㉝-①第三部 第一章 霧隠才蔵 一節 珝(くう) 一
一 飛魚
ドーン!!
大砲を撃ったような音だ。
大海原の中に十丈もの水柱が立った。
…宙空一万尺の高さから真っ逆様に鋭い塊が海面めがけて突っ込んでいく。
水面すれすれまで降下すると翼を広げて水平飛行に映った。
海面には強烈な空気の波動弾が撃ち込まれ、大きな穴が開いた。
爆裂音と水柱を起こした主は大鷲だった。
大鷲は八尺もある翼を伸ばし、超高速で波を破りながら飛んでいる。
波飛沫がビシビシと顔や身体に当たる。
これがまた気性の激しい大鷲には快感らしい。
マニラの港を出て三日目から始めた気晴らしだ。
遊びのつもりで始めたが徐々に激しさが増した。
朝食と夕食前の日課になっている。
日本に着く頃には百回になるだろう。
「空弾波動の術」と自分で名付けるほどの大技をものにしてしまった。
ーーーこの技はワクワクする。
さあ、旨い生魚で腹ごしらえをして、さっさと繭のところに戻ろう!
ほんとは繭の傍から片時だって離れたくはない。
雪様から呂宋を出る前にしっかり頼まれた責任がある。
母親が心配するのも無理はない。
十五歳の女の子を一人で遠い海の彼方の北の国へ行かせるのだ。
おまけに繭は小さい時からぼんやりしている。
術がまともに使えるようになったのはやっとこの一年のことだ。
大きなお役がある、と雪様は言っていたが…。
繭には少しばかり酷だ。
大鷲の前方には数千尾のトビウオの群れが待っていた。
トビウオ達も海上を高速で滑空している。
胸ビレを開いている姿は大鷲よりも鳥らしく美しいくらいだ。
ーーー精悍だ!
ーーー海上一千尺辺りまで飛んでいる剛のものもいるぞ!!
魚というより鳥だ!!
しかも速い!!
しかも潜れる。
「可愛い子には旅をさせよ!」とはよく言ったもんだ。
世界は広い。
今日は感動で腹いっぱいだ。
餌場を奴らにしようと空から検討をつけていたんだが…。
今日はやめておこう。
あんな見事な連中を喰らう訳にはいかない。
それより、早く船に帰って繭に話してやろう。
繭もこれには驚いて目を輝かすだろう!!
…大鷲はトビウオの群れを通り過ぎて回転すると、大きく高度を上げて南蛮船へ向かう。
南蛮船はもう少しで日本の島影が見えるところまで来ている…。
ーーーさあ行こう!
黄金の国へ。
明日という扉の向こうにはきっと繭の幸せが待っている。
艱難辛苦もあるだろう。
それを支えるために俺は生まれて来たのだ!
一尺(0.3m)、八尺(2.4m)、一千尺(300m) 、一万尺(3000m)
一丈(3m)、十丈(30m)




