いち。
お久しぶりです。よろしく突っ込みお願いします(笑)
おかげさまで7月30日、日間ランキング5位でした!
ありがとうございます!
ちょっと奥様! 3位ですってよ!(31日)
「陛下の妃はわたくしひとりで十分ですわ」
「あら、貴女では力不足ですわよ? それ、盛りすぎではありませんの?」
「なっ、失礼な!」
「お二方とも不敬ですわねぇ。ここがどこかお忘れですかぁ?」
お三方とも不敬かと思われます。というか淑女の礼をしている私の足がそろそろ限界なのですけど、私の挨拶の前に開戦するのはやめていただけませんか、ご令嬢方?
私ことカティア・マルグリド子爵令嬢は、下から二番目の爵位なもので、ツルペタ公爵令嬢やお転婆侯爵令嬢、そしてのんびり屋を装う毒舌伯爵令嬢な方々には逆らえないのです。
そして、ここは王宮にある謁見の間ですが、知ってますよね? 目の前で呆れて飽きて平民の少女といちゃこら始めた人が陛下その人だということ。ほんとにこれで国王とかもうこの国終わってない? いえ、国政に関しては優秀だと聞いてるわ。狂ってるのは色事、というよりあの平民の少女のこと限定というだけの事。
お忍びで城下に降りられた陛下が見初めた少女、レリ。
薄紅色の髪は肩につかない長さ(私達貴族子女では、修道女の長さといわれているわね)。
ぱっちりとした大きな瞳は興味津々とあちこちに視線を移し(私達貴族子女では、はしたないと咎められる行為ね)。
今は陛下にたくさんドレスを仕立てて頂いているらしいのに、今でも膝丈のエプロンドレス姿(私達貴族子女では、成人前のお子さまと笑われるものだし、未婚の淑女が足を見せることそのものがふしだらとされているわね)。
と、まぁ宰相閣下を始めとする方々にはすこぶる最低評価をされているこの少女。陛下への態度そのものが娼婦のようにしか見えない。
適度なボディタッチ、会話の間は目を見てそらさない。なんにでも大げさに驚き誉める。私達から見たらド素人の大根役者並の演技なのだけれど、ものの見事に引っかかったのよね、陛下。そんなに女慣れしてないのかしら、あの人。
どちらにせよ、私達には選択権はないし、こうして陛下の妃候補として王宮に上がった以上、帰ることはできない。
たとえそれが陛下のご意向ではなく、宰相閣下のご意向だったとしても。
ようやく、本当にようやく、宰相閣下に促されてお声をかけて下さった陛下のおかげで、私は姿勢を正すことができたのだけど、あまり見たくないものばかりなもので、思わず視線は遠くの床、陛下の足も見えない辺りでさ迷ってしまった。
人の気配だけで状況を察するのは、神経を研ぎ澄まさなければならないので疲れるから、あまり使いたくはないけれど、自分よりも身分が上の方々しかいないこの場では、使わないと破滅へとまっしぐらな気さえしてくるわね。
早く下がりたいわ。お隣のお三方はまだ言い合いを続けていらしたけど、とうとう怒りが頂点に達した宰相閣下に怒られていた。えー、やら、だってぇ、は不敬であること間違いなしだと思うけど。
というかお三方。本当にこの世界が乙女ゲームだと思ってらっしゃるの? バカなのアホなの死にたいの?
謁見の間を辞した後、後宮にお部屋を賜った私達は、まず荷ほどきをしなければならない。まぁ、侍女がやるのを見てるだけなのだけど。
お茶を飲みながら荷ほどきを眺めていると、実家から連れてきた侍女のスフェナが、後ろに騎士服姿の男女を従えて前に立った。
「カティア様、これからカティア様の護衛官となられるお二人です」
その言葉に、騎士の礼をとる二人。
紺色の騎士服は近衛ではなく、騎士団ね。近衛は陛下と大根役者についてるそうだから、こちらまで人は割けないのね。
「第一騎士団三班班長、ジルと申します」
「同じく第一騎士団三班、コラットと申します」
茶色の短髪でがっしりした体格の男性がジルで班長さん、金髪をお団子にした細身で身軽そうな女性がコラットね。
「カティアですわ。これから世話になりますわね」
目礼で返すと、二人はさらに深く礼をとった。きちんとした作法が身についているのね。
「私からの要望は二つです。ひとつは、どなたからの贈り物であろうと、開封はあなた方でしてください。受け取りに侍女が出る場合には必ず同席を。もうひとつは、私を守るために死ぬことは許さない、ということ。自分の命を守れない方に私の命を預けるのは不安ですもの」
「……は?」
「これ、大事なことですのよ? 中には自分のために命を捨てよ、と仰る方もいるだろうけど、私そこまで傲慢じゃないつもりなの。だから、陛下に近づくつもりもなければ、陛下のご寵愛を受けてらっしゃる方になにかするつもりもないわ。だって、私の目標は」
ポカンとする騎士二人と、頭が痛そうに額を押さえる侍女のスフェナ。
「私の目標は三年小梨(白い結婚でも可。むしろそっちがいい)でこの王宮を去ることだもの!」
「…………は?」
「……あの、え、え?」
「カティア様……」
三者三様のリアクションされても譲らないわ。いざ、ごーいんぐまいうぇーい!
