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ユウリと明

机の前に座って、引き出しからノートを取り出そうとしたが、そこには愛梨の訃報を聞いてから書けなくなった小説が書いてあるノートが目に付いた。

 改めて読んでみると、なかなかよく書けていると、自画自賛だった。

 内容は私と愛梨とエリちゃんに明さんをモチーフにした物語だった。

 ちょっと現実から考えられないシーンなど盛りだくさんだ。でもそれが物語の醍醐味だと私は思っている。

 ざっと読んで、夢溢れる物語に何かうっとりとしてしまう。

 読み進んで、良いところだと思っていたら、私が描いた物語は途中で途切れてしまった。

 それで私は切なくなり、悲しくもなったりする。

 そうだ。愛梨が死んでからもう描くことすら出来なくなったんだっけ。

 部屋を見渡し、愛梨がいない。

 窓から庭を見ると、愛梨と明さんとエリちゃんで何か話し合っていた。

 何を話しているのだろうと思うと、きっとバンドの事だ。

 私も参加しようと下に降りて庭に行ったが誰もいなかった。

「愛梨、エリちゃん、明さん」

 と呼んだが、誰も返事をしてくれる人はいなかった。

 何か無性に不安になってきて、部屋や台所、家中を探したが誰もいなかった。

「みんなどこいったの?」

 不安は募り、呼吸がうまく整わず、慌てて探したが、誰もいない。

 再びいつも練習している私の家の庭に行ったが、誰もいなかった。

 独りだと言う事に気がつくと、不安は悲しみに変わり、そしてその悲しみは絶望へと変わり、目の前が真っ暗に染まってしまい、私は叫んだ。


「愛梨」


 と。

 そう叫びながら、私は目覚めた。

 辺りを見渡すと、私はどうやら机の上でうたた寝をしてしまったようだ。

 それに部屋には愛梨が私のベットの上で座っていて、明さんとエリちゃんは座布団に座って楽譜だと思われるノートを見ている。

 叫んで目覚めた私をみんな心配そうな眼差しで見つめていた。

 みんないる事に安心したと同時に恥ずかしい気持ちに陥る。

 そんな私を見て、一番最初に口を開いたのは「どうした」と言う明さんの声だった。

「いや、ちょっと」

 と言って、笑ってごまかした。そこで愛梨が、

「怖い夢でも見たのかよ」

「・・・」

 その通りであり、恥ずかしくて私の視線は泳いでしまった。

 そこでエリちゃんが、

「ユウリの小説なかなか良く書けているじゃん」

「エッ?」

 と声が漏れ、明さんエリちゃん愛梨の手に持っているのは、私の物語が描いてあるノートだった。

 私自身の小説を見られて、私は裸を見られるよりも恥ずかしい気持ちになり、

「何見ているのよ」

 だっとのごとく三人からノートを奪った。

 気がつけば冷房の利いた部屋だが、妙な汗を流している。それに呼吸もまともに整わず、私は誰にも見せたこともない小説を見られて凄く動揺しているようだ。

 密かに小説家を夢見ている私を知っているのはこの世に愛梨一人だけだ。

 それに以前、いたずらな気持ちで見られて恥ずかしい思いをして殺意を抱いた事もあった。

 簡単な事だがエリちゃんに私が眠っている間にこっそり私が描いた小説を見せたのは愛梨だ。

 そんな愛梨に対して、

「どうしてこんな事をするの?」

「いや、みんなユウリが書いている小説をみたいって言い出すからさ」

「私が書いている小説を見られたくない気持ちは知っているでしょ」

 そこでエリちゃんが、

「小説家になりたいなら、誰かに見せないでどうする?」

 エリちゃんの言っている事は正論であり、返す言葉が見つからない。そこで明さんが、

「そんな良い小説描けるなら、隠さずに堂々と私達に見せれば良いんだよ」

「良く書けているなんて、嘘だよそんなの」

 私が言うと明さんは、

「嘘じゃねえよ。お前の物語、なかなか良く書けていると思っているんだけどな」

 そこで明さんの目を見ると、嘘は感じられなかった。続けて明さんは、

「まあ、見られたくなかったなら、勝手に見て悪かったよ。愛梨がぜひって感じで読ませてくれたんだけどな」

 そこで愛梨に威圧的な視線を向ける。

 だが愛梨は私に屈服する事なく、真摯な瞳を私に突きつけて言う。

