表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/71

1ー2ー11 開幕

ギリギリ……間に合っ……た……。

「それでぇ、聞いていたけどさぁ、フックはなんで上から目線なのかなぁ。挨拶も行動もおかしな所ばかりでぇ」

「……ギルドマスターたるもの、新人に舐められてはいけませんので」

「それでいいんじゃないですか? そもそも俺はこの街に残るつもりもないですし」


 言うべきではないのかもしれないが、こんなやつに使われるぐらいなら他地方へ行く。ましてや集合場所はこの街ではなく帝都だからな。


「ほらねぇ、だからここには強い者が少ないんだよぉ。ボクだってぇ、君について行きたくはないからねぇ」

「俺にだって……俺のやり方があります」

「だから挨拶はなしかい? 君はいつから偉くなったのかな?」


 いきなり伸びの多い言葉尻からそれがなくなった。纏われていた魔力も一段と濃くなる。多分、俺なら数分と持たないな。


「謝罪はしました。挨拶はこれからする予定でしたので」

「それなら今すぐやりな」


 ピシリと空気が張り詰める。

 威圧、それが辺りに噴出した。


 主に矛先はフックギルドマスターであり、俺達や、もちろん、リーシャには向いていない。常識がないと思っていたがそういう訳ではないようだ。


 先ほどの比ではないのだろう。フックの額から数滴の汗が流れる。自業自得だとは思うけど。


「……私はアスの街の冒険者ギルドマスターをしているフックと申します」

「妥当だねぇ。それでぇ?」


 フックが指示通りに動いた瞬間にネムルの表情が和らぐ。


「……あなた方をここに呼んだ理由は他でもありません。その能力の高さです」

「俺達の、ですか?」


 フックが口を開こうとする前にネムルが前に出てくる。ソファを指差し何度も出したり引いたりを繰り返していた。


 それで分からないはずがないだろう。


「……心遣い感謝します」


 先にリーシャを、そして俺が座ってユラが俺の隣に来る。


「よく分かったねぇ。秀才は好きだよぉ」

「……本当に申し訳ありません」

「いえ、俺も気が付かなかったので」


 腹が立っててね。


 フック自体にはさほど怒りを抱いていない。どちらかといえば蠱毒の方がメインだからな。


「それでさっきの続きだねぇ。そもそもぉ、ボクがここに来たのはねぇ、スタンピードの話をするためなのさぁ。情報を渡すからぁ、値踏みをしろだってさぁ」

「……立場を弁えず本当に申し訳ありません」

「構わないよぉ。ボク達と同じ香りがしたからねぇ。そのおかげでボクはヨーヘイと知り合えたわけだしぃ。本当に残念なことをしたねぇ」


 フックと俺が息を飲んだ。

 なんて言った? ボク達と同じ香り?


 つまりはネムルに近い何かがあると。……もし勘で言っていたとしても相手がSSS冒険者ならばそれなりの理由となる。俺がそれだけの力を持つと言っているのか?


「それは……アスの街に損害を出したと」

「そうだねぇ。少なくともこの街の領主は先代で終わってしまっているからねぇ。拠点が分かったというのならぁ、蠱毒との関係も分かるでしょう?」


 俺は首を縦に振る。

 シャノンから大体の関係を聞いておいた。


 要約すれば先代の跡取り二人の戦いが未だに続き、片や民主主義をとる弟、片や帝国主義をとっている兄に分かれているんだ。もちろん、戦いを好まない民からの支持は弟の方に向く。


 ただ利益関係で儲けたい貴族は兄につき戦いが始まった。先代が病床に伏している間に行われ、結果的に二つの派閥が合体して民主帝国合体主義のような形成をとっている。


 といっても街の領主であり国ではないため戦争を仕掛けることは出来ないから立場上、兵士を徴兵しやすいようにするといった治安目的のようだけど。ただ兄の方がクーデターを起こさないとは限らない。


 そしてその兄こそが絶対的な男性至上主義、つまりは女性皆奴隷といった馬鹿げた考えを持っているのだ。その中にはもちろん自身が惚れたリーナさんもいる。


 というかこの考え自体がリーナさんを手に入れやすいようにするためのものであるし、自分以外が支持しようがしまいが関係がないようだ。


 そんな奴が民から好かれるだろうか?


