序章ー1 プロローグ
七月の末、初夏の日差しが長くなった頃だ。日差しが長いということは、そのぶん今日のようなマラソン大会は地獄でしかない。それがわかってるからか俺も含めた登校中の男子は顔色が良くない。
こんな時に鳥のように空を飛べたならどれだけ気が楽か。雄大な空をプカプカと浮かぶ船のような存在に俺はなりたい。
「早く! 校内に入れ!」
口煩い生徒指導の教師、三沢の言葉を聞き流しながら俺は下駄箱の中の靴をひっくり返した。
カランカランと音を立てて落ちていく三つの画鋲。それを拾い靴を履いて近くのプリントが貼られている場所に刺す。
いつからだろうか、ここまで他人と関わりを持たなくなったのは。
教室に入っても俺に気付くものは誰もいない。それでいいとさえ思っているが、それを気にせず話しかけてくる強者もいる。
「洋平君、今日もギリギリの登校だね」
朝倉静、クラス内で一番可愛いとされる少女だ。昔から家が近くなので話しかけてくれるのだろうけどそのせいでよりほかの男子からの仕打ちも酷い。
だからこそ無難な無視をしているのだがそれも限度がある。そうしてしまえばすれば俺を睨む人がより多くなるだろう。めんどくさいことこの上ないな。
「はぁ、そうですね。俺に話しかけないでもらえますか。俺は寝たいんです」
「そっ……そっか。ごめんね」
静の泣きそうな顔を見ながら俺は眠りにつこうとする。だが、
「おい、金倉。お前、静さんに話しかけられてさっきの態度はなんだ。土下座しろよ」
黒縁眼鏡をかけた生徒会長、水木誠吾の声がクラスに響く。確かこいつは朝倉さんに告白して振られたんだったな。顔は綺麗なのになぜこんな冴えないやつを目の敵にするのやら。
「八つ当たりでそういうのはいけないと思いますけど。まあ興味もないですし、それに」
こんな奴には興味がない。それを言う前に俺は顔面をぶん殴られた。
俺は別にやり返そうとはしない。されるがままだ。それはやり返せば寄ってたかって俺を殴ってくるのが目に見えている。それならば一人からやられた方が吉だ。
「やめなさい、何があったっていうの」
担任の清水京香先生が入ってくるが俺は答える気がない。それを悲しげに見てくる京香先生を無視してまた椅子に座った。
俺をずっと殴っていた水木は忌々しげに俺を睨んでいたが。
いやこいつだけじゃないな。クラスの男子が十六人いる中で半分は睨んできているか。もう半分は助けたくても助けられない、ってところだ。
このままでもいいと思っているし俺を助けられる人などいるわけがない。それは水木の両親も関係してくるし、なによりあいつを敵に回す人はいないだろう。
「先生、私が代わりに言います」
朝倉さんが京香先生にことのあらましを話す。まあ水木は立場が悪いよな。なにせ生徒会長だから。
こうやって表沙汰になるのは初めてかもしれない。そんな呑気なことを考えていた時だった。
俺がいる教室の地面が鈍く光り始めた。それに気付いた人は俺以外にいなかった。
瞬間、目を焼き尽くすかのような光で目を閉じた俺が開き始めると見えたものは俺達が来たことを喜ぶ多数のローブを纏った人たちだった。
見切り発車でありきたりな内容ですがどうぞ宜しくお願いします。