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1ー2ー5 三下君、チーマー君

早く書けたので投稿させていただきました。

 帰り道、まだ日は上ったままで少しだけ帰るのをやめようかと悩んでしまう。よく考えてみれば久しぶりに充実した一日だったかもしれない。


 微かに香る薬草のようなものをシャノンに教えられむしっていく。いわく後々使えるのだと。なおアロマのようにリラクゼーション効果もあり。火で軽く炙れば寝床の近くに置くだけでバフ効果として睡眠安定や、起床時の体力にプラスの補正がかかるらしい。ちなみに薬豊草という名前で使い方は豊富だが反面手に入れにくいそうだ。俺の幸運が効いてきたな。


 初めて見た時は美しいと思った。聞く前だったので薬豊草の価値を知らなかったが、芳草鮮美とはこのことかと心の中で思うほどに綺麗だ。まあ、七割は取ってしまったのだけれど、すぐに回復するだろうから大丈夫なはずだ。


 帰り道でもゴブリンは現れる。本当に数だけは多い。一応回収しているけどもう百五十は倒しているだろう。ぶっちゃけ会いたくない。


 こればっかりはシャノンでもどうしようもない。今は我慢だ。帰れば優しいエルフの親子が待っている。そう信じて。


 と、考えていたが現実はとても厳しいようだ。お金はあるし討伐依頼も一週間の猶予がある。素材が劣化しないなら明日でもいいか、と宿に戻った瞬間にこれだ。


「おう、兄ちゃん。こんな宿よりいい所を紹介するぜ? 安くて美味くて美女ぞろいの宿屋さ。付いてこねえかい?」


 俺は変な男に絡まれている。


 三下のようなダルダルの服装に髪型はきっちりと固められたリーゼントだ。だが減点だな。「〜っす」と使わない三下などは三下ではない。ただのチーマーだ!

 もちろん、人それぞれの考え方があるしチーマーでも「〜っす」と使った方がキャラが立つだろう。


 それにしても、うーん、安い宿か。ここ以上に良くて安い場所なんてあるのか?


『いえ、ありませんね。客引きのようですがこの宿屋を潰れさせるために雇われているみたいですし』


「絶対に後悔はさせませんぜ」


 思考にふけっている俺を悩んでいると勘違いしたのか、チーマーは俺の肩を揺すって大きく開いた目で見つめてくる。


「……じゃあそこの宿屋は一日いくらかかるのかな?」

「えっと……」

「だからそこの宿屋の値段を聞いているんだ」


 ダメだ、何度聞いてもよくわかっていないような顔をする。言葉が通じないわけではないよな。


『この方は宿屋の金額など知らないようですね』


 マジか、雇っている宿屋の定価すら知らないのか。普通は聞いてから安い安くないとかのメリットを考えるだろ。


「美女ぞろいの、と言っていたが具体的にはどのような雰囲気の人がいる? 場所の立地は? 美味いとはどのような食事が出る? 主人の人格は?」

「ま、まてまて。……そうだな、美人というのは聞いた話だし、美味いというのも庶民からしたらというところだ。人格は……一つの小隊を持つほどの偉い貴族様の部下だ、悪いわけではない」


 はい、答えになっていません。実際、分かっていたことだけどな、やっぱりか。ただ分からないなりにも頑張って説得しようとしているのだろう。


 話をまとめれば相手はお貴族様かな。もしくはその宿屋の主人か。自分の感じた情報はなさそうだし、下っ端も下っ端で尋問も無意味か。


「そうか、じゃあ結果を言うが、俺はこの宿に泊まる」


 なぜだ、というような顔はしていないな。内心分かっていたのか。


「……流石にそうだよな。俺だって依頼の賃金がいいと思ったらこのザマさ。客引きには自信があるがここまで情報がなければ粘ることも粘れん」


 あっ、根はいい奴なのか。にしても話を聞いていないのではなくて、聞かされていないのか。それで他の人に任せるって。


「どこの貴族の部下かは知らないよな」

「知らないな。俺の所に依頼を頼んできた時も小間使いの奴隷だったし、ここの宿屋に泊まりに来た人達を『飛竜の爪』っていう宿に流せと言っていただけなので。ああ、奴隷の割には言葉遣いが荒いとは思ったが、関係はあるのかねぇ」


