明
「愛梨ちゃん?」
いきなりお姉ちゃんの声が聞こえて振り向くと、そこには紛れもないお姉ちゃんがいた。
「お姉ちゃん」
お姉ちゃんは死んでしまった愛梨を見て、目を丸くして驚いている感じだ。
「聡美ネエ久しぶり」
愛梨は愛梨で何事もなかったように聡美お姉ちゃんに挨拶をする。
しばらく家族には黙っていた方が良いと思っていたが、話は長くなるが、愛梨が死んでから私の事を心配していたお姉ちゃんには話さなければいけないだろう。
お姉ちゃんも密かに愛梨が死んでしまった事に対して悲しんでいた。
事情を話して聡美お姉ちゃんも信じられない顔をして驚いていた。
「本当なの?」
愛梨の人間の体温とは思えない冷たい肌と鼓動の感じられない胸に位置する心臓。
それらを聡美お姉ちゃんは信じられないと言う表情で何度もその五感で確かめている。
それで聡美お姉ちゃんは、ほっこりした顔で、
「とにかくまあ、信じられないけど、愛梨ちゃんが生きていて良かったよ」
と笑ってその瞳から涙を流して嬉しそうな顔をしていた。
改めて分かるが、聡美お姉ちゃんも愛梨の死に胸を痛めていたみたいだ。
幼い頃の愛梨と私をよくカラオケや遊園地、ピクニック、その他にも色々と遊びにつれていってもらった事があるからな。
だから聡美お姉ちゃんも愛梨に対して感慨深い思い出があるから言うまでもないかも。
そんな聡美お姉ちゃんに対して愛梨は、
「聡美ネエ、ごめん。私が死んで悲しませちゃって」
視線を斜め下に向け、愛梨が反省している顔だと私は知っている。だが優しい聡美お姉ちゃんは、嬉しそうに唇を綻ばせ、
「良いのよ。まあ正直愛梨ちゃんが亡くなって私は許せないとも思ったけど、こうしてまた蘇って生きているんだから」
愛梨の表情からすると、自分が死んで悲しませたのは聡美お姉ちゃんもであり、それで愛梨は気にもとめていなかった聡美お姉ちゃんの事に対して蟠っている感じだ。
でもそんな愛梨を笑顔でその手をとって、
「愛梨ちゃんは何か蟠っているようだけど、今はその気持ちでいた方が丁度良いかもね。私と愛梨を悲しませたんだから、それに友達も家族の人も。
とにかく明日あたりちゃんと謝りなさいよ」
「はい」
と神妙に返事をする。
「それとユウリとはいつまでも友達でいて上げて、この子にとって愛梨ちゃんの亡くなった悲しみは誰よりも深かったんだからね。
愛梨ちゃんの身に何が起こっているのか分からないけど、愛梨ちゃんは決して死んでは許されないんだよ。たとえそれが不幸な事故であっても」
と真摯な瞳を愛梨の瞳に突きつける。
聡美お姉ちゃんの言いたい事は私と同じだ。
だから私も聡美お姉ちゃんの真摯な視線を追うように愛梨の俯いた視線を見つめた。
愛梨は私と聡美お姉ちゃんの瞳をそれぞれ見て、
「ごめんなさい」
と深く頭を下げて謝った。
聡美お姉ちゃんは「フフ」と笑って、「分かれば良いよ。明日は私仕事早いから、そろそろ寝るね」
そういって聡美お姉ちゃんは部屋から出ていった。
愛梨は深くため息をついて、
「聡美ネエの叱りかたって、マジ心に響くよな」
愛梨の言う通りであり、私はそれを見ているだけで、こらえきれずいつの間にか涙を流していた。そんな私を見て愛梨は笑って、
「何でユウリが泣くの?」
「うるさい」
「何怒っているんだよ」
「うるさい。とにかく今日はもう遅いから寝よ」
「ああ」
部屋の明かりを消して、私と愛梨同じベットの上で眠る事にする。
愛梨が眠っている事を良い事に私は愛梨の背中に顔を埋めて泣いていた。
この冷たい体に鼓動が止まった心臓。
いったい愛梨に何がおこっているのか?
