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聡美

家に戻り、今日の事はしばらく忘れられそうにない。

 愛梨は疲れているにも関わらず、家に帰ったらいつものように掃除や手伝いをしている。私も同じように手伝って愛梨に言う。

「愛梨、無理しなくても良いよ。後は私がやっておくから」

「大丈夫だよ」

 疲れているような様子ではあったが、やっていることに屈託は感じられなかった。

 最近思ったが、家の家事を手伝う事は愛梨にとって生きがいなのだ。

 だからそんな愛梨に対して止める事はせず、無理をしていないか遠くで私は見守っている。

 家事が終わって、愛梨は本当に疲れていたみたいなので、ベットの上で横になって眠っている。

 せっかく今日憧れのアスナさんに私達のライブを見て絶賛してくれて喜びを分かち合おうと思ったが、愛梨は疲れているだろうから、今はそっとしておこうと思う。

 改めて今日の事を振り返るとアスナさんに出会って感激だ。

 感激だけど、愛梨が・・・。

 そこで私は机から振り返りベットで眠っている愛梨の方に目を向けた。

 眠っている愛梨の顔を見つめた。

 無垢な寝顔だった。

 そんな愛梨の寝顔を見つめていると、アスナさんの感激の気持ちで忘れていたが、今日の愛梨は何か様子がおかしいような気がする。

 あれは愛梨を人を引き付ける愛梨自身の才能かと思ったが、それは違うような気がする。

 そんな時、私の頭に横浜太郎の言葉がよぎる。


『愛梨ちゃんはすべてを知る存在になろうとしている』


 と。

 嫌な予感がしてしまうがそういう気持ちにとらわれると私自身がおかしくなるので今日の所は私もコンサートとかで疲れているので眠る事にする。


 苦しい。

 何だと思って目覚めると、愛梨が私にべたべたな感じで抱き着いていた。

「愛梨苦しいよ。ちょっと離れて」

 愛梨を引きはがそうとするが愛梨は私から離れようとしなかった。

「ユウリ」

 と甘えた声で私に抱き着いてきて私は少し気持ち悪かった。だから私は体を起こして、愛梨をいったん離れさせ、

「どうしたんだよ。愛梨」

 すると愛梨は、小さな子供の甘えるような仕草で私を見つめて。

「ユウリ」

 何か分からないけど、そんな愛梨を見ていると何かほおって置けない気持ちになり。ふーと息をつき、仕方がないと思って、愛梨を抱きしめてやった。

 そして再びベットに横になり、愛梨は私に抱き着きながら健やかな顔をして眠っている事に私は何か安心する。

 思えば愛梨は私意外に頼るところはないだろう。

 もしかしたら愛梨は私がいなきゃ生きていけないのかもしれないし、愛梨が生きていなければ私は私でいられなくなる。

 でもこの先、このままで良いわけがないだろう。いつか私達も大人になる。

 もしかしたら、今は愛梨と側にいて、私は私でいられると思っているが、いつか互いに無理が生じてくるだろう。

 愛梨は私達と違って普通の人間じゃない。今は私がいる事で吸血鬼としての凶暴な本能を抑えて人間の理性を保てるのだろう。その他にも明さんにエリちゃん、その他にも見えない何かに支えられて生きている。


