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落花流水、掬うは散華―歴史に名を残さなかった新選組隊士は、未来から来た少女だった―  作者: ゆーちゃ
【 花の章 】―弐―

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224 藤堂さんと雪遊び

 一月の中旬。

 ここ数日やたらと寒く、時折雪までちらついている。

 そんな中で迎えた今日の非番は、朝から世界が白く覆われていた。

 そして、夜通し降り続いたらしい雪は、今もなお白を積み上げている。


 冬は寒いから苦手だけれど、雪の日だけは特別。

 朝餉を終えると、白い息を振り切りさっそく境内へ出る。柔らかな新雪を踏みしめたあとでそっと手を伸ばせば、ふわりと優しく舞い落ちた。


「春?」


 不意の呼びかけに振り向けば、そこに立っていたのは藤堂さんだった。


「何してるの? こんな寒いのに」

「えーっと……ちょっとだけ遊んでました」


 不思議がる藤堂さんに、雪の日は意外と平気なのだと告げれば笑われた。


「アンタらしいね。じゃあさ、これから壬生寺まで行くんだけど、一緒に行かない?」


 今日中の用事を頼まれているのだという。

 特に予定もないので快諾すれば、嬉しそうな笑顔が返ってくる。

 支度をするべく一度別れると、外廊下を進む途中で背中を丸め腕をさすって歩く沖田さんに会った。

 正面に立つなり、腕を解いて片手を私の頭へと伸ばしてくる。


「さっそく、雪遊びでもしてたんですか〜?」


 からかうように言いながら、前髪に積もっていたらしい雪を払ってくれるけれど、私を見下ろすその眼差しは、子供たちへ向けるそれに似ている……。

 もしかして、子供っぽいと思われた……?


「あっ、そうだ! これから藤堂さんと壬生寺へ行くんですが、子供たちも遊びに来てそうですし、良かったら沖田さんも一緒に行きませんか?」


 この寒い中行くのは、実は私も遊ぶ気満々だからだったりする。それに、沖田さんが一緒なら子供たちも喜ぶに違いない。

 子供たちの嬉しそうな顔を想像して思わず頬が緩むも、沖田さんはどこか寂しげな表情で、視線を白く染まった境内へと向けた。


「残念ですが、今日は溜まっている書き物をします。そろそろ土方さんの催促をかわしきれなくなってきたんですよね〜」

「な、なるほど……」


 きっと、のらりくらりと遅らせて来たのだろう。沖田さんらしいといえば沖田さんらしいけれど。

 残念な気持ちを抑え、書き物が捗るよう応援をしてその場をあとにすれば、数歩進んだ先で呼び止められた。


「僕の分も楽しんできてください」

「はいっ! 沖田さんも、次は一緒に行きましょう!」


 返事の代わりなのか、ニッコリと微笑み返してくれるのだった。




 ふわりと軽い雪が舞い散る中、藤堂さんと並んで歩く。

 沖田さんとのやり取りを話せば、藤堂さんは僅かに首を傾げた。


「二、三日前に土方さんが、“総司の奴がやっと書き終えた”みたいなことを言ってた気がするんだよね」

「そうなんですか?」


 それからまた貯めていたとしても、たったの数日分? それとも、頼まれた量が多かったのだろうか。

 今度は私が首を傾げれば、抜けがあったか、急ぎのものを頼まれたのかもしれないね、と言う。


「あの総司さんが誘いを蹴ってまで仕事するなんて、かなり珍しいしね」

「確かに……」


 きっと、よっぽど急ぎのものなのだろう。




 壬生寺につくと、予想通りたくさんの子供たちで賑わっていた。

 用事を済ませてくる、と本殿へ向かう藤堂さんを見送り子供たちのもとへ向かえば、私の姿に気づいた子から一人二人と駆け寄ってくるけれど、その内の一人がしょんぼりと肩を落とした。


「総司兄ちゃん、今日も来いひんの〜?」

「ごめんね。今日はお仕事忙しいみたい」


 次は連れてくるね、と告げるも、子供たちは一斉に沖田さんの名前を口にする。


「総司兄ちゃんも“今度”ばっかり言うて、全然遊んでくれへん」

「なんで総司兄ちゃんばっかり、ずっとせわしないの〜?」

「うちらのこと、嫌いになってもうたん?」

「え……ちょ、ちょっと待って。どういうこと?」


 不満や不安を口にする子供たちから詳しく話を訊けば、沖田さんを見かけるたびにいつものように遊びに誘うも、毎回“忙しい”や“用がある”を理由に去ってしまうらしい。

 だから、もう二ヶ月近くも一緒には遊んでいないのだと……。


 思い起こせば、確かに最近は“子供たちのところへ遊びに行こう”と誘われていない。

 子供たちが言うほど沖田さんばかりが忙しかったわけでもないし、何より、あんなに子供たちと楽しそうに遊んでいた沖田さんが、突然、子供たちを嫌いになっただなんて思えない。