でも愛梨がどんな形であれ、愛梨が蘇って本当に良かった。
でもまた愛梨が私のこの手の届かないところに行ってしまうんじゃないかと、怖かった。
私はもう愛梨がいない世界で悲しい気持ちに翻弄されたくない。
太陽の光に瞳をくすぶられ、私は目覚める。
ベットの上に私一人しかいない事に、愛梨の事が心配になり、まどろんだ瞳が一気に醒めた。
「愛梨」
と私の部屋を見渡しながら呼ぶと愛梨は私の部屋にはおらず、部屋を出ると、廊下で愛梨は雑巾掛けをしていた。
そんな愛梨を確認できたことに私はホッとして胸をなで下ろした。
「ユウリおはよう」
相変わらず明るい笑顔でそういう愛梨。
「何やっているの?」
「見ての通り雑巾掛けだよ。ただで泊まらせてもらって何か悪いからな」
「そう」
ここで気がついたが私は目覚めた時、愛梨がいない事に心配になったみたいだ。
蘇った愛梨がまたいなくなったんじゃないかと。
とにかく愛梨がいる事に安心して部屋に戻り、時計を見ると、朝七時を回ったところだった。
そういえば今日から夏休みだ。
愛梨が家の雑巾掛けをしていると言う事は多分、お母さんもお父さんも愛梨が蘇った事を知ったんじゃないかと思って、その時はあまり問題ないだろうと気にはとめていなかった。
でも何だろう?愛梨が蘇った事はあまり人に言わない方が良いんじゃないかと思ったりもする。
このまま愛梨の不可解な蘇りが世間に広まって、政府の研究機関もしくは、何かしらの秘密結社にとらわれてしまうんじゃないかと考えた時。
「愛梨」
気が気でなく廊下で雑巾掛けをしている愛梨の元へと行く。
「どうしたんだよ。血相かいて」
「愛梨が蘇った事はあまり公にしない方が良いよ」
「どうして?」
「だって蘇ったんだよ。そんな不可解な事が広まれば、愛梨が政府の秘密結社か何かに幽閉されてしまう」
「・・・」
愛梨は疑問の表情で私を見つめる。そんな愛梨に、
「愛梨」
と心配のまなざしでその名を呼ぶ。
私は心配で泣きそうで愛梨を見つめる。すると愛梨は、大笑いをして、
「またユウリの被害妄想が始まったよ」
そんな愛梨を見つめていると、心の底から怒りがこみ上げてきて、
「何よ。本当に心配して上げているのに。愛梨なんか死んじゃえ」
と私は本気でそう思ってしまった。にも関わらず愛梨はケラケラと笑いながら、
「政府の秘密結社に幽閉何てありえねえだろ」
愛梨の言っている事は私の心を逆撫でする感じで怒りが再びこみ上げてきて、部屋に戻り、木刀をもって私が愛梨を殺してやりたい気持ちで思い切り愛梨にその木刀を愛梨に振りかざそうとした時、
「ユウリよせ。私が悪かったよ。ユウリは私の事を心配してくれたんだな。だから落ち着け」
謝っているみたいなので、私はとりあえず落ち着いて、深呼吸をした。
こんな奴本当に死んでしまえば良いんだ。こんな奴が死んだ事で涙なんて流した私がバカだと本気で思ったが、それは一時の私の気のない台詞だと言うことに気がつく。
そういえば、私達の間に、こんなやりとりが何度もあった。
無神経な愛梨は私に対して、怒らせて、たった今起きたように本気で殺してやりたい気持ちにも陥った。
それで愛梨が謝ってきて、仲直りって感じだった。
まあ、それはそれで良いとして、私が心配したのに愛梨の私に対する失礼な事は許してはいない。
私はベットに座って、愛梨に対する怒りがまだ治まっていなかった。
「ユウリ、まだ怒っているのかよ。悪かったよ。私が悪かったよ。だから機嫌治してくれよ」
何て私を必死になだめる愛梨。
もう良いと怒りが治まったが、何かそんな愛梨を見るのが何か面白くて、私は意地悪をして許していないそぶりで黙り込んでいた。
「ユウリ」
と肩を揉む。
もうかわいそうだと思って。
「分かった。許すよ」
「ありがとう」
と嬉しそうにその冷たい体で抱きついてきた。
時計を見ると、七時半を回ったところで、そんな時、一階のリビングから聡美お姉ちゃんの声が聞こえた。
「ユウリ、愛梨ちゃん、朝ご飯出来たから、リビングにおいでよ」
「今行くよ」
と私は言う。
愛梨と共に一階のリビングに行くと、コーヒーのほのかな香りが漂ってくる。
その香りに懐かしく感じたのは、久しぶりにいつもその香りを感じる朝食をとっていたからだ。
