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碧と白の珠玉   作者: 真緑 稔
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㊹-②第三部 第三章 南光坊天海 四節 柿熟す 二

  二 小助の遺言


盗人ぬすびとにも三分の理…」


 始めて見る伊佐のしかめっ面だ。

 清海も心配するほどの事件とも言える。

 伊佐を諭している。


「誰から見ても悪いと思える盗っ人でさえも、それなりの正義や事情がある。

 ひっくり返しして言えば、上人と言われるわしでさえ三分は悪がある。

 いわんや、両六郎や甚八、十蔵、鎌之助のような下賤の者においておや。

 人とは弱き者で、常に善と悪との分水嶺を歩いておるようなものなり。

 悪に落ち掛けながら歩いておる者もある」


 信繁と才蔵以外全員が酒を吹き出した。


 清海は一向に気にする様子もない。

「これを『人生五分五分の理』という。

 今一歩踏み込んでみるが良い。

 そこの所が解れば親鸞聖人の境地に伊佐入道とても近づく事が出来よう。

『善人なおもって往生を遂ぐ いわんや悪人をや』というこの世の真理を体得する日も近い」


「ということは(わる)と言われるわしの方が善人の清海上人よりも往生しやすいということか?」

 望月六郎には悪人たる自信があるようだ。


「いかにも。

『どこを押しても悪知恵が出る』と言われる本多正信、正純親子などはさらに往生に近いかもしれんな」

「あの(わる)が往生じゃと。御仏は心が広いのう」

「それよ。

 自分の力で悪足掻きをするのをやめて、一切を御仏にお任せする気持ちになっておれば、の話ではあるが」


 甚八は手厳しい。

「親鸞聖人を祖とする一向宗の信徒は闘ったあげく酷い死に方をしたぞ。

 民百姓は『御仏の御手に身を任せて』と唱えながらな」


 鎌之助がつぶやく。

 つぶやいたが地声が大きので洞窟の奥まで響きわたった。

「そう言えばリボス神父から聞いた話だが…」

 海野六郎はわざと聞こえるようにつぶやく。

「ほほう…?」


「南蛮でも切支丹たちが百六十年にも亘って大戦さをした苦い歴史がある、と心を痛めておった。

『神の身胸に』と言うて多くの若者が死んだそうな。

 それも国を挙げての侵略戦争だったというぞ。

『十字軍』という名でな」


 いぶし銀がつぶやく。

「一向宗や耶蘇教がどこで誤ったかが問題ではあるまいか?」

 割れ鐘もつぶやく。

「そこじゃ、甚八。よくぞ言ってくれた。

 問題は魔界にあるとわしは見ておる。

 泰平の世を作る鍵はここにあるかもしれぬぞ。

 どうじゃ、狸殿」

「ふむふむ?」


 清海は伊佐のために他力本願の説教をもっと突っ込んでしたかった。

 が、急遽、小助の事に切替えた。

ひらめき」があったのだ。


「十三年前。

 小助は才蔵を守るために魔界についてかなり調べ上げておった。

 金沢での事件は魔物達が仕掛けた罠だったのではないかと思うのだが…。

 知りすぎた小助を殺すためのな」


 海野六郎の「よいしょ」が始まった。

「才蔵が狙われて小助が犠牲になったのではない。

 小助の命を取るのが目的だったのだと?」


「そう、昫の時と同じ手口じゃ。

 (はな)から猿飛にはかなわぬ。

 そこで殿をおとりにした。

 双子である小太郎の手を汚させて昫を殺し、猿飛にできうる限りの深手を与えた」


「才蔵にも(はな)からかなわない。

 そこで才蔵をおとりにした。

 魔界を潰す鍵を手に入れかけた小助を殺すのが真の目的だったのか?

 才蔵には心に深手を負わせられるし、一石二鳥か?

 闇烏天鬼も小道具にされたのか?」


「そうなんじゃ。

 物分かりの良い狸殿じゃなあ。

 おぬし、実は何か知っておるのではないか? 」

「滅相もござらぬ」


「小助は既に鍵を手に入れていたかもしれぬ。

 ゆえに小助には気負いがあり、それが隙となった。

 でなければ小助ほどの者が不覚を取る訳があるまい」

「確かに。

 口は悪かったが腕は服部半蔵殿よりも上だった」


「そうじゃろう」

「亜流備流とか言ったか?