 期待はしていなかった。最悪は俺が出て潰せばいいだけだし。この街で一番強い人は多分、俺と俺より少し低い人くらいか。あっ、アルフとミラは見ることが出来なかった。ミラの場合、少し強者としての風格があったので弱いわけではないと思う。……ユラとどっこいどっこいか、それ以上か、だろう。ユラ位の力があるのなら鑑定眼を悟られる可能性があるので細かくは見ていない。


「もしかして『流せなかったら潰せ』とは言われていないよな?」

「……言われているけど、ただ、兄ちゃん強いだろ。俺の本能が兄ちゃんに手を出すのだけはやめておけって言っているからな」


 なるほど、今ステータスを見てみたが存外弱くはない。二百近いことからそれなりに努力をしてきたのだろう。三十ちょっとということから才能もありそうだな。


 なによりもこいつこう見えて暗殺術に長けている。望んで殺しをしていないからか、殺人などの称号はないけどこの感じは何回かやっているな。


 称号で殺人や強姦などが出ることがあるが両方とも命じられたことなら付くことがない。強姦もやる時に許可が取られていれば罪として付かないらしいしな。そのせいで無理やり認めさせて、なんてことも多いみたいだけど。つまりはいくらでも抜け穴があるということだ。


 威圧を使ってみる。本気でやれば卒倒するだろうけど弱くやれば耐えるはずだ。


「コクロウ、お前は俺と敵対するか?」

「……しっ、しない」


 肺から無理やり出したような言葉。


 息も絶え絶えで脂汗が地に滴り落ちる。それでも俺から目を離そうとしないのか。普通に凄いな、俺なら逃げると思う。


 やっぱり恐怖となる理由はステータスを見られていることだろう。名前がバレるってことはそういうことだ。偽造とかあることから暗殺を生業としていれば仕方ないのだろうな。


 チーマー君の心の中での呼び方を変えよう。君は今日から三下君だ。


「なら、いいや。次から気をつけてね。踏んだ尾が猛獣じゃないとは限らないのだから」

「……はい?」


 あれ? 俺は何かおかしいことを言っているのか?


『死ぬ覚悟を持って言葉を返したのに予想外の言葉が返ってきて狼狽しているのでしょう。暗殺などをこなしている人からすれば失敗イコール死ですから』

『なるほどな。そういえばなんで暗殺とかもするのに客引きしているんだ?』

『客引きは力がないと自分の命が危ういですからね。それにそれだけでお金を稼げているわけではないのでしょう。ステータス欄に闇ギルド所属と書いているじゃないですか。闇ギルドの何でも屋、と言った所でしょうか』


