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碧と白の珠玉   作者: 真緑 稔
19/84

⑲-① 第二部 第一章 猿飛佐助見参 三節 小太郎 一、二

 一 土産


「若殿、猿飛殿が見えられましたぞ」


 清海が弟の伊佐入道と同じにこにこ顔で信繁に紹介する。

「沢木佐助でござる。

 過日は失礼仕つかまつった。

 お言葉に甘え参上致した」


「よう見えられたの、沢木殿。

 さすがじゃな、あれから僅か二日とは。

 決断の斬れ味も行動力も常人ではないの。

 戸沢白雲斎というお方にも、お父上にも吾等の力では手が届きそうもない」


 知将を感じさせる静かな物言いである。

 殿様にありがちな人を見下ろす威圧感を消している。


「お師匠様をご存じか?」


「いやいや、知らぬ知らぬ。

 今申したのはわしの勘じゃ。

 そのことには触らぬ方が良い。

 大袈裟に城中に触れ回る大入道がここにおるゆえ」


 清海はどっかとあぐらをかいて、相変わらずにこにこしている。


「この大入道殿はあれから貴殿にぞっこん惚れ込んでおる。

 猿飛殿と勝手に決め込んで、おまけに貴殿の世話役をするそうだ。

 大きな迷惑であろうが大目に見てやって頂きたい」

「かたじけない。

 私は信繁様の元で修行させて頂きたく参上仕った。

「貴殿や沢木殿ではなく佐助とお呼び下され。

 信繁様の事は皆様に習い、若殿と呼ばせて頂く」


 それは清海が許さなかった。

「いンや、若殿も猿飛と呼んでいただく」

「これじゃ。済まんの。

 勘弁してやってくれるとありがたい。

 ところで土産があるな。

 燕達からおおよその事は聞いておるが」


 信繁の部屋の軒下には燕の巣が並んでいる。

 先程の燕と思われる二羽が巣の中から佐助を覗いている。

 子燕が五羽程いるようだ。

 チイ、チイと微笑ましい。


「七人衆は『燕使い』というが、わしには忍びの心得はない。

 幼い頃から燕が好きでの。

 そうこうしておる内に燕と話ができる様になった。

 ただそれだけじゃ」


 燕は縁起めでたい鳥ゆえ軒下に巣を作るのを嫌がる者はいない。

 大名の殿様の部屋でも喜ばれる。

 徳川や上杉をはじめ近隣の要所に巣を作っては情報をせっせと運んでくる。

 所詮趣味が高じたものと、信繁は高を括っていたが思いのほか役に立っている。

 命を救われた事も何度かある。


 (鳥居峠の庵にも燕の巣があった。

 父上は、おぬしが来た頃から毎年燕が来るようになった、と喜んでいたが・・・)


