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美少女巫女ナナ

今日もバンドも私達一丸になって頑張っているので、またうまくなったと思う。

 相変わらず、明さんを見ると胸が張り裂けそうな気持ちに陥る。

 それよりも明さん私の小説読んでくれたかな?

 その感想を聞こうと思ったが、うまくタイミングが合わず聞くことは出来なかった。

 バンドの練習は午前で終了して、午後から何の予定も決めていないが、このまま解散と言うのは惜しい気がして、とりあえず、いつも行くファミレスで食事を取ることにした。

「私達も以前の勘を取り戻せて来たな」

 と明さん。そこで愛梨が、

「とりあえず私達何か目標を持ってやった方が良いんじゃないかな」

「なるほど」

 と私は言う。

 それよりも今日のエリちゃんは何か思い詰めた感じの様子だ。だから私は、

「エリちゃん。大丈夫?」

「えっ?」と反応して「大丈夫大丈夫」と言っているがそうは思えなかった。そこで明さんが、

「エリ、さっきから何か変だぞ。エリらしくもない」

 何て言われて、

「すいません明さん」

「別に謝らなくて良いよ。何か思い詰めたような様子だったから、何か心配でな」

「・・・」

 黙り込むエリちゃん。

「本当に大丈夫か?エリ、何かあったなら、話は聞くぞ」

「・・・」

「まあ無理して話さなくても良いけどな」

「実は。私の姉が今度結婚する事になったんですよ」

「おお、おめでたいじゃん。それに何でそんな朗報なのにそんな深刻な顔をしていたんだ?それじゃあ姉ちゃんが浮かばれないじゃん」

「・・・」

 悩ましげに俯くエリちゃん。そのお姉ちゃんとエリちゃんとの間に何かあるんじゃないかと察した。

「姉ちゃんとの間に何かあるのか?」

「お姉ちゃんには幸せになってもらいたいんですけどね」

「だったら素直に喜んで祝福してやれよ」

 と明さんは急に閃いたように。

「出来たら私達で結婚式のイベントで演奏して祝福出来ないかな?」

「それは名案ですね」

 私は自分の事ではないけど、何か興奮してしまった。

 結婚式でそんな祝福をされたら私は嬉しい。

 結婚か。そう思って私がウエディングドレスをまとって、その相手を思い浮かべると、なぜか明さんを想像してしまい、「うわっ」とつい大声を上げてしまった。

 三人は驚いて、愛梨が、

「どうしたんだユウリ」

「何でもない何でもない」

 と笑ってごまかした。

「まあ、エリはどうだ?お前の姉ちゃんに私達のバンドで演奏し祝福するのは」

 するとエリちゃんは、

「考えさせてください」

「愛梨?」

 すると愛梨は急に慌てて、その手を離して、

「ゴメン」

 と謝った。

「ちょっとトイレ」

 と言ってエリちゃんはトイレに行った。

 そこで明さんが、

「そういえばあいつとのつき合いは長いけど、姉ちゃんが居る事は知っている。でもあいつから姉ちゃんの話は聞いた事がないな」

 そこで私が、

「何かお姉ちゃんとの間に深刻な事情があるのかな?」

「まあ分からないけど、今日はあいつ何か様子がおかしいよな。あいつ悩み事を一人で抱え込むタイプだから。

 多分内容はユウリの言う通り、あいつの姉ちゃんの事かもな」

 そういえば以前そんな話が合ったっけ、その度に親友である明さんが陰ながら見守っていると。

 何てエリちゃんの事を心配して話していると、愛梨がいきなり、

「ライブやろう」

 そこで明さんが、

「おい。話聞いてなかったのかよ」

 何て明さんは威圧的な視線を愛梨に向け、少し険悪なムードだった。

 そんな空気の中、私は自分でも嫌になるがビビッてしまう。

 そしてエリちゃんがトイレから戻ってきて、二人の間に生じている険悪なムードを読んだみたいで。

「喧嘩なら外でやってくださいよ」

