『こんにちは、ノムーラはん』外伝~とほほ、嫌われる
「こんにちは、ノムーラはん。あれ、その子ら?」
「モルーカスはん、こんにちは。社会科見学やがな。職場体験やて」
「ふーん。引率の先生は? え、いない? よそのグループ見てはんのか」
「そなんや。おいこら、クソガキども。ちゃんとあいさつせんかい!」
「こんちゃ~」
「ちょ~~す」
「ハーイ! ハイハイ」
「てへ。よー」
「はい、こんにちは。なんかノムーラはん、軽う見られてますな」
「そうやねん。わてが嫌われモンやからいうて、見下してるんや」
「嫌われモンて、見かけでわかりまっか。あ、わかるか」
「ちゃう。見かけちゃう。この人出のせいや」
「そういや、きょうは出店もでてまんな。あ、そか。秋祭りや」
「せや。ほこら参りで、このにぎわいやねん」
「ええやないですか。お子たちも楽しく社会見学できますやろ」
「けどな、どついてくヤツおるんやでぇ。わてを」
「へ? 参拝者がでっか」
「そうなんや。わてのことわかると、すれちがいざま」
ゴツン! 「天誅!」
「痛っ! ゴルアッ! こら待てぇええ」
「ノムーラはん! そんな追っかけても。あ、戻ってきはった」
「見失ってもた。な、朝からずっとドツかれどおしなんや」
「あ、こいつ、ノムーラだ」
「この空売り外道が!」
「またや。やめい。こら! 暴力はんたい!」
「あんたら、やめなはれ。手ぇ出しても痛いだけでっせ」
「お、モルーカスもいるぜ!」
「やっちまえ! 日ごろの恨み晴らしてやる!」
「痛! こらっ! やめんか」
「おーい、監視員! この人ら、捕まえて。あ、逃げよった」
「待たんか! ひきょうものがああ!」
「ひどいでんな。ま、わてらも空売りで、たいがいやけど」
「欲深の逆恨みやん。こんな調子やから、きょうは商売ならん」
「アルゴとロボが働いてますやろ。てか、任せきりで」
「せやねん。空売ってるのアルゴとロボやん。それを、わてのせいに」
「AIに文句言うてもしょうがおへんやろ。せやから」
「わてが身代わりになって、一身に引き受けるんかい」
「おっちゃんら、ホンマ、嫌われモンなんやな」
「こんな仕事、ようしてるな」
「ぼくら、イヤやで、こんなん」
「わたし、帰りたい。こんなとこ」
「ちょちょ待ちいな。みんな、とにかくそこに座って見学な」
「見学て。おっちゃん、ロボに油差すか、タブレット見てるだけやん」
「そうや。こんなん、なんの社会勉強にもならん」
「時間のムダやわ。早よ、学校帰りたい」
「ぐぬぬぬ。言わせておけば、このクソガキども!」
「ノムーラはん、やめなはれ。子ども相手に怒ったら負けでっせ」
「それでもモルーカスはん。うう、わて口惜しい」
「泣きなはんな。せや。株の講義でもしたらどないだす」
「え。あ、そやな。株のレッスンな。え~、こほん。かかかか株かかか」
「わてがやりまひょか。株いうもんは安いとき買って高なったら売ります」
「みな知ってることやけど、なかなか実践できん。せやから、わてら」
ゴツン!
「痛っ! ほんま腹立つ。実践できんやつが、こうやって人を恨むんや」
「『頭と尻尾はくれてやれ』、この精神が株取引にはだいじです」
「頭でわかっててもなかなか欲には勝てんのや。だからこないして」
ゴツン!