「それでは佐助、いや猿飛。

 おぬしの部屋は清海の隣に用意しておる様じゃ。

 土産の子はお女中衆が潔いにしてくれるだろう。

 取り敢えずはゆるりと寛がれるが良い」


 …清海はいそいそと佐助を千曲館へ案内した。



 二 金雲


 その夜の宴は小泉曲輪(こいずみくるわ)の源氏の間で催された。


 小泉曲輪は本丸の西側にある。

 北の蛇沢川(へびさわがわ)から南の千曲川まで、天然の池や川で曲水の様に繋いである。

 一見すると風流な日本庭園のように見える。


 昌幸は仕えていた武田氏が滅亡した後…。

 本能寺の変、それに続く秀吉対家康の戦いに紛れて、上田盆地に城を造った。

 北の上杉と東の北条、南の徳川の「境目(さかいめ)」の地でのせめぎ合いを利用したのだ。

 徳川に城を造らせておいて、それを乗っ取り、そのまま居座るという離れ業をやってのけた。


 上田城には防衛に適した地の利がある。

 南の外堀は千曲川から流れ込んだあま(ふち)だ。

 切り立つ断崖は高さが五丈ある。

 北と東西の外堀は矢出沢川(やでさわがわ)蛭沢川(ひるさわがわ)を利用した。

 さらにその二つの川が合流してできた大水濠に点在する沼を繋いで二の丸の水堀も造った。

 無駄な労力をかけていない。

 本丸は清海が自慢するほどの水堀を巡らしてあるが、これは人力によるものだ。

 小高い河岸段丘上にある大水濠という、自然の立地を活かした難攻不落の平城を僅か一年半で完成させた。


 完成まじかの天正十三年閏八月二日には徳川軍七千余りに攻められた。

 たった千二百の手勢で散々な目に合わせて徳川勢を追い返してしまった。

 後に第一次上田合戦と呼ばれる。


 家康に煮え湯を飲ませた昌幸の武勇は秀吉に評価された。

 今では秀吉から信州上田と上州沼田を安堵されている。


 小泉曲輪(こいずみぐるわ)の曲水には源氏蛍が住み着いている。

 真田一族の祖は清和源氏の流れを受けた滋野(しげの)一党(海野、根津、望月の三氏)である。

 源氏蛍を昌幸が喜び、眺めの最も良い部屋を源氏の間と呼んだ。

 昌幸は謀略に長けた猛将には似つかわしくない繊細な感性も持ち合わせていた。


 月の姿を映した池に蛍が飛び交う美しい夏の宵である。


 どう考えても清海がこんな粋な演出をする筈がない。

 清海はさちに相談したのだ。


「わたくしに全てお任せくださいませ。清海様」

 部屋の準備から膳の献立まで奥女中衆と細々と決め、姫自ら宴席の用意を全部してしまった。

「その代わりにわたくしもお仲間に入れてくださいませ。

 お膳運びで宜しいですから」

「姫がお膳運びじゃと。

 いかん、いかん。大殿に知れたら大変ですぞ。

 幸様は目に入れても痛うないと仰せですからな」

 清海が周章狼狽している。

 幸はそんな事などどこ吹く風。

 もう勝手に決め込んでいる。


 源氏の間には九つの膳が車座に構えてあった。

 清海が佐助を案内して中に入ると他の七人はもう着席して待っていた。

 七人の内の四人は昼間の信繁とまったく同じ装いだ。

 信繁が四人いる。

 それも、とびとびに座っている。


 一人が信繁の声色(こわね)で口を切る。

「わしは鳥居峠でお会いした穴山小助(あなやまこすけ)でござる。

 七人衆の、いや今日からは八人衆でござった、まとめ役を仰せつかっておる。

 わしが一番年上でもあり、ウフン、分別があるらしいのでな。

 皆一癖も二癖もあるゆえ、この役も苦労が多い」


 もう一人の信繁がすかさず話を遮った。

「そういう小助様が一番の癖者ゆえ気を付けられよ、猿飛殿」

 小助は素知らぬ顔で続ける。

「今、何やらほざいた偽信繁様は望月六郎(もちづきろくろう)殿と申す。

 素顔は色白で城中一の美男子じゃ。

 それゆえに妻の房江殿の監視が厳しい。

 可哀想にいつも怯えておる。

 城中一の恐妻家でもある。

 その鬱憤ばらしに今のような毒舌が出る。

 まあ大目に見てやって欲しい」


 賄い部屋でクスクスという忍び笑いがしている。

 明るい家風らしい。


「それから吾等は皆、多少だが忍びの心得がござる。

 望月という姓でお判りのように六郎は信濃甲賀氏の名門…」


 小助の話はいつも長いようだ。

 皆勝手に料理に手をつけている。


「今宵は余興がてら三人が若殿の影武者で参った。

 そういえば源氏の池の蝦蟇蛙殿が化けて坊主の袈裟を着ておいで下さっておるようじゃが?

