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不死鳥の召喚士  作者: 張田ハリル@スロースタート
序章 力を求めて
32/71

蠱毒と孤独

 ピンポーンとインターホンを鳴らし数秒待つ。いわゆるカメラが付いており中から外の状況が見えるタイプのやつだ。なのですぐにガチャリと音が鳴り扉が開く。

「えっ……ヨーヘイ?」

「……少し話があるんだ、中入ってもいいかな」

 どうぞ、と言う朝倉さんにごめん、と返して中に入る。朝倉さんの家は元いた世界と同じでとても安心出来る。こんな状況じゃなければ泊まりたいと思ったかもしれない。不意に扉が開きこちらの顔貌を見て嬉しそうに近付いてくる人がいた。

「久しぶりじゃないか。誠也君はよく来てくれたのに最近は洋平君が来てくれなくて寂しかったんだぞ」

「……お久しぶりです。……あの……その……」

 ここぞという時に口ごもり勇気の出ない自分を恨む。スーハースーハーと深呼吸を二、三回してキッと眼を開く。

「誠也が死にました。その話をしたくて今日は来た次第です。……詳しい話は後ほど親から来ると思いますが」

 普通の家の広くも狭くもない廊下に俺の声が響く。バタッと倒れ込みそうになる朝倉さんの父を支えて壁に背を付けさせる。

 その物音に反応したのか、台所にいた朝倉さんの母がやって来て何事か、と騒ぎ出す。

「すみません、少し込み入った話をしたいので朝倉……シズさんをお借りします。その話が済んでから簡単に説明をしますので」

 逃げるように早口でそう言葉を継ぐ。それを見て朝倉さんの父は俺の目を見てボソリと、

「洋平君はいつも冷静だな。……そこが誠也君と違うよ」

 と呟いた。聞きたくなかったのに頭がそれを拒否することは出来なかった。

 初めて他人から誠也先輩と区別されたと思う。自分のオリジナルを見つけられたと思う。でもそれがこんな状況じゃなかったら喜べたのに。

 俺は頭を抱えたい気持ちを抑えて素知らぬ体を装って朝倉さんの部屋へ向かう。

 久しぶりに見た朝倉さんの部屋はとても綺麗で可愛い人形などの小物が多く置いてあった。彼女はなんだかんだ言ってまだ中学二年生だ。それこそまだ発達段階、それなのに彼女への不運が襲うんだ。

「……大丈夫か?」

 うん、と力なく答える朝倉さんの顔は見えない。朝倉さんの親と話していた時には何も言わずにボーッとしていた。それを知っているからこそこんな展開は酷だ。

「……とりあえず座ってよ」

 朝倉さんの部屋の真ん中に置かれたテーブルの横に座る。ベッドのところにいつも朝倉さんは座っているためその真ん前に陣取る形で座った。

「それで……なにがあったの」

「今日、誠也先輩と俺で一緒に帰ったんだ。……そしたら途中で信号無視した車が突っ込んで来て……それで……俺を庇って死んだ」

 朝倉さんの息を飲んだ音が聞こえる。細かな点は話せたかわからない。ただ俺と誠也先輩の話はしなかった。

 俺はポケットをガサガサといじってあるものを取り出す。

「え……」

「……俺たちの誠也先輩の形見。……お前にとっては大切なものだろう」

 半分のハートをかたどったネックレスを渡す。これで俺の仕事は終わったはずだ。

「……なんで……そっか、ありがとう。でも多分、それをヨーヘイに渡したのは私に渡すためじゃないと思うの」

 えっ、という俺の声が聞こえる。もう俺の意識と体は切り離されている、そんな感覚が体で感じていた。

「それは私が誠也先輩に渡したのは三人一緒でって意味だったの。……本当は付き合うとか関係無しでこれを渡したかったの」

 朝倉さんは机を漁りだし一つの箱を取り出す。中から少しキラキラと光るハート型のネックレスを出して箱を無造作に机に置いた。

「これが誠也先輩の分だったの。私とヨーヘイが半分のハートを持って完成したハートを誠也先輩が持つ。それでこれからも三人仲良くって。……でももう遅かった」

 涙を流すのを我慢するかのように下を向きうっうっと呻く。

「ずっと誠也先輩が私のことを好きなのは知っていたの。……でも私はヨーヘイが好きで、でもそんな関係を壊したくなかったからあの時告白をしたの。このままだと離れ離れになりそうで。……でもそれは最悪の手段だった。笑ってるつもりでも本当に笑っていない、それを知りながら別れようともしなかった。……だから」

