君死にたまふことなかれ、と皆思いけり
今、アルの攻撃がキメラに入ったが大したダメージは与えていない。と考えればアルの攻撃にはなくて俺の攻撃にはあるものがダメージを与えたってことだ。
普通の剣にはなくてダーインスレイヴにはあるもの……、
「回復の力か!」
俺は付与術で回復魔法をダーインスレイヴに付ける。確かに攻撃はとても通りやすくなった。今まで岩を切っていたとすれば紙のように薄いものへと変化した気がする。
アルはそれを見ていたからか簡易な回復魔法のようなものをかけダメージを与えていく。ステータスが高いとはいえ知能はないため行動は単調。それこそゴブリンと何ら変わらない。なにかモーションを起こしたあとに大振りの攻撃を仕掛けてくる。
最初は前足で攻撃。踏んでくる、だけでなく横に振ったりもするためバックステップだけではかわしきれない。
そこをアルが斬撃でなんとかカバーしてくれ俺たちに怪我はない。……が、
「このままじゃジリ貧か」
未来を変えられるとするならアルだけでも。
だがそんな淡い期待すら壊そうとするキメラ。雄叫びをあげたかと思うとアルに向かって咆哮を放った。
ベルセルクによってステータスだけをとても上げていたため、アルはかすり傷で済んだがそれでも傷付いた。
単調と侮りすぎていたためこのようなことになってしまった。今まで格上とは戦わなかった。もし俺がアルの立場だったらあのようにかわせただろうか。
足が震える。それでも逃げられない。そんな現実だけが俺の心を攻撃する。
俺は心のどこかでまだ死なないと思っていたのかもしれない。安心安全を誇りにする国で学生というまだ社会を知らない存在。本当の理不尽を味わったことは無かったのかもしれない。
それでも、
「死ぬわけにはいかないんだよ」
剣を振ることを止めない。止めれば死ぬのは確実。それも俺だけではなくてアルもだ。
そんな時だった。光明が見え始めたのは。
「みんなを逃がしたよ、範囲回復」
体力よりスタミナの方が尽きかけていた時にかけられたのはシズの回復魔法だった。よく見ればサーシャと京香先生もいる。
「すみません、ヨーヘイ様を殺させるわけにはいきません」
サーシャの剣がキメラにぶつかる。俺がキメラの溶けた部分にあて肉に戻した場所だ。
「……ごめん、行くよ。京香先生は後方でシズの護衛。サーシャは中衛に立って後ろを警戒しながら攻撃。アルは俺とともにキメラの気を引く」
これが最善策のように感じた。アルもうんうん、と頷いているのでミスではないだろう。今の三人に何を言っても押し問答になるのは確定。ならヘイトを稼ぎながら上手く戦ってもらうしかない。
シズの回復がキメラに襲いのたうち回る。シズの方を向き咆哮を放とうとするがそれをアルは許さない。
「こっちだよ、おバカさん」
少しカッコつけながら全長五メートル程のキメラの頭に乗る。そこで剣を頭に突き立て溶けてない場所を蹴って地に戻る。
アルに気がむいている間に俺は攻撃回数の多いキメラの右前足の部分を切る。俺が集中的に切っているためもはや普通の虎のそれと変わらない。
「セイクリッドソード!」
白い光が攻撃するはずだったが現れたのは真っ黒い血のような光線が飛ぶ。血を与えきったのだろう。振るたびに斬撃が飛ぶようになりキメラの右前足を切り刻む。少しよろめき始めたキメラを見て勝機を悟る。
もはや動きは遅くなった。それでもまだ死ぬ気はないようだ。
「アル! 三人の護衛。少し俺が一対一で時間を稼ぐ。アルの剣にサーシャの回復魔法をかけてもらって。サーシャたちは後に下がる」
その通りに行動をしていくのを見計らって俺は穴の位置を確認する。キメラのすぐ後ろ。
騙してごめん、と謝りながらキメラをダーインスレイヴの腹でぶっ叩く。あまり吹っ飛ばなかったがそれでもあともう少しだ。
「セイクリッドソード!」
もう最後だろう。弱々しいが威力の変わらない真っ黒い光線がキメラを穴まで吹き飛ばす。
予想通り前足で踏ん張るキメラを突き刺していく。右前足が離れもう落ちかけている時だった。
もう片方の前足を突如離し俺の体を掴んで穴を落ちていく。これで未来は変わった。アルたちは王国に戻って、
「君だけを殺させはしない。何を考えているんだい」
アルの空中での斬撃がキメラの左前足にダメージを与え、キメラは俺を手放す。長い爪のせいか俺の腹は掻っ切られていた。
それを無言でアルの背中に背負われたシズが治していく。
「みんな、ヨーヘイ君といっしょにいたいんですよ」
なぜかいる京香先生に笑いながら地の底へ落ちていった。そこの見えない穴。キメラは重いからかもう落ちきったのだろう。目に見える場所にはいない。
いや重いからと言って早く落ちるなんてことはない。そんなの迷信だ。
「気付きましたか、先生の本当の力はこれなんですよ」
多分、京香先生の模倣は失敗していたのだろう。でも京香先生から手に入れていたスキルはわかっている。
「……落下速度を操る力でも持ってるんですか」
「違うよ、これは結界術。結界を周りに張って中の落ちる速度を調節してるの」
京香先生から得たのは偽造。京香先生はずっと結界術を隠していたのだ。
先生曰く結界の中は自由に物事を決めれるらしい。それを利用して小さな範囲だがチートの力を行使している。
不意に足に何かがぶつかる。少しそこが見え始めてきた時だ。
「ここからは階段を作るのでそれを降りてください。流石に先生も限界です」
ふふふ、と笑う京香先生にみんなでありがとう、と感謝の言葉を述べ歩き出す。
地に足が着いた時だった。周りの暗闇の松明に火が灯り始める。最初は近くからだんだん一つの道を明るくしていく。そこの真ん中に立てられた看板。
「イズのダンジョンの特徴。ここではレベルやステータスの概念はありません。レベルアップはせず魔物も挑戦者全員のステータスも均一になります。使用できるのはスキルや持っている道具のみです、か」
俺は薄らと笑う。わからないけどこれから地獄が待っているようにしか思えなかった。
次回からイズのダンジョン突入します。ここでヨーヘイの他の四聖獣の加護も開放されるためお楽しみに。それによってタイトルの理由を知るでしょう。
疑問に思う方もいるため書かせていただきますがキメラの最期です。これから中身でも触れますが今回現れたキメラは人工生物で死んですぐ溶けて無くなっています。
これからもよろしくお願いします。出来ればブックマークや評価等もよろしくお願いします。(´>∀<`)ゝ
※少し早すぎる展開のため後で書き足しをする場合がございます。そうなった場合星マークを付けさせていただきます。