 とんでもない事を言っているので私はここは最大限の勇気を振り絞って、

「喧嘩はやめてよ」

 と二人に言う。

「ゴメンユウリ」「わりぃ」

 愛梨、明さんはそれぞれ私に謝る。  

 二人は落ち着いてくれた。

 そこで明さんが、

「言い出しっぺは私だけど、愛梨はエリの姉ちゃんの結婚式で、私達のバンドで演奏する事をやる気みたいだけど、お前はどうする?」

 明さんは親友であるエリちゃんの気持ちを最優先に考えている感じだ。

「・・・」

 黙り込むエリちゃん。

「考える時間が必要か?」

「考えさせてください」

「じゃあ、明後日まで答えを出してくれたら良いさ」

 黙ってエリちゃんは座る。そこで私が、

「エリちゃん。何かあったの?」

 するとエリちゃんは鋭いナイフのような視線を向けて、

「うるせえな。何でもねえよ」

 何て罵られて、一瞬何が起こったのか分からないと言う感じだったが、私の心は傷ついてしまって泣いてしまった。

 エリちゃんは何かに悩んでいて、それに干渉されるのが嫌でつい私に心にも無い事を言ってしまった気持ちは分かっていたが、罵られて私の心は傷ついて泣いてしまった。

「エリ」

 と明さんはいくら何でもそれは言い過ぎだと言う気持ちを込めてエリちゃんに一喝。

 エリちゃんは店から出て、明さんは、

「私はエリが心配だから、行く。だから今日のところはお開きで」

 そういってエリちゃんと明さん自身のドリンク代を置いて、エリちゃんの後を追った。

 私は涙が止まらず、

「ユウリ」

 と愛梨が私を胸に引き寄せて、慰めてくれた。

 エリちゃんは何かあったのだろう。だから今日様子がおかしかったんだ。それで私に干渉されて、ついあんな事を言ってしまったのだ。

 私も何かあった時、干渉されていらだった時があった。

 だからその罵りたい気持ちは分かるが、なぜかエリちゃんを恨む自分が存在していた。

 私を慰める愛梨が、

「ユウリはエリの気持ちは分かっている。でもだからってあんな事言わなくてもな」

 愛梨も私の気持ちを分かってくれている。


 日が沈み、気持ちが落ち着いた頃、エリちゃんに罵られた傷は癒えていた。

 そうやって傷ついた時、友達である愛梨が側にいるだけでもなぜかその傷は癒えてくる。

 部屋に戻った時、時計は午後六時を示し、愛梨に、

「あまり気にするなよ」

 と言われ、気持ちは落ち着いていた。

 そういって愛梨はベットに寝転がり、マンガ本を広げて読んでいた。

 私は机で頬杖をついて考えてしまう。

 それはエリちゃんの事だ。

 まあ先ほどキツい事を言われて傷ついたが、それはそれで愛梨が側に居てくれた事によって今はあまり気にしていない。

 多分エリちゃんは私にあんな事を言ってしまった事に蟠っているんじゃないかと思った。

 エリちゃんは明さんと同じように不器用で誤解されやすい人だけど、本当はとても友達思いの良い人だと言う事は私も愛梨も知っている。

 今日のエリちゃんを振り返ってみると、何か様子がおかしかった。それは明さんも感じていた事だ。まあ愛梨もあの態度を見て気がついているだろう。

 何となく愛梨の方を見ると、相変わらずベットの上に寝転がりマンガを読んでいる。

 何かそんな愛梨にため息がこぼれ落ちそうになったが、そんな愛梨に聞いてみる。

「愛梨、今日のエリちゃんの事どう思う?」

「エリの為にも結婚式ライブはやった方がいいと思うけどな」

 そんな愛梨にライブの事しか頭に無いのかと呆れてしまった。

 まあ、愛梨は優しい奴だけど、はっきりとものを言わないと分からない鈍感な奴だからな。

 そうだよね。今日はエリちゃんのお姉さんが結婚するって聞いて結婚式で祝福のライブを開こうと提案したのは明さんだ。

 でもエリちゃんは、あまり乗り気じゃなかった。

