一
「ユウリ」
「ユウリ」
明さんとエリちゃんの声がして、私はいつの間にか眠ってしまったのか、目覚める。
その瞳を開けるとトラックのフロントから太陽の光が私の目を刺激して細める。
「ここは?」
「お兄さんが仕事先の物流センターまで送ってくれるってことで、その方が好都合だと思って送ってもらったんだよ」
明さん。
「ユウリも愛梨も起きろよ。お兄さんがうちらに見せたいものがあるって」
見せたいものって何だろう。
お兄さんとは今日出会ったばかりで、そんな友達でも知り合いでも、ましてやそんな特別な存在でもないのに。
とりあえず愛梨を起こして愛梨の意識は放心状態ではなく天真爛漫な愛梨だ。そんな愛梨にとりあえずホッとして、明さんとエリちゃんの後に付いて行く。
物流センターは港だった。
カモメたちの鳴き声を聞いて、何か懐かしい気持ちになったりもする。
しばらく山奥の集落にいて、海を見るのが久しぶりだからだろう。
それよりも私達は涙ちゃんの無事を確認するために集落を下りたのだから、こんなことをしている場合じゃないかも。
明さんとエリちゃんはお兄さんが見せたいものを知っているような感じで、何か私と愛梨にも見せたいと言うようにも感じられる。
それで物流センターのプレハブに入ると、中はスタジオでお兄さんとその三人の仲間達がそれぞれ楽器を持っていた。
ちなみにお兄さんはポジション的にギターアンドボーカルだった。
「待っていたぜ」
お兄さんがギターをかき鳴らしながら言う。
そしてお兄さんがドラムに合図を送り演奏が始まった。
曲を聞くと、すごく熱いものを感じる。
何だろう?お兄さんの歌っている姿を見ていると、何か感じる。
この感じはすぐには答えが出ないと言った感じで、とても重要な事だとも思える。
演奏が終わり私達は思わず拍手を送る。
するとお兄さんは愛梨の元へと行き、ギターを差し出し、
「お前らもバンドを組んでいるんだろ」
その問いに明さんとエリちゃんが答えたかと思ったが二人はそんな軽率な事を言う人じゃないことを知っているので、きっとお兄さんも私達を見て感じたのだろうと思った。
でも面倒な事になりそうなので、断ろうとしたが困った事に愛梨が、
「お兄さんには分かるんだね。私達もお兄さん達のバンドに負けないくらいの熱いフォルトゥーナの本気を見せてあげるよ」
意気揚々とそういって、もう後には引けない状況に陥ってしまった。
明さんはベースを俊さんと言う人に受け取り、エリちゃんは多良見さんと言うドラムの人と変わり、私はキーボード担当の蓮さんと変わり、愛梨がギターをかき鳴らすと、鼓動に何か熱いものがこみ上げてきて、エリちゃんのドラムの合図とともに演奏していた。
私達って本当に一心同体って感じだと思う。
その証拠にこうしてそれぞれ楽器をもって演奏すれば一つの熱いメロディーが奏でられるからだ。
最近練習もしていないのに、それでもこうして演奏できるのは私達の中で熱い絆で繋がれているからか?分からないけど、キーボードを演奏している私もベースの明さんもドラムのエリちゃんも愛梨も今すごく熱く、この思いを理屈では語り切れない。
演奏を聴いてもらい、お兄さん達にはすごい絶賛だった。
これ以上お兄さん達の所で長居するとお兄さん達を巻き込みそうなので、物流センターを後にしようとしたが、お兄さんは今日の所は泊って行ったらどうだと言われ断ろうとしたが、また愛梨が。
お兄さんの名前は藤原一と言うらしい。それと一さんが組んでいるバンドの名前はないみたいだ。とにかく名前何てどうでもいいみたい。
それはともかく愛梨は一さん達に食事をごちそうになり、その食卓を囲む場で私達の目的を言ってしまった。
別に言っても良いのだが、愛梨のそういう軽率な判断は控えた方が良いかもしれないと注意をしておいた。
それで私達は一日だけ一さんの所でお世話になる事になった。
ここで私は一さん達の演奏に熱い物とは別に何かを感じていた。
心なしか涙ちゃんの手がかりになると思ったりもしている。
それともしかしたら愛梨の未知の力で涙ちゃんの元へと誘われているんじゃないかと思えた。
だから私は一さんに単刀直入に聞くことにする。
一さんは今、物流センターの倉庫で荷物の整理をしている。
私は一人でそこへ駆けつけ、一さんが荷物の整理をして作業をしている時、
「あの」