 蝦蟇殿、

 残りの二人の内、本者の若殿はどちらかな?」


 膳の世話をしている奥女中衆にはすでに吹き出す者もいる。

 三好兄弟の名が出るだけで彼女たちは可笑しいらしい。

 幸は三好兄弟に気をつかって吹き出してはいないが、目に涙を溜めて笑いを押し堪えている。

 三好兄弟は一向に気にするでもなく涼しい顔で、

「わからんでか。

 さっきから意味もなく頭を掻いておられるのが若殿じゃ。

 すぐに頭を掻くのが癖じゃからのう。

 源氏の池の蝦蟇は賢いぞ。

 エッヘン」

「蝦蟇にしては上出来。

 若殿も宴席に出て蝦蟇二匹と酒を酌み交わしたい、と申されての」


 源氏の池の蝦蟇も負けてはいない。


「それは上々。

 今宵の蛍は特別のご馳走じゃ。

 姫様ご覧なされ。

 蛍が集いて見事な金雲になっておる。

 わしら兄弟は蝦蟇蛙らしいぞ。

 蛙であればあの蛍を喰わねばなるまい。

 のう伊佐蝦蟇よ」


 伊佐入道の商標は「丸いにこにこ顔」だ。

 清海と蝦蟇の真似をしながら蛙跳びで縁側へ出る。

 にこにこしながら、蛍に向かって口をパクつかせている。


 奥女中衆は笑い転げる。

 普段は厳しい幸の乳母めのとの阿月(あづき)まで吹き出している。


「よし、よし、わしの負けじゃ。

 おぬし達兄弟は悪乗りすると手が付けられん。

 もし蛍を喰われたら大殿から大目玉じゃ。

 これで猿飛殿にもわしの苦労の一端がお解り頂けたであろう」


 三好兄弟はまだ止めない。

 蝦蟇の真似をしながら口をパクパクさせて自分たちの席に戻った。


「吾等はご覧のとおりの坊主でござる。

 人の心の闇に光を灯すのが坊主の役目。

 今宵の蛍のようにな」

 つるりつるりと良く光る坊主頭を清海が幸の前で撫でまわす。


 幸も堪えきれずについに吹き出した。

 小助は気にする様子もなく話を続ける。


「ところでわしは三十二になる。

 吾等は丁度二歳ずつ違う。

 一番下の伊佐蝦蟇が二十歳という訳で年齢(とし)は覚え易い。

 穴山の家は武田家の親族であった。

 わしは穴山梅雪(あなやまばいせつ)の甥じゃ。

 父の信光(のぶみつ)は「三ツ者」二百人の筆頭であった」


 三ツ者とは武田信玄がつくった直属の忍びの集団である。


「わしは幼少より伊賀へ送られた。

 新たな忍びの技を取り入れる為にな。

 ところが十六の時、伊賀は織田の焼き討ちにあい皆殺しにされた。

 本能寺の変の前年であったゆえ、早十六年になる。

 わしはその生き残りじゃ。

 それから甲斐に帰ったが、結局翌年に親兄弟は皆織田に殺された」


 昌幸は長篠の戦いで兄二人を織田、徳川連合軍に殺され真田家の当主となった。

 穴山信光も天目山の戦いで織田信忠(おだのぶただ)に討たれた。


「その後いろいろとあったが、大殿との縁で身寄りのないわしを若殿が拾うて下さった。

 よって、わしは八人衆を実の兄弟のように思うておる。

 八人も兄弟がいると中には馬と鹿がおるがな」

「正確には馬鹿役でござる。

 のう、幸さま。

 渋沢の親父殿がそう申されましたな」


 幸や美人揃いの奥女中衆が接待してくれるので清海は上機嫌だ。

 酒も随分弾んでいる。


「次はもう一人の六郎じゃ」

 小助が紹介する。

海野六郎(うんのろくろう)でござる」

 これもまた信繁そっくりの声色と語り口で饗を盛り上げる。

 信繁に最も似ている。

「という訳で若殿には吾等三人の影武者がおる。

 仮に首を取られても当たる確率は四分の一。

