エピローグ 後編 結婚式
これで最後です。もう延長しません。結婚式のエピソードです。
葵です。
ついに、私と雄二の結婚式の日がやってきました。横浜のホテルが会場です。
いまは式の真最中。
ウエディングドレスを着ながら、私は、幸せの頂点にいます。
結婚式の参加者は両家の親類と、高校時代の友人のみ。
大学以降の知り合いは招待しません。
だって、カミングアウトしてないし、する予定もないんですから。
大学、社会人の知人、友人、同僚は別途パーティを行う予定です。
それも、二人にゆかりのある名古屋で開催予定です。
さて、恐れていた時間がやってきました。
高校の友人による、ビデオによる二人の成長の軌跡の説明と、
二人のなれそめの紹介です。
うわーっ、恥ずかしい。
紹介するのは、同じクラスだった、おちゃらけた話が得意な男子、相馬星矢と面白い話が大好きな女子、桃井くらら(ももいくらら)です。
赤ちゃんの時から画像の紹介が始まります。
最初は雄二の赤ちゃんの時の説明から始まって、私に話が移ります。
「葵さんは、生まれた時は、和人君という男の子でした。
確かについてました。
男の子のしるしです。
なんという事でしょう。」
どっと会場に笑いが起こります。
うわーっ、盛り上げるために許したセリフですが、恥ずかしいっ!
こんな演出、MtFで怒る人がいるかもしれない。
でも、私はいいと思った。
大切な人には私の人生を知ってほしいから。
この会場に来ている人全員が私の性転換のことを知っています。
だから、いいんです。
でも・・・
大勢の前だとやっぱり・・・恥ずかしい・・・かな?
次の盛り上がりは、私が高校を卒業し、
大学で性転換した後の写真が出てきたときに起こりました。
「おおーっ!」という声が会場に響きます。
くららが「きれいっ!可愛いっ!」と褒めます。
星矢が「じゃあ、もう一回高校時代の写真を出して、比較しましょう!」
と使用前使用後の写真の比較みたいなことをします。
「すごい!全然変わっている!確かに高校時代も可愛いけど、やっぱり男です。
大学時代は完全に美女ですねー。
このころに島田に会っていれば、僕は菅野の前にプロポーズしてたかもしれません。
くららとは違うなあ。」
「ええーっ!星矢ひどい!
葵にはかなわないけど、私もこのころはモテたんだから!」
「ごめんごめん、そうだと思う。
じゃあ、今は?」
「今は・・・、えーっと、ぼちぼちかなあ?へへっ。」
ちょっと笑いが起こって、場が和みます。
よかった。妙に深刻な感じにならなくて。
性転換をまじめに扱いすぎるとジメジメしちゃうもん。
そのあと、いろいろな写真が出て、最後は、最近の二人の写真で締めくくります。
星矢がコメントしてくれました。
「どうですか?みなさん!
とても仲の良い幼馴染みが恋人となり、結婚まで至るまでの軌跡でした。
私たち二人が今回の写真を選びましたがどのように感じられたでしょうか?
