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アスナ2

その写真に写されていたのは、下着姿のまま拘束され所々に痛々しい傷を負った涙ちゃんの姿だった。

 呼吸がまともに出来ずに、そんな私を見て明さんが、

「どうしたユウリ」

 見せてはいけないものだと思って、咄嗟にスマホをギュッと胸に押し当て、

「何でもない」

「ユウリ」

 不審に思った明さんは鋭い目つきで私を見つめる。

 聡い明さんは私が胸に引っ込めたスマホに目を向け、

「何隠しているんだよ」

 私がひっこめたスマホを無理やり奪い取ろうとしたが、私は見せてはいけないものだと思って渡さないと、必死に抵抗した。

 しかし明さんには力ではかなわず軽々と奪われてしまい、明さんとエリちゃんはその画像を見て、目を大きく広げて驚愕している。

「何だよこれ」

「マジかよ」

 明さんとエリちゃん。

 ここで冷静になり状況を整理すると、これは明らかに私達に対する挑発だ。

 奴らは私達の事をどこかで監視して、私達の心を弄んでいるようにも思える。

「こんな事をして何が楽しいの?」

 と泣き叫ぶしかなかった。

 この怒りと悲しみ、どこにぶつければいいのか分からなかった。

 でも泣き寝入りするしかなかった。

 この挑発に乗ったら奴らの思うつぼだ。

 そう思えたのは、この私達が悲しみと怒りを分かち合えたからだと思える。

 一人で抱えてたら、悲しみと怒りに翻弄され、自棄になり暴走して、どこかで無残な姿になり息絶えていただろう。

 このような状況に陥るとき、分かっているが本当に人間は一人では生きていけない事が分かる。それは分かっていても、それでも一人で困難を一人で乗り切ろうとする自分がいる。だから本当に一人で解決できそうにない問題は、仲間に相談すると常に戒めとして心に刻むしかない。

 本当に本当に不本意だ。

 でもそれは私だけじゃない。明さんもエリちゃんも同じだ。

 だから私はその場でスマホを叩きつけ壊した。

 早くこうしていれば良かった。

 こんなメールを見るんじゃなかった。

 もうおちおちしていられない。

 愛梨は目覚めない。

 もしこのまま愛梨が目覚めなかったら、これも仕方がないが、愛梨も見捨ているしかないとも思ってしまう。

 その思いを二人に伝えたが、それも仕方がないと納得した。でも私が不本意だった。

 自分の気持ちに問いかけると否定してほしい自分がいた。

 だから私は言ったんだ。

「どうしてそんな事を言うの?」

 と。

 そこでふと我に返り、言ったのは自分じゃないかと自重する。

 このように追い詰められて私達はどんどんおかしくなっていく。

 もはや悲しい時に流れる涙は流れなくなっていた。

 死んでしまいたいとも思ってしまう。

 でもその思いを覆す奇跡が起きた。

 それは愛梨が目覚めてくれたんだ。

 放心状態で、横浜太郎が言っていた事が進行しているのかどうか何てもうどうでも良く、私はそんな愛梨に抱き着き、そして明さんもエリちゃんも同じように。

 私達には私達がいればもういい。

 富も名誉もいらない。

 私達がいれば私達でいられる。

 この先困難も待ち受けているだろうが、私達がいればそれでいい。

 どんな事があってもこの手を離してはいけないと思っている。


 早朝、私達は集落に戻る事を決意した。

 重体で意識不明の一さんには悪いが、目覚める事を待つ余裕などないので私達が行こうとしたが、一さんのバンドの仲間であるキーボード担当の蓮さんが入ってきて、

「一が目覚めたよ」

 嬉しそうだった。

 それはそれで私達は嬉しいが一さんにどんな言葉をかければ良いのか分からず、あって行くべきか否か考える。

 私達で話し合ってとりあえずけじめとして、私達は集落に行くと伝えておく。

 それと何者かは知らないが涙ちゃんのあの写真の事は伏せておいた方が良いと私と明さんとエリちゃんで話し合った。

「ごめんなさい一さん」

 意識を取り戻したばかりの一さんに私達は深く頭を下げて謝る。

 でも一さんは、

「良いよ、別に」

 どうしてこんな目にあってまで笑っていられるのか分からず、正直、そんな風に言われて安心してしまうが、安心したくなかった。

 この贖罪として私の右目をあげたいとも思っていた。

「そんな顔するなよ。こういう時だからこそ笑うんだよ。お前らも人に夢を与える存在でありたいフォルトゥーナだったら、笑え。そして俺を熱くしてくれ」

「・・・」

 もはや返す言葉が見つからない。こんな時に笑う何て不謹慎だ。そこでエリちゃんが、笑った。

 一瞬空気読んでよ、と目で訴えたが、それでも笑った。

「やめてよ」

 と言ったが、さらに明さんが笑った。

 そして放心状態の愛梨が穏やかな笑顔をした。

 すると何だろう。不謹慎だと分かっていても私もつられて笑った。

 気持ちよかった。


 一さんには悪いが涙ちゃんの事は諦め、集落に戻る旨を伝え、納得してくれた。

 キーボードの蓮さんが集落まで送ってくれると言う事で、もう私達にはかかわらない方が良いと思って遠慮しようと思ったが、愛梨が何も言わずにトラックの荷台の上に飛び乗った。