 黒ミサをしたり黒魔術を使う闇の切支丹とやらの開祖だったかな?」


「やつらは得体がしれん上にかなり手強いぞ。

 猿飛が使う空中遊泳や遠当ての術のようなものも使える。

 小太郎に仕掛けられていた術は猿飛も小助も解く事ができず、結局、昫が自らの身を犠牲にした」

「確かに。

 あの神狼の昫が命を投げ出さねばならなかったほどの大敵じゃ」


 髭面が髪の毛まで逆立てて鍾馗(しょうき)様の顔になっている。


「魔物はフランシスコザビエルがこの国に上陸した時に既に紛れ込んでいたらしい。

 今から六十五年前じゃ。

 ではなかったか、清海」

「ああ。闇烏天鬼の子分を改心させる時にリボス神父がそう言われておった」

「今から考えて見ると…?

 あの闇烏天鬼の手下どもの心の鎖をリボス殿はいとも簡単にはずしたのう」


 リボスは昨年神に召された。

 盛大な葬儀を望まず、ひっそりと高山右近の立てた金沢の南蛮寺に眠っている。


 鎌之助は鍾馗様の顔のままだ。

「わし達の知らぬ秘密をリボス神父はご存知だったかもしれぬ。

 惜しい御仁じゃった」


「小助の遺言の『サル・・・ ・! ト、ト・・・!』は『猿飛急げ!  とっ、殿が危ない!』でないかのう」


 海野六郎がすぐに繋ぐ。

「なんで殿が危ないのじゃ?」

「このかぼちゃ頭に今『閃き』があったのじゃ。

 わしの頭が考えた事ではない。

 ゆえにわかるはずがない」


「ふむ、清海上人様は鋭い事を言う事があるからのう。

 極々稀にだが。

 猿飛はどう考える?」


「判らぬ」


「才蔵は?」


「チッチッチ」


 才蔵は蝙蝠の姿で天井にぶら下がったままだ。

 洞窟の岩床を虚ろな視線で見つめている。


「ふむ。根深いということか…?」


 甚八が重い声で、

「あれからもう十三年。

 小助の仕返しをせいとは言わぬ。

 だが、いつまでも『判らぬ』や、『チッチッチ』では小助が浮かばれんぞ。

 十蔵、おぬしもただ、ぼーと歳だけをとったわけであるまいが」


 とばっちりが十蔵に来た。

「この世に『魔』はある。

 形の有る無しは別として…。

 わしはそう思う」


 狸殿は性懲りもなくまた十蔵を乗せようとする。

「ふむふむ、やはり魔界はあるか?」


 かつを入れられた十蔵は畳み掛けるように続ける。

 甚八の思う壺だ。

 一番のわるは甚八かもしれない。


 はしかい性格に火がついて、乗せにかかる海野六郎の上を追い越すような勢いで捲し立てた。

「古来よりこの国にも闇の世界はあった。

 神世から未来永劫に至るまで魔界や魔性は消えぬだろう。

 光が射すと同時に影ができるようにな。

 神や仏があればその裏には悪魔があるのがものの道理というものだ。

 人の心の中にも慈しみに満ちた神仏の世界と憎しみや恨みに満ちた魔界がある。

『盗人にも三分の理」』の話を清海がした通りだ。

 均衡を保つ呼吸こそが泰平の世の礎となる鍵ではないのか」


「では小助の末期の言葉は?」

「猿飛に判らぬものがわしに判る訳があるまい、このボケ六」


「すまぬ。あまりの名言だったゆえつい聞いてしもうた」

「いや、そうでもない。

 この十蔵も、今、閃いたぞ」


「ほう、閃いたと?」

「フランシスコ・ザビエルの黒衣の裾に隠れて闇の勢力が日本に入った、とリボス殿が言ったのだったな。

 そしてそれから六十五年も経つのだな。

 その魔性のものは人に取り憑き、姿形まで持っていても不思議ではない。

 この国の魔界のものと結びついて、戦さで血や涙が流されるの眺めては舌舐めずりをしておるかもしれぬ。

 善と悪との均衡を壊す力を発揮し、戦さを起こしては怨念を取込む。

 さらに増大していく」


「ふむふむ?」

「これも仮定の話じゃ。

 小助の遺言が清海の閃きの通り、『猿飛急げ! とっ、殿が危ない!』であったとしよう」


「とすれば?」

