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お兄さん

そして夜、私達は綾香さんに呼ばれた。

「見させてもらったよ。お前たちの熱いものを」

 何か綾香さんは嬉しそうだった。

 そういわれて私は何か照れてしまい、どんな言葉を返せばいいのか困惑してしまう。明さんとエリちゃんも同じで、その中で愛梨だけが、

「歌は万国共通」

 調子に乗る愛梨。

『自重しろ』って言いたいところだが、思えばこんな愛梨だからこそ、またこうしてバンドで演奏出来て、幸せを感じられるんだからいいのかもしれない。

 それに綾香さんはそんな愛梨に対して大いに笑い、

「お前達面白いよ。

 まあ、こんなろくでもないところだけど、あたしはここの長をして、少しでも改善できるならしたいと思っている。

 だからお前たちのような奴らが必要だった。

 ケンカや殺し合い、薬物依存で朽ち果てる人間もいるが、お前らの熱い何かが変えてくれるとあたしの目に狂いはなかった。

 仕方がない事だがここでは役に立たなくなった人間はごみのように捨てられるのが定だ。

 でも正直あたしもそうはしたくない。

 それはともかくあたしはお前たちが必要だ。いやこの集落の人間がお前たちを必要とするだろう。

 だから行くところがないなら、いつまでもここにいてくれ。

 まあここもいつ、つぶれるか分からないけど、お前たちの熱がこの集落を延命させてくれると期待しているよ。

 それで困った事があったらいつでも来い。あたしが出来る事なら協力する」

 その綾香さんの目には嘘偽りを感じなかった。

 私達はそんな綾香さんにお礼を言って出ようとした所、私は振り返り、

「あの。気になった事があるんですけど」

 すると綾香さんは唇をつり上げ、『何でも聞いてこい』と言いたげな感じで微笑んだ。

「私達の熱が鬱陶しく思ったって・・・」続けようとしたがやっぱりやめておいて「やっぱりいいです」と私達が気にしたって仕方がない事だと思って外に出ようとした所綾香さんが、

「まあ、これはあたしの憶測にすぎないが、お前たちは何かとても厄介な人間に目をつけられているのは確かだとあたしは思うんだけどな」

「そうですか」

「この集落と同じように世の中、どこでもどんな場所でもいさかいはある。それで社会的に抹殺されてここに流れてきた連中は何人もいるよ。

 でもお前達を追いやった奴はもしかしたら何か大きい者だと思える。

 それほどの者が狙う程の大きなものをお前たちは持っているんだよ」


 私達の小屋に戻り私達は食事を作って四人で食卓を囲んだ。

 最初は抵抗あった食用ガエルを食べるのにも慣れてきて、今食卓に並んでみんなで食べている。

「綾香が言うわたし達をねらった奴って、いったい何なんだろうな?」

 明さんが呟くように言う。

「うちらに大きな物を持っているっていうけど、あの人うちらを買いかぶりすぎなんじゃん」

 エリちゃん。

「誰が分からないけど、とにかくぶっ殺してやりたいよ」

 と明さんの気持ちは分かる。そこで私が、

「とにかく私はもういいよ。ここで身を置くのも悪くないと私は思うよ」

「お前はどこまで人が良いんだよ。そいつを殺してやりたいとは思えないのかよ」

 ちょっと憤りを帯びた感じで私に明さんは言って私は反論するように、

「私はみんなが思う程お人よしじゃないよ。私だって許せないよ。でもそんなことできないし、仮にできても何にもならないよ」

 明さんもエリちゃんも納得したのか分からないが私に異論はないようだ。そこで愛梨が立ち上がり、

「ユウリの言う通りだ。そんな奴はほおっておいて、ここでやって行こうぜ」

「ったく。お前が蘇ってこなければこんな事にはならなかったのにな」

 ひどい事を言っているようだが、それは明さんの冗談を言う口ぶりだった。天真爛漫の愛梨だがその冗談は通じてなくて、

「さらりとひどい事を言うなよ。私が蘇った時、お前マジで泣いていたじゃん」

「てめえ」

 切れる明さん。

「まあまあ」

 と二人を落ち着かせる。

 この二人がケンカをすると、とんでもない事になるとハラハラしたが、とりあえず治まってほっとする。後々考えさせられるが、私達のバンドはこの二人のケンカがきっかけで生まれたんだな。