なんか、運命の糸が二人を結び付けたんだなあってすごく思います。
性の垣根を超えた葵さんの逞しさ、
それを支援する雄二君の愛の深さ、
そんなものを感じる写真を見ることができました。
とてもうらやましいです。
僕たちは、この二人の今後の幸せを信じています。
末永くお幸せに。」
星矢が素敵な言葉で締めます。ありがとう。
式は進行し、
次に、やはり同じクラスで、私や雄二と仲が良かった男子2名、
高橋駿と早田圭太が高校時代の思い出話をスピーチします。
内容については、新郎新婦は知らされていません。
高橋君が話し出します。
「雄二の思い出何ですけど、そういえば、おっぱいの大きい女の子がすきだったよなー。」
早田君が応じます。
「そうだった。グラビアアイドルで、おっぱいの大きい子の話をしていたし、
うちのクラスには胸の大きい女の子いないから、別のクラスの子で巨乳の子を見に行こうぜって
俺たちを誘ってたなあ。
おっぱいの話をすると止まらなかったもんなあ。」
うわっ、イヤな予感。
そこで、クラスメイトの女子から、「失礼ねー!」「そうだー!失礼よ!」
というやじが飛びます。
「あっ、俺たちじゃないからね、新郎の雄二だからね。
そこんとこ、よろしく。」
「で、クラス会の時に、新婦になる葵さんを見たんだけどさ・・・
やっぱりだったね。」
「うん、やっぱりだった。
大きい!」
「そういうことだよね。
クラス会の時一番でかかった。
なるほどと思った。」
うわっ、私の胸の話をしているんだー。
きゃー、恥ずかしいっ。
最近胸が大きくなって、クラス会の頃には、DカップからEカップになっていて、
けっこう男子に見られていたし、女子の友達にもうらやましいって言われてた。
確かに、クラス会の時、私の胸が一番大きかったかも。
早田君が、新郎の雄二に話しかけます。
「やっぱり、決め手は葵さんのおっぱいですか?
大きなおっぱいに惹かれましたか?」
「えっ?そうです。
うそだよ・・・そんなわけないだろ?
もちろん、人柄だよ。
失礼なことを言わないでください。」
「ははは、ごめんごめん。
でも・・・
いや、まあ、少しは気になったよなー?」
「あ、そうだね。
少しは・・・。」
油断してたら、私にも振られました。高橋君です。
「葵さん、噂によると、Eカップだとか?
手術ではなくて、ホルモン治療だけですよね?」
「えっ?
そんなこと訊くんですか?
わかりました。
手術はしてません。サイズはご想像にお任せします。」
私は、毅然として返答します。
「おーっ!」という声と
「いいなぁー!」という女子限定の声が響きます。
そこで、写真が出ました。
雄二が高校時代好きだったグラビアアイドルの写真がまず出ます。
「これが、雄二君が好きだったアイドルの写真です。
かわいいですねー!
そして、大きい!」
懐かしい!俺もファンだ!
という声が聞こえます。
「そして、葵さんのセクシーショットです。」
私は、顔を覆ってしまいました。この写真がアップされるとは思いませんでした。
超はずかしいー。谷間くっきりです。
私の胸を強調した水着写真が出てしまいました。
いかにも巨乳っぽいショットです!
おーっ!すごーいっ!でかいっ!
いいなあー!
と言う声が会場に響きます。
「なるほど、巨乳アイドルとそん色ないですねー。
美人ですし、このまんまアイドルになれそうです。」
「雄二君の指向がわかりました。
葵さん、浮気相手が出現したら巨乳ですよ。注意してくださいね。
雄二君、葵さんのおっぱいだけを見つめて生きていくことを誓いますか?」
「何で、おっぱいマニアになっちゃうんだよ。もう。失礼だな。
わかった。うん、誓います。」
酒に多少酔っている雄二は、おちゃらけに付き合ってあげます。
そこで拍手が沸き起こります。
「葵のおっぱい大事にしろよー!」なんて掛け声もかかりました。
うわーっ、最低。
いいか。盛り上がってるから。
それにしても、完全に私、巨乳キャラになっちゃたよ。
恥ずかしいなあ。親類の叔母さん、叔父さんにも知れわたっちゃった。
その後の歓談の時間では、来る人来る人、みんな私のおっぱいを見ているようで
恥ずかしいのなんのって。
そして、結婚式はフィーナーレに向かいました。
私は両親の前に立ちます。
そして、感謝の言葉を述べました。
「おとうさん、おかあさん、私、男の子で生まれてきたのに・・・
小さいころから、女の子になりたいという・・・