「どうした?」
「あなたに行方が分からなくなった人っていますか」
「・・・」
黙り込む一さん。図星だと言う感じだ。
「一つ聞きたいんですけど、涙さんって言う十五歳の中学生をご存知ですか?」
当たりだった。
一さんは私達の話を聞いて、まさか一さんの行方不明になった娘の涙ちゃんを私達が探しているとは夢にも思わなかったみたいだ。
私もそうだ。
これは愛梨の力が何かに関係しているのだと思った。
でも愛梨のこの力を使わせてはいけない気がする。
理由ははっきりしないけど、何かそんな感じがしているし、このまま愛梨が未知の力を使えば愛梨が死ぬことよりも残酷な運命にさらされてしまうんじゃないかって。
とにかく今こうして愛梨に導かれ、涙ちゃんの実の父親の元へたどり着いた。
これは私達の目的である大きな手掛かりになるのは言うまでもないかも。
それともうこれ以上愛梨の力に頼ってはいけない。
涙ちゃんを探し出し、涙ちゃんを父親である一さんの元へ返したら、私達はまた集落に戻るつもりだ。
涙ちゃんの父親である一さんはもちろん力を貸してくれる。
私達フォルトゥーナは涙ちゃんには幸せになってもらいたいと思っている。それは実の父親である一さんも同じで、互いに協力し合う事で折り合いはついている。
父親である一さんは私達に涙ちゃんの事を話してくれた。
涙ちゃんの母親は物心つく前に亡くなってしまったと言う。
それで一さんは仕事や趣味であまり涙ちゃんには構えず、涙ちゃんは親戚の家に世話になっていたと言う。
でもその親戚も亡くなり、涙ちゃんは父親に対して寂しい顔はしなかったと言う。
「お仕事頑張ってね」
「お父さんのバンド最高」
一さんは自分が好きな事をやっていれば娘は寂しい思いはしないし、大丈夫だと思っていたみたいだ。
でもある時、ふと気が付いた。
涙ちゃんは無理をしているんじゃないかって。
それを確認して自宅に戻った時には涙ちゃんは行方が分からなくなっていた。
警察に捜索願を出し、行方が分からなくなったことは報道してくれたが、内容を聞いて報道側も警察も何か言えない事を隠しているようにも思えて、何かヤバい組織に狙われているんじゃないかと心配しているみたいだ。
多分それは私達がとある何かとんでもない組織に狙われて、涙ちゃんも何かしら巻き込まれたのかもしれない。
ここで一さんの話をまとめてみると、涙ちゃんは一人で寂しかったと思える。
それで私達と出会い、私達の演奏をたまたま見て、共感して、それを心のよりどころにしていたんじゃないかと思える。
涙ちゃんのメールのやり取りをまとめてみると、生き生きとした感じの文章に私は励まされ、涙ちゃんも私に励まされて互いに切磋琢磨する存在になったんだと思う。
それで私達が社会から抹殺されて、涙ちゃんはもしかしたら私達が心配になり、その事を父親である一さんにも言えずに勝手にいなくなり、涙ちゃんは巻き込まれてしまった。
『誰にも心配かけたくない。誰にも迷惑をかけたくない』
と頭によぎり、以前の私達のいさかいになった問題だった事を思い出す。
その事について私達が出した答えは、『人は一人では生きていけない』と言う事だ。
だから私達フォルトゥーナは今こうして共にいる。
つまり涙ちゃんは『誰にも迷惑をかけたくない。誰にも心配させたくない』と言うその優しさが裏目に出て、このような事になった。
その気持ちは十分に分かるが、それは無理がある。
父親である一さんは自分がもっと早く気づいていればと自分を責めていたが、とにかく探しましょうと、くよくよして自分を責めてもいけない事を込めてそういった。
明日、私達が住んでいた近所であった涙ちゃんの自宅に行く事をみんなで話し合い私達は眠る事にした。
夜私は眠れなかった。
部屋に置いてある目覚まし時計を見ると夜中の三時を示していた。
夜風にでも当たろうと外に出た。
夏の夜は丁度いい気候で、昼間程激しく熱くないし、今心地のいい風に包まれ少しだけ気分が良かった。
港の海沿いに立ち、広大な夜の海を眺めた。
考えてしまうのは涙ちゃんの事だ。
ここでスマホを手に取り、涙ちゃんとのメールのやり取りを何となく見つめていた。
そこで思い浮かんだ言葉を人知れず呟く。
「誰にも心配させたくないか」
涙ちゃんに対して憤る気持ちも存在するが、私も人の事を言えないので、その憤りを私は人知れず抑えた。