 断じて否だ。


「ボクはねぇ、兄の方を潰すつもりなんだぁ。なんて言ったかなぁ……ミスラだったかな?」

「合っています。それに俺の行動する動機も彼に用事があるからです」

「悪い顔をするねぇ。嫌いじゃないよぉ。ボクはこの街のために、ミスラを消すんだぁ。そのためにはぁ、蠱毒が邪魔なんだよねぇ」

「同感です。俺はある人達を守るためにそいつを潰さなきゃいけません。現に被害を加えているようですし」

「あー、そういう話は外では控えてくださいね」


 ネムルがフッと笑う。


「誰がボクを止める? ボクはぁ、これでも最高ランクの冒険者だよぉ。二つ名だって貰っているしぃ。そんな人をぉ、誰が拘束するのかなぁ」

「……その時の街の被害が怖いから言っているんです」


 さすがに雰囲気がひどい。

 威圧感が辺りを包みフックでさえも冷や汗を流していた。


「この話はこのくらいにしましょう。リーシャが限界のようですし」

「あー、ごめんねぇ。まぁ、ボクはそう考えているだけさぁ。それで、いつ動くのかな?」

「……ギルドマスターは気がついているかも知れませんが、森の中で異変が起きています。それを解決しないうちにやるのは少し尚早すぎるかと」

「……知っていたですね。実はそれも考慮に入れて君たちを呼んだのですが……すまん、もう試す真似はしないからいつも通りに話してもいいか? 少し話しづらい」

「ボクは構わないよぉ。ただ三人にはきちんと賠償しないとねぇ」

「俺も構わないです」


 フックは「ありがとう」と答えたが、なんともネムルの底が知れなくて怖い。本質的にはいい人なのだろうけど、いかんせん情報が少なすぎる。


「まず俺は二人が強いことを知っていた。それは依頼の完了時の報告を見れば頷くしかないからな。ただし、確証が欲しかったんだ。それであのやり方になり、ネムルにも上から物事を言ってしまった……。俺にはギルドマスターは向いていないんだろうな」


 フックは自嘲気味に笑う。


 それはどうかとは思うが何も言わない。というか言えないのだ。新入りがそんなことを言っても、身分の高い人にそんなことを言ってもなんの慰めにもならないから。


「……それは違うと思うなぁ。ヨーヘイを見ても分かる通りさぁ、いや受付の……リーシャ? 君を見ても分かる通りねぇ、君はギルドを最優先にして、最大幸福を最小の力で獲得させようとしているだけさぁ。ボクはそれを悪いとは思わないよぉ」

「……私もギルドに拾ってもらえたことはなによりも恩に感じています。その時に私を助けてくれたギルドマスターは才能がないとは、私には思えません」

「そう言ってもらえると……助かる」


 根は悪い人ではない。よくあることだな。


 元の世界で自分本位に行動している人を多く見ていたから、誰かのために働くフックはすごいと思う。俺ならそんなこと出来ない。


 テレビに流れる政治家だって大事な会議に遅れたり寝たりする。


 休みがない? それならなんで選挙に出たのかが分からない。


 政治家の特権? 政府は国民のことを考え国民の下につく複雑なものでありながら、それに属する者が国民を蔑ろにするのはいい事なのか。


 その点、フックは最大多数の最大幸福を目的とした考えであっただけ。少数派の意見よりも多数派を助けただけに過ぎない。


 それに今回被害を受けたリーシャにここまで言わせるんだ。どれだけのことをして信用を得たのかなんて想像することも出来ない。


「本題に入らせてもらう。頼みがあるんだ。君達は強い、アスのギルドでも勝てるものは限られているだろう。そこでもう時期起こるであろうスタンピードに備えてほしいんだ」

「……スタン、ピードですか……」

「今回、Aランクパーティである【星の使い】から得た情報と、コロニーの話を合わせれば異変が起きていると言うしかないだろう。そこで前衛に立ってほしいのだ。もちろん、その分二人のランクも一気に上がるだろう」


