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※これはゲームです。  作者: 千葉 こまつ
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1.プロローグ

1.プロローグ


午前0時を回った。

世間はクリスマスだというのに今日もこうして残業をしている自分の立場を呪う。


取引先からのクレームで部下の責任を取らされ、矢面に立たされ、役に立たない上司の小言を聞かされ。

始末書を明日の朝礼までに用意をしておけと言われたのが午後22時、家まで帰る終電はとっくに終わった。


「そりゃ、こんな会社みんな辞めるわけさ」


誰もいないオフィスで大きめの独り言を呟き、もとい吐き出し、鍵付きの引き出しに閉まってあったタバコを取りだし火をつける。


「禁煙記録も2週間で終了か・・・」


特にオフィスが禁煙というわけでもないが、くだらない上司の鶴の一声で二週間前からウチのチームは仕事時間中の禁煙が始まった、全く自分の禁煙に部下を巻き込むな。

首を回し肩の疲れの溜まり方に年を感じる、そりゃもうすぐ30だ、運動能力的にも肉体的にもそろそろ下降傾向が強くなってくる頃合いだろう。こんな日には家に帰ってバスタブにお湯を張ってちょいとお高めな入浴剤を多目に入れて、風呂上がりのビールと洒落込みたい所だが、生憎自宅は都内から遠く離れた千葉の田舎に売れ残りのマンションを買ってしまったが為に、ここ都内からの終電は早めに終わってしまう。

何度もいうが今日はクリスマスだ、世間一般のカップルたちで近隣のホテルは埋まっており、忌々しい雪のせいでカプセルホテルも帰宅難民で埋まっている。明日の出勤に備えてYシャツや下着はオフィスの下にあるコンビニで揃えたが


「なんでこんな年にもなって会社でオールなぞしなけりゃならんのだ・・・」


ため息混じりに2本目のタバコを手に取る。

オフィスは普段は100名前後が活動しており、デスクワークに追われて始業時間よりも二時間も早く来る者も居れば、担当が現場に大声で檄を飛ばす電話をしていたり、終電まであと2時間しかないのに1時間半説教をしてから始末書を書けと言う、無駄の多いブラックな会社だ。


同期は一人を残して全員辞めた、新卒で入った頃には30人は居たハズなのだが、残念ではなくこんな会社に早々に見切りをつけて辞めていった利口な考えを持ったやつらだと思う。

なんであっち側に行かなかったのか、それは入社翌年に着いた後輩が気の毒だったからだ。自分と同じ目に合わすまいと、後輩をフォローし、上司の無茶からの壁になり、気づけば給料だけは良くなった。これが俗に言うホンモノのブラックなら給料すら上がらないのだろう。

残った同期のヤツも飲み会の時に「なんでお前も残ってるの?」と聞いてみた事があるが、ヤツも同じような理由らしい。


「アイツは今日確か女に会うとか言ってたなぁ、無駄に顔がいいとこういう日は忙しいんだろうなぁ」

「そんなことねーよ」


声に驚いて咥えたタバコを床に落とす


「あっぶ、あっぶねぇじゃねぇか!!脅かすなよ!!」

「いやいや、人がさみしーく残業して終電逃した可哀想な同期に差し入れを持ってきたのに、独り言を呟いていると思えば自分の悪口じゃあねぇ、脅かしたくもなりますよ。」


同期の清尾樹「せおいつき」は自分と同じ会社の広報部に属しており、自分の居る企画営業部とはオフィスの階も違い、なぜここに居るのかハッキリ言って謎だ。


「お前、彼女と会うんじゃなかったっけ?」

「え?あぁ、さっき別れたんだ。」


呆気にとられた顔をした自分に清尾は続けて


「いや、今夜はオレの自宅で手作りディナーをサプライズで用意してたんだけど、クリスマスの予定空けとかせて当日までプランも何もないのか!って朝イチで彼女にキレられちゃってさ、何も言わずに仕事終わったら俺の家に来てって言ったら、来た瞬間玄関で『アンタみたいな初めてのクリスマスに何も用意してない男なんてサイテー!!』って言われて泣かれた。」

「んで?」

「面倒臭くなっちゃってその場で別れた。」

「おま、そこは実はって言って部屋のなかに招き入れりゃ良かっただけじゃん?」

「それはねー、なんでそこで泣くかなーって思ったら彼女のすべてが面倒臭く見えちゃってさ、向こうから告白してきたのを良しとして付き合ったのに何で相手の事を信じられないかなぁって」

「はぁ・・・ほんとお前って勿体ないな」


入社した当初から先輩、同期、後輩、他社、社内、知人、他人の垣根を越えて人気の清尾は浮いた話が浮いた瞬間にすぐ消える。

本人曰く「みんな俺の事好きって言うわりに、俺の事好きな自分が好きみたいな所多くて」困った女性にまとわり付かれる事が多いそうだ。本当に顔と性格が良くても勿体ないやつだ、早く誰かこいつを幸せにしてやってくれないものかと近頃常々思う。


「で?なんでここに居るのさ」

「気晴らしに世間のクリスマスを覗きに行こうと思って電気屋の前を通りかかったらさ、これが売ってて」

「サングラス??」

「違うよ、ゲーム機」


へーと言いながら手にとって上下左右から見てみると


「ところで始末書は終わったんでしょ?終電を逃してしまった可哀想な馬車馬ならぬトナカイさんにプレゼントなんだけど、うちで冷めたディナー食べて一緒にこれやらない?」

「それいただき!ところで、おまえんちビールある?」

「もちろん!シャンパンもあるよ!」

「まじかぁ、風呂も借りていいよな?!」

「え、入るの?」

「当たり前だろ!一日の疲れをぜーんぶリセットしなきゃ最高のビール飲めないだろが!!」


デスクの上の始末書を引き出しにしまい早々にコートを羽織り帰り支度を済ませ、泊まり用に用意したコンビニの袋を片手に清尾を追いたてる。


「あ、そうだ今日やるゲーム?ってなんて言うの?」

「前に俺がやってるって言ってたやつだよ」

「なんか現実みたいって言ってた?」

「そうそう」

「タイトルは?」

「borderって言うんだよ。」

「ジャンルは?」

「ロールプレイングだけど、実際やったら驚くよ」

「そうなのか!楽しみだな、ゲームなんて何年ぶりだろう!」


そうしてオフィスを出た二人は連れだって下りのエレベーターに乗り込むのだった。


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