1-2-21 蠱毒戦5
久しぶりの投稿だったので張り切りました。
割と長め?です。
洋平は道を歩いていた。
辺りをたくさんの人が通るが洋平に気づく様子はない。洋平も隣を素通りする人達に手出しはしていなかった。
「……さすがは白虎だね。こんなにスキルが強化されるなんて」
そう言いながら俯きながら歩く男の後ろを付く。男が開けたままにした扉から中へ入り羅列した本棚に手をかけた。
いくつかの日記のような手製の本を手に取り無言で読み続ける。洋平と共に入った男は作業をしており本が動いていることには気づけていない。
小さく「ふーん」や「なるほどね」と呟きながら読み込み本棚に戻した。
「読んでおいた方がいいのはこれくらいか?」
洋平はそう言って頷く。
そのまま静かに男を気絶させ扉を開いた。
「……固有スキルって楽でいいな」
変幻は確率で失敗することがあるが洋平の場合は失敗しない。それは昇華模倣という同じスキルでありながら強化されたものであるからだ。
それを理解しているために自身の行動に不自然さを感じさせずに移動した。奴隷商ということもありいくつかの部屋には檻や首輪などが残っている。檻の中に奴隷がいることもあり洋平は少し嫌な表情をしながら一人また一人と気絶させていく。
それを繰り返すこと数回目で洋平は小さく呟いた。
「……操られている人はいなくなったね。これって他の冒険者達が対処してくれたのかな」
ボヤいて誰かと会話したのか、うんうんと頷く。
「そのうち、来るよね? それならもういいかな」
洋平の心に残っていたのは檻の中にいる奴隷達である。別に境遇に共感したわけではない。例え望まずして、もしくは無理矢理に奴隷にされた人がいたとしても、この世界においてはそれは仕方がないことだ。
この世界において弱肉強食という考え方が心の根底に残っている。弱ければ、誰にも守られなければ奴隷になる。お金がなければ身を売るしかない。死ぬよりは奴隷になる方が幸せになる確率が高いから。例え貧乏であろうと奴隷になろうとしないのは貴族ぐらいなものだろう。貴族は生よりも誇りを気にする存在であるのだから。
同情がないといえば嘘になるが洋平がそう言った一番の理由は奥の部屋のことだ。扉自体は厳重で明らかに他の部屋とは違う何かがあった。もちろん、部屋を守る人も他の部屋より三倍は多い。
そこの奥は日記と彼の話し相手であるシャノンから情報を得ていた。もし残したままでは自分の被害を増やす可能性があることや、後々の処理が面倒になること、そして少なからずとも残っていた元の世界の平和主義的考えのせいだろう。
気絶した男は縛り上げ変幻によって昏睡状態にされる。これは自身にかけるのよりも強力で、下手をすれば三日と意識を失うこともある。洋平が放ったのはあまり強くないとはいえ一日は目を覚ますことがない。
念を入れてか、檻の中に入れ奴隷を外に出す。食などを含めた生活環境が悪いのか、洋平に外に出されても奴隷達は表情を変えない。世界に絶望した、今にも死にそうな虚ろな目で洋平を見て視線を逸らす。
「っつ……」
他の檻にはリコと見た目では歳の変わらない子供達も多くいた。ボロい何かの川で作られた茶色の服を身に纏い這い蹲る。
まだ常識というものを捨てきれていない洋平にとっては苦しいものがあった。自分よりも小さな、それこそ日本のような戦争も紛争も表立って関係することがない国では、ここまで酷い生活を送るものはいない。ましてやミラのような奴隷を見てから、これを見ては認識の違いを実感せざるを得ないだろう。
「回復……と、食事が必要かな」
「ウッ……アァ……」
子供達の声が共鳴する。
「……見過ごせはしないか。仕方ない、ユラを呼ぼう」
そんなことを呟いてから今まで使ったことがなかった召喚を使用する。白い光が洋平の目の前で集まり消える。霧散する頃には黒い鎧が見え始めひょっこりとユラが顔を出した。
「悪いな」
「いえ、大方は済ませましたから。後はネムル様か、シルク様がなんとかしてくれるはずです。ドットはほとんど戦闘不能ですが」
「よく頑張った方だ。それでこの子達を頼む。一応は回復もかけたから何とかなると思うが、人数的にはまだまだいるだろう。俺は奥の敵を倒してくる」
「逃げられるかもしれませんしね。だからライムも置いていくのですか? 防御のために連れていくのもいいと思うが?」