「とすれば、この度の殿の大坂城入場に関わるのかもしれぬ。

 あの頃も殿はお忍びで大坂城にちょくちょく行かれておったゆえに、小助は警告をしたのではないか?」


「つまり?」

「闇の元締めのような者は大坂城におる。

 その者が徳川方への嫌がらせを画策しておれば、先程の清海の話にあった『大坂城内の悪知恵の主』やもしれぬ!」


「なるほど、大坂方に裏の実力者がいれば全て辻褄が合うのう?」

「もしも『魔性の元締め』なるものが大坂城に潜んでおれば事は複雑じゃ。

 下手をすれば収まるものも収まらなくなる」


「わし等の手の内から溢れてまた大戦さなるかもしれぬとな?」

「渋柿はそれを恐れておるかもしれぬ」 


「その闇の元締めの事をすでに気付いておるかもな?」 

「渋柿の手の内から溢れるほど手強いと見ておったら…」

「見ておったら?」

「城もろとも吹き飛ばすという最後の手段まで考えておるかもしれぬ」


「そのために大量の大筒を買い込んでおると?」

「ああ。渋柿はこの国を守るために大戦さも覚悟で仕掛けておる可能性がある」


「渋柿は魔物からこの国を守ろうとしておるのか?」

「可能性じゃ。

 しかと見えぬものがまだ七つはあるゆえにな」


「七つじゃと?」

「もっとあるかもしれぬが」

「ふむふむ、ここは皆で知恵を出し合おう。

 言うてみてくれぬか?」


 十蔵は思いつくままに七つを挙げた。


 一、秀頼君自身に能力があるのか、それとも黒幕がいるのか。


 二、秀頼君の父親は誰か。


 三、豊臣方は諸大名とどこまで気脈を通じているのか。


 四、高台院(寧々)は真実をどこまで知っているのか。


 五、豊臣の軍資金はいかほどか。


 六、小助は何を伝えたかったのか。


 七、家康はほんとうに生きているのか。



 …その謎に望月六郎が答えた。

「仕方がない。

『殿が危ない!』となれば、わしも正体をばらそう」

「ほほう?」


「家康は死んでおらぬ」

「なんと、もう生きておらぬと?」


「ふん。食えぬ狸じゃのう。

 皆も薄々は感づいておるくせに。

 が、念の為にはっきりさせておいた方が良い。

 皆で知恵を出し合って、大戦さを回避するためにな」

「死んだのはいつの事じゃ?」


「三年前になる。

 加藤清正はじめ豊臣恩顧の大名の暗殺。

 切支丹禁教令、国外追放令。

 この三年で急に事が進んでおろうが」


「その事を知っておるのはどの辺りまでかな?」

「将軍秀忠と於江殿。

 それに秀頼の補佐役の柳生宗矩、本多正信と阿茶局、春日局。

 そして家康から後を託された南光坊天海。

 甲賀衆では天海を補佐する二人の上忍。

 伊賀では服部半蔵のみ。

 それに猿飛と才蔵。

 そしてわしの十三人じゃ」


「なんでおぬしが十三人目じゃ?」

「わしは猿飛の守役(もりやく)だったのでな」


「守役とな?」

「白雲斎様から内々に引き継いだのだ。

 猿飛が鳥居峠の山奥から出て来た後の護衛をな。

 猿飛が上田城に来る十日ほど前に白雲斎様より突然密命を受けた」


 清海は面白くない。


「猿飛の世話役はこのわしじゃぞ!」

「勘弁せい。

 清海が表、この望月六郎が裏じゃ」


「ふむふむ」

「それからのわしの行動を見直してみよ。

 すべて合点が行くはずじゃ」


 気分転換の早い清海が、

「なるほど、小太郎の事で金沢の利長殿に会いに行ったのもおぬしじゃった。

 先の戦さの折も猿飛が関わるのをしつこく止めておった」

「今の猿飛には守役などもう必要ないゆえ、明かせる事だが」


「それもそうじゃ」

「さて、十蔵の七つの謎を解く為にこれまでの事を一度整理してみるぞ。

 まずは豊臣方からじゃ・・・」



 …信繁の監視役をしている浅野家は紀伊三十七万六千石。

 秀吉の正妻、寧々(ねね)の実家である。

 当主の長晟(ながあきら)は三年前に父長政を亡くした。

