閑話 約束のくまさん人形
少しだけグロいかなと思います。
ただ、わざと深く描写はしなかったので読みやすいとは思いますが……そういう展開が苦手な人は飛ばしてもらえるとありがたいです。
いつも通りの朝だったのです。
リコが目を覚ました時にはもうお兄さんは起きていて食堂にいたのです。お店の店員として失格です。ママ……お母さんはそんなことをしなくていいって言ってくれるですが、やっぱりお母さんの子どもとしては甘えていられないです。
十三歳ともなればリコはもうお姉さんの類に入るのです。甘えは厳禁なのです!
昨晩お兄さんに貸したくまさんは朝に返してもらったのです。まだ貸したままでもよかったのですが少し改良を加えたからと笑っていたです。
少しふにゃふにゃと柔らかかったのは気のせいじゃないはずです。それに爪もなかったのはびっくりしたです。
昼下がりだったです。
リコは玄関を掃除していたのです。
そんな時にお母さんの悲鳴が聞こえてきたです。お兄さんに現を抜かし始めたお母さんですが実力は本物です。簡単に、とはいかなかったですが襲ってきていた数人の暴漢をぶっ飛ばしていたです。
リコもいつかはお母さんみたいに強くなって、それでいて王子様に守られたいです。
ですがそんな思考がいけなかったみたいです。お母さんの「逃げて!」の声も聞こえないままでリコは意識を失ったです。
「ここはどこです……?」
真っ暗な室内にジメジメとした空気。
とても不快です。お兄さんやお母さんに抱きしめられたいです。
持っていたのはくまさんだけで他には何もなかったです。体を動かそうにも何かがリコを締め付けてきて動くこともままならないです。
怖い……です。
「……ママァァァ」
「ッツ!」
気が付かなかったです。
リコ以外にも捕まっている人がいるなんて。ですが一つだけ嬉しいことがあったです。
お母さん譲りの共感で捕まっていないことが分かったのです。リコはとても迷惑をかけてしまっていたのです。こんな仕打ちも甘んじて受け入れるです。
知っていたのです。
リコはハーフエルフ、だから忌み嫌う人も多いからと宿から出ないようにさせていたことも、何度も虐められたことも全部知っているです。
お母さんは綺麗です。
男はみんなケダモノだから結婚したい人も少なくないです。それならリコは邪魔だし何も出来ないです。
お父さんが死んでしまったのも、リコを攫ったのも同じ人物のはずです。リコはどんな目にあってもいいからお母さんには幸せになってもらいたいです。
「ああ? うるせえなぁ」
いきなり扉が開いて大きな男の人が入ってきたです。見たことがあるです。何度もお母さんを攫おうとした大男……。
リコを一瞥して大男は泣いていた少年を連れて行ったです。少しだけ公開したです。慰めていれば連れていかれなかったかもしれないと。
何度も何度も少年の悲鳴が聞こえてきたです。その度に泣く子が増えてきたです。
室内にいたのは十人ちょっと。全員がエルフや獣人などの亜人と言われる存在だったです。それに子どもしかいなかったです。
……それがより恐怖を煽ってくるです。
お母さんが、お父さんが、恋しいです。
お兄さんが恋しいです。
そんな祈りも暗闇の中に消えていくです。
せめて明かりが欲しいです。悲鳴やすすり泣く声だけが室内に響いて怖いです。夜になれば淡く室内を照らしていた太陽もなくなってしまうです。
そうなればどこに誰がいるかなんて分からないです。分かるのは誰かが連れていかれる時に室内に光が射した時だけ。
……最低です。誰かが連れていかれる時だけがリコの安寧の時間となっているのですから。
また聞こえてきた悲鳴とすすり泣きにリコはもう我慢が出来なかったです。小さく泣いていたつもりだったのですが、すぐにあの大男が来たです。
とても下卑た目。お母さんを見ていた時と同じ目だったです。……本当に気持ちが悪いです。
頭は正常だったです。冷静だったです。
なのに体は言うことを聞かないです。泣き止めばもしかしたら戻れるかもしれないですが、リコは泣き止むことすら出来なかったのです。
最悪です。最低です。
リコは……親すら、自分すら苦しめるだけの忌み子。ハーフエルフは忌み子とよく言ったものです。確かにリコは忌み子。死んでしまいたいものです。
長い廊下を大男に連れられていくです。
左手には置いてきていたはずのくまさん、右手は大男に握られていたです。
「……ああ、可愛いなぁ。でも……手は出せねぇ。何かいい方法ねえかなぁ」
下卑たゴミ以下の人達は考え方も似たようなもののようです。リコのような体に反応するなんて気持ちが悪いです。
でも、お兄さんなら許せるです。
お兄さんはお兄ちゃん、それならいくらでも手を出していいのです。お母さんの読んでいた本にも書いていたです。
キンシンソウカン? とか書いていたですがよく分からないです。リコの知っている世界は本だけですからそんな考えも間違いがないはずです。
お兄さんが白馬の王子様なら嬉しかったのです。お母さんと対決することになっても嬉しいものは嬉しいです。
お兄さんと読んだ時にくしゃりと笑った顔が忘れられないです。早く助けに来てほしいです。
そんな考えとは裏腹にリコは小さな部屋に連れていかれたです。本で読んだ悪の科学者の実験室、そんな感じの部屋です。
歯を抜くような道具と縛り付けるような何か、薄暗い室内がリコの涙腺をさらに緩くさせるです。
「さぁって、手を出せない分だけ、遊ばせてもらうぞ。なぁに、怪我はペオ様が治してくれるさ」
「いっ、っつぅ……」
真ん中に置かれた椅子に叩きつけられたです。それだけで椅子の近くの紐がリコを縛っていくです。
「さあ、まずは一本目だ」
そんな声と共にリコの右手の親指の爪は剥がされたです。感じたことのない痛み、それが剥がされて数秒経ってから襲ってきたです。
「ぎゃああああああああ!」
「そう! その顔だよ! ああ、なんて綺麗な顔なんだ!」
狂っているです!
