横浜太郎
結婚式ライブを決めるのはエリちゃんだが、私と愛梨はそれに向けて頑張って、エリちゃんのお姉ちゃんを祝福して喜んでもらいたいという気持ちでいっぱいだった。
夕食になり、食べながらふと考える。
エリちゃんのお姉ちゃんの為のラブソングを考えようと思って、愛梨に提案した。
「どう愛梨?エリちゃんのお姉ちゃんにラブソングを作るのは?」
と聞いてみる。
「ああ、そうだな」
と何か今一乗り気じゃない感じがした。
愛梨は家の手伝いをして疲れているんじゃないかと思った。
食事が終わって部屋に戻り、どんな歌詞が喜ばれるか、すごくインスピレーションがわいて、ノートに走り書きをした。
だが愛梨の方を見ると、ベットの上で座って何か、悩み事を考えている感じだったが、それは考えすぎだと思ってきっと愛梨は曲を考えているのだろう。
まあ結婚式ライブを決めるのはエリちゃんだ。
そこで私はふと考える。
確かにあの時エリちゃんは葛藤していたが、どうして悔しそうな顔をしていたのか?
その事を考えると私が出した答えと照らしあわせると何か矛盾する。
そう思うと、あれは葛藤なのか?疑問に思ってしまう。
エリちゃんと、そのお姉ちゃんとの間に何があるのか知らないが、私はエリちゃんの気持ちも知らないでまた怒らせるか傷つけてしまうんじゃないかと恐れてしまう。
そこで私は心の中に真っ黒い何か嫌な物を注がれているかのような、気持ちに陥る。
その正体はすぐに出た。
それはエリちゃんに対する罪悪感だと。
その罪悪感の正体は、エリちゃんに対して軽々しく分かったような気持ちで自分の思いを押しつけるなと言う気持ちだった。
私はその罪悪感に心が押しつぶされそうになった。
それで私はエリちゃんの為などと言って置いて、自分の慢心を満たしているだけなのじゃないかと、答えが出て苛んだ。
自分が許せなかった。
エリちゃんとそのお姉ちゃんとの間に、何か深刻な事情があるように思えてきた。
そんな事も知らないで私は。
自分を攻めるしかなかった。
ユウリ。
誰かが私の名前を呼ぶ。
その声は愛梨の物だと分かる。
そして愛梨は私の真意を見抜いたかのように言う。
「ユウリは本当に物事を悪い方向に考える癖があるな。
エリにとってユウリは本当に最高の友達だと思うよ」
「ハッ」
と気がつくと、私はベットの上で眠っていた。
辺りを見渡すとベットに愛梨は居なかった。
また夜中に居なくなったのかと思って心配の気持ちに染まりそうな時、愛梨はベットの前で立っていて真摯な瞳を突きつけ言う。
「ユウリ、私はまた行かなきゃいけないようだ」
「どこへ」
時計を見ると、午前二時を示している。続けて私は、
「こんな時間にどこに行くんだよ」
と言ってベットから降りて、真っ暗な部屋の明かりをつける。
すると愛梨はその視線を逸らして困惑そうにさまよわせた。それで私は決意をする。
「だったら私も連れていってよ」
だが愛梨はその目を閉じて『それはだめだ』と言わんばかりの表情だ。
「どうしてだよ」
「訳は話す。でもこれから私は危険なところに行かなくてはいけない」
「・・・」
とりあえず、行く行かないは別として、話は聞くことにして黙って、その目を真摯に向ける。
「友達が危険な目に合っているんだ」
その友達が誰かと考えてふとエリちゃんの事が浮かんで、「もしかしてエリちゃん」と言うと、「察しが良いじゃないかユウリ。そうだよ。エリが大変な目に合っているんだよ」と愛梨は言う。
「どうして愛梨にそんな事がわかるの?」
それは話したくないような感じで視線を逸らして、
「とにかく、私は行かなくてはいけない。今こうしている間にもエリが大変な目に合っているんだ」
窓から外に出ようとしたところ、「待ちなさいよ」と愛梨の手を掴んだ瞬間、私の頭の中に妙な事が浮かび上がった。
『今朝エリの手を掴んでメモリーブラッドで心を読みとったところ、姉ちゃんを助けに港のヨットハーバーに行く』 と愛梨の言葉が心に木霊した。
すると驚いたような表情で私の手を払い。私は愛梨の目を見て言った。
「愛梨。エリちゃんの心を読みとって、お姉ちゃんを助けにヨットハーバーって?」
そこでハッと我に返り、私は愛梨の手を取って、なぜか分からないが愛梨の考えている事が分かるんじゃないかと思って再び愛梨の手を掴んだ。
『どうしてユウリに私の考えている事が分かるんだ?とにかくユウリを巻き込む訳には・・・』
と愛梨の言葉が私の心に木霊した瞬間、愛梨は・・・。
なるほど、愛梨の様子が最近おかしいと思ったら、そういうことだったのか?