 一年前には兄幸長を病気で失った。

 幸長は享年三十八歳、切支丹だった。


 長晟は秀忠の小姓を務めたあと、備中の足守(あしもり)で二万四千石を領していた。

 幸長の死の間際に呼び出され裏話をすべて打ち明けられた。

 にもかかわらず、事が起こっても秀頼方には組みしないと考えている。

 抜き差しがならないほどに徳川の根回しが周到にされている。


 …家康は高台院(寧々)を特別に厚遇した。

 一万六千石という大きな化粧料を与えている。

 寧々の後押し無くして徳川の天下は考えられない。

 秀吉が病没した後は大坂城を出て京の三本木に住み高台寺を開創した。

 夫の冥福を祈るためだ。


 入れ替わる様に大坂城へ入場し、主となったのが茶々である。


 秀吉の家臣団には二つの派閥があった。

 …ひとつは石田三成に代表される文吏派の「近江衆」であり、「茶々派」である。


 天正元年(1573年)四十一年前の事。

 佐助が生まれた本能寺の変の九年前に秀吉は信長から思いもよらぬご褒美をもらった。

 近江長浜城主となり二十万石の大大名となった。


 俄か大名になった秀吉には統治能力を持った家来が大量に必要となった。

 その時に召し抱えられた浪人達が近江衆だ。

 実はその近江衆こそ、同じ年の八月二十八日に信長に攻め滅ぼされた浅井長政の家臣達だ。

 秀吉が二十万石をもらったのは「浅井長政殺し」のご褒美だったという「後ろめたさ」を近江衆は抱えている。


 近江衆は長政の薫陶よろしく日本でも稀な善政を施していた。

 教養のある内政の達人達である。

 俄か大名になった秀吉にとっては「渡りに船」だった。


 茶々は長政の長女で佐助とは従姉妹いとこになる。

 近江の小谷城で生まれて幸せに暮らしていた。


 だが父親は伯父になる信長に殺された。

 その後、母のお市の方は柴田勝家に嫁ぐ。

 勝家は織田随一の猛将だったが心優しい男だった。

 母と子は穏やかな日々をようやく掴んだ。


 しかしそれも僅か半年。

 秀吉は同じ織田の家臣である勝家を滅ぼし、お市の方は越前北ノ庄で夫と共に自害した。

 秀吉は結局政権を織田には返さなかった。


 …清海がわめいた。

「猿の猫ばばじゃのう?」

「 まあ、そうだ。

 茶々の立場になって考えてみよう」


 …五歳の時、実の父と祖父は自害。

 直接の実行犯は秀吉だ。

 妹のはつは三歳、末っ子の(ごう)は生まれたばかり。

 十歳の兄は秀吉の手で処刑された。


 十五歳の時に母は再び秀吉に攻められ自害した。


 二十歳の時には秀吉の側室になる以外の選択肢はなかった。


 姫様育ちで、天下人だった叔父を持つ、誇り高い絶世の美人。

 その姫が卑しい猿ズラの醜い爺様の側女(そばめ)になる道を選んだ。


 近江衆は当然茶々に親近感を覚える。


 …さて、もうひとつは加藤清正に代表される武闘派の「尾張衆」だ。


 秀吉や高台院(寧々)と同郷の尾張(愛知県)出身の者達だ。

 幼少の頃より秀吉の小姓として仕えた。

 子に恵まれなかった高台院に吾が子の様にかわいがられて育てられ、ついに大名になった者達である。

 黒田長政も尾張生まれではないが寧々に育てられている。


 すなわち「寧々派」である。


 秀吉亡き後、特に前田利家が没してから両派の対立が表面化し内部分裂を起こした。

 家康が豊臣家に打ち込んだ「最初の楔」である。

 その結果が関が原の戦いだ。


 その戦さで豊臣家の力は大きく削がれた。

 しかし、未だ徳川の覇権を転覆させる力が充分に残っている。


 家康は「寧々」と「茶々」の弱みを握っている。

 本能寺の変以来三十二年に亘って豊臣潰しを根気よく続けてきた。

 望月六郎は「死せる家康」が遺した「とどめの楔」をおそれている。


 六郎がおそれているのは日本史上最大規模となるかもしれない大戦さだ。

 それは秀吉の正妻と側室との「女の闘い」とも言える。