 息継ぎをする余裕もなく早口で言う朝倉さんを見てただ黙っていることしか出来なかった。だがすぐに朝倉さんは二の次を次ぐために口を開く。

「……でも良かったよ。ヨーヘイが無事で。二人ともいなくなってたら私、どうなってたかわからないもん」

 誠也先輩が死んだことを気にしてはいけない、と言いたげにそう言った。俺にはわからなかった。三人離れ離れにしたくないためにいなくなりそうな人と付き合うなんて、好きでもない人と一緒にいるなんて。

 そうか、だからなんだ。誠也先輩がその後すぐに俺にごめん、と謝ったのは。俺はなんのために今生きているのだろうか。

 心を埋め尽くす虚無に身を委ねたかった。もう楽になりたかった。前の世界では体験することのなかった話。これがもし本当に、本当にあっちの世界でも起こったことなら俺は……。

 俺はバタンと扉を開けて外へ出ようとした。それはすべてから逃げたかったからかもしれない。悲しい、そんな簡単な言葉で今の自分を表されたくない。

 それを見て驚く朝倉さんの親を無視して外へ出た。靴を履くのに手間取ったためか朝倉さんに手を掴まれて待って、と言われ立ち止まる。だが俺はすぐに口を開き、

「お前は……俺の元にいるべきじゃない」

 そう言って俺は朝倉さんの手を振りほどき走り去った。中学生だからか走る速度は遅い。それでも男女の違いも含めて朝倉さんが追いつけるわけがないだろう。

 あいつには誠也先輩がいる。俺なんかが近付くべきじゃない。

 わかってたんだ、朝倉さんが俺のことを気にかけていた理由が。

 俺は誠也先輩の……いや、金倉誠也の代わりだって。そして誠也兄は逆に自分を俺の代わりだと考えていた。似たもの兄弟もいいところだ。

 昔から朝倉さんのことを俺は好きだった。だからこそ俺が手を出すべきではない。そうして俺は停滞を望んでいた。

 ……あれ、おかしいな。わかっていたはずなのに、

「なんで……こんなに……涙が出るんだよぉ」

 頬をつたう二筋の涙。俺は怖かったんだ。これから一緒になったとしてシズの目の前にいる俺は誠也兄じゃない。俺らが好きだった人にはなれない。そしてそれを考えている俺はもはや金倉洋平ではない。金倉誠也でも金倉洋平でもない俺はシズたちと一緒にいる価値はない。