 なるほど、願ったり叶ったりだ。


 欲を言えばあまり強いのは見せないままで戦いたいのだけど。……そうか。


「装備は、自由ですよね?」

「……顔を隠すというのは構わない。ただし要らないいざこざに巻き込まれる可能性は出るだろうけどな」


 それは構わない。本当に強い人ならば数値で見るのではなく、成果や戦い方で理解するはずだ。


 俺は首を縦に振りスタンピード時に最前線で戦うことを了承した。力を見せないのは俺の強さを見せつけてしまえば戦う時に不利になるからな。


「ただし俺は指名依頼を自由に拒否出来る権利が欲しいです。分かると思いますけど俺はB級の力はあります。本気で戦うとすればS級とも戦えるでしょうね」


 これは事実だ。現に弱体化エヴァはそれだけを力を要していたし。ただし倒れること前提で戦わなくはいけないけど。


「それはぁ、ボクが保証するよぉ。そういう目立ちたくない人もぉ、少なくはないからねぇ」

「……ネムルの推薦があれば本会議でもそれは通るはずだ。構わない。それにスタンピードも星の使いの話では猶予があるらしい。それに参加してくれるのであれば全面的に蠱毒との対立も手助けしよう」

「君がそこまで言うとはねぇ。ただ足りないかなぁ。それにヨーヘイのランクをBにすることぉ、後はユラのランクをCにすることも確約しないとねぇ。冒険者ギルドだってぇ、蠱毒は邪魔なんだからさぁ」

「……それでいい。ヨーヘイやユラ、リーシャからも何か意見はあるか? あるなら今から制作する誓約書に文面を書き足すが」

「……俺はそれと領主を潰す手助けをしてもらいたいです。もちろん、俺がやるのは領主の家に真正面から向かっていくことですので、そこまではしてもらわなくてもいいですけど」


 フックは思案げにネムルは何も考えていないようにボーッとしながら、不意に手をぽんと叩いた。


「そこはボクが一緒に行くよぉ。蠱毒を潰したあとでぇ、逃げられたら元も子もないからねぇ」

「それで十分です」

「それなら……これでいいかな?」


 瞬きの後すぐにフックの手に一枚の紙があった。それをテーブルに置いてネムルから順に回して読んでいく。


 特におかしなところはない。シャノンからも大丈夫、とOKのサインが出たので首を縦に振ってからフックに戻す。


「……これで大丈夫だ。もしこれを反故にすれば、反故にした者が他の者へ賠償することと書いてある。ただしこれは冒険者ギルド側がそうするだけで、ネムルやヨーヘイ、ユラにはそのような不利益なものはない」

「さすがだねぇ。大気中に漂う魔力でボク達の魔力印を作るなんてぇ。本当に商人向きだと思うよぉ」


 俺も初めて見たがとても驚いている。


 いきなり封印を解いた時の魔法陣のように、紙に幾重もの紋章が現れたのだから。


 これは悪い方にも転換出来そうだから、フックが悪い人ではないと確信させられる。いや、したらしたでどのような罰を受けるか考えられないから出来ないだろうけど。


 そして紙が光となり全員がそれを纏った時だった。シャノンから一報が入る。


【マスター、緊急事態です! リコが何者かに攫われました!】


 俺はその一言で冒険者ギルドを飛び出した。

休みが欲しい……。土日月で書き溜めて放出出来れば……一日中寝て次の日からバババッと小説を書きたい。……外に出ないで小説を書いていたい。


というわけで次回からは蠱毒戦が開始されます。スタンピードもそうですが、どのようなキャラが出るのかお楽しみに。


次回投稿予定日は9月24日あたりです。次回話のタイトルは「約束のくま人形(仮)」。リコ視点で書く予定ですのでよろしくお願いします。

ブックマークや評価もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