1ー2ー13 約束2
いいものを手に入れた。
リコやリーナさんには悪いが助けに来た報酬としては十分な程に良いスキルだ。幹部というだけあって強かったんだろうな。
あんまり実感はないけど。
どちらにせよ、リーナさんが無事で良かった。
「グッ……ガッガガガ……」
一応、ミドラに洗脳をかけておいた。ただし効果は弱いもので、強い回復魔法をかければ治るレベルの微量なものにしている。
シャノンから聞いた話、ここまで力を持つ者ならば奴隷として高く売れるらしい。犯罪奴隷として欲しがる者も沢山いるだろうし、顔もわりかし美形だ。反骨心を折り屈服させたい狂った貴族や、鉱山に送るなどしても戦力としては十分。
……冒険者ギルドが喜ぶんだってさ。俺がミドラを連れていけば、いくらかの仲介料が貰えるらしいからね。まあ、悪いとは思わないよ。こんな悪に染まったことをしている奴に掛ける情けはない。
だから売る。外で倒れているだろう下っ端達も売れるっちゃ売れるだろうしね。それこそ買う人はマッドサイエンティストだと思うけど。
あっ、弱いからと言ってミドラ自身が、もしくは蠱毒の構成員が回復させることは難しいと思うな。シャノンが組んだ術式を魔力多めでやったから、集中力が常に欠けた状態のミドラじゃオペレーションは無理。外からやろうにも俺以外じゃ時間がかかるって寸法だ。
はてさて、俺の目を盗んでそんなことを成し遂げられる人は蠱毒にいるかな? 誠也兄でもない限り無理だろ。
ユラにメールを送っておく。
要件は冒険者ギルドの人数名を連れて倒した人達を冒険者ギルドに送ってくれというものだ。後はユラ達が来るだけ……とはいかないよなぁ。
「……終わった……の?」
「はい、終わりましたよ。……後はリコを助けるだけです」
リーナさんは少しだけ唇を噛んでいた。
淡いピンクの唇が、まるで口紅をつけたかのように、赤く、そして鮮やかに染まっていく。
それでも今出来ることはリーナさんを安心させることくらいだ。いや、安心させることがどれだけ大切なのかを俺はよく知っている。
「……大丈夫です。俺に任せてください。もう少しでユラが冒険者達を連れてきますし、リコのくまの人形にも手を加えました。蠱毒の拠点に乗り込みに行くのも時間の問題です」
「……そう……なの……良かったわ」
胸をなでおろしたように見える。
ただその瞳の奥にはまだ悲しそうな表情が見え隠れして確実に安堵したとは言えない。
「それで……」
チラリとミドラを見た。
なにか思うところがあるのか?
「これは凄いわね。……ヨーヘイを甘く見ていたみたい」
「そんなものですよ。……俺だってこんな力を露見させたくはないですし」
それは本心だ。
誰が好き好んで狂っているような相手の心を殺す魔法を使うか。俺は至って常人であって狂人ではない。
ただイラついていたから使っただけだ。リコとリーナさんに手を出した蠱毒にイラついただけ。
「それは確かにね。でも、私みたいに弱いわけではないわ」
「……そうですか」
思うところは多々ある。
でも何も言わない。言ったところでリーナさんの心を傷つけるだけだ。俺は知っている。
「……なんでそんなに優しいのかしら?」
「優しくないですよ。身内に甘いだけです。少なくとも、リコは大切な妹のように感じていますし、リーナさんは叔母さんのように感じています。いや、お母さんかな」
「……それは……悲しいわね。こう見えてもよくナンパされるんだけどなぁ」
「そういう意味じゃないですよ」
ようやくリーナさんに笑みが戻る。
「……私のことは嫌いかしら?」
「好きですよ? ただ異性としてではないですね」
ドキドキはするし彼女にいたら嬉しいとは思う。でもあまり知らないままでお付き合いは俺には無理だ。……童貞の悲しい性だな……。
「異性として見てくれていないわけではないのね」
「……そうですね」
なんで分かった?
とは聞かない。というか怖くて聞けない。よくある女性の勘だと思うしかないな。
『リコの気配を感知しました』
ああ、俺も今察知した。
いや、察知したという言い方はおかしいな。俺の心に何かが流れ込んでくる感覚だ。それとステータスに現れた共感の文字。十中八九、リコに何かがあったんだろう。
「……ヨーヘイ、お兄さん……」
聞こえた! 間違いなくリコの声だ!