 明さんはエリちゃんとつき合いは長いがお姉ちゃんが居ることは知っているが、お姉ちゃんの話はしたことがないって言っていた。

 エリちゃんとそのお姉ちゃんの間に何かあったのだろう。

 私にもお姉ちゃんがいるが、私には自慢のお姉ちゃんだと思っている。

 幼い時はそんなお姉ちゃんの愛情に包まれて、兄弟や姉妹と言うのはみんな仲の良いものだと思っていたが、少しずつ大きくなって世間を知って、仲の良い兄弟姉妹もいれば、その逆も然りであって、死ぬまで口を聞かないもしくは殺意を抱いて本当に殺してしまう兄弟姉妹だっている。

 まあどんな事情にしろ、ライブの事は別として、エリちゃんのお姉ちゃんの事に干渉するのはよそうと思う。

 でもエリちゃんが私達に助けを求めるならば、それは友達として出来る限りの事はするつもりだ。


 夜眠る時、愛梨に念を押して言っておいた。

 勝手に外に出たりするなよって。

 それだけ言って愛梨は納得してくれた。

 エリちゃんの事はとりあえず整理がついて、私は眠ることに。


 また夜中に起きてしまった。

 ベットに愛梨がいないと思って、辺りを見ると、真っ暗な部屋の中テレビがついていて、その前にヘッドホンをつけて、テレビを鑑賞している愛梨の姿があった。

「愛梨」

 と呼ぶがテレビに夢中でヘッドホンをつけている為、私が声をかけた事に気づいていない。

 だから私はヘッドホンを取り上げて、愛梨は私に気がついた。

「ユウリ、どうしたんだ」

「それはこっちの台詞なんだけど、こんな夜中に何を見ているんだよ」

「ちょっと今良いところだからさ」

 取り上げたヘッドホンを奪われ、再び耳に装着する愛梨。

 画面を見ると、エリちゃんがはまっている美少女御子ナナのアニメだと言う事に気がついた。

 そういえばアニメってたいてい深夜にやっているっけ。

 暗がりでテレビを見るのは目にも体にも悪いと思って、電気をつけて、ヘッドホンを差し込むコードを抜いて、普通の音量にした。

「ユウリ?」

「暗がりで見たら目が悪くなるし、ヘッドホンは耳が悪くなるから、明るくして普通の音量で見なよ」

「サンキュー」

 と言って再びアニメに没頭する愛梨。

 私も一緒に見る。

 内容は途中からだが、何か今、そのアニメの主人公のナナが悪と戦っている。

 ナナの決め台詞か?

『あなたの悪に染まった心、正して見せます』

 武器である大幣を構え敵に向ける。

 そして主人公のナナは敵と戦いながら、敵に訴える。

「悪しき心に染めてはいけない」

 敵は言う。

「力無き正義に何が出来る。力こそ正義、分からないのかナナ」

 最後はドラマのご都合主義である正義のヒロインのナナが敵を撃退して、ナナの勝利であり敵は撤退。

 正義のヒロインのナナと宿敵であるダイダとの戦いの台詞を聞いていたがどちらもモットーだと思った。

 ヒロインのナナの台詞をまとめてみると、民のためだとか人を思いやる事を訴え、もう一方の宿敵のダイダの事をまとめてみると、力こそが正義だとか勝者こそが正しいの一点張り。

 ヒロインのナナが言う人を思いやる事も大事だが、宿敵であるダイダの主張する強き力こそ正義と言う事も大切だと思う。

 だからナナの人を思いやる気持ちを糧に戦うナナの意見も正しい。一方のダイダは力こそが正義と言う強き力を糧にして戦うダイダの方も正しい。現実的に考えれば、生き抜くためにはどちらも必要だ。

 じゃあどうして対立するのだろう?

 でも歴史から学んだことだが、人は争いを繰り返して、その歴史を刻み込む。

 人間の信条が顕著に現れていると思うのは、私個人の持論だが戦国時代だと思う。

 名を連ねた戦国武将はみんなえげつなくこすい。

 勝つためには手段を選ばない。

 それが力なのかもしれない。

 でも勝たなければ、自分の土地の民を豊かには出来ない。

 それが思いやりなのかもしれない。

 じゃあなぜ争うのだろう?