涙ちゃんの事が心配だ。もしかしたら命を失ったと懸念するが、私は信じたい。涙ちゃんはきっとどこかにいると。
そして涙ちゃんに会って私は伝えたいし叱りたい。
それが今の私の目的だ。
そう自分に言い聞かせると、眠気が生じてきて明日に備えて眠ろうと部屋に戻りベットに横になりその目を閉じた。
そして朝はやってくる。
涙ちゃんもこの朝日を感じていると私は信じたい。
一さん達に用意してもらった軽い食事を済まして、一さんが準備している最中に私達フォルトゥーナは互いの意思を確認しあった。
実を言うと私は少し焦っていた。そんな私に明さんは私の肩に手を添え「焦るとろくな事がないぞ」と言われて、落ち着きを取り戻すために深呼吸して焦る気持ちを落ち着かせた。
そんな些細なやり取りだが、仲間が支えてくれる事に私が私でいられる事に気づかされる。
「愛梨」
さっきからちょっと様子がおかしくて、私は心配で呼んでみる。
「あ、ああ」
何かちょっと意識が覚束ないと言うか、寝不足なのだろうかと思ったりもしたが、そうでもなく、また放心状態になりかけている感じだ。
愛梨も心配だ。私のわがままで少し無理をしているのかもしれないが、もう少し我慢してくれ。と心の中で呟いた。明さんもエリちゃんも愛梨の事を心配していて、二人にも無理をさせているんじゃないかと罪悪感の気持ちもあったりする。
でも三人の目を見ると罪悪感の気持ちが治まった感じになるのはなぜだろうと思って考えてみるともう三人は分かっているのかもしれない。いやもう私達フォルトゥーナは心で通じ合っている。
そして一さんが、
「準備出来たぞ」
その手をあげ、乗れと合図する。
私は三人の目を改めて確かめ、もう言葉はいらなかった。
私が駆け足でトラックの方へ向かう。
何だろう?いったい何が起こったのだろう。
ここはどこなんだ?
私は感覚はあるのだが、何も見えない、体も動かないし、そもそも体がない。あるのは私の感じる心だけ。
何で私はこのような訳の分からない状況に陥っているのだろう。
私は死んでしまったのか?でも感じる思いはある。
じゃあここは死後の世界なのか?だったらなぜ私は死んでしまったのか?
いや死んではいないような気がする。
私は愛梨を感じている。
言葉が使えないので、『愛梨』と念じる。
何だろう?愛梨を感じる感覚が薄まって行く。
このまま薄まってしまったら、愛梨が死んでしまうよりも残酷な運命にさらされ、私は死ぬよりも悲しく苦しい生き地獄を味わいそうで怖くて、『愛梨』と強く念じた。
ダメ愛梨。いや、どこに行ってもこの私は愛梨を感じていたい。
たとえ愛梨がはるか遠い地球の裏側に行っても、宇宙の果てに行っても、私は愛梨を感じていたい。
愛梨の存在を感じていたい。
いや愛梨が死んでも何て言い方はおかしいし悲しいけど、私の感じる気持ちから離れないで。
うまく言葉には言えないけど、私のこの今感じる事しかできないこの場所というか何と言うか分からないけど、私は愛梨を感じていたい。
それは私の今、いやこれからも変わりゆく時代の中で変わらない思いだ。
だから愛梨行かないで。
私は切実な思いを込めそう念じた。
すると愛梨を感じた。
愛梨は言葉ではなく私に念じている。
『私はユウリの事を信じている』
そう感じた瞬間、徐々に心が潤ってくる。
感じる事しかできなかったが、どうやら私は気絶して意識を取り戻したみたいだ。
そして視界が徐々に露わになり窓からこぼれ落ちる日差しが部屋に降り注いでいて、私はベットに横たわっていた。
体を動かすと所々痛みが生じた。
私の体を見下ろしてみると、右手と左足に包帯がまかれていた。
ちょっと痛みを我慢して体を起こしてみると、
「ユウリ、無理をするな」
私の元へ駆けつけたのがエリちゃんだった。
「私はどうして?」
エリちゃんが事情を話してくれた。
涙ちゃんの実家に行って手がかりを探そうと、一さんのトラックに乗り込もうとしたら、突然爆発したみたいだ。
その衝撃で私は意識を失って軽傷で済んだが、一さんは意識不明の重体みたいだ。
それでその場面を目撃した瞬間愛梨は、覚醒したかのようにいきなり人とは思えないほどの跳躍をして、爆破をもくろんだ連中を見つけ出して、殺してしまう程の勢いで飛びついたのだ。