……と、思ったのに。これ、なんなのかしら。
「…………」
後宮の私の部屋。応接室の長椅子、そこに座る金髪紫眼の男性。てか国王陛下。なんで? 大根庶民はどうしたの。
引きこもって優雅にお茶してたら、部屋の中から、しかも寝室から出てきたのよこの人。まぁ、隠し通路くらいあるだろうと思ってはいたけど、こうも堂々と夜這いならぬ昼這いかけてくる阿呆だとは思わなかったわ。
しょうがないからお茶出してあげたわ。そこから無言ですがなにか。てか、不法侵入者にお茶出してあげた私の優しさを無下にして、冷めたお茶を前にむっつりとしてるこの阿呆を、誰か引き取ってくれないかしら。
つらつらと、脳内で罵詈雑言の嵐の中毒舌冴え渡ってるわー、とか思考を飛ばしてたら、侍女からの冷たい視線が飛んできた。スフェナ、あなた主に対しての態度なの、それ?
でも、私からは話しかけないわよ。だって目上の方に話しかけるのは不敬だもの! それに面倒だから絶対に嫌。だから、私は優雅にお茶を飲むのよ。目の前に人? あらやだ、透明人間かしら。
「…………なるほど。肝は据わってそうだ」
なんだか失礼な発言が聞こえたけど。透明人間は透明であることをやめたらしく、長いため息をつくと姿勢を正した。
「お前、ここがギャルゲーの世界だって知ってるな?」
…………なんのことでしょう。
あ、私転生したわ。と、私が思ったのは大分前のこと。子供ながらに領地経営に口や手を出し始めた頃だった。まぁ、その頃は実害なんてなかったから放置したわ。領地の方が大事だったし。
あれ、これってギャルゲー? と、なったのは城に来てから。あらあら、私ギャルゲーの攻略対象に転生したの? ってことは、陛下を主人公にした奥の宮で繰り広げられるキャッキャウフフな恋物語?
……ありえなーい。そもそも、陛下は正妃も側妃も求めてないじゃない。庶民な愛妾を愛でるのに忙しいのだから。てか、そんな一夫多妻制に嫁ぐなんぞ冗談じゃないわ。私は一夫一妻制を愛する常識人だもの。
あ、ギャルゲーは前世の兄がやってたの。ぐへぐへ笑っててキモかったわー。
「答えろ。知ってるな?」
「……存じせんわ。そもそも、陛下はあの大根さんを愛でてらっしゃるのではありませんの? どうしてこちらにいらっしゃったのか、お聞かせくださいます?」
「大根?」
「異世界からの恩恵のお野菜ですわ」
「知ってる。なんだその大根さんとは」
「……巷では、演技がお上手ではない方のことをそう呼ぶのだそうですわ」
これも異世界からきた言葉ですわね。この世界、落ち人やら転生者やらで溢れてますから。
「……レリのことか」
ため息と一緒、ということはこの方、あの庶民の本性に気づいてらっしゃるのね。その上で騙されているフリをしているのは、なにかあるのかさせたいのか。まぁ、どっちでもよろしいですけど。
「……そろそろお帰り願えませんか? ご愛妾に誤解されたくはないのですけど」
あと側室候補達にも。不敬だろうがもういいわ。城追い出してくれるなら万々歳だし。
「いや……ああ、今日は帰る」
「結構ですわ。二度とお越しくださいますな」
「お前、毒舌だな」
「誰もがご自分に媚びるわけではありませんでしょうに」
「確かにな。じゃあ、またな」
だから来るなと言うに。
てか、あんな気さくな人だった? あんな強引だったかしら? 昼あんどんは演技だったの? どっちが本性なのかしら。
来た時と同じように、隠し通路へと消える姿。
「スフェナ、あそこ塞げないかしら」
「無理です」
「なにか罠しかけてもいい?」
「駄目です」
「入ったら真っ黒になるとか水浸しになるとかすべって転ぶとか」
「不敬です」
「不法侵入はあっちよ?」
「こちらは陛下の城に間借りしている立場ですので」
「イケず」
「カティア様」
ちぇっ。
スフェナの後ろで笑いを堪えてる騎士ズは、それでも姿勢は崩れない。さすがねー、私なんか疲れて長椅子にぐったりなのに。
どこ走ってるかわからない。てか、陛下何者?