クラス会の通知が来た
年末年始休暇中に、この物語を重点的に書きます。
雄二です。
7月下旬のある土曜日である。
菅野家と島田家の合同食事会が、今度は島田家で開催された。
俺は土日の一泊二日の日程で神奈川に帰ってきた。
食事会と言っても、みんな酒を飲むから、大騒ぎになる。
つまり宴会だ。
前回と同様、俺は、葵の隣に座るように勧められた。
もう定番の席だ。
まあ、俺も葵の隣に座る方が話が弾む。
最近では、二人の共通ネタになる名古屋の話で盛り上がる。
ある程度酔っぱらってきたころ、俺の母親のみずきが葵の母親の椿さんに声をかける。
「なんか、葵ちゃん、またきれいになったわね。ふふふ。モテるんでしょう?
雄二が油断していると、誰かに取られちゃうかも。
私、心配になってきた。」
「私もそう思うの。ちょっときれいになったと思う。
きっと雄二君と仲良くしているからだと思う。
葵の件は心配しないで。
大丈夫。我が家としては、葵は菅野家に嫁がせる方針だから。
ね、お父さん。」
「ああ、もちろん。雄二君なら安心して任せられる。
健二、よろしくな。
菅野家なら何も心配ない。」
「おお、良太、それはうれしいな。
葵ちゃんの大きな胸を見る機会が増えそうだ。
ウチは母さんも、翼も胸が小さいからな。」
「お父さんったら、また、セクハラよ。」
「ひどい、お父さん、
確かに私の胸は葵さんの半分もないけど、言い過ぎ!」
酔っぱらって、また両親たちは勝手に俺と葵を結婚させる話をしている。
最初は驚いたが、ちょっと慣れてきた。
話しのネタとして面白がっているだけだ。
まあ、勝手に話をさせとこう。
俺は、葵と結婚するつもりはないが、仲良しでいたい気持ちは確かだ。
親の発言は適当に流しておこう。
俺は、酔っぱらいながら、隣の葵に訊こうと思っていたことをぶつけてみる。
いろいろ気になっていたことだ。
葵の方に顔を向けると、可愛くピンク色に酔っぱらった葵がいた。
やべえ、確かに胸がでかい。色っぺー。
うーん、こいつがモテるのはよくわかる。
「あのさ、葵。
俺と正人時代の葵が一緒のクラスだった高校2年のクラス会の通知が来たけど、見た?
先週、名古屋の俺の住所に届いたんだ。」
「うん、見た。」葵はそっけなく答え、ちょっと暗い顔になる。
「どうも、大学時代に1回開催されて、就職してからも1回開催されているみたいだな。
けっこう盛り上がったって聞いている。
俺は札幌にいたから、どちらも参加できなかったけど、葵も出てないんだっけ?」
「うん、女性になってからは、恥ずかしくて、出てないよ。
2回とも欠席で出している。
嫌だよ。
性別が変わっているのに出席するなんて。
一生出たくない。
みんなを驚かせるようなことしたくないよ。」
「でも、懐かしくないか?先生も来るぞ。
みんなに会いたくないか?
俺以外にも仲のいいやついただろ?
そういえば、あの時の葵、つまり正人は女の子たちとも仲良かったよな。
いまから思えば女子力が高かったからかな。
そろそろ、カミングアウトして、出席してもいいんじゃないか?」
「ええっ!
恥ずかしいよ。
確かに、高2のメンバーはみんな仲良かったし、
女の子とはファッションや、スイーツの話で盛り上がった記憶あるけど。
でも、この姿をみせたら・・・
何を言われるかわからないよ。
今の姿見せたくない!」
「大丈夫だよ。それだけきれいになったんだからさ。
堂々と変身した姿を見せればいいじゃないか?
俺が一緒に行くから、一緒に参加しようよ。
俺はみんなに会いたい!」
「なら、雄二が一人で行けばいいじゃない。
私は、いいよ。
変な生き物を見られるような気分になりたくない。」
「まあ、そう言うなよ。
クラス会は3か月以上先の10月ってなってるし、出欠の返事をメールで送るのも、1か月前の9月で、
まだ、時間はある。
ゆっくり考えようぜ。」
「うーん、いやだよー。
私の正体知っているのは雄二だけでいいよ。」
そこで妹の翼が出てくる。
「葵さん、お兄ちゃんの言う通りだよ。そろそろカミングアウトしてもいいと思う。
だって、女性になって、8年経過しているでしょ?
もう立派な女性だもん、そして、こんなにきれいなんだから、同級生に見せてあげなきゃ。」
葵のお姉さんの梓さんも賛成のようだ。
「そうね、葵、そろそろ学生時代の友達に正体明かしてもいいんじゃない?
高校時代の友達は大事だよ。
いつまでも、隠しているつもり?
これからも神奈川県に住み続けたいんでしょ?」
「ええー、でもー。」
俺はあることを思いついた。
「そうだ、今回のクラス会の幹事は今泉夫婦だぞ。
大学卒業したあと、高校の時の同級生同士で結婚した今泉雄太と高野沙知絵の夫婦だ。
いきなり、クラス会で全員にお披露目するのはハードル高いから、
まず今泉夫婦に会おう。
今泉夫婦に会って、根回ししてもらおう。
あの二人、クラスのリーダー的存在だからな。
俺、あの夫婦とは3年でも同じクラスでけっこう仲いい。
二人に一緒に会いに行こうよ。」
「ええーっ、会いに行くの?」
「アポは俺がとる。いいだろっ?」
「勇気がいるよー。どうしよー。」
「俺がついている。大丈夫だよ。」
葵はしばらくうつむいていたが、
やがて、ゆっくり顔を上げた。
「ううっ。わかった。
二人に会いに行く。でも、アポは雄二がとってね。
それから、私が行くということは伏せてほしい。
会わせたい人がいるってぼかしてほしい。
会ってからカミングアウトする。
それから、会う場所は個室にしてほしい。
居酒屋の個室とかにして。」
「わかった。ちょっと相談したいことがあるって言って、声をかけてみる。
それから、知り合いを一名連れていくということにするから、安心しろ。
向こうで、カミングアウトしよう。」
「今泉君、高野さんの反応次第では、クラス会参加しないよ。」
「わかった。心配するな。
あいつらはいいやつだから、一緒に考えてくれるよ。
まずは、一歩踏み出そうぜ。」
「おおっ、雄二君、葵のカミングアウトの手伝いをしてくれるのか?
ありがとう。助かるぞ。」良太さんが話を途中から聴いたようで、声をかけてきた。
「そうね。助かるわ。雄二君頼むわよ。」椿さんも嬉しそうだった。
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