エリちゃんの話を聞いて、それを目撃した明さんもエリちゃんも気づいたと思うが、それは横浜太郎の言う『すべてを知る存在になろうとしている』と言うそのありのままの意味になろうとし 多分愛梨は私と一さんが傷ついたのを目撃して、そのきっかけで瞬時に未来を察知して爆破犯を見つけたのだろう。
話の続きだが、明さんとエリちゃんはそんな愛梨に尻込みはしたものの、このままにしては人を殺してしまい殺人鬼になってしまうと思って力ずくで止めたみたいだ。
力づくと言うのは、もう愛梨は尋常じゃない力を持つ吸血鬼なので、鉄パイプとかで殴り倒すしかなかったみたいだが、それでも愛梨を止める事が出来なかった。だから二人は愛梨に飛びつき、愛梨のメモリーブラッドを抑制するためにつけられている手袋を外して、手を握り、その思いがメモリーブラッドで二人の心を読んで通じたのか?愛梨は気を失って相手を殺すには至らず、私も話を聞いてほっとした。
隣で眠っている愛梨を見ると、何か生気を失いかけているような感じでこのままだとまずいと思った。
私はそこで思う。
涙ちゃんを助けるって言って愛梨にもみんなにも無理をさせてしまったんじゃないかって。
それに一さんも意識不明の重体だって聞いた。
私達が、いや私がやっている事ってもしかしたらみんなに迷惑をかけてしまっているのかもしれない。
いやかけてしまっている。
涙ちゃんを助けたいって言う私の気持ちは私の本心じゃなく慢心をみたいしているだけなんじゃないかって。
だったら私なんかいなくなってしまえば良いなんて一瞬思ったが、それでも私には明さんがいるエリちゃんがいる愛梨がいるので、そうは言い切る事はなかった。
でももう私のわがままでみんなを巻き込みたくない。
私達はもうこの社会では狙われている存在。だからもう。
私は一つの決心をした時、丁度、明さんが部屋に入って来た。
「ユウリ目覚めたか」
私を見て嬉しそうにしていた。
「話はエリちゃんから聞いたよ」
「そうか」
伏し目がちの明さん。この件に関して誰も良い思いをするものはいないのは言うまでもないだろう
愛梨は意識がないが、エリちゃんと明さんがいる事で私は意を決したことを話す。
「涙ちゃんの事はもう諦めよう」
私の決意を表した言葉に二人の反応を見てみると、黙っているが異論はないと言った感じだった。
不本意だが、もう諦めるしかない。それともう一つ、
「ゴメンね。私のわがままでみんなを巻き込んで」
と二人に伝えて、こらえ切ることも出来ずに、とめどなく涙がこぼれ落ちる。
「お前だけのせいじゃない。確かにみんなを巻き込んでしまった。でもお前の判断は正しいとわたしは思うよ」
「うちもだよ」
私は心の中で呟いた。
『ゴメンね涙ちゃん。そして一さん』
と。
諦める事も大事だ。
でも諦めるって簡単なようで意外と難しい。
諦める事が出来たのは明さんとエリちゃんが納得してくれたことにより、受け入れる事が出来た。
私達はもう集落で暮らすしかない。
意識不明の一さんにどんな顔をすればいいのか分からないが、一言謝っておきたい。
でももう私達にはそんな余裕などない。
一刻も早く集落に戻り、今回の事を今後の戒めとして心に刻むしかない。
分かっている。憎んだって、憎しみは連鎖するだけだって。
私達にこんな思いをさせる奴を死ぬよりも苦しい生き地獄を味らわせてやりたいと。
悔しくて涙が止まらない。
その気持ちはどうやら明さんもエリちゃんも同じだった。
明さんは壁に拳を突きつけ、エリちゃんは地面に転げ落ちていた缶を蹴り飛ばして怒りと悲しみを露わにしている。
もう私達はこの社会から完全に抹殺された存在だから、ここにいてはいけない。
それに私達にはもう私達しかいない。でもそれでいい。
私の傷は軽傷で動くのは辛いが、我慢して一刻も早くこの場から立ち去りたい。
でも愛梨は目覚めない。
担いで行くには無理があるので、とりあえず今は目覚めるのを待つしかない。
この場所もいつまで安全か分からない。
ポケットに入っているスマホがメールの着信が入った。
スマホの電源を入れっぱなしだった。
連中はこれを探知して狙って来たのかもしれない。
これを持っていると危険だと思って、窓から投げ捨てようと思ったが、誰からのメールか気になり、見てみると宛先人は不明で写真が添付されていた。
写真を見た瞬間、私は目を疑った。