 その争いの果てに戦国時代は徳川家康が天下を統一して日本と言う一つの国になった。

 でも争いは終わらない。

 今は日本は平和だが、どこかの国は争いをしている。

 何てぼんやりと考えていると、愛梨が、

「何ぼんやりと考えているの?」

「はっ」

 と我に返り、愛梨を見ると、愛梨は、

「寝ようよ」

 と愛梨はテレビを消して眠りについた。

 エリちゃんがはまっている美少女御子ナナを戦国時代の武将にたとえて考えてしまった。

 それは別として、このエリちゃんがはまっている美少女御子ナナの番組を見て、エリちゃんの事が分かれば良いと思っている。

 本人が聞いたら怒るかもしれないが、こんな子供が見るようなアニメに夢中になっているエリちゃんってかわいいところがあるんだな、何て思ったりもする。

 今は夜中で日時は回り、昨日のエリちゃんの事がふと頭の中に思い浮かんだ。

 あの時、エリちゃんに干渉して、つい怒らせてしまい、私は傷ついたが、その気持ちは分かる。

 人間誰でも感情的に怒ってしまう時だってある。

 エリちゃんは、つい私に感情的になった事に蟠っているのかもしれない。私もエリちゃんの気持ちも知らないで、聞いたのも悪いと思っている。だから明日エリちゃんに会えるなら、真っ先に謝っておいた方が良いだろう。


 誰にでも訪れる朝の光に瞳をくすぶられ私は目覚める。 

いつもの朝を迎えて、相変わらず、律儀な愛梨は、家のお手伝いをしている。

 そして時間は立ち、今日もバンドの練習に愛梨と共に家の庭で、準備をしている時に、明さんとエリちゃんは原付で二人乗りしてやってきた。

 エリちゃんにあったら真っ先に謝ろうと思ったが、それよりも先にエリちゃんが、

「ユウリ、昨日はつい怒鳴って悪かったよ」

 と、エリちゃん自身の蟠りを解消させるように、その視線を泳がせている。それで私も、

「いや私が悪いんだよ。エリちゃんの気持ちも知らないで、エリちゃんに干渉して」

 そこで愛梨が口を挟んできて、

「結婚式ライブ、やろうぜ」

 意気揚々に提案する愛梨。

 そんなデリカシーのない愛梨に対して、

「愛梨」

 と『人の気持ちを考えろ』と言わんばかりに一喝。

 エリちゃんは困惑している。そこで明さんが、

「どうしたんだよ、愛梨。お前はそんなデリカシーのないような事を言う奴じゃない」

 私は二人の間に何か不穏な空気が生じて、愛梨を見ると、愛梨はその瞳を閉じて何か考えているような感じだった。

 確かに明さんの言うとおりだ。愛梨はそんなデリカシーのない事を言う奴じゃない。

 いったい愛梨は何を考えているのかと、黙ってその目を閉じている愛梨を見つめていた。

 そして愛梨はその目を開いて、

「別に何も考えていないよ。ただ、私達の経験の為だよ」

 つまりエリちゃんの気持ちも考えないで結婚式ライブで自分の経験の為の踏み台と言う訳なのか?

 愛梨に威圧的な視線を向け、愛梨に飛びかかろうとしたが、明さんの方が早かった。

 明さんは拳を丸めて愛梨に飛びかかったが、軽々と愛梨はそれを受け止め明さんを牽制する。

「明、どうしてそのエネルギーをバンドに打ち込まないんだよ」

「エリの事を考えろよ」

「考えているさ。考えているからこそ、結婚式ライブを成功させたいんじゃないか」

 愛梨は明さんを離して、エリちゃんにその視線を向け、

「じゃあ、そんなにエリの事を考えるなら、エリに聞いて見ようよ。

 エリ、お前はどうしたい?

