世物と思えばよろしゅうござる。

 慌てるとすれば和睦を急ぐ事じゃ。

 秀頼君に四国に移って頂ければ勝ち戦さ。

 籠城を長引かせれば負けでございますぞ」


 陣構えの立て直しの指示を終えたばかりの柳生宗矩も平然としている。

「いかにもでござる。

 但し、昨日の惨敗に続きこの様な有り様では、将軍家のご心痛はごもっとも。

 今夜中に戦列を立て直させよう」

 秀忠は相当に追い詰めらている。

「ここは腹帯を締め直さねば。

 これ以上隙を見せる訳には参らぬ。

 豊臣恩顧の大名達は勿論、機を見るに敏な伊達や藤堂はいつ乗り換えるかもしれぬ。

 また、島津、毛利、上杉は虎視眈々といつでも狙っておる」


 本多正信は良い薬と思いながら、

「そうでござるな。

 大坂方でも後藤又兵衛、毛利勝永あたりは相当の器量がある。

 左衛門佐も連日容赦が無い。

 もし左衛門佐が大将にでもなれば戦局がどうなるか予断を許さぬ」

 秀忠は不安が収まらない。

「今宵のような奇襲がまたあれば危ういぞ、爺!」


 宗矩はこの辺りが潮時と見て、

「とは言うものの、吾が方の包囲網もかなり狭まっております。

 いよいよ「天王山」たる備前島にくりだしましょう。

 かねてより買い込んである大砲を集結させましょうぞ」

「大筒を集結させると⁉︎

 まだ残っておるのか?」


「いかにも。

 左衛門佐は何を仕出かすかわかりませぬ。

 天海和尚の指示で、まだ堺に取って置きのフランキ砲とカルバリン砲を十二門隠してござる」

「なんと、さすが和尚じゃ」


「更に甲賀衆が城中向けて遂道(すいどう)を掘りまする。

 そして本丸の真下に爆薬を仕掛けるそうにござるぞ」

「そのような事が出来るのか?」

「遂道を掘る振りをするだけのようで。

 その噂を城中にいる間諜より流させ、女中衆の不安を煽る。

 女子おなごの力を侮る勿れ。

 フランキ砲よりも威力がありますぞ。

 いずれも和睦の促進剤でござる」


 天海は泰然自若だ。

「御大樹、決して急がれますな。

 大坂城は一度の攻防で落とせる城ではござらぬ。

 無理はいたずらに犠牲者を増やすだけでござる。

 何度も申すが、城を落とさずともこの度は和睦を結ぶが目的でござる。

 秀頼君のお命を取らずとも、徳川の臣下になって頂ければそれで上々」



 …その深夜、十勇士に召集がかかった。

 場所は真田丸天守閣の三階である。


 珝と太郎が結界を張っている。

 今宵も海野六郎がまとめ役だ。


「十蔵の七つの疑問はこれであっただろう。

 一、秀頼君自身に能力があるのか、それとも黒幕がいるのか。

 二、秀頼君の父親は誰か。

 三、豊臣方は諸大名とどこまで気脈を通じているのか。

 四、高台院は真実をどこまで知っているのか。

 五、豊臣の軍資金はいかほどか

 六、小助は何を伝えたかったのか。

 七、家康はほんとうに生きているのか。

 今夜でこのうちのほとんどが前に進んだ。

 頭が鮮明なうちに、皆の目で見たものを出しおうておきたい」


「この上人も同感でござる。

 それにしても宝珠の威力は怖ろしいと改めて思うたわい。

 のう猿飛」

「わしが考えてした訳ではないぞ」


「では宝珠が勝手に四人の身体に入り込んだのか?」

 才蔵が答える。

 今日も髭面の大男の格好だ。

 このところはこの姿が気に入っている。

「いかにも。紀見峠でもあのような稽古はしておらぬ。

 宝珠が発動して佐助様とわしの懐から飛び出したのじゃ」


「アンリャ・・?

 今気付いたが才蔵の目の玉は宝珠と同じではないか?

 右目が白珠、左目が碧玉に見えるが。

 なんと・・・?」

「うるさいぞ!!