愛梨が死んでから、私は死ぬほどの悲しみにとらわれてまともに朝食さえもとらず、家族に心配をさせてきた事に罪悪感を感じていた。
愛梨のせいだと攻めたかったが、とりあえずこうして蘇って生きているのだから、そういう気持ちにはならなかった。
さっきは愛梨に対して死んでしまえば良いなんて思ったが、それは一時でもとんでもない事だ。
改めて思う事だが、私が私でいられるのは愛梨が側に感じられるからだ。
だから愛梨は生きている。
久しぶりの朝ご飯と蘇った愛梨が側にいる事に何かテンションがあがる。
しかも今日から夏休みだ。
それはそれで良いとしてリビングで愛梨と共にテーブルを囲んだ。
「すいません。朝ご飯までご馳走になって」
と愛梨は何かかしこまった感じで恐縮している。
「何かしこまっているの?愛梨ちゃんらしくないじゃない。別に昨日家に泊まったからって、気を使って雑用なんてしなくても良いのよ」
そこで私が、
「本当だよ。愛梨らしくない」
「私らしくないって、どう言うのが私らしいって言うの?」
何か困惑している愛梨。
そこで私と聡美お姉ちゃんとアイコンタクトを自然と取り、笑顔で口をそろえて、
「「いつも通りで良いんじゃない」」
朝食はいつも聡美お姉ちゃんが作ってくれたんだっけ。
ちなみにお父さんとお母さんは、とある商店街の一角に位置する弁当屋を経営して、いつも材料の下拵えに朝が早い。
朝食のメニューはトーストにベーコンエッグ、サラダでとても健康面に考慮している。
食べるととてもおいしい。
そういえば愛梨が死んでしまった事がきっかけで、食べるのもおっくうだった。
でもみんなと食べるご飯をおいしく感じられるのは幸せだと思う。
お姉ちゃんも仕事で、朝食を済ませて、出かけていった。
大人って大変だな。
聡美お姉ちゃんの職業はとある海岸に位置する水族館のスタッフだ。
それは以前からの聡美お姉ちゃんの夢であって、その仕事に就けてやりがいがあると胸を張っていたっけ。
それはそれで良いとして、朝食が済んで私と愛梨は二人きりだ。
時計は八時を示している。
あれだけ愛梨の死に悲しんでいた私は、安心したのか?そんな愛梨と一緒にいるのも飽きてきた。
そんな愛梨は、
「ユウリ、とりあえず明とエリの元に私が生きていた事伝えに行こう」
と。
でもそんな事を言う愛梨に対して心配になり、もしかしたら、愛梨が蘇った事をあまり公にしない方が良いと思っている。
愛梨が蘇って安心したら愛梨といるのにも飽きてきたと思っていたが、やっぱりまた愛梨が死んだら、悲しむ自分に恐ろしさを感じていた。だから私は、
「愛梨」
愛梨の目を見る。
「大丈夫だよ。ユウリは心配しすぎなんだよ」
何て言われて、先ほど被害妄想何て私をケラケラ笑った愛梨の顔が思い浮かんで、怒りがこみ上げてきた。すると愛梨は、私が怒っているのを悟ったのかあわてるような口調で、
「別にそういう意味で言っているんじゃないよ」
「じゃあどういう意味で言っているの?」
返答次第ではその舌を引っこ抜いてやろうと思っている。
愛梨はその視線を悲しそうに泳がせて、
「ユウリは私の事を心配している。ユウリって誰かを心配する時、ある事ない事、深読みをする癖があるよね」
そんな事を言われたのは初めてだ。
私はある決意をして、愛梨の元へと歩み寄ると愛梨は、
「ユウリ、私あんたの事怒らせちゃった?」
あたふたとする愛梨。
「別に怒ってないよ。分かったよ。明さんとエリちゃんは本気であんたが死んで悲しんでいたみたいだからね。明さんとエリちゃんにはあんたが生きていた事をちゃんと伝えておかなきゃね」
私は思ったんだ。愛梨が蘇ったことを友達である明さんとエリちゃんには話しても大丈夫だと。
だから早速明さんに連絡して、いつも学校帰りに寄り道をしていたファミレスに集合をかけておいた。それにエリちゃんも来るようにと。
明さんには内容は伏せておいたが、とにかく私から大事な話があると言ったら、分かったと時間を開けてもらった。
準備は整い、愛梨が不服を言う。
「ユウリ、私の服洗っちゃったの?」
「何度同じ事を言うの?諦めなよ」
「せめてチノパンかジーパン、ズボン類はないの?」
「悪いけど、私はズボンは一着も持っていないんだよ」
「このひらひら落ち着かないよ」