 お前のお姉ちゃんの結婚式で私達のライブで祝福する?」

 愛梨の問いに私達の視線はエリちゃんに向かう。

 エリちゃんはなぜか悔しそうに、黙っている。

 嫌なら嫌で断ればいいのに、エリちゃんの中でどうしようかと葛藤しているように見える。

 愛梨は心なしか?そんなエリちゃんの事を知り尽くしている感じがする。

 そうだ。エリちゃんの事を考えるなら、それはエリちゃんに決めさせるのが先決だ。

 明さんも納得したように、「エリ」心配そうにその視線を合わせた。

 エリちゃんは目を思い切り閉じて、何か焦っている様子なので、私はまた『生意気な事を言うな』って罵られるんじゃないかと覚悟をして、

「エリちゃん少し時間が必要なんじゃないかな?」

 するとエリちゃんはその閉じた目を開き、その瞳には怒りをたぎらせた感じで私の方に身を乗り出して、私の胸元を掴んだ。

「お前に言われるとすげえムカつくんだよ」

 そこで明さんが「エリ」と言い過ぎだと言わんばかりにエリちゃんを止めようとしたところ、愛梨にその手を取られて、『やらせておけ』と言わんばかりに止める。

 そうだよ愛梨、私はエリちゃんにそう言われて悔しいよ。だからそれで良い。私に干渉されたくないエリちゃんの気持ちは分かる。

 でもエリちゃんは私の大事な友達であり、エリちゃんの気持ちも大事にしたいし、その『お前に言われるとすごいムカつく』って言われると私自身もムカつくから、友達同士お互いの気持ちを大事にしたいと思って、私は言わせてもらう。

「何がムカつくのよ」

 そう反論した時、心の中で何かが壊れた感じがした。それよりも私は、エリちゃんに威圧的な視線を向け、

「エリちゃんは私の大事な友達だもん。その友達の気持ちを考えて何が悪いの?」

 とはっきりと言う。

「てめえ」

 と言ってその手を振りあげた時、私はエリちゃんにはたかれる覚悟をした。

 エリちゃんは明さんの話によると、喧嘩も強いと聞いている。だからそんなエリちゃんに気も喧嘩も弱い私が勝てるはずがないから、ぶっ飛ばされる覚悟をしなきゃいけないかも。 

 だがエリちゃんはその手を引いて、私の胸元を掴んだ手を離して、

「クッ」

 吐き捨て去っていった。

 そんなエリちゃんを明さんも愛梨も私もその後ろ姿を見て傍観していた。

 しばらくして私は先ほどの威勢はどこへ行ったのか?怖い気持ちに心が染まり、立つこともままならず、その場で地面に伏した。

 そんな私を見て明さんと愛梨が駆けつけ、愛梨が、

「よく言ったなユウリ、私と明がエリに言うよりも、お前に言われて、そうとう効いたと思うよ」

 続けて明さんが、

「ユウリにそんな勇気があったとは驚きだよ」

 二人とも私の事を誉めているようだが、私はそんな事よりもエリちゃんの事が心配で、

「エリちゃんは大丈夫かな?」

 すると明さんが、

「そんなになってもあいつの事を心配してくれるか」

「心配・・・だよ」

 と、そこで自分でも嫌になるが、止めどなく涙がこぼれる。

「心配いらないよ。あいつは今、お前に言われて気持ちの整理をしているんだと思うよ」

 そこで愛梨が、明さんに、

「昨日エリは何か言っていたか?」

「事情を聞きたいところだったが、あいつ話したくないみたいで聞く事は出来なかったよ。

 いくらマブダチだからって、礼儀はあるから、無理に聞く事もよくないと思うからな。

 まあ二人とも分かっていると思うが、多分あいつの事情は姉ちゃんの事だろうな」

「まあ、私はライブやった方が良いと思うけど、それを決めるのはエリだからな」

「確かにそれはエリが決める事だが、どうして愛梨はライブにこだわる?」

「それは私達の為だよ」

 ギターを手に練習する愛梨。

 明さんは何か腑に落ちないと言うような感じだったが、練習に取り組んだ。

 私も続くように練習を再会した。

 結婚式でライブするかどうかはエリちゃんが決める事だが、バンドの練習は怠らないようにしたい。

 エリちゃんが少し心配だが、これはエリちゃんの問題だ。

 私は思うが、先ほどのエリちゃんの表情を思い返してみると、ライブをやるかどうか葛藤している感じだ。

 