 本題と関係ない事であろうが、清海!」


 才蔵は顔の周りに霧をかけるのを忘れていた。

 清海の隙のない洞察力にいささか困惑している。


 空気を読んだ海野六郎が話題を戻した。

「では魔界のものが宝珠の光に燻り出されたのか?」

 伊佐は笑みを絶やさない。

「拙僧にはそのように見えましたが?」


 こういう時は清海は全く空気を読まない。

「気絶したり逃げ出そうとした者が魔物に魅入られた者じゃな、才蔵?」

「そのようだ。

 見極めねばならぬがな。

 中にはただ怖くて逃げた者もおるだろう。

 ただし、真田丸の者は四十二人全員が黒だ」

「四十二人もおったのか?」


 人という者は衣装や環境に影響される。

 才蔵でも大男に化けるとその形に影響されて気が荒くなる傾向がある。

 明らかに不機嫌な様子だ。

 代わって佐助が返答をする。


「清海と鎌之助が改心させてやれ。

 おぬしらの得意技じゃ。

 もっとも魔物そのものは光のせいで、もうどこかに出て行ったかもしれんが。

 出来るだけ聞き出してくれ」


 海野六郎は会議を進める。

「気付いた事をざっくばらんに出してみてくれぬか?」

 望月六郎が、

「淀殿は白黒つかぬ、秀頼は黒」

 甚八は、

「大蔵卿局、大野治長、大野治房、織田有楽、塙直之も黒」


 十蔵が、

明石全登(あかしたけのり)も気絶しておったぞ」

「ジョアン殿は敬虔な切支丹じゃろう。

 なんで明石殿が」

 と伊佐が不思議がる。

 上人が諭す。

「付け込まれる弱みのあるのが人間というものじゃ」

 さらに十蔵が、

大野治胤おおのはるたねも黒、台所頭の大角与左衛門(おおすみよざえもん)も黒」


「ほほう!天守の屋根瓦は割れておらぬと言いに来たのも台所頭の大角だったのう

 これで繋がったかな。

 どうやら魔物はおるという事は間違いないかな?」

 海野六郎が皆に確かめる。

 望月六郎が、

「他にくりやで小者と女中が六人倒れておったぞ」

「ということは?」

「ということは毒が盛られているかもしれぬ」


「幻薬か?」

「飯に盛られて城中の者の頭がおかしくなっておったのだ」


「それがあの白粉おしろいの気味悪さだったのか?」

「それゆえに殿はこの真田丸で別に賄いをさせておるのだ」

「やはり殿はわしより数段上の(わる)じゃのう。

 とうに気づいておったとは? 」


 両六郎のやりとりに清海が割り込んだ。

「と言うことは両六郎ともかなりの悪じゃが、殿の方が往生の資格がありそうじゃな。

 大殿は大往生であったしのう?」


 朱雀の十蔵が話を戻す。

「片桐且元、織田信雄も黒、わしが家康の陣に入ったらすぐに失神しおった。

 その他女中衆や小者で三百人以上は気絶しておった」

 白虎の六郎が、

「半分は白かもしれぬ。

 なんせ、あの迫力たるや凄かったからな。

 やった本人がちびりそうじゃったぞ、猿飛」


「大事な事は、親玉や元締めと思われる者が出てこなんだ事じゃ。

 宝珠の力まで借りたのに」

 清海は、

「元締めをふん縛ったら一件落着なのじゃが、のう才蔵」

「そう甘くはない」


「早めに逃げたかな?」

「それは判らぬが、四神獣のおかげでかなりわかったではないか?」


 一番まともだった青龍の甚八が、

「ちとやり過ぎたやつもいたがな」

 十蔵が見え見えの言い訳をする。

「宝珠が発動すると止めれんのう。なあ、猿飛」

「おぬしと合体した碧玉は火を消しても火は燃やさんぞ!!」


 いぶし銀が面白い事を言い出した。

「十蔵は意外と単細胞じゃのう。

 実は三好兄弟の腹違いの兄ではないのか。

 外に現れておるものは全く異なるが、中の本質が同じじゃ。

 四神獣のおかげでこの事も判明したぞ」

 十蔵は気に入らない。

「兄弟にしては身体が違いすぎる。

 太閤と秀頼君くらいにな。

 ん、甚八…⁉︎ 腹違いと言ったか?」


 白虎の六郎は閃いたようだ。

「そこじゃ。

 太閤の胤はおそらく・・・。

 いや確信が持てるまでもう少し探ってみよう」

「ふむふむ?

 それで?」

「その手には乗らんぞ、化かしの六郎殿。

 このことは波紋が大きすぎる。

 今少し待ってくれ」


 一同真剣な眼差しになったが、望月六郎はするりと話題を変えた。

「ところで豊臣の埋蔵金もわかったぞ。

 金銀が四神獣の光に反応したのでな。

 そうでなくても、狸殿は「金の匂いを嗅ぎ分ける海野家の伝家の宝刀」を持っておられるのでな」


 乗りのいいい十蔵が、

「驚くなかれ。皆の衆!!

 四神獣の四人で計算したところ、金銀だけでもざっと黄金十万枚、銀十五万枚はあった。

 まだあるかもしれぬと狸殿の仰せである」


 清海が呆れている。

「十万人の十年分どころではないのう。

 これで安心して明日から飯が食える」

「民から絞りとったものを食ってうまいのか、清海」

 鎌之助の一撃を清海はまともに喰らった。


「わしは、その…」

 燻し銀のもう一発がとどめを刺した。

「真田丸の兵站はすべて自分等で稼いだ金で賄っておる。

 乞食牢人と一緒にしてくれるなよ!!」


 だが、清海は直ぐ復活する。

「にしても太閤はいかほど溜め込んどるんじゃろう。

 なあ、長兄の十蔵殿?」

「わしもたまげておるぞ。弟の上人殿」

「猿に小判じゃのう?」



 …海野六郎がゆっくりと反応した。

「清海、なんと言った。サルじゃと???」





二間(3.6m)

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