どうやら愛梨は吸血鬼として蘇って異常な力を身につけたと同時に、私にも内緒にして手に触れただけで相手の心を読む力を手にしたみたいだ。
それに私もどういう訳かその能力を身につけてしまった。
あの時愛梨はエリちゃんの手を掴んで、心を読みとったのだろう。
相手の心を読まれる気持ちって、すごく嫌な気持ちだ。 今まで愛梨は私たちに黙っていた。
何か許せない。
でも今はそんな事を言っている場合じゃない。
エリちゃんは危険なところに足を踏み入れようとしている。
「ハッ」
と我に返るように目覚めると、私の部屋だった。
ゆっくりと体を起こすと、後頭部の辺りがうずいた。
辺りを見渡すと愛梨の姿はなかった。
どうやら愛梨は私を危険な目に合わせたくないから、私を気絶させて、エリちゃんを一人で助けに行ったみたいだ。
愛梨の心を読みとったところ、エリちゃんは港のヨットハーバーにお姉ちゃんを助けに行ったと言っていた。
どういう経緯なのかは分からないが、とにかく今は考えていても仕方がない。
私も行こうと思ったが、危険なところだと愛梨は言っていた。だから私は後込みをしてしまう。
怖い。でもエリちゃんが心配だ。でも愛梨がついていれば大丈夫。でも何か心配だ。臆病な自分が嫌になるが、私はすごく怖い。何か分からないがエリちゃんが大変な目に合っている。だったらエリちゃんの親友の明さんに相談しようと思ったが、明さんを巻き込む事になってしまう。
でも一人では心配だ。
エリちゃんが危険な目に合いそうなのに、私はこうして後込みをする自分が嫌になる。
愛梨に任せれば良いと考えてしまうが、それは何かいけない気がする。
私も行かなくてはいけない気がする。
エリちゃんが危険な目に、もしかしたら命を落とす危険な事に巻き込まれているかもしれないのに、こうして一人で何もしないでいるなんて自分は卑怯な人間だと思ってしまう。
気がつけば私は呼吸が乱れて、精神的に不安定になっていた。
怖い。でも。私は決意した。エリちゃんを助けに私も行こうと。
愛梨に任せれば良いんじゃないかと考えるが、それは自分に良いわけをしている感じがして、嫌だった。
もしかしたら足手まといになってしまうんじゃないかと思ったが、それでも私は行かなくていけないような気がして、精神的に不安定な気持ちを整えるために、その場で深呼吸をして立ち上がった。
時計を見ると、深夜三時を示している。
場所は港のヨットハーバー。
カーテンが揺れ、開いた窓から、愛梨が出て行った事が伺える。
私も行かなくてはいけない。
ネクリジェから動きやすい藍色のワンピースに着替えて、外に出て、自転車にまたがり、港のヨットハーバーに向かった。
自転車の明かりを頼りに真っ暗な、道を照らしながら、行く。
何度も逃げたい気持ちに駆られた。
この気持ち、何か以前、愛梨が死んでしまって、臆病な私にエリちゃんと明さんにスタジオまで来る私の勇気を試されたときのような気持ちに似ている。
とにかく何でも良いから私は真っ暗な道を自転車のライトで照らしながら、目的地に向かっていく。
ヨットハーバーは家から自転車で10分くらいの場所だ。
急がなきゃ。急がなきゃ。
後込みしている場合じゃない。
愛梨は言っていた。
エリちゃんを助けるところは危険な場所だと。
危険と頭に思い浮かんだ時、恐怖の気持ちに駆られそうになったが、それでも行こうと思って、自転車をこぐ。
もうすぐだ。
港のヨットハーバーが見えてきた。
そんな時である。私が行く先にいきなり人が飛び込んできた。
このままじゃぶつかると思って、思い切りブレーキを握り止まった。
こんな時間に誰だと思って、恐る恐る、その人影に目を向ける。
自転車のライトを照らす人影が露わになってくる。
目を凝らしてみると、男の人だった。
男は痩せ型でボサボサの髪に、頭に赤いバンダナを巻いて、服装は白いTシャツにジーパンをはいたいかにも、パンク系のバンドのファッションだ。
それはともかく男は私の方をじっと見つめている。
私は怖くて、声も出ないし動く事も出来ない。
もしかしたら変質者?こんな時間に一人で立ち尽くしていたら危険だった。
でもこんなところで私は引き返す訳にはいかない。
でもエリちゃんが・・・でも怖い。
すると男は、
「そんなに怖がらなくても良いよ。俺は君を襲おうとしている訳でもないし、敵でもない」
『じゃあ、何?』
と聞きたいところだが、私は怖くて声も出なかった。
とにかく私は勇気を振り絞って、男を振り切って逃げようと思ったが、男に、
「君の勇気は大したものだが、君が行ったってどうにもならないんじゃないかな?」
男の台詞にピンと来て、私は男の目を見る。
どうして?
