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※これはゲームです。  作者: 千葉 こまつ
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『オペラグラス』

 清尾のマンションは職場からほどなく離れた高級マンションの一室で、通勤の電車からはいつもあそこなら隅田川の花火がよく見えるだろうとぼんやり眺めていた場所だった。

 同期の給料の額面が空恐ろしくなったが、それは当人からの親父が愛人を入れる予定だった部屋と聞いて苦笑いとなった。


 そこは最上階のペナントハウス!・・・ではなくひとつ下の階の、それでも景色は極上のマンションで、こんなマンション持ってる清尾をモノに出来なかった今までの彼女達はそれこそ大いに残念だろう。


「何拝んでるのさ」

「いや、まさか生きてるうちにこんな100万ドルの夜景がお目にかかれるとは」

「3日で飽きるけどね、どうぞ」


さんきゅーと言いながら清尾の用意したシャンパングラスを受けとる。先に風呂に入らせて貰ってほかほかの体に良く冷えたシャンパンを持たされると思わず喉がなる。


「じゃ、俺の失恋に」

「クソな上司にw」

『カンパーイ!!』


くっはー!たまらん!と乾いた喉に冷えた辛口のシャンパンが流れ込んでいき、胃まで到達する。

その感触をじんわりと味わうと、嫌でも自分が空腹だった事を思い出される。

今シチュー温めるねー!とキッチンに居る清尾から声をかけてもらうととたんにいい香りが鼻をくすぐる。

メニューは霜降が適度に入った牛肉のカルパッチョとどうみても皮がパリパリのローストチキン、じっくり煮込んだであろう艶が眩しいビーフシチューと。男子の用意したクリスマスディナーらしく肉肉しいメニューだ、しかしそれはどれも美味しく酒が進んだ。


「これで、あしたが、やすみなら、さいこうなのにな」


シャンパン、ビール、ワイン、ビール、シャンパンとちゃんぽんの限りを尽くした辺りで酒がつきたが、愚痴は尽きない。


「雪やまないし、明日は電車止まるかもね」


酒は飲んでも飲まれない清尾は淡々と語る、そこに清尾の携帯が着信をつげるバイブレーションを鳴らす。

ちょっとごめんと着信名を見た清尾は廊下に出ていき会話をしているようだったが、長電話にはならずすぐ戻ってきた。


「なんか、明日全社休暇取得日にするって、うちの課の課長から」

「なぁぁぁーーにぃぃぃーーーー??」


なんでなんでと清尾の胸ぐらを掴み自分の課には連絡がないのか、どうして上司が無能なのか、なんで地球が回るのかとくだをまいていると自分の携帯も鳴った。

どうせ自分の課は出動なのだろう、清尾は休みで自分は雪掻きでもしろと言うのだろうと乱暴に携帯のロックを外し着信したメールを見てみると、上司が恐らく苦虫を噛み締めながら書いたであろう『我が課も休暇取得日とする』という一文が煌めいていた。


「あ、あしたが休暇ということは」キラキラ

「年明けまであの無能の顔を見なくていいってことか!!」キラキラ


有給取得のノルマがある我が会社は取引先の都合で担当の課の有給取得日が半ば決まっている。必然的に同じ取引先を相手にしている課の人間は火急の案件が無い限り休暇の日程が同じになる。

うちの課は今日の(日付的には昨日)クレームは片付き、始末書の提出で終了となっている。

クレーム対応自体は終了し、火急の案件は、ないのだ。

そして、25日から27日までは有給取得日、28日からは全社年末休み、年明けは1月9日が仕事初めとなる。


「こっ、これは天が我に与え給う、ここ十年で一番嬉しいくりすます、いや誕生日プレゼントでは!」

「え、誕生日なの?」

「そうだよ、たんじょうびだよ、さっき30になったよ」

「まじか」


若い頃は30なんてオッサン、オバサンだろうと思っていたものがこうしてなってみると実に実感が湧かない。毎年クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントが同一の意味を持ち、子供ながらに損をしている実感があった幼少期はこんな日に生んでくれた自分の両親を恨んだもんだ。

さて、と席をたち玄関から件の紙袋を持ってきた清尾は着々とゲーム機の準備を始める。


「ま、あしたも明後日も休みだと安心できたところで、始めようか!」

「おー!やるぞー!今夜は寝かさないぞ~!!ぐへへ!」


さきほど会社のオフィスで眺めたサングラス型のデバイスを手渡し、携帯に繋げるよう促す。

最近のゲームは良くわからんなぁとオッサン臭さを出していきつつ促されるまま繋いだ携帯でゲームをインストールしていく。

なんでも携帯からモバイルネットワークやマップデータにアクセスし、このサングラス型のデバイスでVRを体験出来るもので、名前を

『オペラグラス』というらしい。


「インストールできた?そしたらグラスをかけて、横になって?」

「おー」


じゃスタートするよ、と携帯をタップする感触が手に伝わると、回りの景色がホワイトアウトしていく。

なんだか遠くで清尾が何か言ってる気がする、スタート、地点で、待ってて、

おー、わかった、わかった、と右手を上げようとしたがその意識は手には伝わらなかった。

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