 食事の時、これからの事を話し合ったが、とりあえずこの集落に身を置くことにしておいた。

 家族や友達にはもう会えないけど、私には明さんエリちゃん愛梨、そして分かり合えるとは期待はしていなかったが音楽を通じて集落の人達に私達は必要とされている。


 次の日、いつものように山菜狩りや農作物の手入れ、カエルや蛇などの狩りをして、生活をして、夜になると、私達の歌を聞きたいと集落の人は集まる。

 今日も盛り上がったと私達が語り合い、そんな中でオタクで電化系に強いエリちゃんが食事中に今日ゴミ捨て場で拾って来たラジオを修理していた。

 エリちゃんは機会をいじる事が大好きで、今ラジオを修理している。

 別に私達の生活に電化製品は必要ないと思ったが、機会をいじる事が大好きなエリちゃんには良い気晴らしになると思ってそっとしている。

 そしてラジオを修理してエリちゃんが、

「出来た」

 スイッチを入れ、ラジオが流れた。

 そんなエリちゃんを私達はすごいとやんやとほめたりした。

 それが始まりだったんだ。

 ラジオを治して聞かない方が良いと思ったりもした。

 そのラジオの内容が私達のフォルトゥーナファン第一号でありその名付け親である涙ちゃんが行方不明になっている報道だった。

 愛梨はどう思ったか分からないが、明さんとエリちゃんはほおっておくしかないと言う意見だった。

 私もその意見に賛同しようとしたが、涙ちゃんとのメールのやり取りの内容が頭の中に思い浮かぶ。

 私達のファン第一号であり、涙ちゃんには色々と励み励まされて来た。

 もしかしたら涙ちゃんは私達の事で巻き込まれたんじゃないかと思ったりもする。

 涙ちゃんの事が心配だった。

 そのラジオの報道を聞いたが私達のバンドであるフォルトゥーナの事はタブー視されている。

 その事も含めて織田と綾香さんの話をまとめてみると、私達はとんでもない人に狙われている事が分かる。

 だからその危ない組織もしくは、それに関連する事は報道されないようになっている。

 

 夜、私の中で葛藤が生じる。

 ほおっておけばいいのか、それとも。

 ラジオ何て聞くんじゃなかった何て思い、それを偶然治したエリちゃんのせいにする気持ちにも駆られたりしたが、仲間をそんな風に思っちゃいけないと即座に自重する。

 まあそれはともかく、みんなの為にも私はほおっておくしかない。

 涙ちゃんが心配だ。

 そういえば涙ちゃんは今年高校受験を控えていて、私達の歌を動画サイトで見て励みになっていると聞いて、私は本当に嬉しくて、生きる喜びというものを感じて、バンドの夢に対する意欲が増した。

 それ以外にもファンの人はいるが涙ちゃんは特別な感じがする。

 まあファンの人には平等に接するのが当たり前だと思うから、そういうのってあまりよくないとは分かっている。

 私達のバンドは社会に抹殺されてしまったが、行き場を失った人たちが暮らすここの集落に必要とされるバンドになった。

 それに涙ちゃんは私の考えすぎかもしれないが、私達の事で何かしらに巻き込まれたんじゃないかと思ったりもする。

 涙ちゃんが心配だ。

 でも私達は社会に抹殺され、私達に関係する家族をも巻き込んでしまった。

 だから私が助けに行ったりすると、また誰かが傷ついて、もしかしたら命を失ってしまう人も出てしまうかもしれない。


 でも・・・。


 みんなが寝静まって私は体を起こして、立ち上がろうとすると私の隣で眠っている愛梨が私の手を掴んだ。

「どうしたんだよ愛梨」

 私一人のわがままで愛梨を巻き込みたくないので、

「ちょっとトイレだよ」

 と言って嘘をついて愛梨を置いて行こうと思った。

でも愛梨は何か様子がおかしかった。

 集落に来てから意識があり、昔の天真爛漫な愛梨に戻ったが、今の愛梨は放心状態だ。

 横浜太郎の助言である『愛梨ちゃんはすべてをしる存在になろうとしている』と言う事に何か関連があるのだろう。

 でも今は涙ちゃんの事で頭がいっぱいなので、愛梨の事を思う心の余裕はなく、私は涙ちゃんの安否を確認する事を決意して、安否が確認できたら集落に戻ると決心したのだった。