『愛梨ちゃんはすべてを知る存在になろうとしている』


 横浜太郎の忠告がフラッシュバックして息をつく。

 とにかくあまりこん詰めて考えてしまうと私もおかしくなるので、愛梨に抱きしめられながら私もその瞳を閉じて眠る。


 そして朝を迎え、私はいつものように目覚める。

 何か違和感を感じて、辺りを見渡すと、夜中に私を抱きしめながら眠っていた愛梨がいなかった。

「愛梨」

 と呼んだが返事はなく愛梨は私の部屋にいる気配は感じられず、私は部屋を出て家中を探したが愛梨はいなかった。

 愛梨がいない事に恐ろしく心配な気持ちがこみ上げてきて、私はラフな白いワンピースを着て外に出て自転車をこいでいた。

「愛梨どこ行ったんだよ」

 人知れず呟き、そんな時、


『愛梨ちゃんはすべてを知る存在になろうとしている』


 頭の中にまたフラッシュバックする。

「すべてを知る存在って何よ」

 何かいら立ちを感じつつも嫌な予感もしていた。

 とにかく手あたり次第探そうと思う。

 私の両親が経営している弁当屋。愛梨の実家。学校。それで迷いに迷って明さんとエリちゃんにも連絡して心当たりはないかと聞いたが、二人の答えは何もなく、そんな二人も愛梨の事が心配になり、早朝合流して探すことになった。

「他に心当たりはないのか?」

 明さんに聞かれ、

「ないです」

「そうか」

 そこで思い出して、

「そういえば愛梨以前繁華街にいたことがある」

「あそこは危険だし一人で行くのも良くないから、ここは手分けしないで私達三人一緒で行った方が良いな」

 とりあえず明さんの提案に乗り、私は自転車で明さんとエリちゃんは原付で二人乗りして向かう。

「どこいったんだよ愛梨」

 心配な気持ちが膨張して、心の余裕もなくなり、いらだつ気持ちにも駆られる。

 繁華街に到着して、何か様子がおかしい。

 人がビルの摩天楼を見上げて、何かに魅了されている感じだ。

 それは昨日コンサートで愛梨の歌声とそのパフォーマンスに観客を魅了されている時の表情に似ている。

 そのビルの摩天楼を見上げるとはっきりと遠くで肉眼では愛梨とは確認できなかったが、愛梨だと確信した。

 私の確信は本当でビルに近づいてそこから見上げると愛梨だとはっきりと肉眼で確認できた。

 愛梨は歌っいる。

 その姿を見ると心が奪われそうな程の恍惚としてしまう。

 そこでハッと我に返り、心を奪われてはいけないような気がして、その場で自分の頬を両手でたたいて意識を取り戻した。

 明さんもエリちゃんも同じように恍惚として心ここにあらずって感じだったので、私は二人の意識を呼び戻すかのように、

「しっかりして二人とも」

 二人の背中を強く叩いて意識を取り戻させた。

 ここは何か意識をとらわれないように気を引き締めないといけないので三人でアイコンタクトをして頷きあった。

 いったい愛梨に何が起きているんだ。

 何て思いながら私は明さんとエリちゃんと三人で愛梨の歌声に魅了されている人込みをかき分け、ビルの中へと入っていく。

 警備している人もみんな魅了され、私達に眼中はないと言った感じだ。だから難なくビルの中へと入り込むことが出来た。

 エレベータは使えなかったので階段でのぼっていく。

 長い階段だ。

 愛梨に何が起こっているのか分からないが、とにかく歌っている愛梨を止めなくてはいけないと思って、三人で急いで階段を登り、体力の限界を感じながらも、それでも急がなくてはと言う思いで私達は息を切らしながら登って行った。