「勝手に見たのは悪かったよ。でもこんなに良く描けているのに、誰にも見せないなんてもったいないし、ユウリにはもっと自信を持ってほしいと思ったから」

 そう言って、やっぱりこの事に関しては愛梨自身が悪いと思ったのか?その瞳を私からそらした。

 愛梨の気持ちは分かった。

 でも勝手に見たことに対してはやはり許せない。そんな時明さんが、

「まあ、恥ずかしくて誰にも見せたくない気持ちは分かるよ。だからもしユウリが良かったら、ユウリが描いた小説を見せてくれよ。

 それにユウリにこんな才能があったなんて少し嫉妬してしまったよ」

 改めてそう言われると凄く照れてしまい、明さんの視線をそらしてしまった。

 そこで愛梨が、

「その時は私にも見せてよ」

 その言葉にしゃくに触られて思わず「うるさい」と罵ってしまった。

「何で私だけ」

 ふてくされる愛梨。それよりも私は、

「それで曲の方はどうなったの?」

「とりあえず、もう一度四人で演奏して今日のところはお開きってところかな」

 と明さん。

 早速私達は庭に行って再び四人で演奏した。

 演奏の土台となるベースとドラムがマッチングして、先ほどよりもうまく弾けて何か気持ちいい。

 私と明さんとエリちゃんの演奏にボーカルアンドギターの愛梨は曲にシンクロするように歌っている。

 やはり思うが、このバンドは愛梨、いや誰一人欠けてもいけないバンドだと思う。

 演奏が終わって、それぞれの顔を見合って自然と笑顔だった。

「何か良くない?」

 と明さん。そこで愛梨が、

「これで以前のブランクをだいぶ取り戻せたね」延びをして抱えているギターを外して、「今日はこれぐらいにしておこう」

 時計を見ると、午後三時を示している。

 まだ解散するには早すぎるので、少し家で遊ぶことになった。

 そこでお菓子とジュースを買いに行く係りをじゃんけんで決めて、私と明さんが行くことになった。

 明さんと二人きりなんて、ちょっと嬉しいのやら緊張するのやら気持ちがあたふたとしてしまった。

 早速、エリちゃんと愛梨を私の部屋で待たせて、コンビニまで徒歩15分のところまで歩いていく。

 何でだろう?やっぱり認めたくないが明さんと二人きりになると気持ちが破裂しそうなほどドキドキしてしまう。

 二人で並んで歩いて、会話がないのが不自然に思えてきて、何か話題でも出そうかと思ったが、頭の中がしっちゃかめっちゃかだ。

 すると明さんが私に話題をふってきた。

「さっきも言ったけど、ユウリの小説なかなか面白かったぞ」

「ほ、ほ、本当ですか?」

 明さんに緊張してまともに言葉が出せない。

「それに今私達がやっている曲はユウリが詩を考えたんだよな。曲も良かったけど、詩も何かぐっとくるよ」

「そんな事ないですよ」

 私は謙遜しているのではなく、本当に言った通りの事を思っている。

「何だよユウリ、私から誉められても嬉しくないのか?」

「う、う、嬉しいけど・・・」

「けど?」

「明さんは私の事を買いかぶりすぎですよ」

 すると明さんは怒気のこもった口調で、

「はあ?かいかぶってねーよ」

「ごめんなさいごめんなさい」

 怒らせてしまった事に私は怖くてひたすら謝る。

 明さんは我にかえり、

「悪ぃ」

 と謝る。そして改めて、

「ユウリはもっと自分に自信を持った方が良いと思うよ。あんな小説や詩がかけて、ユウリはユウリが思っている以上にたくさん良い所はあると思うよ」

「そんな私は・・・」

 否定したらまた怒らせてしまうんじゃないかと思ってそれ以上は言わなかった。

 再び互いに黙りになってしまい会話が無く緊迫した感じだった。

 コンビニに到着して、人数分の飲み物とお菓子を適当に買って店を出た。

 その時も会話が無く緊迫した空気が私と明さんの間に漂っていた。

 その時、思うが、さっき怒った明さんは卑屈になっている私に対して優しく叱っているいて、何だろうか明さんに対する気持ちが強まった感じだ。

 いや強まって欲しくない。明さんは女性だ。

 何て考えていると、私達の曲を明さんがハミングした。

 いったい何が始まったと言うのか、そんな明さんを恐る恐るその瞳をのぞき込むと、目があってドキドキして、何か『ユウリもハミングしろ』と言うように優しく笑ってウインクした。   