「痛っ! ええかげんにせえよ。待て! こら」
「ノムーラはん、癇癪起こしたらあきまへん。お子たちの前でっせ」
「わかってるて。けどな、逆恨みもほどほどにしてほしわ」
「投資は国策です。欧米では投資を教育の場で広く国民に教えています」
「ま、そやな。けど、日本では、とほほや」
「日本では株を始めとする投資を、教えるどころか蔑んでさえいたのです」
「株屋ちゅうだけで白い目で見られるんや。つらいでぇ」
「株に手を出した、株で身を滅ぼす、・・株は怪しい世界の代名詞です」
「堅気の衆からは疎まれる。お金の欲、むき出しの世界で下品なんやろな」
「日本ではそうでも欧米ではちがいます。美徳の価値観が異なるのです」
「株屋はしょせん、欲と煩悩に苛まれて地獄に落ちる亡者なんや」
「しかし株は、方法次第でみなさんの未来を支える資産にもなるのです」
「せや。ガキの時分から株に慣れ親しんでやな、て。あれ」
「だれもおりまへんな」
「ちょち眼ぇ離したスキに。どこ行きおった」
「ワァワワワーギギャギググォグ!アレェマァアアア」
「なんや。ロボの声や。おい、どないした、ロボ。わ」
「あ。お子たち、いけまへん。みなはん、降りなはれ」
「腕にぶら下がるんやない! もげるがな」
「はい、降りまひょ降りまひょ。ええ子やから、はいはい」
ピッピー! グワグワ! ゲロゲロピー!
「こら! アルゴ触ったらアカン! それアカン。ボタン押すなや!」
ポイポイププププィイイ ヘ! 買イ買イ買イ買イイイイイイ
「わ。買い転換になってもた。いかんアカンやかん。『売リ』どれや」
「あ、ノムーラはん。それ『解体』スイッチでっせ」
「え、なんやて。『買いたい』スイッチて。あ、押してもた」
ボン! バラバラバラッ ドッシャン! カランコロン
「わ、なんや! バラバラになってもうた!」
「せやから! それ『解体』スイッチですわ」
「え? バラすやつかい。なんでこんなスイッチが」
「どこのアルゴにもおまっせ。機密保持のためやそうです」
「たく。これやからAIがらみは心臓にわるい」
「お子たち、びっくりしてどっか行ってしまいましたな」
「ほっときゃ戻ってくるわ。ここ集合場所やから」
「どうしなはる。アルゴ壊れてもうて。ロボに売買ぜんぶやらせまっか」
「ええわ。久しぶりにわてがやる。タブレットででけるもんな」
「血がさわぎまんな。わてもずいぶん売買やってまへん」
「わてら疎外されてるもんな。こんな商売、たしかに魅力なんてあらへん」
「お子たちが疎んじるのも子ども特有の直感かもしれまへんな」
「はーあ、口惜しいな。子どもらの教育頼むでぇて上から言われたのに」
「相手にもしてもらえまへんな。ちゃっかりやから、今時分の子は」
「子どもにもバカにされて。見知らぬ通行人にもバカにされて」
ゴツン!
「痛っ! ええかげんにせえよ! ゴルア!!」
「そや。ノムーラはん。お子たちの気ぃ引くにはヒーローでっせ」
「え。ヒーローて。おっさんがヒーローかい。ライトノベルの世界やな」
「せやのうて、ドラゴンボールみたいにバトルするんだす」
「ドッカンバトルかい。天下一武道会でもやるんかぁ。ええけど」
「ノムーラはん、武闘派でっさかいな。けど、株でやるんだす」
「株で? どないすんの」
「手作業のアナログで、ここの板で売買して勝ち負け競うんだす」
「へ? 大引けまでで争うんかい。面白そうやないか」
「わてが実況しますわ。現場中継でんな」
「でも、参加者おるんかい。みなAIのアルゴがやってるやないか」
「そんなん、こうすりゃええんだす。ちょちょい、ちょちょと」
「あ、それさっきの『解体』ボタンやん。わ。そんな、押しまくって」
「こらぁああ。だれじゃああ! うちのアルゴに!」
「たわけ。バラバラだがや。取り引き、できーへん」
「なんばしよるとね! アルゴ、すったりたい。ぐらぐらこく」
「なんしょん。わやくそやんけ。ぶちまわすど」
「アルゴかいだ! いぐね! かちゃくちゃね!」
「これで、どの機関もアナログ売買しかありまへんでぇ」
「モルーカスはん。あんた、過激やな」
「このくらいのこと。どうっちゅうことありまへんがな」
「あんたもやっぱ、極悪非道の空売り機関の血筋やな」
「そんなホメんといて。くすぐったい。さ、始めまひょか」
「わてスタンバイできてるで。ほかのメンツ待ちや」
「では。コホン」
お待たせいたしました! レディース&ジェントルマン!