 ここで私は考える。

 愛梨は放心状態の時は未来を予知できる力がある事を何となくわかっている。

 だから愛梨がここで乗り込んだのもすべてを知ると言う力を使っているのかわからないが、これ以上愛梨の力を借りるのは良くないと思った。でも明さんもエリちゃんも乗り込んで、

「行こうぜ」

 にやりと笑い親指を荷台の方へ向け乗れと合図をした。

 愛梨の力を借りるのはこれが最後にしておこうと思って、私も乗り込んだ。



 


 トラックは動き出し、私達の間には会話はなく、やはり今回の件を諦めるのは不本意なのは仕方がない。

 どうしようもない事は諦めるしかない。

 頭をぼんやりしていると、涙ちゃんの事が頭に思い浮かび、先ほどメールで見た涙ちゃんの無残な姿が思い浮かんで、心が引きちぎられそうな思いをこらえるために、放心状態の愛梨を抱きしめて紛らわせた。

 もう諦めるしかないんだ。妙な情に流されたら奴らの思うつぼだ。それに私達がまた何かすれば誰かがまた巻き込まれる。

 だから悔しいけどもう諦めるしかない。

 こんな状況に私は死んでしまいたいとも思うが、それは諦めるのは正しいと思う。私を必要とする人は少なからずいるからだ。

 だから私は生きる。私の命は私だけのものじゃない。

 そう私だけの物じゃない。

 それに明さんの命もエリちゃんの命も、そして私が今抱きしめている愛梨の命だってそうだ。

 私は歌を描いていて、この世に亡くなっていい命何てないと言う思いを込め描いていると自分でもいうのもおこがましいと思われてしまうかもしれないが、そう自負している。

 私のこの思いを笑う人もいるかもしれないが、それでも共感して聞いてくれる人がいる。

 だからそれで良かった。

 だから思うんだ。

 涙ちゃんの命も涙ちゃんだけの物じゃないって。

 でも助けたいと言う気持ちはあるが、一人の人間の為にもう私達は他の誰かを巻き込むわけには行かない。

 現実は残酷だ。

 でもそれで良いのか?

 涙ちゃんを助けたい。でももう私達にはどうすることも出来ない。

 連中に戦争を仕掛けたいとも思うが、本当にそんな事をしたって何もならない。これ以上かかわると、奴らに翻弄されて、本当にそういった気持ちになる。

 だからもう逃げるしかないんだ。

 相手が弱かろうと強かろうと暴力でものを訴えてはいけない。

 でもそのような状況に陥った時は戦う事は余儀ない。

 涙ちゃん。

 誰も心配させたくないあまり自分で何もかもを背負い込んでしまうその気持ちに私は叱りたいんだ。

 でももう諦めるしかない。

 でも頭から涙ちゃんが離れない。

 きっと涙ちゃんとは何かと繋がっていたのかもしれない。

 でもそれを断ち切らなくてはいけない時だ。

 みんなの為にも私達の為にも。

 でもでも。

 断ち切ろう断ち切ろう。

 そう自分に言い聞かせて、愛梨にしがみついている。

 明さんの為にもエリちゃんの為にも、そして愛梨の為にも涙ちゃんとは断ち切らなくてはいけない。


『私はユウリの事を信じているから』


 愛梨の声が聞こえて、愛梨の顔を見るが、愛梨は喋った様子はなかった。

 無我夢中で忘れていたが私は愛梨の手を掴んでいた。

 メモリーブラッド?


『信じている』


 と。

 愛梨の色々な思いが交錯している中、その言葉が胸に響いた。

 愛梨は私の事を信じている。

 だから私は私が信じた道を行けばいい。

 だから。

 私は愛梨から離れて、明さんとエリちゃんに決意したことを言う。

「明さん。エリちゃん。私は涙ちゃんを助けたい」

「いきなり何を言い出すんだ。これは奴らの挑発だ。それにまた誰かを巻き込むことになるぞ」

「うちらでもう話し合ったじゃん」

「私は私を、自分を信じる。自分の信じた道を行きたい」

 私はその真摯な瞳で二人を見つめた。

 きっと二人も私と同じ気持ちだと信じて力を貸してくれるって。

 私の思った通りだった。

 二人はおもむろに活気の良い笑顔に変わっていく。

 もう言葉はいらなかった。

 誰かを巻き込んでしまうんじゃないかと懸念した気持ちに対しては自分を信じて、信じてくれる人がいる事に整理が付いた。

 もう何も恐れる事はない。

 手がかりはないが、涙ちゃんとは何か繋がっている。

 この見えない糸をたどって行けば涙ちゃんの元へとたどり着けるんじゃないかと思った。

 そう思うと自分はどうかしているんじゃないかと思ったが、そうじゃない。

 これは勘違いじゃない。このつながりを感覚を研ぎ澄ませてたどって行けばたどり着けると私は確信する。

 トラックに揺られて、何か嫌な予感がした。

 気のせいかと思ったが何か気になり、運転手の蓮さんに伝えようとしたが、それよりも早く、前方から勢いよく車が走ってきて、運転手の蓮さんは車に急ブレーキをかけ、私達はその反動で荷台から振り落とされた。