 練習は終わって、明さんは帰っていった。

 時間はまだ午後一時だった。

 練習はもう十分にやったと思うから、午後は勉強することにしたが、やっぱりエリちゃんの事を考え勉強どころじゃなかった。

 昨日はエリちゃんに罵られて泣かされてしまったが、今日はエリちゃんに反論して自分の気持ちを伝えられたので、なんかすっきりしている。

 心なしか、私の心は強くなった感じだ。

 それはともかく、先ほど葛藤しているエリちゃんを思い返してみる。

 葛藤とは、よく小説で見かけるが、心の中で相反している思いが起こり、どうしようか思い悩む事だ。

 きっとエリちゃんは結婚式でバンドで祝福したい気持ちと、そうじゃない気持ちが同時に起こっているのだと思う。

 どちらにしても何か意味があるのだろう。

 だからエリちゃんは葛藤したんだ。

 そう考えると、エリちゃんはお姉ちゃんを心底嫌っている事はない。

 嫌っていれば、いちいち葛藤しないで、祝福などする気にもなれないだろう。

 それに昨日エリちゃんは『姉ちゃんには幸せになってもらいたい』と言っていた。

 それで私の答えは出た。

 それは愛梨と同じ、バンドで演奏してエリちゃんのお姉ちゃんに祝福してあげたら良いんじゃないかと。

 でもそれはエリちゃんが決める事だから、私は友達としてその後押しとして、『祝福してあげれば』って言ってあげたい。


 いつの間にか眠ってしまったのか?

 私は机に突っ伏して眠っていたようだ。

 体を起こすと、冷房の効いた部屋で少し寒気がして、肩にタオルケットがかけられていた。

 愛梨が私に気を使ってくれたのだろう。

 ベットの方を見ると、愛梨はおらず、ちょっと不安になってしまった。

 窓の外を見ると、空は茜色に染まり、日が暮れそうだ。

 とにかく愛梨がいない事に探そうと廊下に出ると、愛梨は廊下の雑巾掛けをしていた。

 そんな私に気がついた愛梨は、

「どうしたんだユウリ。そんな深刻そうな顔をして、私が部屋にいないからって心配になったか?」

 その通りであり、愛梨にそう言われると何かムカつくが、その怒りは大した事ではなく、再び部屋に戻った。   

 そこで私はふと思う。起きた時、愛梨が居なかった事に私は不安になり、愛梨にその心を見抜かれた。

 いくら私の事を知っているからって、愛梨はそこまで洞察力のある女ではなかった。

 まあそれはそれで良いとして、何かエリちゃんの事に対しても愛梨は、エリちゃんの心を見透かすように、結婚式ライブを決行しようとしているのは気のせいか?

 いや、もしかしたら愛梨の好奇心で、またみんなを巻き込んで進めようと考えているのか?

 それとも愛梨は吸血鬼として蘇って、何かしら人を見透かすような能力を持っているのだろうか?

 いや考えすぎだ。

 愛梨は鈍感で人の気持ちも考えないで、またみんなを巻き込もうとしているんだ。

 まあ先ほども言った通り、愛梨に巻き込まれて偉い目にあってきたが、悪いことばかりじゃなかった。

 だから私はエリちゃんの葛藤している気持ちを整理して出したが、私も愛梨と同じ意見だ。

 結婚式ライブを決行しよう。

 そう思って、部屋から廊下に出ると、愛梨は廊下の先に続く階段の拭き掃除をしていた。

「愛梨、練習しよう」

 突然愛梨は私にそういわれてきょとんとした表情をしていたが、その瞳に輝きがともるように、いつもの好奇心旺盛の表情で、

「ああ」

 と返事をしてくれた。


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