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碧と白の珠玉   作者: 真緑 稔
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③第一部 第一章 出逢い 三節 夢

 漂流物はめす(おおかみ)だった。



 右の前脚が折れている上に衰弱しきっている。

 佐助は父に教えられるままに山羊(やぎ)の乳を絞って口に含み飲ましてみた。

 狼の仔はうまそうに()めると少しずつ飲んだ。

 その夜は懐に入れて抱いて眠った。

 それから後は温かい布団の中でひたすら寝るばかりだった。

 次の日になると山羊の乳も飲まない。

 佐助は気が気でない。

 添い寝をしたり、指に山羊の乳を付けて狼の仔の口に塗ったりした。

 だがピクリともしない。


 佐平が佐助を元気付けようと、

「副え木をしてやろう。枇杷(びわ)の枝が良い。

 しなやかな上に折れにくいゆえにな」

 琵琶の木は畑の外れに佐平が植えてある。


 南方系の樹木で本来信州では栽培は難しい。

 果樹の好きな佐平に大切に育てられ二本が立派な成木になっている。

 良くしなる。

 枇杷の木刀で打たれると骨まで腐るほどだ。


 佐助は枇杷の細枝を短く切って四つに割り、平たい板状にした。

 良く砥いだ小刀で横に浅く細かく筋を入れる。

 折れている右脚はまず布で巻いて固定する。

 割った四本の枇杷の枝を脚の周りに添え、さらにきつめに布で巻いて締めた。

 佐平が珍しく優しい声で事細かに手解きをしてくれた。


 それでも佐助は気が気でない。

 身体には温もりはある。

 死んだように寝ているのか、寝ているように死んでいるのか、不安でしようがない。

 しかし三日目の夜明け前。

 懐の中に動きを感じた。

 懐の中を覗き込む。


 (まぶた)が開いている。

 白狼の仔が佐助を見つめていた。



 ーーーあたしは夢を見ていた。


 なま温かい水の中で流れに添いながら、お兄ちゃんとゆっくり泳いでいる。

 水底(みなそこ)まで陽の光が差し込み水の中で揺らめいている。

 オーロラみたい。

 砂地に光の網目が揺れている。

 水面のさざ波を映しているのだ。

 周りがキラキラと輝いている。


 水はしょっからいけどすごく気持ちいい。


 お兄ちゃんが手で合図した。

 もっと下に潜るんだ。

 一緒に泳いでいるちっちゃな魚達も群がりながら付いて来る。

 魚たちは青や黄色や縞模様、形もいろいろだ。


 岩場の合間に桃色や緑の珊瑚が広がっている。

 深いところまで潜ったせいか、水がちょっとだけ冷たくなったけどぜんぜん平気。

 ずーっと気持ちいいんだもん。


 水の中なのに浮かんでいるみたい。

 さっきから息も出来ている。

 あたしの口で噛んでいる白い丸い石のせいだ。


 口の中から細かな泡が漏れている。

 お兄ちゃんの口もそうだ。

 お兄ちゃんは貝やサザエをもうたくさん採っている。

 あたしも手伝わなくっちゃ。


 痛っ!

 岩陰にいた紫ウニだ。

 黒い長い針が折れて、あたしの右脚に刺さっている。


 お兄ちゃんが大きな目を見開いて、あたしの瞳の奥を覗きこんでる。

 温もりと心地良さはいっしょ。

 だけど、このお兄ちゃんはずいぶん汚い。

 それに水の中じゃない。



 …どっちが夢??


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