 小助殿の首は何度刎ねられても又生えてくるらしい。

 できれば小助殿を狙って欲しいのが本音でござる。

 わしの専門は土遁じゃ。

 猿飛殿にはいずれ御指南頂きたい」


 幸が珍しく口を挟んだ。


「海野、根津、望月の御三家は真田一族の祖でございます。

 それに六文銭の家紋は海野家より頂いたと聞いております。

 六郎様はもっと表にお出になってご活躍をなさるべきと、沼田の兄上が申されておいででしたが」

「まあ、そういうな、幸。

 顔や背格好が一番六郎が似ておる。

 わしは幼少の頃は病弱であった。

 大殿がお決めになった事じゃ。

 わしにもしもの事があった時は、最も知略に長け、最も品のある六郎に代わりを務めて貰うためにな。

 生まれた年も日も同じであるしの」

 海野六郎は信繁になりきって座を盛り上げる。

「育ちが良く苦労をしておらぬゆえ、ちとのんびりし過ぎてはおる。

 はしかい十蔵はいらいらするらしいがな」


 …明るい。

 境目と言われるこの信濃の狭間で、揉まれに揉まれる六万五千石の小大名。

 謀略と戦いの連続で明日はどうなるかも知れぬのに屈託がない。

 昌幸父子の人柄が察せられる・・・。


「いかん、いかん。幸さまのご紹介が先じゃった」

 今度は地声でゆったりと海野六郎が幸に話を向けた。

「幸さまでござる。

 大殿の末の姫であられる。

 山狩リの折は若侍の装いでお出かけであったので、今宵は猿飛殿も見違えたであろう。

 そのお美しい姫君がどうしてこの宴席のお膳運びをしておられるのか。

 不思議でござるな?」


 幸を微妙にひやかしている。


 どちらの六郎も性格の異なる毒舌家のようだ。

 着物姿の幸は美しい。

 その幸が頬を再びぽっと紅に染める。

 そのしおらしさに姉の志乃の事を思い出した。


 (姉上はどのあたりまで行かれただろうか・・・)


「猿飛さま、お召し上がりですか?」

 明るい声で幸が酒を勧めに来た。

「かたじけない」

 佐助は堂々と盃を受ける。

 幸の手が僅かにふるえている。

 盃に徳利の当たる微かな音がカタカタと聞こえる。


「猿飛は酒もなかなかいけるのう。

 ところで、わし達は猿飛、清海と呼び合う事にした。

 この際、皆の衆も『殿』を付けて呼ぶのは止めようではないか」

 清海が絶妙な救いの手を幸に差し伸べた。


 根津甚八(ねずじんぱち)も低音の渋味のある声で気を効かす。

「そうじゃのう。

 滋野一党の話が姫から出たが、吾等より三好兄弟の方がよほど真田流じゃ。

 三好兄弟でなければ今宵の宴席に姫のお膳運びなど考えられぬ。

 これが良い機会じゃ。

 皆、『殿』を付けるのは止めにしよう」


 相当に皆気が合うらしい。

 いちいち同意を確認もしない。


「わしは熊野の九鬼水軍で修行をした。

 海や川の事なら任せてくれ。

 川も良いが海もいいぞ。

 専門は水遁じゃ。猿飛」


 甚八は顔も渋い。

 渋い顔と声の割には単刀直入で打ち解けている。

 佐助は海水に触れた事がまだない。

 (海か・・・)


「甚八はな、わしより二つ上だ。

 見た通り渋い男だ。

 ところが愛妻家でな。

 おあさ殿をそれは大切にしておる。

 真田では若殿の兄君の信幸様を筆頭に大半が奥方の尻に敷かれておる。

 だが甚八はな、真田では珍しい亭主関白でもある。

 それにな。

 生まれてからまだ一度も笑った事がないらしい…」


 背丈は一番小さく、早口だ。


「わしは筧十蔵(かけいじゅぞう)

