社内恋愛は懲り懲り
少しタイトルを変更しました。
年末年始は、忙しいので、更新が遅くなるかもしれません。
雄二です。
翌日の昼間に栗原舞衣からメールが届いた。
「次の週の水曜日なら、夕食にお付き合いします。
ただし、待ち合わせ場所は、お店でお願いします。
お店を決めてください。
できれば、会社から少し離れた場所がいいです。」
という返事だった。
よし、アポは取れた。
どうも、会社の人には見られたくないようだな。
俺もそうだからいいけどと安心するが、彼女から妙な警戒心も感じた。
そして、後日、俺と栗原はしゃれたレストランで、食事をする。
栗原はお酒を飲めるので、ワインを飲みながら、会話が弾む。
思ったより、相性がいい。
会社でおとなしく仕事をしている彼女のイメージとはちょっと違った。
また、いつもよりおしゃれをしていて、俺のために着飾ってくれているような気がした。
食事も終盤になり、
これは、いいぞと期待が高まる。
世間話をしながら、
「ところで、栗原さんは彼氏とかいるの?
なんかモテそうだけど。」
と訊いてみる。
俺は、彼女を喜ばせるために、ちょっと持ち上げる表現を使った。
お世辞だとは思いつつ・・・。
話しの流れで質問するにはこれがいいと思った。
「いませんよ。私なんか全然もてません!」という返答が来るはずだった。
ところが、
「あのー、実は上司も含めて、会社の人には誰にも言ってないんですが、
先日、彼にプロポーズされて、来年に結婚します。」
俺は、息が止まりそうになった。
でも、大人の男だ。
しかも、何度も振られた経験がある。こんなところで動揺などできない。
冷静を装わないと。
しかし・・・
どちらかというと地味で、男性人気がないと感じていた女性に振られるとは思わなかった。
「そうか!おめでとう。よかったじゃないか!」
そこからは、彼女の惚気ばなしをいっぱい聞かされる。
俺はすぐにでも、この場を去りたかったが、何とか耐えた。
そして、ひととおり話が終わったあと、
「実はさ、栗原さんを誘ったのは、何か、最近元気がないんじゃないかと思って、
相談に乗ろうかと思って声をかけたんだ。
全然勘違いだったね。ははは。」
もう、俺はピエロになるしかなかった。
実に悔しい。
栗原の方は、俺の下心に気が付いていただろう・・・と思う。
逆に、憐れみを感じているかもしれない。
その日を境に、俺は、彼女に近づかないようにした。
そして、泣きっ面に蜂みたいなことも発生する。
俺が、栗原を食事に誘ったことが女性陣にばれていた。
どうも、栗原は同僚にしゃべったみたいだ。
別に口止めしていたわけではないので、仕方ない。
女性は怖い。
結婚が決まっていて幸せなのに、モテたことは話したいのか?
何でわかったかというと、
俺の所属する課の女性が
「菅野さん、栗原さんを食事に誘ったんだって?好きなの?
ああいう子が好みなんだ。」
なんて聴いてくる。
終わった。もう、この名古屋支社では当面女性に手が出せない!