 理由を探して考え込むも、不安を浮かべた小さな顔が覗き込んでいることに気づき、慌てて口を開いた。


「えっと……ごめんね。沖田さんは副長助勤と言って他の隊士たちよりも偉いから、ちょっとだけ忙しんだ」

「春兄ちゃんもふくちょーじょきんかて、前に総司兄ちゃんが言うとったで? そやのに、春兄ちゃんは暇なん?」

「そ、そうだね。沖田さんはそれだけ凄いってことかな? あはは」

「ほな、春兄ちゃんも総司兄ちゃんを見習わなね?」

「……はい」


 小さな子供にお説教をされるも、すぐに手を引かれ雪遊びの開始となった。

 雪玉を投げ合う“雪投げ”で盛り上がっていれば、用事を終えたという藤堂さんも加わった。


「春、覚悟っ!」


 こんなところでも藤堂さんは負けたくないらしく、かなり本気で投げてくる。


「残念、そう簡単には当たりませんよ!」


 藤堂さんの豪速球はかなり良いところを狙ってくるけれど、避けるだけなら意外と簡単。避けるだけならば……。

 隙を縫って反撃するもなかなか当てることが出来ず、いつまでたっても決着がつかない雪投げは、想像以上に白熱した戦いとなった。

 そして気づく。子供たちが遠巻きに見ていることに……。

 ……って、子供たちをほったらかして、いい大人が遊んでいるってどういうこと!?


 双方納得のうえで引き分けとすれば、次はみんなで雪うさぎや雪まろげを作ることにした。

 ふと、斎藤さんの作った“雪達磨”を思い出すけれど、やっぱり雪玉を二つくっつけた、お馴染みの雪だるまの方が子供ウケするに決まっている。


 子供たちの作った雪まろげを二つ拝借して、大きい方に小さいのを乗せてみた。

 落ちていた枯れ枝を二つに折って両側からさせば、可愛い雪だるまの出来上がり!


「じゃじゃーん!」


 子供たちの注目を集めるべく、両腕を伸ばして視線を促す。

 案の定、みんなきょとんとしているけけれど、そんな反応は予想済み。


「これもね、雪だるまなんだよ」

「えー。雪まろげを乗っけて枝をさしただけやん」


 いや、まぁ、間違ってはいないけれどね?

 その反応はちょっと予想外だよ?


「で、でもさ。こっちの雪だるまの方が可愛いでしょ?」

「だるまちゃうし……これじゃ雪()()やん」

「手ぇ生えてるなんて怖い……」


 こ、怖いですと!?

 どう見ても、例の雪達磨の方が怖いと思うのに、なぜなんだー!?


 思いもよらない言葉にショックを受けていると、踞る私の頭を藤堂さんがポンポンと撫でた。

 慰めなどいらぬ! と見上げるも、藤堂さんの顔は必死に笑いを堪えている。


「アンタってホント……面白ッ」


 堪えきれず吹き出した藤堂さんは、私と雪だるまを交互に見ては大笑いするのだった。




 ひとしきり遊んでから、子供たちに別れを告げて壬生寺をあとにした。

 他愛もない会話の途中、藤堂さんが思い出したように訊いてきた。


「春は明日行くの?」

「明日?」

「伊東さんたちを見送る宴席」

「あー……」


 明日、伊東さんと新井忠雄さんが九州へ出張する。その旅の無事を願い、出発直前に島原で宴席を設けるらしい。

 九州出張は伊東さんの独断ではなく新選組の仕事としてだけれど、何だかなぁ……と思ってしまう。


 新年早々伊東さんと飲んで謹慎処分になったばかりだし、今回はすでに断ってあることを告げれば、参加するらしい藤堂さんが少し残念そうな顔をした。

 しゅんとした子犬のようなその眼差しは……何だかいたたまれなくなる!


「そ、そういえば、九州って何で()なんですかね?」


 福岡、佐賀、長崎、大分、熊本、宮崎、鹿児島、何度数えても七つしかない。

 沖縄をいれたとしても八つ……。


 そんなことも知らないの? と言いたげな目が、哀れみを含むのに時間はかからなかった。

 大八車に轢かれて記憶がぶっ飛んだ設定……時々グサッと刺さるのだけれども!?


 どうやら筑前(ちくぜん)筑後(ちくご)豊前(ぶぜん)豊後(ぶんご)肥前(ひぜん)肥後(ひご)日向(ひゅうが)薩摩(さつま)大隅(おおすみ)の九つの国があるかららしい。

 よく考えたら、廃藩置県はまだだった! とスッキリする横で藤堂さんが笑い出す。


「春と一緒にいると、ホント笑いが絶えないね」


 笑わせるつもりは毛頭ないのだけれど……反論すればするほど笑われてしまう。

 アンタってホント面白い。そう言ってひとしきり笑った藤堂さんは、涙で滲んだ目尻を指で拭うのだった。

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落花流水、掬うは散華 ―閑話集―(10月31日更新)

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