 地面に叩きつけられたが、運よく草がクッションになってくれて衝撃は緩和してくれて、ケガには至らなかった。

 それよりもみんなは大丈夫かと心配して、

「みんな」

 と声をかけ、明さんもエリちゃんもユウリも大事には至っていない事にとりあえずホッとする。

 みんなは大丈夫だ。

 蓮さんが心配になり、車の方を見ると横転している。

「蓮さん」

 と駆けつけ、私に続きみんなも続く。

 蓮さんは意識がもうろうとしている。

 明さんとエリちゃんが蓮さんをトラックから降ろして、安全な場所へと案内する。

 私は正面から突然突っ込んできた車の方へと目を向ける。

 これは明らかに事故ではない。

 私達を狙う連中の仕業だ。

 そのとおりであり、車から出て来た連中は覆面を被っているが、その視線から心が凍り付くようなおぞましいものを感じる。

 勝ち目もないし、おそらく話し合いで解決できないだろう。

 でも私達は戦わない。でも逃げない。

 私には感じる。

 こいつらは涙ちゃんの手がかりを知っていると。

 だからここは冷静になり、抵抗しないで大人しくした方が良いと。


 私達は不特定多数の人間に狙われている。


 私達の熱が鬱陶しく思った奴がいる。


 私達の周りの大切な人を傷つける人。


 私達は生きていること自体が迷惑なのか?


 じゃあ私達は最初から存在しない方が良いんじゃないか?


 私達は見知らぬ人同士で、生きていれば良いんじゃないか?


 だったら愛梨が蘇らなきゃ良かったんじゃないか?


 そうだ。私達は・・・。


 そこで私は気が付く。


 真っ黒い何かに包まれそうな事に。


 そして私はそこからもがく様に必死に叫ぶ。


「そんな事はない」

 と。私は叫びながら目覚めた。

 私は縛り付けられ、身動きが取れない。

 辺りを見渡すと明さんもエリちゃんも愛梨も縛り付けられている。

「明さん、エリちゃん、愛梨」

 呼ぶと、

「気が付いたか、ユウリ。わたしは何とか生きているよ」

「もう訳が分からないよ」

 明さんとエリちゃんが返事をした。

「・・・」

 愛梨は反応はないが生きていると感じた。

 とにかくみんな無事でよかった。

「蓮さんは?」

 心配で聞いてみると、

「さあな」

「もうどうでもいいよ」

 投げやりな二人にいら立ち。

「諦めないでよ」

 必死に訴える。

「そんな事を言われてもな」

「もうどうにでもしろって感じ」

 二人の意見を聞いて私まで諦めそうな気持に陥りそうになったが、私は自分と明さんとエリちゃんに言い聞かせるように。

「諦めちゃダメ。諦めちゃダメ、諦めちゃダメ。諦めちゃダメ。諦めちゃダメ・・・・・・・」

 何度も何度も連呼した。

「分かったよ。分かったから。少しは落ち着け」

 興奮している私を落ち着かせるような口調で言う。

「でもどうしたら良いんだ」

 エリちゃん。

 確かにエリちゃんの言う通り、拘束されてどうにもならない。

 でもこのような時だからこそ、諦めず冷静な判断をすべきだと私は思う。

 心なしか涙ちゃんが近くにいる気がする。

 すると部屋が真っ暗になり、何事だと思って気を引き締めこらえていると、正面の漆喰の白い壁に映写機で映し出された画面が現れ、拘束され涙ちゃんがリンチされている場面が映し出された。

 明らかにこれは私達の心を弄んでいる。

 私達のもだえ苦しむ姿が見たいあまりの卑劣な犯行だ。

 いや本人は卑劣だとは思っていないだろう。

「こんな事をして何が楽しいんだよ」

「うちらに何のうらみがあるんだよ」

 明さんとエリちゃんは怒り狂っている。

 でももう私はもう怒りというより、こんな涙ちゃんを見て心は痛むが、それよりもこれを仕組んだ人の心の歪みを悲しい。


 不特定多数の人間に狙わている私達。


 私達の熱が鬱陶しく思う奴がいる。


 様々な思いがまとまり私は犯人が分かった。

 これは推理と言うより、私が感じた事だ。

 そして私はその名前を呼ぶ。


「アスナさん」


 その名を呼んだ時、何か部屋が不穏な空気に包まれた。

 いや部屋ではなく私の心が何か不穏に染まっていた。


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