老若男女あまねく集う株板で、栄冠を手にするのは誰か
これからの午後のひととき、大引けまでのデイトレを
昔ながらのカチャキー、アナログ売買で競う
天下一株武道会の開催を、ここに宣言します!
はい。始め!
「株武道会だと? おもしれえ! やってやろうじゃねえか!」
「とろくさい! わしが勝つに決まっとるわ」
「ほんなこつ、せからしか! 負けんとよ」
「ばり売買すっぞー。きばるでぇ!」
「そったらごと、おじょすいのぉ。したばて、けっぱる!」
さあ、始まりました。株板ザラ場でなんと始めての天下一株武道会!
三分足、五分足みだれるチャートに
さらに日足の五日線、二十五日線もにらみながら
各機関、昔ながらの手動売買でキーボードを叩いています。
「おや。なんか、e-スポーツみたいなことやってる」
「お。投資機関がそろい踏みかい」
「これはおもしろい。おれも参加したろ」
「スマホでできるな。よし、おれも」
「わたしも」
「どれ、わしも」
おっと、これは! ほこら参拝客の飛び入り参戦です。
あちらこちらでかってにバトルが始まっています。
「5日線での攻防かな。うーん」
「MACDがゴールデンクロス!」
「それ、ダマシじゃね」
「ボリンジャーバンドではこの値幅は」
「一目均衡表の雲がですね」
各人それぞれ得意な指標を持ち寄って分析です。
眼にも指にも力がこめられ、ますます取引にのめり込んでいます。
「PERどうなってる」
「時価総額、そろそろヤバいかも」
「買っても買っても売りがしつこいな」
「アイスバーグ注文だろ。捌いてんじゃね」
「いや、集めてるんじゃねぇか」
個人投資家はいつもの疑心暗鬼に戦々恐々です。
かたや機関の面々は虎視眈々と個人を標的にしています。
「あ、また、買い板で1000株消えたぜ」
「クソ機関の仕業だ! また見せ玉つかいやがって」
「きたねえぞ。正々堂々とやれんのか」
「やべ。これ、首吊り線じゃね」
「げ。買っちまったわ~ ぎゃああああ!」
え~、機関には各機関の、個人には各個人の、それぞれやり方というものがございまして、買ったままじっと待ったり、売ったまま買い戻しの機会をうかがったり、買うかと思えば売り、売るかと思えば買ったりの、探り合い、だまし合いのこの世界に、おなじみの人物の素っ頓狂な声が響くと、お噺の幕が開くわけでございます。
「おい、八っつぁん。売りなよ」
「なんでぇ熊公。てめぇこそさっさと買いやがれ」
「だから、売りなよ。買ってやるから」
「なに言ってやがる。買え! 買ったら売ってやらぁ」
などと訳のわからない会話も株の世界ならではのこと。当人たちはけっしてふざけてなどおりません。大まじめです。真剣です。二人のただならぬ気配に、通りがかりの与太郎、三ちゃん、よっちゃん、大家さん、おかみさん、若旦那といった長屋の顔なじみが土間に集まります。みな、息を潜めて歩み値に集中するあまり、後ろからがぶりと六助が金公の頭をかじりました。
「痛ぇ! なにしやがんでぇ!」
スアレスかーい、などというサカオタのツッコミは措いといて、「売れ」「いいや買え」「売れやぁ」「買えやぁ」の押し問答はつづき、一同その成り行きを固唾を呑んで見守っております。そこへ、ひょっこりと現れましたのは一人の商人。小さく控えめに結いあげた髷、こざっぱりとした羽織に、ちょいと腰を引き、揉み手が似合いそうな、まさにナニワのあきんどといった風情です。
「あんさんら、なにしてまんの。同時に出しはったらどうだす」
「イヤだよ。こんな安値で売ってたまるか」
「おれっちだって、こんな高値で買うなんて真っ平でぃ!」