「ゴメン。話をはしょり過ぎたかな?まずは自己紹介と行こう・・・」
何て話を続けようとしていたが、それよりもエリちゃんの事が心配で男を振りきろうとしたが、男に腕を掴まれて、
「人の話はちゃんと聞かないと」
「離して」
と訴えたが、
「大丈夫だよ。君を助けようとしている友達は吸血鬼の君の友達が助けてくれる。それに君が行ったってどうにも出来ないし、足でまといになるだけだよ」
どうしてこの人は愛梨の事を?
そんな事よりも私は、エリちゃんの事が心配で、
「離せ」
掴まれた手をふりほどこうと必死になっていると、
「人の話をちゃんと聞いた方が良いんじゃないかな?」
押し倒されて、私は後ろにのめり込んで、男に襲われるんじゃないかと思って、恐ろしく怖くてその男の顔を背けて、目を思い切り閉じた。
すると男は、
「大丈夫だよ。俺は君みたいな子供に興味はないよ」
何て言って、恐る恐るその目を開け男を見ると私を見下ろしている。そして男は視線を逸らして、
「その格好何とかしてくれない?君みたいな子供の下着を見て欲情するほどの物好きじゃないけど、いい加減、俺も目のやり場に困るんだけど」
自分の姿を見てみると、転げ落ちた事でスカートが思い切りめくれ、下着が丸見えだった。
「きゃー」
と叫びながら立ち上がり、
「何なのよ、あんた?」
「何なのよ、あんたって、そうだねまず自己紹介と行こう。俺の名前は、横浜太郎、職業は君の友達の何々ちゃんが吸血鬼になった事に関するね」
「関するって・・・」
とにかく今は考えている暇はないので、
「その話はまたいつか」
自転車を起こして、一刻も早くエリちゃんの元へと急ごうとすると、
「何度同じ事を言わせるのかな?」
と腕を掴まれて、ふりほどこうとすると、
「いい加減にしろよ」
と罵られて、私は思いきり怖くなって、思わず、「愛梨」と泣きながら呟いていた。
しばしの沈黙、横浜太郎は、
「ゴメン言い過ぎた。とにかく君が本当に友達思いだと言う事は分かった。それに勇気もある。
でも君のその勇気は、身の程を知らないからね。
俺はそういった勇気は好きじゃない」
確かに横浜太郎の言っている事は悔しいが認めるしかない。
でもエリちゃんが・・・。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。さっき泣きながら呟いていた君の友達と思われる愛梨って言う吸血鬼が助けに行ったからね」
そんな顔とはどんな顔か?そんな事よりも、私は、
「どうしてそんな事が分かるのよ」
「吸血鬼になって蘇った人間がそんなに柔じゃない」
信じて良いのか?いけないのか?悩んでいると横浜太郎は、
「まあ初めてあった人間に、いきなり信じろ、何て言って、困惑する気持ちは分かる。
でも一つだけ言っておくけど、この先君が行っても何の力にもなれないし、無駄死にしに行くようなものだ」
「じゃあどうすれば良いのよ。私は何も出来ないでこうして手をこまねいて黙っていろって言うの?」
「愛梨ちゃんが今処理しようとしている件に関して、君は力になれないが、君のことを一番の親友だと思っている吸血鬼の愛梨ちゃんの力にならなれるよ」
「横浜太郎って言ったね。それに吸血鬼に関する何かをしているって言っていたね。いったいあなたは何者なの?」
「何者かはとにかく、君の名前を俺は知らない」
「渡辺ユウリ」
と差し支えないと思って名のる。
「渡辺ユウリか、良い名前だな。これからは君のことをユウリちゃんと呼ぶよ」
「お好きなように」
目を閉じてエリちゃんの事が心配だが、この横浜太郎の言う通り、私が行っても無駄死にだと言う真実を受け入れるしかなかった。
とにかく恐ろしく心配だが、ここは横浜太郎の言う通り、愛梨を信じるしかなかった。
この愛梨が吸血鬼になった事を根本から知っていそうな横浜太郎に聞きたい事が山ほどある。
「どうして私たちの事を知っているの?」
横浜太郎はたばこを取り出して、火をつけふかして言う。
「その件に関してはちょっと長くなるから、順を追って説明するよ」
そこで私は恐ろしく心配な事が頭に浮かんだ。
「もしかしてあなたは蘇った愛梨を殺すのが目的なの?」
するとにやりと笑って、
「その質問に対しては君次第ってところだね」
「私次第って?」
「そう君次第。おっと、どうやら先客が来たみたいだ。今度ゆっくりと愛梨ちゃんの事で話し合おうよ」
私から背を向けて、私は横浜太郎に聞きたい事がたくさんあるので「ちょっと待って」と引き留めようとしたが、後ろから、「ユウリ」と聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと明さんだった。
「明さん」
どうしてこんな真夜中の街頭も舗装もされていない道にいるのか?