 最上階に辿り着くと、愛梨は歌っている。

 その曲は私が作詞して愛梨が作曲をして私達フォルトゥーナが演奏した歌だ。

 我を忘れて何かにとりつかれているかのように歌っている愛梨の背後から、

「愛梨」

 と私が呼ぶと愛梨は歌うのをやめ私達に振り返り、覚束ない足取りで私達の方に歩み寄り「ユウリ」と呟き意識を失い倒れそうなところを明さんが駆けつけ、抱き留め支える。

 そこでエリちゃんが摩天楼から下を見下ろして、

「見ろよ。さっきまで愛梨の歌に洗脳されていたように聞き入っていた人が何か意識を取り戻したみたいに・・・」

 私も見てみるとエリちゃんの言う通りだった。

 愛梨の歌に洗脳されたかのように聞き入っていた人が我を取り戻して、『いったい何が起こったんだ』と言うように辺りを見渡して、次第にビルから離れていく。


『愛梨ちゃんはすべてを知る存在になろうとしている』


 まだその意味がはっきりと分かったわけじゃないが横浜太郎の忠告が起ころうとしているのは分かった。

 以前夢で見たが、愛梨が横浜太郎の言う『すべてを知る存在』になったら愛梨が死ぬよりも悲しい事が起こりそうで私は怖かった。

 とにかくこの問題は私一人では解決できないと思って、意識を失った愛梨をいったん明さんに負ぶってもらい、繁華街から一時間かけてゆっくりと私の家に戻り事情を説明しようと思う。


 私の家に到着してとりあえず愛梨をベットの上に寝かせて、私達は一息つく。

 明さんとエリちゃんは愛梨の事で何か私が知っているのに気が付いている様子だ。

 私は二人に話すつもりだ。私一人ではちょっとどうにもできそうもないので力を借りようと思っている。だから長話になりそうなので私は台所で透明なコップにカルピスを注いで二人にもてなした。

「サンキューちょうど喉が渇いていたところだ」

 そういって明さんは私がもてなしたカルピスを一気に飲み干して、エリちゃんも同じように喉がからからだったみたいで明さん同様一気に飲み干した。

 二人は飲み干してから私の視線に目を向けて、

「ユウリ、私達に協力してもらいたいだろ。私もエリも喜んで引き受けるつもりだ」

 私は愛梨の事を横浜太郎に言われた事、そして私が感じている事を包み隠さず話した。

 それは横浜太郎が言っていた『愛梨ちゃんはすべてを知る存在になろうとしている』と言う事、それとこれは二人も感じていた事だと思うが昨日のコンサートの一件からして今日に至って繁華街のビルの屋上で道行く人を魅了していた事。最後にそこはかとなく嫌な予感がしている事。

 話を聞いた三人は協力を惜しまなかった。

 とにかく話し合って、横浜太郎の言っていた事を考えると、愛梨は人間ではなくなり、私も感じていたが愛梨が死ぬことよりも残酷な運命にさらされるんじゃないかと結論に至った。

「このままだとユウリの言う通り何かやばい感じがするな」

 明さんは愛梨の眠っている姿を見て言う。

 何か方法というか、今は何をしていいかさえ分からない状況だ。

 そこで私は自分の手のひらを見つめて、

「メモリーブラッド」

 と二人に言う。

「それって愛梨の特殊能力の事だろ」

 エリちゃん。

「みんなには黙っていたけど、私は愛梨の手を触れるだけで愛梨の心がよめる能力がある」

「じゃあ、それを使って何か手がかりっていうか愛梨を助ける方法が見つかるんじゃないか?」

 そこで愛梨の寝顔を見つめる。

 心を読まれることは裸を見られる事よりも恥ずかしい事だと私は愛梨のメモリーブラッドで身をもって知った。

 でもこれしかないと思って、

「この私の力で愛梨の心を読んでみるよ」

「「・・・」」

 二人は黙って私の事を見守っている。

 私は愛梨が眠っているところまで歩み寄り身を乗り出して愛梨の手袋を外して、手に触れた。

 愛梨が眠っていても愛梨の思いが頭の中に流れ込んでくる。そこで何となく愛梨の方を見ると愛梨がその瞳から涙を流して、その涙を見た瞬間、何か恐ろしい私の中で封印されている記憶が駆け巡りそうになり、私はとっさに愛梨の手を放して、ベットから落ちてしりもちをついた。

 そんな私の事を見ていた二人は心配して。

「どうしたユウリ」

 明さんが言い、エリちゃんが私に駆け付ける。

 気が付けば私は冷や汗と呼吸がうまく整わず自分でもすごく動揺しているのが分かった。

 明さんがカルピスを差し出して、

「とりあえずこれ飲んで落ち着け」

 そう言われて私はカルピスを一口飲んで、少し落ち着いた感じだ。

「大丈夫か?」

 私は返事をする余裕がなく、その首を縦に振り大丈夫だとしぐさで示した。聡い明さんが、

「どうやらお前と愛梨との間に何か思い出すだけでも恐ろしく感じてしまう記憶があるみたいだな。どんな記憶かは知らないが、無理して愛梨の記憶を探って自分の心の奥底にある傷をむやみに触れない方が良い」