「困りましたな。では、こうしましょう。手前が両方預かりましょう」
「ふん。それで高値で売ってくれるってえのかい」
「ほお。安く仕入れてくれるのかい」
「はいはい。株とお金をお預かりしてガッポリと」
「稼がせてくれるってえのかい。けっこうな話じゃねえか。じゃ、ほい」
「それなら、おれも。ほい」
「へ、たしかに。これ、証文だす。ほな」
ナニワのあきんどは、手にした巾着についと株と金子をしまい込み、腰をかがめて挨拶するや立ち去りました。長屋の一同、それを見送り、顔を見合わせまして一挙両得とはうまい話があったものだと感心しておりますと、岡っ引きの梅吉が顔を出します。
「ちょっくら、ごめんよ。こんなやつ見なかったかい」
梅吉が手にした手配書の人相書きを見て、みな、あ、と息をのみました。それもそのはず、さきほどのナニワのあきんどではありませんか。大家さんがあわてて手配書を読み上げます。
名 ノムーラ
身の丈 五尺八寸 上方ことばを使い のっぺりした目鼻立ち 眉細く短い 顎丸く突出 色白小太り 小綺麗な身なりに腰ひくく 商人面
右の者 極悪非道の大悪人なり 株騒ぎの仲裁を買って出ては 双方に儲けを約束して詐取するものなり 見届けたる者 番所又は奉行所に訴えたるもの 捕縛したるものには奉行より褒美として金六百文あたえる者也
南町奉行所
「なんだって!」
「あのやろう!」
言うが早いか、一同往来へ飛び出ていきます。江戸の町はお盆でひっそりとした賑わいを見せていましたが、もはや、ナニワのあきんどの姿はそこらには見あたりませんでした。その後、長屋の衆総出で探しましたが、あきんどの行方は杳として知れません。まことに人の世というものはいつの時代も頼み甲斐のないものでありまして、さて
「ちょちょ、モルーカスはん。なにしてんの。落語なってるでぇ」
「わかってまんがな。ちょっと奇をてらってみたんだす。さて」
機関と個人入り乱れての天下一株武道会でありますが、組んずほぐれつ、悲喜交々《こもごも》、欲望に操られ、思惑に引きずられ、売ったり買ったりを繰り返すうち、おやおや、なんだか様相が怪しくなってまいりました。
「また売ってきやがった! 空売りバカ機関め! 」
「よーし、どんどん買ってちょ。個人は養分、養分。がはははは」
同じ板情報でも機関と個人、それぞれの受けとり方はまるでちがいます。ただ、それぞれ共通の傾向があるのか、いままさに、機関は機関同士、個人は個人同士で固まりはじめました。徒党を組むようです。
「団結して機関に立ち向かおうじゃないか!」
「そうだ。ひとり一人じゃムリでも力を合わせれば」
「ふん。お気楽個人なんか、ひとひねりだで」
「いらんことしよる。なんなら~ワシらでしばいちゃるけ~の」
天下一株武道会もどこへやら、いつものように個人対機関という鉄板の構図になってまいりました。一触即発のアブない気配がただよっております。
「やるか!」
「たわけ!」
仁義なきバトルはヒートアップしてまいりました。もはや手が出ないなどということは、この状況ではありえません。
「この!」
「痛っ! ぱーぷーが!」
はい、手が出ました。手どころか、イスが飛ぶ、キーボードが飛ぶ、モニターが飛ぶ、タブレットもPCも飛んでおります。さすがにスマホをブン投げるモンはいないようですが。
「わ。危ない! だれや! 黒電話投げたの。いまどき黒電話て。たく」
「手当たり次第にモノ投げるなや。痛っ!」
「蹴りの一撃くらえ!」
「堅竜拳、必殺の舞じゃ!」