 明さんのリズムに合わせて最初は緊迫した空気が漂っていたせいか、ぎこちなかったが、次第に楽しくなってきた。

 そして明さんはサビの部分をハミングではなく歌う。


「幸せの青い鳥は、ここに僕達をとどまる事を許さないかのように、遠くへ飛び立ってしまう。

 君はその幸せの青い鳥を一人で追いかける事は出来ない。

 人から人へ巡りに巡って、ふれ合い、助け合い、ぶつかり合って、それで出した答えから夢が生まれ、かけがえのない人達と友に僕達は幸せの青い鳥を追いかける事が出来た。

 だけど、嬉しさや楽しい事ばかりじゃなく、試され、苦しさも悲しさも仲間と友に分けあえば、その思いは強まり、止まる事を知らない時のような幸せの青い鳥を追いかける力が増す」


 今明さんが歌ったのはサビの一番だ。そして明さんは急に私の方に視線を向けて、私はいきなり見つめられて、心臓が破裂しそうな程ドキっとして、その目を大きく見開いた。

「この歌の曲も良いけど、歌詞を聴いていると、何か勇気がわき起こるってエリと話していたんだけどな。

 それで私もエリも思ったんだけど、ユウリと愛梨に会えて本当に良かったってマジで思えたんだよな」

 そういわれて私も、

「私も明さんとエリちゃんに会えて良かったと思っている」

 と言ってしまった事になぜか恥ずかしく思ってしまう。

 すると明さんは哀愁漂うような、切なそうな表情で、

「愛梨が死んだ知らせを聞いた時は、すげーあいつを恨んだよ。

 でも信じられないけど、ああして帰ってきてくれて本当に良かったよ。

 もしあいつが死んだまま帰って来なかったら、こんな幸せな夏休みを送る事は出来なかっただろうな」

 明さんの話を聞いて私まで切なくなるので、

「やめましょうよ明さん。愛梨は生きてこうしてみんなで幸せな日々を送る事が出来たんですから」

 すると明さんの哀愁帯びた表情が次第に明るい笑顔に変わって、「そうだな」と笑ってくれた。

 家に到着して、コンビニから私の家まで往復30分。明さんと色々と話して良かったと思った。

 その話を後で整理すれば私のネガティブ思考の気持ちからポジティブな気持ちに変わるんじゃないかと思う。

 その後、みんなでテレビゲームをしたり、お菓子や飲み物を飲み食いして語り合ったりと楽しい時間を過ごしたと思う。


 明日は明さんの希望で午前中にバンドの練習をして、午後電車で隣町のライブハウスに行くことになった。

 そうだ。私達はバンドを組んだがみんなの前で演奏したことがない。

 大言壮語を言うようだが、いつか武道館を満員にしたいなんて密かな野望を私は持っていたりしている。

 でも世の中そんなに甘くないだろう。


 夕食も済んで、お風呂にも愛梨と入って、部屋で私はいすに座って今日の事を振り返っていた。

 何となく愛梨の方を見ると、愛梨はベットに寝転がりながらマンガを読んでいる。

 それはそれで良いとして今日、明さんに言われた事が凄く印象的だった。

 私の小説も歌の歌詞も絶賛してくれて、少し自分に自信を持っても良いんじゃないかと思ったりもする。

 でも調子に乗りすぎると慢心して、誰かに迷惑をかけてはダメだろう。

 それは私の経験で知ったことだ。

 それとは別に私は明さんの事を思うと、まさに恋心を抱いたのかもしれない。

 本能ではそういっているみたいで、私の理性はそれを相変わらず拒絶している。

 いっそ気持ちに正直になって、明さんの事を・・・。

 それ以上は私の理性が許さなかった。

 でも人間は本能に逆らう事は難しい。

 その本能を変える事も安易な事でもないだろう。

 明さんは女性なんだよ。

 どうして私の本能は同姓である明さんを求めるのか、自分が嫌になる。