 哀しいかな…。十四年前の大戦さも然りであった。


 …関が原の戦いの勝敗を決めたのは小早川秀秋の裏切りだ。

 だがそれは家康が高台院を脅して周到に準備した工作の結果である。


 小早川秀秋は高台院の兄、木下家定(きのしたいえさだ)の五男で秀吉の甥に当たる。

 豊臣家の継承権保持者としては関白豊臣秀次に次ぐ者と見られていた。


 結局、秀吉の命で毛利元就の三本の矢に例えられた名将小早川隆景の養子となり小早川家を継いだ。

 関が原の戦いの時はいまだ十八歳。

 裏切りによる功績が認められて、備前美作(びぜんみまさか)五十一万石を領した。

 西軍の宇喜多秀家の旧領である。

 哀れにもこの時代が負わせた重荷に耐え切れなかった。

 酒に溺れて関が原から僅か二年後に狂死した。


 関が原では高台院の意向で尾張衆は東軍の家康に付いた。


 小早川秀秋は西軍の毛利一族でありながら尾張衆でもあった。

 家康はその矛盾を鋭く突いた。

 その一撃が勝敗を逆転させた。



 …家康はその後も高台院の力を執拗に利用した。


 秀吉恩顧の諸大名を引き付ける為に最も効果的な浅野家を雁字搦めにした。

 そして九度山の真田の監視役までさせている。


 浅野家は後に移封されて安芸広島四十二万六千石の大大名となる。

 安芸広島の領主は福島正則だった。

 福島正則は石垣修復で因縁をつけられ、真綿で首を絞められるようにして潰される。

 浅野家は同じ尾張衆である福島家の後釜になって広島に移る。


 忠臣蔵で有名な赤穂浅野家はこの分家である。



 …狸の六郎がまた乗せにかかる。


「ほほう。

 では高台院が脅されていた弱みとは?」

「太閤は長浜城主の時に側室だった南殿との間に長男石松丸を授かった。

 石松丸は三歳で夭折した」


「ふむ?」

「茶々が側室になった次の年に生まれた次男鶴松も三歳で夭折しておる。

 子に恵まれぬ秀吉に都合よくすぐに生まれたもんだ。

 女たらしの上に大勢の側室持つ太閤が子種を持っていなかったのは明白なのにな」


「猿飛は信長公の十三番目の男子だし、女も入れると信長公の子供は二十五人。

 渋柿はは十六人と聞いておる。

 正妻の高台院は当然ながら不審を持つだろうな?」

「高台院はあのお人柄だ。

 堪忍しただろう。

 だが、取り巻きはそうもいくまい。

 太閤の血も引かず、高台院の血も引かぬ者が後を継ぐのを良しとせぬ者もおるだろう」


「秀頼君は太閤の三男になるか?」

「我が子の鶴松君も殺され、長男の石松丸も殺されていた事を淀君が知ったなら?」


「秀頼君を必死で守るのだろう」

「誰から?」


「寧々派からか?」

「そうだ。

 それは本多正信の格好の餌食だった。

 高台院は卑劣な事をするお方ではない。

 尾張衆や一族の中には品格の劣る者が多い。

 伏見や大坂で狸殿が目にしたとおりだ。

 気のいい連中で悪者ではなかったがな」


「確かに尾張生まれの輩は清海よりも品が無かった。

 荒くれ者で教養が無い連中が多かったのう。

 すると、もしや、その尾張衆の中に?」

「知恵の足らぬ者がいて、してはならぬ事をしでかしていても…不思議ではない」


「ふうむ…。

 本人は正しいと思い込んでかもしれぬ」

「悪魔の囁きに、ついその気になる事もあるのが人という生き物だからな。

 清海上人のお説教の通りだ…」


 狸殿はうなずきながら十蔵に、

「おぬしの七つの疑問の半分くらいはすっきりしたのではないかな?」

 十蔵が答える。



 …「いかにも。だが、おぬし等、皆、いったい何者だ?」





いつもお読みくださって有難うございます。

繁忙期となりますので更新は少し間が空きます。

引き続きよろしくお願いいたします。


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