わたくし、実況中継を仰せつかっておるのですが、えー、この状況をどのようにお伝えすればよろしいのでしょう。いまや、ただ土煙がぼーと巻き上がっておるのが見えるだけです。真実はこの土煙のなかにあるのでしょうが、いかんせん、見えません。わたくしの想像で恐縮ですが、煙のなかではおそらく死闘が、株の高安にかんけいなく、積もり積もった私怨が炸裂しているのでありましょう。
「ぎゃあああああ」
「ぐわわわわわわ」
聞き慣れた絶叫も聞こえてまいりました。そろそろお開きになるころかと存じます。あ、煙のなかから、あれは。人の手が出てまいりました。
「ぬぅぬぬぬぅぬぬぬぬ」
その手は力なくけいれんし、凄惨を極める現場に断末魔の呻き声が響きわたります。その声がしだいに間遠になってきました。
しーーーーーん
静寂が板に染みわたります。聞こえるのは気配値を知らせるパタパタという表示板の音だけです。ほこらからひゅうううと風が吹いてまいりました。その風が砂ぼこりを払いはじめます。
さらさらさらさら~
じっと横たわって身じろぎさえしない体が、いくつも重なって山となっています。ああ、この惨劇のありさまをどのようにお伝えしたらよいのでしょう。欲望と陰謀が支配する修羅場に、きな臭い煙が漂っています。
「う、うう、うううう」
おや。山の一角で動きがあります。人が這い出て来ました。あ。あれは。
「もももモルーカスはん、わてや。ちょっと。助けて」
なんと、ノムーラです。ビリビリに裂けた背広を引きずりながら、人の山から這いずり出てきました。顔はぼこぼこで見る影もありませんが、細く短い眉に、丸く突き出た顎の特徴は、まちがいありません、たしかにノムーラです。さすが武闘派を自認するだけのことはあります。丈夫です。
「実況はもうええから、モルーカスはん。早よ助けて。足が抜けん」
「へ、お待ち。よいしょと。持ち上げてまっさかい、出ておくれやす」
「うーん! えい! や! ほ」
「エラい目にあわはったな。立てまっか」
「あかん。救急車来るやろ。こないして待ってるわ。あ、ガキども」
「おっちゃんら、なにしてんの。なんや、これ」
「ケガ人の山やんか。テロでもあったん?」
「ぼくら、だからイヤや言うたんや。株板なんて」
「わたし、早う帰りたい。先生ら、まだ?」
「うう。子どもには見せたくない光景でんな。どないします」
「うーん。あ。せや。みな。わて、勝ったんやでぇ。天下一株武道会に」
「ええ~。そんなボロカスなって、勝った言われても。なぁ」
「せやわ。ホンマに勝ったん? おっちゃん、立たれへんやん」
「た、たた立てるでぇええ。ほりゃあああ」
「ノムーラはん、ムリでっせ。キズに障りまんがな。ここは安静に」
「けど、ガキどもに、わてがヒーローやいうとこ見せたらな」
「そんな体では、あ。あれ。ほこらからなんぞ出まっせ。なんか声が」
「あ、ここに居やがったぜ、おーい、みんな! こっちだ」
「このやろう! こんなとこに逃げ込みやがって! 観念しやがれ」
「太えやろうだ! おれっちの株とこいつの金、返しやがれ」
「かまうこたあねえや。ふん縛って簀巻きにしてやろうぜ!」
「あかん! ノムーラはん! 早よ逃げなはれ」
「なんやねん、こいつら。ちょんまげて。江戸村から来たんかい」
「これ、さっきの長屋の衆でっせ。問答無用やから逃げるしかありまへん」
「えええ。なんで? おかしいやろ! あんたのエセ落語のヤツらが」
「さ、立って。走るんだす。まっすぐ逃げなはれや~」
「くくくくっそおおおおお。なんでやね~ん!」
「待てえええ~!」
「待ちやがれええええー!」
「行かはった。ちゃんと逃げれるとええなあ」
「おっちゃん。あの人ら、なんや?」
「ほんまに江戸の人たちか」
「せやで。ノムーラはんはな、時代を超えて嫌われてはるんや」
了