少しだけ周りに正気な人がいないからか、ユラは言葉を柔らかくした。それでも言葉の節々に優しさが垣間見え、目も騎士のそれと大差ない。
「もしものためだ。ここの場所から持って帰らないといけないものがあるかもしれないし、その時にユラの倉庫がバレれば俺の方にも飛び火するかもしれないからな」
ユラが忠義を手に入れてからというもの、従者としての能力が高まった。その中にはスキルの共有化がされ異空間倉庫がユラと洋平で繋がっている。魔法具を使ったとしても奴隷商にはたくさんの証拠などもあり、誤魔化しきれないと踏んだ洋平はライムを置いておくことにしたのだ。自分の力が必要以上にバレるよりはマシだという考えのもとで。
「……それなら仕方がないか。分かった、そこは任せてくれ。ただし危なければ逃げてくれよ?」
「主君を信じろ。俺がそう簡単に倒されると思うか?」
「調子に乗る、油断をする。そんなことがないとは言いきれないだけだ。騎士として主君を守りきれないのは一生の恥だと言っていい。そんな体験を二度も味わいたくはないからな」
その瞳には夜空に咲く花火のような暗さと明るさを両立させた何かがあった。それを見て洋平は頷く。
「危なければ呼ぶよ。それならいいだろ?」
「それでいい、です。さあ、早めに依頼を完遂させましょうか」
奴隷の方を向き一箇所に集めていく。
洋平はそれを見てから部屋を後にして先の奥の部屋に向かう。そこにいるのは多数の人で明らかな敵意が目に宿りギラギラとしている。そこにはユラのような優しさの感情はない。
「誰だ!」
「それならもう隠れる必要もないか。一応、得られる情報は手に入れたしね。それじゃあ、やられてくれ」
一瞬だった。手に持つ剣をキラリと輝かせ一振した。たったそれだけの事だ。
何かが洋平に気付いた三十はいる男達を吹き飛ばしたのだ。そんな大それたことをしても洋平の表情が変わる気配はない。
一つため息をついた。
「明らかに一番強い奴は冒険者組が戦ったんだろうね。……スキルとか欲しかったんだけどな。えっ? 俺じゃあ勝てるか微妙だって? じゃあ前言撤回で」
おどけるわけでもなく洋平は笑った。
そのまま奥の扉へと進み野球ボールぐらいだが、とても煌々と輝く火球を作り出し中を照らす。
ガサリと蠢く音と、アアアと喚くゾンビのような声が響く。だがそこには魔物なんてものはいない。
「……悪趣味だね。知らなかったら結構キツかったかも」
余談だが一刀で倒してしまった敵はある程度、力を持つものだったりする。
そして守られているものは籠の中に閉じ込められた奴隷と、真ん中に佇む爛れゾンビという言葉すら生優しく感じさせる存在だった。
肉団子のように丸い大きな体躯と太く短い足、顔をいくつも貼り付けられた頭。そんな異様な存在が洋平を悲しそうな瞳で見つめていた。
「やあ、ここまで来たようだね。誰かは分からないけど」
「……お前が蠱毒の幹部か?」
「自己紹介は自分からするものだよ。いいけどさ、私はナット。蠱毒の幹部ではあるけど、まあ、あまり意味はないかな。実験がしやすいからここにいるだけだし」
ナットは短い銀髪を掻きながら笑う。その目にはいくらかの狂気と興味があった。
「それよりも君のことだよ! 君はなんでここにいるんだい? それに強いならなんで私が知らない? 本当に君に興味があるよ!」
「俺は興味がない。ここにいる存在を全滅させることだけが仕事だからな」
「むー、それなら私はこの仕事を辞めるよ。それなら話を聞かせてくれないかい?」
悪戯好きの子どものように純粋な笑顔を浮かべるナット。対して洋平の表情は曇り始める。
「もしこんな実験をしていなかったらそれで済ましていたかもな」
「ああ、この失敗作かい? 確かに普通の人からしたら外道と捉えられるよね。でもよく考えてみなよ! 人が進化をするためにはいくつもの生贄が必要なんだ! それにこの素材に使った奴隷は犯罪奴隷だよ! 捨てられる命を有意義に使ったんだから感謝されるべきだね!」
この世界での犯罪奴隷の扱いは酷い。
借金奴隷や身売りによる奴隷とは違い犯罪を犯したものにはそれ相応の罰が待っている。犯罪奴隷もそのうちの一つで大きな罪を犯さなければその中には分類されない。簡単な窃盗などは回数が少なければボランティア活動などで許されることもある。