 火遁の術が専門じゃ。

 気が短いし、すぐ(はじ)けると言われておる。

 見たところ、猿飛ははわしの上を行くと見た。

 うまくごまかしておるが相当に気は激しそうじゃ。

 本当はわしと同類であろう。

 あまり無理をせん方が良いぞ。

 いずれにせよ、おぬしとは気が合いそうじゃ。

 明日からが楽しみじゃ」


 こうして清海と幸のおかげで宴は愉快に和やかに運んだ。

 信繁は微笑みを絶やさず楽しそうに酒を飲んでいる。


 その目がちらっと天井に向く。

 途端に天井でゴトゴトと大きな音がした。


「天井裏で大きな鼠が慌てておるわい。

 猿飛の土産は鼠にもなるようじゃ。

 ガッハッハッハッ!」

 伊佐は笑い方まで清海とそっくりだ。

「そう言えば猿飛。

 その鼠殿の右の尻に見事な五弁の花の痣があるそうな。

 身体を洗ってやったお女中が言っておったぞ。

 いくら洗っても汚れが取れぬと思ったら痣だったらしい。

 入れ墨のようにはっきりとした花模様じゃと」


 佐助の顔色が一瞬だけ変わった。


「猿飛、おぬしの土産をわしが貰いたい」

 小助の一言に座が静まった。


「わしの養子にしたい。

 どうやら伊賀とも縁があリそうじゃ。

 わしと同じ孤児のようだしな。

 雪乃も喜ぶだろう。

 無論、あの子の気持ちが一番だが…」

 雪乃は三つ歳下の気立ての良い愛妻だ。

 傍目に見ても大事にし過ぎると思えるほど、苦労人の小助は雪乃を大切にしている。

 だが子に恵まれない。


 …「かわいがり過ぎじゃ」

 毒舌の望月六郎はこう言って慰めている。


 小助がおずおずと、

「どうじゃ、猿飛」

「わしは有り難い話であると思うが。

 まだ、あの子と一言も口を利いておらぬゆえ」

「そうか。ではこの件、わしに任せてくれるか」

「お任せ致す」


「めでたい、めでたい。

 養子縁組が今宵の宴で一組誕生するかもしれん。

 結構、結構」

 清海が無邪気に喜んでいる。



 本物の信繁がやっと口を開いた。

「良い酒であった。

 お女中衆、馳走に与り美味しゅうござった。

 良き思い出となろう。

 善き酒、善き友、善き人生じゃ。

 これからも吾等九人、天下の為に力を合わせようではないか。

 それではお開きとしよう」


 お女中衆に混じって三好兄弟が後片付けをしている。

 幸の好意に兄弟なりの不器用さで報いようとしているのがいじらしい。


「武士ともあろうお方がおやめくださいませ。

 どうかわたくし供にお任せを」

 という阿月の気遣いに、

「いや、わしは武士ではない。坊主じゃ」

「お腰に二本の刀を差し十八貫(68kg)もの鉄棒を振り回す。

 そんなお坊様でございますか」

「確かにそうではある。

 あの源氏蛍のように、難しい事を言うでもなく、頭でも尻でも良い。

 この闇の世にただ精一杯の燈あかりを灯したいだけじゃ」


 外に目をやる。


「凄い金雲じゃぞ。

 わしはこんな蛍の集まりを見るのは生まれて初めてじゃ。

 幸さま、幸さま、ご覧あれ」

「まるで天の川みたい」


 そこにはますます蛍が集まってどんどん豊かな金雲となっていく。

 その金雲の中から大きな灯ともしびを持った蛍が飛び出してきて幸の胸に留まった。


「まあ、嬉しい」

 幸の顔が一段と輝いた。



 …その夜。

 佐助は心地よい眠りに入ろうとしていた。

 深山で育った佐助に初めて人としての友が与えられた日であった。



 …まだ名も知らぬ少年は何事もなかったかのように佐助の横でスースーと寝息を立てている。



皆様の感想をお聞かせください。お待ちいたしております。その他 気が付いた点、誤字等ございましたらお願いいたします。

5丈(15m)

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