 恋愛小説を読んでいる時、これは誰にも言えない私だけの秘密だが、男性を好きな自分好みに例えて、そのヒロインは私自身を例えて、想像力を膨らませ、読んで楽しんでいた。

 そう私好みの男性を思い浮かべて恋愛小説を楽しむ。

 私好みの男性と言ったら、・・・ん?どうした事か、私好みの男性を想像すると、男性ではなく女性である明さんが私の頭の中に飛び込んできた。

「ああああああ」

 思わず叫んで、我にかえって辺りを見渡すと愛梨がそんな私を見てきょとんとした表情で私を見ていた。

「どうしたユウリ」

「いや何でもない」

 すると愛梨はベットから降りて私の所まで来て、

「大丈夫か?」

 と言って私のおでこをさすった。

「大丈夫だって」

 そういっておでこを触る愛梨の手を振り払った。

「ふんふん」

 と頷いて何か意味深な仕草をしていたが、別に気にすることは無かった。

 時計を見ると、午後八時を回った所で、まだ寝るには早い時間だから、バンドの練習をしておこうと思って庭に出た。

 庭で大音量で演奏しても辺りは民家もない畑なので、誰にも迷惑をかけることはない。

 だから私は思いきり練習が出来る。

 私が練習していると、愛梨がギターを抱えてやってきて、「愛梨?」と声をかけると、

「ユウリが頑張っていて私も頑張らなきゃな」

 と言って友に練習をした。

 ここで一つの四字熟語が思い浮かんだ。

 それは切磋琢磨。

 私が一番大好きな四字熟語だ。


 小説を書いている時も曲の歌詞を書いている時も私は読んで聞いてもらって、一人でも良いから悲しみや苦しみから一歩踏み出せる勇気に変われば良いと思いながら試行錯誤しながら私は心がけている。

 私は小説も歌詞も書く時はいつも、マニュアルなんか見ない。

 見ると、そのマニュアルだけに頼ってしまい、私自身の個性が無くなってしまうからだと私は思うからだ。

 小説も歌詞もどうすれば、苦しみや悲しみの立場に立たされている人に一歩踏み出せる勇気に変えられるか自分で考えて書く。

 それが私のやり方だ。

 それに今日、私の小説を愛梨や明さんエリちゃんに見られて裸を見られるよりも恥ずかしい思いもしたが、三人は私の小説良く書けている絶賛してくれた。

 仮にそれが嘘でも私は嬉しいと思うし自信にもなる。

 それとどうしてか、私は三人の中の明さんになら見ても良いと思ってしまう。

 明日また明さんに会うんだよね。その時私の書いた小説を読んで感想を聞いてもらうのはおこがましいかもしれないが見て欲しい。いやつまらなかったら、すぐに途中で読むのをやめても構わない。明さんに読んで欲しい。

 そんな事を思いながら、誰にでも平等に訪れる朝日が訪れる。


 体全身に太陽の光に照らされ、私が目覚めると、私が被っているタオルケットを愛梨がひっぺがした。

「起きろユウリ」

「何よいきなり」

「聡美姉さんが布団干すからって、私達の布団を持ってきてって頼まれたからさ」

 相変わらず愛梨は律儀だ。

 私の家にお世話になっているのだから、せめてお手伝いだけでもと必死にやっている。

 そんな愛梨に感化され私も愛梨と同じように家の手伝いをした。

 愛梨と共に家中の掃除をして、かなり疲れたがなかなか良い運動になった。

 いつもとは違う朝を迎え、時間は過ぎて行き、明さん達はやってきた。

 私と愛梨が作ったオリジナルの曲を練習して、今日も以前と同じ感を取り戻した。

 やはり認めるしかないのか?私は明さんを見ると、胸が痛くなり、これがいわゆる恋だと。

 でも認めたくないと言う気持ちで複雑だ。

 それでどうした事か、明さんに私が描いた小説を読んでもらいたいと言う気持ちで、隣町のライブハウスにみんなで出かける時、密かに鞄に私が書いた小説のノートを入れておいた。