そう愛梨は昨日私が貸した白いワンピースで出かけなきゃいけない事に抵抗があったみたいだ。
「つーか、似合っているし、かわいいと思うよ」
それはからかっているのではなく本心からだった。でも愛梨は、
「こんな格好明に見られたら、絶対あいつ笑うと思うよ」
確かにからかうかもしれないけど、
「今日は我慢してよ」
「じゃあせめて約束は明日にしようよ。夏休みは長いんだから」
私はいらいらして、自然と舌打ちが漏れ、
「さっさとしろ」
と愛梨の手を強引に引いて、麦藁帽子を頭に被せ、外につれていく。
とにかく明さんもエリちゃんも愛梨の訃報に悲しみに苛んだんだ。
だから二人とも愛梨が蘇った事を聞いたら喜ぶと思っている。
今日は本当に暑い。
私は汗まみれだが、愛梨を見ると汗一粒流していない。
愛梨は蘇ったが、人間ではない事に心配で不安になってくる。
そんな事はともかく早く二人が喜ぶ顔が見てみたい。
ファミレスに到着して、外に明さんの原付が止めてある。
きっと二人は中にいる。
いつもあの二人はこの原付で二人乗りして移動している。本当はいけないんだけどね。
中に入り、奥の角の席に二人は座って待っている。
明さんを目にした時だった。
何だろう?この気持ち。胸が圧迫されるほどの鼓動にさらされる。
電話で話した時は何の緊張もしていなかったのに、私はどうして明さんを見てこんな胸が圧迫されて鼓動が激しく高鳴るのだろう?
明さんが私に気がついた時、
「よう」
と声をかけられ、隣にいたエリちゃんも、
「来たか」
エリちゃんはともかく明さんに声をかけられて、呼吸が乱れるほどの動機にさらされる。
「そんなところに立っていないでこっちに来たらどうなんだ」
と言われて、一瞬私は本来の目的を忘れてしまったみたいだ。
そういえば私は愛梨が蘇った事を二人に伝えに来たのだ。
その肝心の愛梨がいない。
辺りを見渡して、ファミレスの外に目を向けると、愛梨は恥ずかしそうに外で中に入るかどうするか後込みをしている様子だ。
私は外に出て、そんな愛梨を、
「何やっているのよ愛梨。早く中に入りなさいよ」
と強引に腕をつかんで、
「ちょっと待ってくれよ」
「早く」
と渋々の愛梨を中に入れた。
再び中に入り、そんな私と愛梨のやりとりを見て、明さんとエリちゃんは何をやっているんだろう?と言うような顔をして私達の事を見ていた。
どうして愛梨を見てそんな何事もなかったような顔をしているのか不思議に思って愛梨の方を見ると、愛梨は麦藁帽子で恥ずかしそうに顔を隠していた。
「ちょっと」
と一喝してその麦藁帽子を取り上げた。
「ユウリ恥ずかしいよ」
何て言ってようやく観念してくれたようで、二人はその目を向けた。
二人の反応を見てみると、目を丸くして驚いている様子だった。
「愛梨」
明さんがその名を呼んで立ち上がる。
「嘘だろ」
とエリちゃんも立ち上がる。
「お前愛梨なのかよ」
明さんはまだ信じられないと言うような顔をして、目の前にいる愛梨をマジマジと見つめている。
そして二人は愛梨のところに駆けつけ、明さんが、
「お前生きていたのかよ」
愛梨は恥ずかしそうに、
「ああ」
と返事をして再会よりも何か私が貸して上げた白いワンピース姿を見られる事の方を気にしているようだ。
でも二人はそんな姿を気にすることよりも、愛梨が生きていた真実を目の当たりにしている事の方が大きい。
明さんはどうしたのか、その顔を反らした。
そこでエリちゃんが明さんにハンカチを差し出した。
「明さん」
と。
「わりぃ」
呟いて、やっぱり涙は見せたくないのだろう。ハンカチを受け取って後ろを向いてしまった。
思えば涙を流している明さんを私は初めて見てしまった。
すると明さんはどうしたのか?愛梨の手を取り、
「ちょっと来いよ」
と穏やかではない口調で言って、外へと連れて行った。
私は嫌な予感がして、後について行くと誰も目に付かないような細い路地へと連れて行った。
すると明さんは愛梨の胸元をつかんで思い切りその頬を叩いた。
愛梨は黙って何も抵抗はしない。
その様子を見て、明さんの気持ちは分かった。
愛梨が死んでしまって悲しいほど許せなかったのだと。
だが黙って何も抵抗しない愛梨が気に入らないのか?明さんの怒りは止まらず、
「黙ってないで何とか言えよ」
