破棄されたはずの報告書Ⅰ
神の能力者についての研究報告。
19XX年に突如として発生した集団異能感染事件『世界終末の四十五日間』。
未だ原因不明のかの超自然災害により、爆発的な勢いで存在が確認され始めた超自然的な力を持つ人類を、国連は『神の能力者』と呼称。
事態を収束へと向かわせるべく、大がかりな対策本部を設置し動き出すが初動に失敗。混乱は拡大の一途を辿り、いくつかの国は機能の半分を停止せざるを得ないような状態にまで追い込まれたと記録されています。
緊急事態宣言の発令と共に各国政府は、我々『天界の箱庭』。『未知の楽園』。『新人類の砦』。計三つの実験都市へ協力を要請。以来、我々は資金面、物資面での援助を受けつつ神の能力者を保護・管理・研究してきました。
そもそも神の能力者とは何なのか。
という根本的な問いに関しましては、我々は常に直接的な回答を避け続けてきました。
これは、機密保持、神の能力者の安全保障の観点からも必要な措置であることは間違いありません。
神の能力者に関する真実が世間に公開された場合、世界経済を揺るがす大きな混乱は避けられないと予想されます。
推測される主な事例としては、神の能力者に対する差別感情の激化、基本的人権のはく奪に関する法案の立案、排斥運動の高まり、世論の変動、真実を秘匿し続けた『天界の箱庭』を含む三つの実験都市に対する不信感、不満の高まり。輸出入の制限もしくは完全停止による制裁。最終的に大きな戦争へ発展する可能性も否定できません。
さて、先の問いに関する結論として、ヒト……すなわちホモサピエンスと神の能力者は生物学的に全く異なる生物です。
ホモサピエンスと神の能力者の塩基配列の一致率は72%。DNA量がホモサピエンスよりも55%多く、塩基配列にも多数の違いが見られる神の能力者は、ホモサピエンスとは全く異なった新人類と呼ぶべき存在だと言えます。
世代を跨がずに発生した変化である為、進化したホモサピエンスというよりもホモサピエンスの突然変異体であると見る学者もいるようですが、従来の常識・法則に従っているようでは時代遅れの烙印を押されるのは免れません。
ここは一つ、やはりホモサピエンスが『神化』した個体であると考えるのが妥当ではないでしょうか。
個体により数値に差異はありますが、平均しておよそホモサピエンスの3.7倍強靱な骨格と筋繊維に、高い五感を有し、世界に強く干渉し現象に強い影響を与える異能をもつ特異な体質。異常発達した脳の脳幹には一部ホモサピエンスには見られない特徴的な器官があることも確認されています。退化しているのか進化の途中なのか、機能らしい機能は依然として不明ですが、ホモサピエンスと神の能力者を区別するうえでは重要な特徴であると言えます。
結論として、神の能力者はその身体構造上、我々ホモサピエンスよりも神に近い生物であると考えられるでしょう。
提出日時 20XX/9/20/01:47:55