こんなことだったら、可愛い別の子を食事に誘えばよかった。
悔しい。
まさか、結婚が決まっている女の子を食事に誘うなんて、ヘマとしか言いようがない。
その日以降、俺は、一人で、カウンターバーで飲んだくれる毎日を送る。
辛くて、何気なく、スマホの画面で、葵の写真を見てしまう。
「俺、どうすればいいんだろう?」と写真にむかって問いかけることが多くなってしまった。
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葵です。
ちょっと、最近、イヤなことが続いています。
実はしつこい男が私の勤務する東京本社にいるんです。
勤務するフロアは違うので、日中は顔を合わさないんですが、
会社帰りに待ち伏せしていて、
「葵さん、ちょっと付き合わない?」と強引に誘ってくるんです。
いつも断っています。
男は佐久間雅也。私と同期の26才。
イケメンです。
身長183センチ、体育会系の爽やか男性で、社内でも有名です。
現在、私と同じプロジェクトチームに所属していて、そこでも活躍中。
リーダーシップが強く、容姿端麗で、頭もよく、将来は相当出世しそうだと言われています。
学生時代から付き合っていた女性がいたようですが、その女性もハイスペックで、アメリカの企業に
就職し、しばらく日本支社で働いていたようですが、この春アメリカに行ってしまいました。
そのときに別れたとのことです。
フリーになった彼が目をつけたのが、私。
私が東京本社にきてから、1か月もしないうちに、私を口説いてきました。
私はいつも通り、彼氏がいると表明し、佐久間を相手にしませんでした。
でも、彼は積極的かつ押しが強いんです。
「彼氏がいるんだったら、俺と会わせてくれ。
直談判する。君に似合うのは俺だ。」
すごい自信家です。
彼のことを絶賛する女子社員は多く、私は羨望の目で見られるのですが、私は嫌いです。
確かに出世しそうですが、押しが強い男性より、人の好さが出る男性の方がいい。
そう、雄二みたいなタイプがいいな。
無理な話だけど。
定期的に声をかけてくる彼に辟易しながら、耐える私。
ちょっとストーカーみたいだなとも思うんですが、
そこまでひどいことはしてこないので、扱いに困ります。
会社の帰りやお昼休み等、私が一人になったところを見つけて声をかけてくるといっても、
ちゃんと場所と時間をわきまえており、紳士的ではあるんです。
断ると、粘るようなことはなく、すぐ退くところも私に気をつかっているのでしょう。
まあ、常識的な男ではあります。
同僚の女子からは、「当社の王子様」と呼ばれている佐久間さんにアタックされるなんて、すごいね。
みたいなことを言われるんですが、全然嬉しくありません。
ある日、その「王子様」に訊かれます。
「君の彼氏はどんな男なんだ。なれそめは?」
「幼馴染みなの。子供の時からの付き合い。
今は名古屋にいるから、遠距離恋愛中だけど、二人の仲は絶対だから。」
と答えてしまいました。
これには「王子様」も驚いたみたいですが、彼はめげません。
「幼馴染みか?手ごわいな。
でも、まだ俺は諦めないぞ。君みたいな魅力的な女の子
はそうそういないし。
遠距離恋愛なら、そのうちダメになるかもしれないしね。」
なんて、言います。
そして、一緒に食事に行こうとか、映画を見に行こうとか、ドライブしようとか、
凝りもせずに誘ってきます。
まあ、断るんですけどね。
それにしても、勝手に雄二を彼氏にしちゃった。何か悪いなあ。
黙っていればわからないけど、申し訳ない気がする。
偽装彼氏になってもらっていること話しておこう。
6月下旬、私はそう思って、雄二に電話をします。
夜、電話をすると、雄二が出ました。
電話に出た雄二の声はちょっと暗かったので、気になります。
「雄二?
あれっ、元気ないね。何かあった?」
「えっ?そう?
参ったなー。
実は、会社でちょっと嫌なことあってさ。
人間関係的なことなんだけど。
少し、落ち込んでるんだ。」
「私もちょっと会社で嫌なことあって。話したくなったの。
あ、電話じゃなんだから、直接話さない?
そうだ!今週末名古屋に行くよ。
うん、日帰りで行く!
名古屋駅に迎えに来てよ。
名古屋は私がいたところだから、美味しい店知ってるよ。
一緒にお昼どう?」
「ええっ、突然だな?
いいのか?日帰りなんてもったいない旅行だな。
ま、いいけど・・・
俺も気分転換になるし。」
やったー。雄二と会える。
さすがに俺のところに泊まれとは言わないね。
当たり前かぁ。
でも、嫌な気分を吹き飛ばせそう。うれしいっ。
私は、気分が高揚した。