 みんなに心配かけるのは分かっている。

 でも私の気持ちは涙ちゃんの事が心配でほおって置けない。だから私は、

「離せよ愛梨。私はトイレに行くから」

でも愛梨は私の手を放そうとしなかった。

 愛梨は放心状態で意識が感じられないが、私の意図を分かっている感じだった。

 そこで私は考える。

 愛梨が『すべてを知る存在になる』と言う心配の気持ちもあるから、愛梨が付いてくれば側で私が見守る事だって出来るし、もしかしたら愛梨は尋常じゃない力を持っているから私の事を助けてくれるかもしれない。

 それに今気づいたが一人では心細かったんだ。

 だからついてきても別に差支えはないと思って、

「分かったよ」

 と私が言うと放心状態の愛梨は私の言葉と言うか思いが伝わったみたいで、私の腕を離して、外に出ると愛梨は黙って私についてきた。

 夜になると集落は真っ暗で月明りが頼りだが、月は雲に覆われて隠れているで周辺は暗闇が増す。

 とにかく奥へ奥へと進んで集落の出口を目指す。

 私が進むと愛梨が強く私の腕を掴み、私はびっくりして、

「どうした愛梨」

 愛梨の方を見ると相変わらず放心状態のまま黙っている。

「何がしたいんだよ」

 先を急ごうとすると、気が付かなかったがその先は崖で落ちたらひとたまりもなかった。

 そこで私は恐怖する。

 もし私一人で行っていたら死んでいた事に。

 涙ちゃんの事を諦めようとした。

 でも私の本当の気持ちはそれを強く拒んでいる。

 とにかく愛梨がいてよかった。

 だから私は気持ちを改めて、愛梨の力も必要だと言う事も入れておいて、愛梨の手を掴み慎重に行くことにした。

 慎重に慎重に。

 すると少し明るみが出てきたことに気が付いて、空を見ると雲が覆っていた月が露わになっていた。

「よし」

 と呟き、私は先を急ぐ。

 今度はいきなりまぶしい光が私の瞳に突き刺さり、顔を背ける。

「何?」

 思わずそういうと。

「何じゃないだろ」

 聞き覚えのある声だと思って、一瞬誰だか分からなかったが、すぐに明さんだと気が付いて、少し驚いて、それに、

「お前ら水臭いぞ」

 エリちゃんの声も聞こえて来た。

「明さん。エリちゃん」

 二人を目の当たりにして名前を呼ぶ。

 二人を見て、何だろう。すごく安心した気持ちと同時に、二人に対して罪悪感の気持ちが生じた。

 私は二人の顔をまともに見れなくなって俯いてしまった。そんな私に明さんは、

「お前の事だから、こうするだろうと思ってここで待たせてもらったよ」

「まったく」

 やれやれと言った感じのエリちゃん。

 すべて一人で抱え込もうとした私自身の愚かさに胸が痛んだ。

 ここで一つ私は知った一人ですべてをなそうとすることはこの上なく愚かで、そしてこの上なく悲しくて残酷な事だと。

 考えてみれば先ほども思ったが、愛梨がいなければ私は確実に死んでいた。

 私はまた泣くんじゃないかと思って涙をこらえる準備をしたが、なぜだろう涙がこぼれなかった。

 でも私は二人にどんな顔をすればいいのか分からず、とりあえず、

「ごめんなさい」

 と謝った。

 二人はにやりと笑って親指を突き上げドンマイと言った感じだ。

 二人はもう気が付いているんだ。私が涙ちゃんを助けに行こうとしているのを。

 それに二人はもうその覚悟はすでにできている。

 だからもう言葉はいらない。

 そして私は自然と笑えて、

「行こう」

 と。言うと二人は私を先頭についてきた。

 手がかりは私が持っているスマホだ。

 私達を狙う連中に探知されるんじゃないかと思って電源を切っておいた。

 とにかく危険な賭けだが、スマホの電源を入れた。

 涙ちゃんの居場所を探知するGPS機能を使って割り出したが、応答がない。

「手がかりがない」

 私が言うとエリちゃんが、

「とりあえず電源は切って置け、探知されるかもしれないから」

 言われた通り切っておく。

「どうしよう」

 手がかりがなくなってしまった。でも諦めるわけには。

 何て考えていると、愛梨が突然走り出し。

「おい」

 明さん。

 愛梨は立ち止まり『ついてこい』と手で示す。

 だから分からないけど、愛梨の後に私達はついていった。

 愛梨についていけば何とかなりそうな気がする。

 でもそこで私の頭の中によぎる。

 愛梨は何か未知の力を駆使しているんじゃないかって。