ただ無意味な殺人、暴行などは大きな罪となる。犯罪奴隷となる者も多いのだが彼らに待つのは炭鉱などでの無償労働だ。それに解放されることもない。
一応は奴隷を守るために一ヶ月ほどの奴隷商で売って貰える期間があるが、人を殺した存在を誰が好んで買うだろうか。いたとしても買う存在の思考などたかが知れている。どちらにせよ、待つのは死であり、女性であれば凌辱されるのみだ。
ナットも同じ考え方を持っていた。
犯罪奴隷という救えない存在を、それこそマウスのような実験体として何が悪いのか。心底不思議だった。公表されないだけで国の上層部で同じようなことがされているのを知っているからだろう。
「……まあ、思考が混ざった結果、哀れみなんて感情を持つようになったけどね。私が死ねといえば死んで、殺せといえば殺す存在には変わらないけど」
犯罪者といえど感情はある。
その感情が積み重なった結果、失敗作は洋平を憐れむ目で見たのだ。もしかしたら元の存在であればそんな気持ちを持つことはなかったかもしれない。
例え今はこのような姿でも実験体とされた中には人をたくさん殺したい者もいる。通り魔を繰り返し女性には暴行を働く者もいる。
洋平は少しだけ考えた後、剣を構えた。
「どちらにせよ、今は敵だ。お前の仲間に俺の大切な存在を傷つけれたのは変わらないからな」
「それは私には関係がないよね? 私はずっとここにいて命令なんてものは出していない。ここまで来れたのなら奥にいる人も知っているんでしょ? 私はただ実験をしていただけ」
洋平はそう聞いて少しだけ考えた。
考えた結果は変わらない。
「それでも、だ」
剣を振り抜きナットの腰を斬る。
洋平には余裕がなかったのかもしれない。その額には数本の汗が通り目が少し虚ろになっていた。殺す必要がなかったといえばそれまでだが、洋平にとっては殺さなくてはいけない気がした。
ここで殺せなければこの後も不可能だろう。人の命を思いというのなら、等しくナットという存在は悪だ。そして失敗作の元となる存在も。そんな感情が洋平を動かしたのかもしれない。自分の常識が極端に変わるのを恐れたから。
白衣に一本の線が入りそこから血が滲み始める。ナットはそこに手を付けて血が出てるのを認識し笑った。ただ笑った。洋平を少しだけ畏怖させるほどに。
「……これが傷か。いいのかい? このままだと私は死ぬよ?」
「その割には元気そうだな」
「薬のおかげさ。元々、私は病弱でそう長くない寿命だったしね。ただこのままだと失敗作が暴れるよ? 君には倒せる? 倒せた後で奥の人を倒せるかい?」
「死にそうな割には質問が絶えないんだな」
「当たり前さ。科学者の本質はハテナだ。知ろうとする感情が私を動かすだけ。そう……動かす……だけ……」
ナットの顔から表情が無くなっていく。
「……俺は洋平だ。蠱毒を潰す者。それでいいか?」
「充分、さ。ほう、これが死か。悪くない。孤独は……嫌だったん……だが……」
瞬間、ナットの体が持ち上げられた。
ひょいと誰かに摘まれたかと思うとその存在の腕で潰され、無数の口で喰らわれる。もはや息はなかったとはいえ、人としての最後とは思えない終わり方だった。
「グォォォ……」
その摘んだ存在の目に優しさなどはない。
ただ目の前にいる少年を喰らおうとする忌まわしい感情しかない。そこに人としての常識的な考えはなかった。
「一応は感謝しておくよ。この世界の常識と日本での常識が違うってことを再認識出来た」
無数の剣筋が大きな体躯を切り刻む。
最初は腹を横一閃に、次いで頭ごと縦に一閃、斜めに一閃と入っていき最後は、
「火炎放射」
と炎に巻かれ焼けていく。元人の体ということもあってか、脂が着火し細切れにされた肉を燃やし尽くしていく。
ナットがチョイ役過ぎるので後々、話の流れで出てくるとは思います。名前だけで登場はしないと思いますが。
後、二三話で蠱毒戦を終える予定です。蠱毒戦はどちらかというと、名前を示したりエルフ親子を仲間にするための話なので、ここからがメインとなります。ここからハーレムとチートが強くなってきたり、拠点とかも出てくると思うので面白くする予定です。
後、プロットの作成が遅れているので早めの投稿がキツそうです。二週間以内には投稿します。
ブックマークや評価よろしくお願いします。
長文失礼しました。




