1ー1ー11あきらめるな! しがみつけ!
ふざけんなこんなに理不尽すぎる差はなんだ。たった一撃で俺は動けないんだぞ。
右手を上げようにも何かに突っかかっているように動かない。無意識に震える体。……そうか。
「俺は……怖いのか……」
初めて感じる恐怖。覆すことすら不可能な差だ。そして明確に迫ってきている死。今までのようなやり直せると思えないほどの大きなどす黒い死。死、死、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。
やばい、何も思いつかない。
俺は調子に乗っていた。ベルフェゴールを倒せば終わりだと。たかだか勇者を倒したくらいで俺は強いと。勘違いをしていた。
甚だしい、そのせいで俺は今死にかけているんだ。自業自得、命の軽い世界では当たり前のことだ。
死ぬのか、一度、生き返れたとして俺はもう一度戦えるのか。……無理だ、怖い怖すぎる。
「あら、もう片方の心は折れてしまったようですね。ベルフェゴール如きを倒して何を調子に乗っていたのでしょうか」
分かる、ベルフェゴールがボコボコにやられているのを。そしてそれでも諦めていないことを。
なんで、そんなことが出来るんだ。
俺もやるしかないのか。やれば生きていられるのか。……いや、出来ない。でも、やらなければ王国にいる皆が殺されるかもしれない。
やるしかないのか。こんな大したことのない力で。……違う、四聖獣の加護は俺が思っているよりも強力だ。ただ俺が怖がって使っていないだけ。
やる……ぞ。死んでもいいから、何度でもやり直していいから戦ってやる。
「限界、突破。力を貸してくれ、模倣昇華」
俺の体は軽い。
そうだ、こうすれば良かったんだ。戦う、俺は誰かのためではなく自分のために戦う。エゴイストで構わない。
「火球」
限界突破のお陰か、いつもよりも多くの大きな火球を作り出せる。大体ステータスの十倍か。……足りるか?
いや、足りなくても勝ってみせる。
「まだ、そんな勇気があったとは。いいでしょう、あなたから殺してあげます」
「死なねえよ!」
なんとか触れられた。いつもよりも限界突破の割合を大きくしたために戦える時間は短いはずだ。せめて十分間、持たせてみせる。
今だけあいつのステータスを貰う。わざとエヴァに吹っ飛ばされてベルフェゴールに触れる。これで二万越えだ。
「っな」
「お前には分からねえだろうな。俺の能力もなんで戦っているかも」
やらなければ皆が死ぬ。
俺が死ぬのはやり直せるけど、ベルフェゴールの時のような、あいつらが死ぬ未来だけは絶対に認めない。
「……分かってくれるよな。朱雀」
不死鳥、そう俺は一度死んだ。
ベルフェゴールの時にだ。もう一度死んでどうするんだ。
誠也兄のように俺は大切なものを守らないといけない。だから敵は殺す。
「飛剣双傷」
エヴァの体を数え切れないほどの傷が犯していく。千、二千、三千と来てようやくエヴァの顔が歪み始めた。
もちろん、攻撃は受けないようにダーインスレイヴでガードをしている。魔法程度なら吸収できるしな。
そしてようやくエヴァを地に落とした。
まだベルフェゴールは起き上がれていないが仕方ない。
「死、ね!」
「……すいません、力足らずでした」
エヴァの諦めた顔を見ながらダーインスレイヴを振り下ろした。ガキンと金属にぶつかるような音、そして、
「それはさせないよ」
仮面を被った何かが俺のダーインスレイヴを手で押さえ込んでいた。そう手でだ。自慢するわけではないが俺のダーインスレイヴは並大抵のものならば切り落としてしまう。それを素手で。
「……グレイ様、申し訳ありません」
「仕方ないよ、相手が悪かった。それにしても大きくなったものだね」
その声には聞き覚えがあった。
忘れたくても忘れられない。俺のせいで死んでしまったあの人の声。
「誠也……兄?」
「ああ、久しぶり」
でも抱きつくことは出来ない。明らかに誠也兄が本物だとしてもエヴァの、敵の仲間だ。油断をすれば殺される。
「せっかくの兄弟水入らずの出会いなのに、ハグもしてくれないんだね」
「うるさい!」
ダーインスレイヴを横に薙ぎ、誠也をぶっ飛ばす。なのに、
「弱いね、洋平は弱くなった」
すぐに立ち上がり俺の目の前に肉薄する。
フルパワーだぞ。二万越えのステータスで思いっきり誠也にぶつけたはずだ。