 電車に乗り私達は隣町へ。

「バンドの方は何とか順調だな」

 と明さん。

「明さん必死だからな」

 エリちゃん。

「エリもだろ」

「そうっすね」

「みんな良く頑張るな」

 何て笑いながら愛梨。

 三人が話し合っている所を私は明さんに読んでもらいたい小説をいつ渡そうかタイミングを計っていた。

 隣町に到着して、駅から数分のライブハウスに到着した。

「私達もあそこでライブ出来たらな」

 ライブハウスを眺めながら明さんが言う。

「その為にはうちらもっと頑張らないとね」

「私達だったら出来るさ」

 と愛梨の強気な発言。

「言うね愛梨。その自信はどこから」

 エリちゃん。愛梨はにやりと笑って、

「私達の気持ちが一つになろうとしている」

 愛梨はライブハウスを見つめながら、その瞳の奥に燃えるような赤い赤い情熱を秘めている感じだ。

 そう愛梨の言う通り私達はバンドの練習や話し合いで一つになろうとしている。

「早速中に入るか」

 入場料五百円を払って中に入ると、盛り上がっている。

 演奏は私達なんかが太刀打ち出来ないと思ったが、私達の演奏のカバーと愛梨の歌唱力で太刀打ちできるんじゃないかと思ったりもしている。

 でもステージの上で演奏するバンドとそれに盛り上がる観客達のあおりに私たちもテンションがあがってしまう。

 そこで私は思うんだ。

 歌は言葉よりも情熱を伝えられると。そしてそれに感化すれば人生はすばらしくなる。

 私はそんな情熱を込めた歌詞を作りたい。


 ライブハウスを出た時、私達はしばらく熱が冷めそうにない気持ちだった。

 明さんと愛梨はまるで子供のようにはしゃぎまくっていた。

 そんな二人を見てエリちゃんが、

「二人とも子供だな」

 何てやれやれと言った感じだ。

「でも気持ちは分かるよ」

 エリちゃんはフッと笑って、

「お前等と会って本当に良かったよ。最初会った時、明さんと愛梨は犬猿の仲だったからな」

 そういえばそうだった。

 私は見ていなかったが、明さんと愛梨はガチの喧嘩した仲だ。

 実を言うと私は生まれてから喧嘩なんてしたことがない。思えば、男の子も泣かしてしまう程の喧嘩慣れした愛梨が羨ましいとも思ったりする。

 私の目の前で愛梨と明さんははしゃいでいる。

 何だろう?そんな明さんと仲良くしている愛梨を見ていると、羨ましくなる。

 って、これって私は明さんの距離が近い愛梨に嫉妬しているのかと、違う違う。

 何て思っていると、エリちゃんが、

「どうしたユウリ、首なんか降って」

「いや何でもないよ」

 どうやら私は愛梨に嫉妬した自分を否定して気づかぬうちに首を振ってしまったようだ。 

「お前までライブの熱がさがらないのか」

 何て笑っているエリちゃん。

「そうだね」

 何て笑ってごまかした。

 

時計を見ると午後三時を示していて、ライブに感化された熱は冷めず、明さんが「これからカラオケに行かないか?」と言う事で愛梨が賛成して私もエリちゃんも賛成していた。

 カラオケなんて久しぶりだ。

 明さんとエリちゃんは定番のブルーハーツの曲を歌っている。

 ブルーハーツの曲はいつ聞いても、心の性感に響く。

 私は結構ミーハーで最近のヒットポップを歌う。

 それで来たのが愛梨だ。

 愛梨は尾崎豊や井上陽水など歌い、愛梨の歌声に私達は魅了される。

 その魅了する歌声には何が隠されているのか分からないし、本人も分からないと言っている。

 とにかく愛梨はうまい下手関係なく、歌いたい曲を楽しく歌うことをモットーにしている。

 じゃあ楽しい気持ちで歌えば聞き手を魅了できるのかとい言うと、私には出来ないし、明さんもエリちゃんも出来ないと言っている。

 いつもそんな愛梨の歌声に私は嫉妬したりもする。もしかしたらそれは明さんもエリちゃんも同じかもしれない。


 カラオケから出て、時計は午後五時を回っていた。

 少し時間があるので、駅の最寄りにあるゲームセンターにエリちゃんのリクエストで行くことになった。

 エリちゃんは明さんのようにいつもどっしりと熱いが、以外とかわいいところがあって、最近流行っている美少女御子ナナって言うアニメにはまっている。

 ゲームセンターに到着して、エリちゃんはその瞳を輝かせながら、ユーホーキャッチャーの品を見ている。

「ナナのフィギア入ったよ。これはやるしかないでしょ」

 早速両替機に向かいお札を両替している。そんなエリちゃんを見て明さんは、

「エリ、とれないからって熱くなってお金使い過ぎるなよ」

「大丈夫っすよ明さん」

「どうだか?」

 頭を抱える明さん。

「エリも相変わらずだな」

 愛梨。

「でもこのフィギアよく見るとかわいいね」

 私が言うと明さんが、

「それをエリに言ってやれよ。あいつ喜ぶぞ」

 そしてエリちゃんはお金を投入して、ユーホーキャッチャーを操作する。

 その様子を私達三人は後ろで見ていた。

 だが一発目ではとれず、とれるどころかアームが弱いため商品は微動だにしない。そこで明さんが、

「エリやめておけ、これはちょっとやそっとの金額じゃとれないぞ」

「大丈夫っすよ」

 興奮するエリちゃん。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 千円は投入して、商品は少し落下位置に動いただけだった。

「エリ、やめておけよ」

「大丈夫っす」

 エリちゃんは目がマジになっている。

 明さんも愛梨もやばい事に気がついているだろう。

 だから私は、

「エリちゃん。私も手伝うよ」

 財布から二百円取り出して、操作して良い位置についたと思ったら、品物はほんの少し動いただけだ。

「エリ、私も」

 と愛梨も財布から二百円取り出して、愛梨も操作する。

 少し動いて後少し。

「あー見てられない。私に任せろ」

 明さんも財布から五百円取り出して、操作する。

 良いところまで行った。

 後少しだと思うのだが、とれそうでとれない。

 ナナに興味あるない関係なく私達は熱くなってしまった。


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