 ステータスにか。……あっ、あった。小さくて見落としていたけど闇ギルド『蠱毒』所属って書かれているな。蠱毒ってあんまりいい思い出がないのだけど。


『蠱毒の規模ってどのくらいだ?』

『Dランク以上の力を持ち各街に三十人ほどですね。ただし帝国以外では行動していませんし、なによりボスと幹部以外はステータス百〜三百がせいぜいです』


 それって割とすごい事なのではないのか。


 現に勇者君は五百程はあっただろうから、それの半分ほどのステータスがなければ入れないギルド。普通に考えて元のステータスの俺なら入ることが出来ないな。


 さすがの勇者君でも物量には勝てないだろうし。


『この街の闇ギルドと敵対、もしくは潰した時に目をつけられる、よな?』

『そうですね。ただしこの街の蠱毒メンバーはやり過ぎている部分も多いので必ずとは言えませんけど』


 なら極力は敵対したくはないけど、駄目なら潰すか。この街で俺より強い者は少ない。その人達だって冒険者に属する人だしステータスが大きく離れているわけじゃない。


 堂々とポスターのようなもので冒険者を宣伝していた。それに写っているパーティが多分俺より強い人だ。Aランクパーティと書かれていたし。


 手合わせ願いたい、と思ったのは内緒だな。俺は戦闘狂じゃないからそう思われるのは何となく癪だ。ステータスの増強と戦い方を見たいだけだし。


「後、コクロウ君はそういうの向いていないと思うよ。どちらかと言うと正義のヒーローを目指す冒険者かな。転職をオススメするわ」


 三下君はコクリと頷いた。それは了承の合図か、それとも何かを決心したのかは分からないが、それでも死んで欲しくないとは心から感じる。


 優しい奴だな。俺との会話の時に嘘は一度も吐かなかったし、隙あらば殺す、なんてこともしなかった。


「それじゃあ」


 三下君との会話も程々に宿屋の中に入る。


 早く寝るかユラが帰ってくるのを待ちたいし、なにより食事をしたい。帝都を目指しているからこれからの方針についても考えておかないと。




 ◇◇◇




 昨日、ユラは帰宅しなかった。従魔との接続は切れていないので死んだわけでもない。奴隷化とかも除外されるな。


 ただ単に睡眠を取らなくていいアンデッドだから働きまくっている、というような感じなら楽でいいのだけど。


 三下君の件もあるし一概にユラが危険ではないと限らない。


『過保護ですね。帰ってこない娘を心配する父親のようです』


 シャノンにはそんなツッコミを入れられた。


 二人に挨拶してから早めの朝食をとる。今日の朝は重い肉を焼いたものと軽めのサラダだ。それでも脂身などは少なくしているみたいで重くて食べられないということは無かった。


 朝早いということもあって人並みはチラホラといるだけだ。そんな時にユラから着信が入る。


『やっと依頼が済んだ』


 簡単に一文だけだったがそれでも安心した。蠱毒について送っておき冒険者ギルドに入る。インターネットのようなものがあれば宿屋から依頼完了とか出来るのかもしれない。ぶっちゃけ歩きたくないし帰りたい。

 空からお金が降ってくれればと思う。


 この世界でも空は雄大で悠久とも思えるほどの広さと深さがある。そんな場所からお金が降ってくる、確実に起きない事とは言えないだろう。


「あっ、ヨーヘイ様。先程ユラ様が宿にお戻りになりましたよ」

「ああ、ユラから聞いているよ。それで依頼完了の手続きをしたいのだけど」


 リーシャが「少々お待ちください」と奥に通してくれる。奥の素材置き場に諸々を置けばいいので楽といえば楽だけど。


「やっぱり、多かったですか?」

「……ユラ様の主だと思えば納得出来ますけどね」


 ユラから聞いた話では依頼で討伐したのはDランクのブラックウルフとCランクのホワイトウルフらしい。ユラより断然格下だしやられるわけがないことは理解している。


 コボルトの進化系だな。コボルトのような二足歩行の狼になるか、ウルフのような四足歩行の狼になるか、どちらかになる。二足歩行なら攻撃のレパートリーが、四足歩行なら速度重視になるな。


 それを計四十体ずつだから驚かない人の方がいないと思う。


「これでも少なくした方なんですけどね。昨日めんどくさくて途中でやめましたし」

「……もう何も言いません。それで依頼は完了、Fランク依頼を三つ、それも四回のクリアとなり、ゴブリンだけ五回分の達成ですので……Eランク昇格ですね」

「……なんか、すいません」


 大げさにリーシャがため息をついて肩を竦める。処理が面倒なんだろうな。俺には関係の無いことだけど。


 カードを手渡してコボルトならジャックナイフを、ゴブリンならひしゃげた王冠を素材として渡す。後は討伐証明の右耳とスライムスターチも渡しておいた。


 余計にため息が酷くなったけど俺のせいじゃないよね?

次回は9月9日です。用事があるので早めに書けたら投稿します。あー9月って忙しいですね。


もうそろそろでイベントを入れたいですね。エルフイベか冒険者イベか、うーん、悩みます。


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