トンでもないわがままを
真剣に聴いてくれて、本当にありがとう。
最初はびっくりしたと思う。
それなのに・・・
私が女性になる道を作ってくれてありがとう。
お姉ちゃんも、すごく応援してくれた。
いろいろ女の子のことを教えてくれてすごく助かった。
服もいろいろ貸してくれたし、お化粧も教えてくれた。お姉ちゃんなしには
今の私はありません。ありがとう。
家族には感謝して感謝しきれないくらい、大きな恩があります。
多くの一般家庭では見られないような葛藤があったと思います。
それにも関わらず、私をこのような女の子にしてくれました。
ほんとうにほんとうにありがとう。
そして・・・
性転換女性だから、普通の女性のような結婚は無理だって、何度も言ったのに、
お母さんは
「諦めちゃだめ!あなたなら絶対結婚できるよっ。あなたは素敵なんだから。
誰よりも素敵な女性だから、
絶対幸せになるの!」
って、いつも励ましてくれました。
その言葉を真に受けるわけにはいかないと思いつつも、すごく嬉しかった。
すごく前向きになれた。
おとうさん、おかあさん、お姉ちゃん、私は、雄二君と一緒になって、幸せな家庭を
築きます。
今までのように、あきらめず、前を向いて、二人でどんな困難も乗り越えていきます。
今まで本当にありがとうございました。」
会場が割れんばかりの拍手に包まれました。
私は、暖かい気持ちでいっぱいになります。
最後に、新郎新婦の両親代表で、雄二のお父さんがスピーチをします。
いつも、私のおっぱいの話ばかりしているエッチで陽気なお父さんですが、
今日は渋いかっこよさの漂う熟年の男性です。
キリッとしています。
「本日、私たち両家の結婚披露宴にご出席していただき、本当にありがとうございました。
また、過分なお祝い、お言葉ををいただき、深く御礼申し上げます。
両家一同を代表して、感謝の意をお伝えします。
新郎新婦の二人は20代で、まだまだ未熟です。
仕事の上でも、生活の上でも、数々の困難が待ち受けていることでしょう。
そんな中でも、たくましく乗り越えていくように私たち家族はできるだけサポートしていくつもりですが、皆様の暖かいご支援もこれまで通り、よろしくお願いいたします。
ご指導ご鞭撻をぜひお願いいたします。
二人はその期待に応えていくことと信じています。
付け加えて・・・
新婦の葵さんについては・・・
皆さんご存知のとおり、一般の女性とは違った人生を歩んできました・・・
性の境界線を越えるという勇気のある道に踏み出し、突き進んできました。
もしかしたら、かなり苦しい時期もあったかと思ってます。
でも、葵さんは素晴らしい女性です。
そして・・・
菅野家の最高の嫁だと信じて疑っていません。
生まれた時からの女性と何も変わらないだけでなく、
気立て、気遣い、最高です。
私だけではありません、菅野家一同全員そう思っています。
このような素晴らしい女性と出会えた新郎雄二は世界一の幸せ者だと思います。
島田家のみなさまにはすごく感謝しています。
こんな素晴らしい女性をお嫁に出していただき、うれしいとしか言いようがありません。
私も実の娘だと思って、大事にいたします。
みなさん、私たち両家はこんな感じです。
今までも仲のいい家族ぐるみの付き合いをしてきましたが、
今後ももっと仲良くなるでしょう。
こんな両家をこれからもよろしくお願いします。
本日は本当にありがとうございました。」
私は号泣してしまいます。
やだ、メイクが崩れないようにしなきゃ。
皆さんをお送りする仕事があるんだから・・・
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雄二です。
俺と葵の再会から、結婚までのお話はこれで終わりです。
如何でしたでしょうか?
素晴らしい家族や友人たちの存在があったからのこその、結婚でした。
でも、幸せな人生を歩むにはこれからが勝負です。
「葵、二人で、何とかやっていこう!」
「ふふふ、喧嘩もいっぱいしなきゃね!そうじゃないと分かり合えないもん!」
「そ、そうだな。」
じゃあ、みなさん、さようなら!
・・・・・・・・完・・・・・・・・・・・
まさか、結婚式まで書くとは思いませんでした。家族愛みたいなものが最後は要だったかなと思います。
もう、追加はしません。これで、このお話は完全に完了です。読んでいただいた方には深く感謝いたします。