「……どこかへ行くの?」
そんなリーナさんの声。
俺は首を縦に振る。小さく「行かないで」と言われた気がしたが俺を掴んできたわけではない。
そう、多分、リーナさん自身が一番困惑しているんだ。自分の娘を大切にしている。それでいて怒っているはずなんだ。そうじゃなければミドラと戦う前に折れているはず。
そのはずなのに心とは真逆の言葉を言ってしまった自分を。
無理やりリーナさんの小指を取り指をきる。俺が安心するためだけのおまじないだけど……。俺は困惑する人を追撃するような無粋な真似はしない。
「これは指切りって言って約束をする時の動作です。……だから……ユラに頼って生き残ってください。帰ってきたら美味しいご飯を食べたいな。……行ってきます」
「……分かったわ、リコをよろしくね。行ってらっしゃい」
俺は空間魔法を発動した。
「ああ、助けに行くよ」
空間魔法で飛んでいる。
虚空の真っ白い世界。これが俺の心の世界ならばどれだけ悲しいことか。何もない気がしてならない。そして、ここはどうも人を孤独にさせる。
心も何もかもが暗くなる。
奪ったのですか?
お兄さんから。
やっぱり、リコは誰かを虐めるだけの忌み子。それなら生きる理由も……。
そうか、リコはそんなことを考えていたのか。もしこれが共感による心が繋がっている状態なら俺はリコの知らないところを知れるだろう。
いや、こんなことを、俺を考えてくれる人がいるのに孤独とかそんなわけがないか。リコを助けに行くのに俺が暗くなってどうする! リコを笑顔で迎えにいくために俺はそんな気持ちを持ってはいけない!
そして、
「……リコ、そんなことはないよ」
苦しめているだけ?
「それなら、俺が助けに来る理由もないだろ」
声だけを先に飛ばす。
実体の質量のないものは簡単な術式で飛ばせて楽だ。
誰を傷付けた? 誰を苦しめた? リコが何をした?
エゴを通すなら通される覚悟はあるんだろうな! リコを虐めた報いを受けろ!
「お兄さん……頑張るです……。だから早く助けに来てほしいです!」
当たり前だ。
リコの本音を聞いたぞ!
俺に力を貸せ! 俺が与えたその力を持って敵となる存在を、真の主を守るための姿を解放しろ!
怒っているよう?
『怒っているよ。俺もリーナさんも』
もう着く。
魔法を展開。
シャノン! 力を貸せ!
『当たり前です!』
リコ……、
『そう、とりあえずはあいつを潰す!』
誰もリコを虐める権利を持たねえ!
消えろ!
「グガッ……」
そんな呻きすら俺をイラつかせてくるな。
リコに向き直す。これ以上クソ野郎に構っている理由などないからな。キチンと風魔法の中に精神魔法も付与させているから、あいつは一生廃人行きさ。
立派な報いのはずだ。
「少しだけ……時間がかかっちゃったよ」
ああ、笑って言えた。
リコを助けられた。
俺が来たのに誰が俺を倒せる? 誰も無理だ。例えSランク冒険者であろうと、誠也兄であろうと。
「……お兄さん……」
親指の爪がない。
椅子に縛り付けられたリコ。
……ここまですることかよ。
頭を軽く撫でる。よく頑張ったな。折れないで耐え切るなんて中学、高校の年齢だったら普通は出来ないぞ。
泣いてもいい。悲しんでもいい。
それが人の大切な感情であって縛り付けてはいけない唯一の存在。
痛々しい手を取り回復魔法をかけていく。その間に拘束具も外しておいた。なにぶん初めての経験だったから時間はかかってしまったけどね。
「お兄さん?」
「うん? なんだ?」
「リコは必要ですか?」
必要か必要じゃないか。
それって俺の行動を見れば分かると思うんだけどなぁ。少し幼児退行でもしてるのかもしれないな。
「少なくとも俺とリーナさんは必要としているぞ」
それは確定した事実だ。
「お兄さん」
「どうした? まだ聞きたいことがあったのか?」
なんでも応えよう。
今は優しいお兄さんでありお父さんだ。……気持ちの問題だよ?
「大好きです」
すいません、少しスランプ気味で投稿が不定期になります。書き次第、投稿しますが時間が空く可能性があります。二週間以内には投稿出来るように頑張るのでよろしくお願いします。
なお、次回から蠱毒編のメインなのでお楽しみに。後はリーナさんとリコの立ち位置もハッキリしてくるかと。
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