奇跡も魔法もないんだよ
二人が近くから消えた俺は一瞬でぼっちへと早変わりした。俺の気持ちを知らないでかいつも一緒に帰ろう、と誘ってくる二人。
こんな言葉を知っているだろうか、不適切な治療法は毒であると。二人のその優しさが今は俺の心を締め付ける。
二人にバレないように隠れて帰り誰とも会わないためにすぐに眠りにつく。今日も二人でイチャイチャしてると思えば俺の心は壊れてしまいそうなほど痛い。
三日目を過ぎたあたりで周りが暗転する。暗闇の中でゴキブリのように早く動き回る人たち。不意にパチンと音が鳴り学校へと飛ばされた。
黒板の日付では一年が過ぎていた。シズを近くに置かないで有無を言わさず俺と帰ろうとする誠也先輩がいた。こんなことは俺が生きた中では起こらなかった。
「帰るぞ、洋平。たまには一緒に帰ろうや」
なにかを決心したようなその顔に俺は嫌だ、とは言えなかった。帰り道で淡々と今のクラスはどうか、とか友達とかの話を聞いてくる。自分とシズの話をしないあたり俺に気を使っているのだろう。赤信号に変わったのを気にそれを誠也先輩に聞くと
「それで何を言いたくてこんなことをしたんだ」
俺の言葉に頭を俯かせる誠也先輩。あのな、と誠也先輩は続けた。
「シズは本当はずっとお前のことが好きだったんだぞ」
「嘘だね。もっといい嘘はつけなかったの」
「そう卑屈になるな。お前がキチンと対応しなかったのが悪いんだぞ。……お前のことで相談を受けている間に好意を持たれていたみたいだ」
だからこそと誠也先輩は話を続ける。
「俺は、シズと別れようと思う」
意を決したような瞳を俺に向ける。俺の気持ちは複雑だった。まるでコーヒーの溶けきらない砂糖とミルクのザラザラ感が舌に残る感じ、それが消えることはない。
「俺はシズがまだ洋平のことを好きなのを知ってしまった。そしてシズが俺に告白したことで大切な関係も壊してしまったことも悔やんでいた。あいつは元に戻したいのさ」
青信号に変わり二人で横断歩道を渡る。それを合図に先に渡り出す誠也先輩。俺は後ろをついていくことしか出来ずただその背中を見ていた。
そんなさなか、キキーという車のブレーキ音が聞こえたかと思うと俺の視界は暗転した。ぐしゃと聞こえてはいけない音が目の前で聞こえ顔に生暖かい水が滴る。
「……大丈夫……か」
「……なんで……助けたんだよ」
外ではブルルとまたエンジンをかける音が聞こえる。多分俺らを轢いた車の運転手は逃げ出したのだろう。だがそれよりも大切なことは目の前のことだ。
「なんで……俺を助けたんだ。誠也!」
「はは、お前が……一番わかってんだろ」
力なく笑い俺に心配をかけさせまいとする。こんな時にまだ優しい誠也先輩が嫌いだ。
「……悪い、こんなことで……死ぬなんてな」
「喋る……なよ。……死にたいのか」
そんなわけないだろ、と力なく笑う誠也。
「……ごめん、誠也がこうやって死ぬことはわかってたんだ。……でも、俺はいつまでもガキだ。好きな子を取られたくないっていう嫉妬心でこんな結果になっちゃったんだから」
「……はっ、お前は悪くねえよ。俺のドジから起きたことさ。……それでもお前が死ななくてよかったよ」
次第に小さくなってくる誠也の呼吸に苛立ちを覚える。生きることを諦めた誠也の声。
嫌だ、死んで欲しくない。そうだ、魔法魔法があれば、
「回復……回復回復回復回復回復回復回復回復回復回復……頼むよ、誠也を救わせてくれよ。……俺の大切な大切な人なんだよ」
俺の魔法は届かない。この世界には奇跡なんて言葉はない。壊れた世界に汚い世界に生きていくためには人を欺かなければいけない。
それを知った時だった。
「僻みだってわかってたんだ。それでも二人とも好きだった。……シズの気持ちを知りながら俺は……」
「……大丈夫さ、最後はお前を守ることが出来た。……俺は幸せものさ。静、洋平。……愛してる。これからは二人で」
言いながら渡してきたのはシズと誠也を繋ぎ止めるハートのネックレス。
「……届けなきゃ……朝倉……さんにこのネックレスを」
もう俺たちは戻れない。
誠也先輩の遺体を救急車が運んでいく。俺は同席する形を取れなかったが事情聴取のために同じ病院まで運ばれた。
病院ではまだ助かるかもしれないと躍起になる医師たちに対して警察は無気力だ。見慣れた光景なのだろう。握りこぶしを作りぐっと力が入る。
「それで君たちを轢いた車だけど、捕まったよ。教師だったらしい」
そんな言葉を聞き流し俺はただ誠也先輩がいなくなってしまう、そんな感情に支配されていた。
ここだけは変えられなかったようだ。誠也先輩が死んでしまうということは。俺が暮らした環境下では朝倉さんとの帰り道の最中に誠也先輩が車に轢かれた。それも同じ教師。
因果律なんて言葉は知らないがそれが起こるのは確定事項だったのだろう。そしてその場に居合わせたのが俺か朝倉さんかの違いだったのだろう。
俺は事情聴取という時間の無駄が終わってすぐに朝倉さんの家へ向かう。ただ誠也先輩のネックレスを渡すために、あの時途中で引き返した朝倉静の家へと。
いよいよ序章の終盤に差し掛かってきました。このあともお楽しみに。
と言いたいところですがモチベーションが上がりません。いと眠たし(´-ω-`)
後、ネタはあるのにそこまでが遠い……不穏な風が吹いているぜ(キラーン)
これからもよろしくお願いします。出来ればブックマークや評価等もよろしくお願いします。
※次の次くらいでタイトルの理由が出てきます。不死鳥らしい能力?にしますのでお楽しみに(二回目)