「本気かい? これでエヴァに勝ったなんて謎だね」
そして俺は地に伏すことになる。
何もされていない。いきなり俺は地に倒れたのだ。エヴァの時のような恐怖ではない。何かが俺を攻撃した。
「洋平も科学で習ったはずだよ。人が生きているのに必要なものを。漫画でもあったじゃないか」
「……酸、素」
誠也は「正解」と親指を立てて俺に見せつける。
「俺は色々なものを操れるんだ。それで女神信者の一の刻、つまりはボスの座を冠しているんだけどね。能力は教えても構わないだろうし、洋平なんかじゃ俺を倒せない」
「なんだよ……そ、れ」
「今回は見逃してあげる。もう女神信者に関わるな。静を幸せにすることだけを考えていればいいのさ」
誠也兄の笑顔は変わらなかった。
それが何とも俺には心地が良くて、そして俺の心を最悪な気持ちへと変えていく。
「こんな出会い方はしたくなかったな。次はいい感じで会おう」
そこで俺の意識が潰えた。
◇◇◇
目が覚めた頃には誠也兄はいなかった。
当たり前のことだがエヴァもいない。俺は誠也兄に見逃されたのだ。
「クソっ!」
地面を思いっきりぶん殴る。
限界突破はもう切れており地面を少し抉らせることしか出来ない。あの大好きだった誠也兄が俺の敵だなんて信じたくなかった。蠱毒なんてものを行わせているなんて信じたくなかった。
誠也兄が生きていて、俺の預かり知らぬ所で悪人に変わり果てていたなんて信じたくなかった。
限界突破明けのせいか、少しふらつくが起き上がりベルフェゴールの元に行く。少しだけ話をしたかった。
「何の用だ」
手足はなくなり、体からは光を放ち始めている。もう死にかけなのは分かりきっていることだった。
「別に……お前は楽しく生きれたのか?」
「ああ、こんな姿を見てそんなことを言うのか。そうだな、俺はこの体になる前は楽しかったと思う」
俺はなんでこんなことを聞いているんだ。
もっと聞きたいことがあるはずだ。あいつらのことや蠱毒のこと、そしてベルフェゴールの生い立ちを。
「……まあ、仕方ねえよ。やりたくてやっていたわけじゃないにしろ、俺がやっていたことは悪だ。人が来れば殺す、それを何十年も続けていたからな」
光が強くなる。
「なあ、お前は死にたいのか?」
「俺は死にたくはないぞ。だからエヴァとだって戦った」
そして手足を失ったのか。
「何がベルフェゴールを突き動かしたんだ?」
「俺にも守りたいものがあったからな。今もあるかは分からないけど」
クスリと老人は口元を綻ばせた。
「まだ生きれるとしたら何がしたい?」
「そうだな、あいつらに会いたいな。俺は生まれ変わるなら自分の血族の中で生まれ変わりたいものだ」
もう胴体までなくなっている。
「それなら俺と来ないか?」
「はっ? お前とか? 悪くねえけど無理だろ。俺はお前を殺そうとしたし、俺ももう死ぬ」
「ああ、でもお前は強い。俺の夢を叶えるためには必要だと思ったからな」
「っは、馬鹿げている。それに出来っこないだろ」
俺はそう聞いて笑ってしまう。
「俺は召喚士だぞ。ステータスの高いだけの召喚士」
「ッツ、嘘だろおい。エヴァは外れと戦って負けたって言うのか?」
召喚士のステータス増加は最悪だ。俺は加護で何とかなっているが普通はレベル百で百台なんて当たり前だ。でも召喚士ならではの利点もある。
「お前が復活するまでは少し時間がかかるだろうけど、それでも生きたいなら、今の世界を見たいなら俺はお前を連れていくぞ」
「……お前、女にモテるだろ。……しゃあねえな、やってやる。ほれ、早くしろ。もう死ぬぞ、俺」
どこまで上から目線なのだろうか。
ちょっと腹が立ったので小突いてから契約を結ぶ。痛がりながらも光となって消えるベルフェゴール。そして、
『これからはよろしく頼むよ』
『……なんで、デュラハンになってるんだよォォォ』
俺の腕には小さな馬に乗った黒騎士がいた。これが退化なのだろうか。
これでダンジョン編は終了です。
召喚士には従魔(黒騎士)って必要だと思ったので出しました。キチンと説明も入れますよ。
イヤホンの話もある程度は書ききったのでこちらの投稿頻度を上げます。次の投稿予定日は8月23日です。よろしくお願いします。(ちょっと前後するかもしれませんが一週間以内には出します)
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