 そうだろ。


「誠也……兄……」

 俺はもう人には戻れない。手に持つダーインスレイヴが俺の姿を反射して見たくもない現実を露見させる。

「……」

 少し悲しそうな笑顔を浮かべるベルフェゴール。俺を心配して見つめてくる少女たちを見て殺意を覚える。

 汚い世界を知らない少女にそれを教え汚くさせる。そんな愉悦感に浸りたいがための感情。

「……蠱毒を完成させるのです。あなたをあなたとさせるために……」

「甘ったれんな」

 俺の腹に朝倉さんの拳がのめり込む。不思議と痛みはない。これが……気分が悪い。

「……静……誠也……誠也……また、救えない」

「それなら一度死にたまえ。君の嫌ったことだ。停滞、それを甘んじる君は本当に君かい?」

 俺の首にアルの斬撃が入る。だが傷一つ付かない。……具合が悪い。頭が痛い。気持ち悪い。

 まるで俺が俺じゃないようだ。

「生徒を守るのが教師の役目です」

 俺の拳を京香先生の結界が止める。

「俺が死ねばよかったんだ。そうすれば周りは幸せなままで」

 俺の心からの本音が漏れる。

「それは幸せじゃないです。ヨーヘイ様。まだ貴方様から寵愛を頂いていないのですよ」

 結界から攻撃を仕掛けてくるサーシャ。とても愛おしいのにもう触れることすら出来ない。

 俺はもう、自分の意思で体を動かせないのだから。

「……俺は……死にたい」

「本当にかい? 本音を言いな」

 俺の腕を切り落とすアル。

「誠也兄が言っていたのはそんなことじゃないよ。最後まで私たちのことを」

「知った口を聞くな。俺は誠也兄とは違う。俺は落ちこぼれだ。わかってたんだよ、外れとして選ばれる理由も何もかも」

「もしそうならなんで君を助けたいと思う人がいる? なんで君は戦えている? 馬鹿な僕にも教えてくれたまえよ」

「わかるわけがないだろ!」

 俺の攻撃がアルに届く。腹から出血をしながらもこちらに向かってくる、少女を見て下卑た笑みを浮かべながら対峙する。

 ああ、これが俺の本質だったのか。

「あなたは油断をしすぎなのですよ」

 後に回ってきていたベルフェゴールの攻撃が俺の腹にめり込む。

 もうその表情は先程までのものとは違う。なにかに乗り移られているようにも見える。

「ヨーヘイ、ここまでされてもあいつの味方でいるつもり?」

 ハッと朝倉さんの言葉を嘲笑うベルフェゴール。

「無駄ですよ、支配されている限り彼の意志で戦っているわけではありません」

「うるさい……両方ともうるさい!」

 俺はただやり直したいんだ。なにもかも。過去だけじゃない全ての関係を断ち切りたい。そのためのチャンスを、やり直す機会が欲しい。

「あなたの方がうるさいですよ」

 俺の腹はベルフェゴールにより貫かれ目の前に鮮血が飛び散る。まだ意識は保てている。だから俺の目に残酷な光景が映っていることにも気付いている。地に伏せ倒れ込む四人、重ねられ一つの山のようにされそこら辺一帯は血の海となっていた。

「蠱毒が完成した今、あなたはもう不必要です」

 人とは違う姿の俺もその山に加われるのか、と少し喜びながら俺は右肩をベルフェゴールに飛ばされた。痛みから瞳を閉じる、だがすぐに視界が開ける。

「これが孤独なのです。一人は寂しいですよね。でも安心してください、あなたの体の中にこの少女たちがいますよ」

 俺の目を無理やりこじ開け、笑いながらベルフェゴールは朝倉さんの体を俺の方に向ける。

「あなたの姿は偽物です。だから本当の姿を現しなさい」

 俺の目の前で朝倉さんの細い腕を握り潰しその血液を俺の口内へと放り込む。甘美な感覚だ、ずっとこの状態を味わっていたいような、そんな感覚。朝倉さんたちは死んでいるのだろう。手を潰されても悲鳴の一つあげやしない。

「おや、おやおや。あなた悦に浸っていますね。非常に汚い顔をしていますよ。果てさてあなたが本当に守りたかったものはなんなのでしょうか」

 ベルフェゴールは次にサーシャの体を持ってきて俺の目の前に持ってくる。

「喰らいなさい、そしてその汚い顔を周知させるのです。もうあなたは戻れませんよ。あなたがあなたを嫌った理由はなにものでもない。そう何者にもなりたくて、なりたくない。そんな感情があなたを生かしていたのですよ」

 無我夢中でサーシャの小さな体を頬張る。もはや味の区別などない。ただ満たされた気持ちのままで朝倉さんの残った体を、京香先生、アルとその遺体を食らっていく。

 不意に響く甲高い音。その不快さに耳を閉じるがそれをさせようとしないベルフェゴール。両手は抑えられ俺の耳元で語り始める。

「それが蠱毒なのです。仲間を殺しその体を破壊していく。愛も友情もなにもかもが無駄。それを知ってしまったのです。……もう、楽になってくれ」

 俺の首に手を当てギリギリと締め上げていく。痛みや苦しみはもうない。そんなのはとっくに過ぎていた。

 そうして俺はベルフェゴールの手によって命を落とした。ベルフェゴールの頬を小さく流れる一雫の涙を見ながら。

という訳で序章終了です。次回から第一章が始まります。序章なのに長くしてすいません。


これからもよろしくお願いします。出来ればブックマークや評価等もよろしくお願いします。


まだ書き立てですがこちらもよろしくお願いします。

『異世界最強武器はイヤホンのようです』

https://ncode.syosetu.com/n1222es/

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