そこでピンときて、
「もしかしてエリちゃんを助けに?」
「どうしてお前がそんな事を知っている?」
明さんの質問にどう答えたら良いか困惑してしまう。明さんは、
「それよりもエリを助けないと」
横浜太郎は言ってた。何の力もない私や明さんが行っても無駄死にするって。だから私は、
「私たちが行ってもどうにもならないよ」
すると明さんは怒りを表す表情で、
「お前はエリがどうなっても良いのかよ。私たちは友達だ。仮に助けられなくても、命を張って行くのが、友達だよ」
すごい剣幕で必死に訴える明さん。ここは横浜太郎の言うとおり、
「私達には何も出来ないよ。だから愛梨を信じよう」
「愛梨?」
どうして愛梨がって言う疑問の表情を浮かべる明さん。
「うまく説明できないけど、・・・」
とにかく愛梨曰く、手で相手の心を読みとるメモリーブラッドの件に関しては隠していた方が良いと思って、言葉を選んでいた。
「とにかく分からないけど、愛梨は・・・知っていたみたいなんだ。エリちゃんが危険な目に合っている事を、だから愛梨が助けてくれる。愛梨を信じましょうよ」
「そんな事はどうでも良い。エリは私のマブダチだ。エリの為だったら、こんな命いらねえよ」
明さんの話を聞いて、愛梨が死んでしまった悲しみが頭によぎった。
そこで私はカチンときて、
「命を粗末にするような事はしてはいけないし、口にも出してはいけないよ」
と言って、明さんの大きな物腰に抱きついた。
「離せよ」
それでも離したくなかった。
そこでどさくさに紛れて、私のメモリーブラッドを発動させて、明さんの手を握ったが、先ほどの愛梨の心を読みとる事は出来なかった。
それはそれで良いとして、とにかく明さんを止めなくてはいけない。
このまま行って、明さんまで帰らぬ人となったら、私も悲しいし、みんな悲しい。
だから無謀な事を考える明さんを止めるのに必死で牽制する。
そんな時である。
真っ暗な前方から二つのシルエットが見えてきた。
私と明さんは誰だと思って怪訝に思っていると。
そのシルエットは次第に露わになってきて、愛梨とエリちゃんだと言う事が分かった。
それに気がついた明さんは真っ先にエリちゃんの元へ駆けつけ、
「エリ、無事だったのか?」
「・・・」
エリちゃんは何か申し訳なさそうに俯いて黙っていた。
そして真っ暗で虫の音が響きわたる道で乾いた音が響き、その音は明さんがエリちゃんの頬をはたく音だった。
「何で私に相談しないんだよ。以前からお前の様子がおかしいと思って、スマホのGPSで調べさせてもらったよ。
そしたらお前、妙な集団のところに向かう事に気がついたよ」
「すいません明さん」
明さんは興奮しているのか息をあらげ、堪えきれないのか?涙を流してしまった。
思えば明さんが涙を流したのを見たのは、これで二度目だ。
明さんは落ち着きを取り戻すかのように、深呼吸して、愛梨に、
「愛梨、お前が助けてくれたんだな。ありがとう」
と深く頭を下げた。それともう一つと言った感じで、
「お前等には聞きたい事がたくさんある。でも今日はもうこんな時間だ。また日を改めよう」
私も明さんと同じで、愛梨に聞きたい事、叱りたい事たくさんある。
そんな愛梨を威圧的な視線を向けると愛梨は困惑していてその視線をさまよわせた。




