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に。

台風は大丈夫でしょうか。お気をつけ下さいませ。


「陛下に気に入られたようですな」

「なんのことでしょう? 誤解もいいところですわね」


 次の日、スフェナに無理矢理放り出された庭園で宰相閣下に声をかけられた。なんなのこのエンカウントの高さ。望んでないのに。


「女狐の本性に気づいたとか」


 宰相服の長い裾を捌いて立つ姿は、確かに美形だけどどこか冷たい印象が消えないのよね。金髪碧眼なんて王子様みたいな容姿なのに。


「誰でも気づくでしょう、あの演技力のなさでは」

「四人の中では貴女だけだそうですが」

「……まさかと思いますが、陛下の個人訪問はそれぞれに?」

「回転の早さもよろしいようで」

「なぜ、とお聞きしても?」

「それは陛下にお聞きになられるといいでしょう」

「いえ、結構です」


 即答したら、ニヤリと笑われた。嫌味なやつじゃなくて、さらっとした爽やかな感じ。この人、こんな笑い方もするのね。


「……なるほど。面白い」


 私は面白くないわ。



 そして、結構だと断ったはずなのに、どうしてまたいるのかしらこの男。今度こそ罠しかけてもいいわよね、スフェナ?


「早い話が、レリはここを乙女ゲームだと思ってるってことだ」


 来るなりの爆弾投下もどうかと思うわ。どいつもこいつも乙女ゲームだのギャルゲーだの。ここは現実だっての、バカなのアホなの死にたいの?


「他の側室候補達もそう。で、男共はギャルゲーだと思ってる」


 阿呆の巣だと。笑えないわー。


「他の奴らはまだましなんだが、レリとあの側室候補達は本気らしくてな、隔離の意味もあっての処置なんだが、レリの暴走が止まらなくてなー、宰相も騎士団団長も魔法師団長も迷惑してる。てかいつ攻撃されて存在ごと抹殺されてもおかしくない」


 騎士団団長ってあの愛妻家で有名な? 魔法師団長も婚約者を溺愛してるのは、知らない人はいない話なんだけど。ちなみに大根さんが現れる前は、陛下(受け)と宰相閣下(攻め)で腐った方々の笑いが止まらなかったそうよ。


「だから最近は後宮に閉じ込めてるんだが、どうにも王妃になって逆ハーレム築く私、を諦めてないらしくてな」

「庶民が王妃……ありえないわぁ」

「だろう? 夢物語か妄想乙だよな。あんなの王籍に入れたら王族の血が途絶えるわ」

「で? 私になにをさせたいの?」


 聞いた限り、陛下も転生者で間違いないし、現実をちゃんと見てるみたいだし、ただひとりじゃできなくて二の足を踏んでたっぽい。なぜかはわからないけど、私を巻き込むことは確定らしい。悪あがきをして体力消耗の後にやっぱり巻き込まれるなら、早いうちに巻き込まれておいた方が疲れないもの。


 私が受け入れたことに気づいた陛下は、屈託なく笑った。あらやだ、トキメクー。


「うん。あのなーー」





 あれから、陛下とは前世の話や私の実家の領地の話なんかで盛り上がったわ。前世の世代や年代が被っていたこともあって、友人のような関係になったし。


 この世界のことも色々話し合ったわ。転生者や落ち人が異様に多い理由を、学者が研究してるらしいのだけど、私達は簡潔に答えをまとめたの。


 あるゲーム会社から出ている、乙女ゲーやらギャルゲー、RPGやらなにやらかにやらは全て、同じ異世界を主軸としていたから。


 面倒だったのか壮大な計画があったのかは謎だけど、いくつもあったゲームの世界はみんなここだった。国とか年代とか場所とかは違ったけど。


 そんなことを話し合うために、てか認識の擦り寄せよねあれ。まぁ、そんな感じで警戒心を解いていったわけだけど。


 こっそりと会う方が多かったけど、側室候補達とする昼のお茶会では隣を許されたし、会話も弾んでいた(とても親しげに見えたらしい)ことで、側室候補達の怒りを買ったのは間違いないわ。


 その日から、陛下からだという贈り物全てが嫌がらせになった。受けとりも開封も騎士のジルが率先してやってくれたから、私達がそれを見ることはなかったけど、たまたま見た女騎士のコラットが顔色を真っ白にしていたから、相当酷いものもあったみたい。


 もちろん、宰相にも陛下にも証拠と一緒に報告してもらったわ。泣きつくんじゃなくて、報告ね。これ、後からじゃなんとでも言い訳できてしまうから、最初から最後まで騎士だけが関わることで自作自演を疑われないようにしたわけ。


 まぁ、側室候補達からのに混じって、どこかの大根さんからのもあったけど、これも騎士しか触れてないので調査も簡単だったよう。ボロ出しまくりだなー、と陛下は呆れてたわ。



 それからも、陛下の隠し通路からの訪問は続いたわ。いつの間にかガチで口説かれてたのだけど、これ如何に。それに絆された私もどうかしてるわね。結果似た者同士ってことかしら。解せないわ。しかもあの色ボケ陛下、手も早かったわ。大根さんには出してないって言いはってたけど。


 毎日毎日ヨレヨレな私を、スフェナが生温い目で見てたけど、優しくしてはくれなかったわ。ケチ。

 早々に部屋から追い出されたわよ。散歩でもしてこいって。侍女としてどうなの、その態度?