人を大切にしないで虐めることで喜ぶなんて。お兄さんの爪を煎じて飲ませたいです。
怖いです。
また剥がされる。
受け入れるつもりだったです。
でもこんなことをされるくらいなら無理です。
辛い、辛いです。
「……ヨーヘイ、お兄さん……」
「ああ、助けに行くよ」
どこかでお兄さんの声が聞こえた気がしたです。いや、気のせいじゃなかったです。
一つのアナウンスがリコの頭を駆け巡ってきたですから。
【固有スキル、共感が強化されました】
【共感により個体名「カナクラヨウヘイ」からいくつかのスキルを会得します】
【固有スキル、空間魔法と幸運、スキル、火魔法を獲得しました】
【固有スキル、糸魔法が解放されました】
【共感者のステータスの一部を獲得します】
奪ったのですか?
お兄さんから。
やっぱり、リコは誰かを虐めるだけの忌み子。それなら生きる理由も……。
「……リコ、そんなことはないよ」
そんな声が聞こえた気がしたです。
リコは頭がおかしくなったのかもしれないです。お兄さんを……苦しめるだけです。
「それなら、俺が助けに来る理由もないだろ」
確かにそうかもしれないです。ですが……いや違うですね。それがリコの嫌っていた甘えだったのかもしれないです。
もう開き直るです。
今だけはお母さんとお兄さんに会いたいです。わがままでもいいです。それでも会いたいものは会いたいです。話をしたいです!
「誰だ!」
「お兄さん……頑張るです……。だから早く助けに来てほしいです!」
くまさんの様子がおかしいです。
それに気がついたのは無意識のうちに糸魔法を使った時です。なかったはずの爪が現れくまさんの表情が歪んでいた気がしたです。
まるで怒っているような、許すつもりもないような表情だったです。
『怒っているよ。俺もリーナさんも』
「お兄さん?」
今度ははっきり聞こえたです。
これが……共感ですか?
お母さんの言った通り共感した相手と心の中で会話が出来るのですね。体験したことがなかったので気が付かなかったです。
『そう、とりあえずはあいつを潰す!』
その瞬間に風が吹き荒れたです。
比喩でもなんでもなく本当に。
そして待ちに待っていたあの人が目の前に現れたのです。
「少しだけ……時間がかかっちゃったよ」
「……お兄さん……」
頭を撫でられてしまったです。
本当に緩んでしまった涙腺を何とかしたいです。何でこんなにも涙が止まらないのですか。
でも、それは怖いから流れた涙じゃなかったです。多分それは嬉し涙。
ゆっくりですが爪の剥がれた親指も元に戻って拘束具も外してくれたです。本当にお兄さんはすごかったです。
一撃で相手を気絶させたのですから。
「お兄さん?」
「うん? なんだ?」
「リコは必要ですか?」
「少なくとも俺とリーナさんは必要としているぞ」
それは嬉しいです。
リコは忌み子じゃないと思えるですから。
「お兄さん」
「どうした? まだ聞きたいことがあったのか?」
「大好きです」
ふふふ、驚いているですね。
例えリコの体に欲情しなくてもリコはリコです。絶対に逃がすつもりはないですよ。
出来ればお母さんも含めて幸せになりたいです。英雄色を好む、多分、大丈夫なはずです。
頑張ってナイスバデーになって幸せになるです!
リコの決心回でした。
次からは普通の洋平視点に戻ります。
書きだめをしているので貯金が出来れば明日、出来なければ明後日に投稿します。ちょっと久しぶりの丸一日休みを満喫しすぎました。
後、次回は前半が洋平視点、後半が戦闘なので三人称視点になります。多分ですけど……。
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