 それが以前横浜太郎が言っていた『愛梨ちゃんはすべてを知る存在になろうとしている』と何か関係があるのかもしれない。

 このまま愛梨の力を使わせてはいけないし、このまま行くと愛梨は死ぬよりも悲しい事が起きそうで怖くなるが今はとりあえず愛梨を頼るしかない。

 山を下り、とある道路に辿り着いた。

 愛梨はそこで立ち止まり、両手を大きく広げた。

「何をしているんだ愛梨は」

 明さんの発言に私もそう思ったが、何か意味があるんじゃないかと様子を見るようにみんなを促す。

 すると前方からトラックが来て、愛梨は道路の真ん中で仁王立ちした。

「おい」

 危ないと感じたのか?エリちゃんが引き止めようとしたが、

「待って」

 私は様子を見るようにと止めた。

 するとトラックがゆっくりと愛梨の前に止まった。

 トラックの運転手は乗れと言わんばかりにクラクションを鳴らして、愛梨はためらいもせず乗り込み、私達三人はこの運転手の人を巻き込んだりしないかとか、知らない男の人に女の私達は何かされるんじゃないかと懸念して話し合ったが、そんな事を決める余裕もなく、私達は乗り込む。


 トラックに乗り込み少し不安だった。

 明さんが助手席に座り、私とエリちゃんと愛梨は、トラックに設けられている後部座席の小さなベットで三人で座った。

 何やら雑誌が置いてあって、表紙を見ると女性の裸が描写された言わばエロ本だ。

 そんなのを見て不安にも思ったが、後には引けない。

 私は愛梨の力に涙ちゃんの元へと導かれている感じがして、だから愛梨についていけば私達の目的を果たせるんじゃないかと思ったりもする。

「お前らそのなりだと集落から抜け出してきたのか?」

 私と明さんとエリちゃんは言っていい事なのかと考えていると、放心状態だった愛梨が意識を取り戻していて、

「良くわかったね、お兄さん」

「愛梨」

 小声で自重しろと呼びかけるが通じていない。

「あそこはやばいところだよ。お前たちもさんざんひどい目にあって来たんじゃないか?」

「いや私達はあそこで再び・・・」

 これ以上は語らせるのはまずいと思って愛梨の口を塞いで、

「とにかく私達は集落から抜け出して、これからちょっと用があって・・・」言葉に迷う。考えめぐらして「まあ、私達で暮らせる新たな新天地を探しに行くんです」と適当に言った。

「ほう」

 行先はとりあえずこの山を下りる事だけを伝えて、それ以降は会話はなかった。

 まったく愛梨は意識を取り戻して、また軽率な判断でまたトラブルにでもなったら嫌だからな。

 それはともかく放心状態の愛梨、今天真爛漫な以前の愛梨。その二つが入れ替わる愛梨。

 ここで整理するが放心状態の時の愛梨は横浜太郎が言ってた『愛梨ちゃんはすべてを知る存在になろうとしている』と言う事に何か関連がありそうな気がする。それで意識を取り戻した愛梨には何か分からないけど安心する。

 だから私は隣にいる愛梨の手袋を取って愛梨の心を読んだ。

「どうしたユウリ」

 そんな私を不思議そうな表情で見る。

 今私と愛梨はメモリーブラッドを通じて互いに心を読みあっている。

 愛梨の気持ちが私の頭の中に描写される。その思いを巡らしていると、私は胸が熱くなる。

 愛梨は私の気持ちを頭の中で描写させて何を見ているのか?この目でその反応を確かめてみると、すごくほっこりと気持ちのいい笑顔でいる。

 しばらくはこの気持ちに浸りたいと思っている。

 愛梨も同じだった。

 それはメモリーブラッドを通してだが、それだけではなく目と鼻、口、耳、感触と人間の五感すべてを司るものをとおして感じている。

 だから私はこうも思ったりもした、メモリーブラッドがなくても、いいんじゃないかって。

 でもメモリーブラッドには私達は色々と助けられた。

 これからはメモリーブラッドに助けられるのはあまり良くないと思うので私は愛梨とそれと明さんとエリちゃんとで懸命に生きたいと思っている。

 メモリーブラッドで愛梨の考えを自分と照らし合わせてみるとまるで鏡を見ているかのように一致している。

 私は愛梨を必要としている。

 愛梨は私を必要としている。

 そして私と愛梨は明さんとエリちゃんを必要としている。

 きっとエリちゃんも明さんも同じ気持ちだと思う。

 これから私達のその絆を引き裂く不穏な何かが迫ろうとも私達はそれに屈したりはしない。

 涙ちゃん。無事にいて。


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