 庭園の散策はあまり乗り気ではないの。必ず側室候補達がいるから。暇なのかしらね、いつ来てもいるのよ。だから、散策の時だけは護衛を増やしてもらった。それも気に入らないらしいけどね。


 どや顔したつるぺた公爵令嬢が話しかけてこようとした時のこと。


「わぁ! あなた達陛下の側室候補様達ですよね! 私レリって言います! よろしくお願いしますね!!」


 ……帰っていいかしら。


「随分と礼儀をご存知ないのね。目上の方に下の者から声をかけるなんて」

「挨拶の仕方も、個性的でいらっしゃるのね」

「それにその、ドレスの丈ですけど、子供丈でしょう? 恥ずかしくないなんて……ああ! 子供だとアピールなさってますのねぇ!」


 側室候補達の発言って、嫌味だけど正論よね。こういうとこはご令嬢としての教育を忘れてないみたい。


「えー? だってあたし陛下のご愛妾だしぃ? みんなこのドレスもかわいいって言ってくれるしぃ」


 多分、正真正銘ドレスがかわいいと言ったのだと思うわ。てか、大根さん。あなた演技力だけじゃなく、挑発も下手なのね。ある意味尊敬するわ。そしてこれが長引くと私の足腰が限界を突破するわ。ドレスの中は生まれたての子鹿のようなのよ?


「みんなに愛されてるのはあたしなの。ムダなあがきしない方がいいわよぅ?」


 これは本音ね。妄想9割ってとこかしら。ゲーム脳って呆れるほどバカバカしいわ。見てる方が辛いわね。見物料貰えないかしら、もちろん私が。


 大根さんのヘタクソな挑発に乗ることなく、自分たちの言いたいことだけを言って去って行く候補達。慣れてますねー。さて、公爵令嬢がいなくなったから(爵位の差って辛いわね)私も戻ろうとしたら、なぜかこちらを見ていた大根さんと目が合った。


「あなたも側室候補でしょ? なんであの人達と一緒じゃないの? なんであたしのこといじめないの?」

「苛められたいのですか?」

「え?」

「私は子爵家の者です。身分的にあの方々には逆らえませんが、だからと言って自分より下を見下すつもりもありません」


 だって面倒だもの。

 私の答えが以外なのか、ぽかんとした大根さんに軽く会釈して横を通り抜ける。


「っ、バカにして!」


 どんっ、と横から突き飛ばされたのはわかったけど、私の子鹿の足では踏み留まれなかった。よろけて、花壇に倒れ込む、ってここ薔薇! 刺!


「ティア!!」


 傷だらけを覚悟して、ぎゅっと目を閉じた。けど、痛みはいつまで待ってもこない。恐る恐る目を開けると、濃い青が目に入ったわ。


「大丈夫か、ティア?」

「へ、いか?」

「ああ。間に合ってよかった」


 ほう、とため息が聞こえる。青は陛下の衣装の色だった。私を抱え込むようにして薔薇の中に背中から倒れてしまっている。厚手のマントのおかげで陛下にも怪我はないようだ、よかった。


「ありがとうございます、陛下。ところで、どうしてこちらに?」

「最近、体力作りのために庭園を歩いてると聞いて、見に来てみたんだが」


 スフェナね、余計なことを。ひょい、と起こされて私が立つと、陛下も立ち上がった。つい、後ろに回って葉っぱや汚れを払ってると、陛下が「甲斐甲斐しいな? 奥さんみたいだ」とか宣って、私の顔が真っ赤に染まった。


「陛下!」

「ふはっ、昼間のティアのそんな顔は初めてだな。疲れたろう、一緒に茶でも飲もう」

「もう……ご一緒しますわ」


 差し出された手に、むう、となりながらも手を乗せる。って、やだ! まだみんないるじゃない! ついいつものクセで! なんてこと!


「笑わないで! もう!」

「くくっ、すまん。かわいいな、ティア」


 つないだ手を引かれて、陛下の腕の中に囲われると、マントの中で軽くキスをされてしまった。


「陛下!」


 周りの護衛騎士や侍女にまで、微笑ましいものを見る目をされたわ! なにそれ恥ずかしい! 


「カティアと茶会をする、準備を。ああ、余の部屋でいい」


 結局、なぜかご機嫌の陛下に抱き抱えられて、庭園を後にした。あら、大根さんはどうなったのかしら。



突っ込み多々あるかと思いますが、お手柔らかにお願いします(笑)

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