と罵り、愛梨を殺してしまいかねない勢いで、その愛梨の頬を何発も何発も叩き続ける。
さすがにやりすぎだと思って「ちょっと」と言って止めに入ろうとするが、エリちゃんに「手出し無用」と言われて、その手をとられて止める事は出来なかった。
見ていられないと思って目を背けようとすると、エリちゃんにこづかれて、「背けてないでちゃんと見届けろ」と言われて、愛梨が痛めつけられている姿を辛いが見るしかなかった。エリちゃんは何のつもりでそんな事を言っているのか分からない。それに明さんもすごく怖い。蘇った愛梨を二人に会わせたのは間違いだと思った。
「ちょっとはやり返したらどうなんだよ」
明さんの手が止まり、こらえ切れないのか、その声は涙声に変わっていた。
私はこの光景を見て泣いてはいけないと思ったが、泣き虫な私は自分が嫌になるほど、涙腺が故障したかのように涙を流してしまった。
ちらりとエリちゃんの方を見ると、しっかりと明さんと愛梨のやりとりを見ていたがその瞳から涙が頬を伝っていた。エリちゃんも昭さんと同じ気持ちなのかもしれない。
だから私も辛いけど二人のやりとりを見なければと必死で涙を拭いながら見ていた。
何も抵抗しない愛梨は、
「気が済んだか?」
立ち上がり、明さんは泣き崩れてしまった。
いつも威厳を持って堂々としている明さんは正直らしくない。
でも愛梨が死んだ事を聞いて私と同じようにその悲しみに打ちひしがれていたのだと改めて分かった。
昨日聡美お姉ちゃんが言ってたが、愛梨はたとえどんな事があっても死んではいけなかったのだ。
それ程、明さんとエリちゃんは愛梨の事が好きなんだって。
前言撤回だ。
愛梨が蘇った事を二人に朗報として知らせて良かったのだと。いやそうしなければいけなかった。
抵抗されても手を出さなかった愛梨も、自分が死んでしまって本当に申し訳ないと思っている。
きっと明さんの攻撃は痛みはあまり感じていないが、心に痛感したんだと思う。
そういえば私は昨日愛梨が蘇った朗報を聞いた時、喜びと同時に怒りにも翻弄された。
それで私はその場で手のひらを見つめ、思い切り愛梨の頬を叩いた事を思い出した。
明さんもエリちゃんも同じなんだ。
私は涙をハンカチで拭って、二人のところまで歩み寄った。
「明さん。もう良いんじゃないんですか?」
「明」
と愛梨は泣いてうずくまっている明さんにその手を差し出した。
「うるせー」
と言って明さんはその手を払い、涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げ自力で立った。
「明さん」
エリちゃんが明さんの所に歩み寄り、明さんの背中をさすった。
そしてエリちゃんは、私と愛梨の方に視線を向け、
「今日の所はうちも明さんも気持ちが動揺しているから、落ち着いてから、またユウリのスマホにかけるよ」
と明さんを連れて去っていった。
その後ろ姿を見つめ、何か複雑な気持ちだった。
その私の複雑な気持ちの正体は、あまりにも衝撃的な現状を見て一概には言えない色々な気持ちが交錯したからだと言う事だった。
そしてその複雑な気持ちの奥にあったのは、言葉では言い表せられない何か心穏やかなになるような気持ちのいいものだった。
愛梨を見ると、自分が死んでしまって申し訳ないと言うようにその視線を俯かせて苦笑いをして黙り込んでいた。
そんな愛梨の背中を叩いて、
「とりあえず今日の所は帰ろう」
「ごめんユウリ、先帰っていてくれないか?」
「エッ?」
そんな事を言う愛梨が心配になって、疑問の言葉が漏れた。
「今は一人になりたいんだ」
「一人にって」
その気持ちは分かる。自分が死んでしまって二人に凄く心配かけてしまった事に対して蟠っていると。
でも私は今愛梨を一人にすると、また私の手の届かない所に行ってしまうんじゃないかと思って、その手をつかんで、
「だめだよ愛梨」
その私がつかむ手をじっと見つめて、目を閉じて黙っている。そんな愛梨に対して、
「愛梨」
と、どうしたの?と言うように声をかける。すると愛梨はその瞳を開いて、
「分かったよユウリ、私何か今、海に行きたいんだ」
「分かった。つき合うよ」
自然と笑顔がこぼれて、愛梨の冷たい手を両手でぎゅっと握った。