 明さんの言う通りにしたいと思ったがここは今こそ、その封印された記憶を呼び戻し、そしてその記憶が愛梨を助ける何か手がかりになると思って、

「やります」

 立ち上がり、再び愛梨の手に触れようとした所、明さんに。

「ユウリ、無理はやめろ。お前まで壊れてしまったら、愛梨はどうなる?」

 と羽交い絞めされて止められた。

 確かに明さんの言う通りだ。愛梨を守るべき第一人者の私が精神的に壊れてしまったら、愛梨も助けられなくなる。でも私は、

「でも愛梨を助ける手がかりはこれしかない」

「「・・・」」

 二人も納得している。でも私の身もあんじている。だから私は、

「明さん、エリちゃん。私に力を貸して」

「貸すって?」

 私は明さんの手とエリちゃんの手を掴んだ。

「私はこれから愛梨の手がかりを探すために愛梨の記憶を探って、私の中に封印されている思い出すだけでも恐ろしく思ってしまう記憶と向かい合って、そしてそれを乗り切って私は愛梨の記憶を探って手がかりを探したい。

 だからエリちゃん、明さん、私が愛梨の記憶を探っている間、こうして側にいて」

 と私は二人にひたむきな視線を送った。

 その思いが二人に伝わって。

「分かったでも無理するなよ」

「うちも出来る限りの事はするよ」

「ありがとう」

 私は再び恐る恐る愛梨の記憶を探ろうとその私の利き腕である右腕を愛梨の手に重ねて記憶を探ろうとするがやはり尻込みしてしまい、そこで私の左腕に明さんとエリちゃんの手がしっかりと握りしめられていることに勇気が沸き起こり、私は決意して、愛梨の手にその私の利き腕である右手を重ねて記憶を探る。

 愛梨の泣いている姿が私の頭の中に飛び込んできた。

 その記憶に関連する忌まわしき私の封印されし忌まわしい記憶。

 まるで愛梨の手がかりを妨害している私の試練のようにも感じられる。

 だから私は負けない。

 今こそ、愛梨を助けたいからこそ、この封印されし忌まわしき記憶と向き合って愛梨を助けなくてはいけない。


「やめてよお母さん」

 幼い愛梨が泣きじゃくりながら必死に何かを止めようとしている。その横に幼い私も泣きながら立ち入っている。

 これは私と愛梨の子供の時の記憶。

 その様子を私は恐れる気持ちを押し殺して見る。

 愛梨のお母さんは鬼のような形相で犬を見下ろして、

「このくそ犬。お前が泣いて近所迷惑だって事が分からないのかよ」

 何かを踏みつけ、痛ましい悲鳴が聞こえて心が破壊されるかのような気持ちにかられそうになり、目を背けようとしたが、ここで背けずしっかりとその方向を見つめた。

 その踏みつけているものは犬だった。

 そうだ。私と愛梨は愛梨が飼っていたペットであるメスの柴犬のランを溺愛して、それを私と愛梨の目の前で愛梨の実の母親に殺されてしまったのだ。

 それ以後、私はランの事がしばらく忘れられず、それは愛梨も同じだったと思う。そして時は過ぎて、その悲しみも拭い去った時、愛梨が泣くところを見て私はランが殺されたことを思い出してしまった。それで愛梨は自分が泣くと私がランの事を思い出すから、自分自身に涙を決別させたのだ。

 事情が分かり、愛梨のお母さんは狡猾な表情で、死んでしまったランを見下ろして、「このくそ犬」と唾を突きつけてその場を後にした。それで愛梨の母親が許せなくて、愛梨の母親に私から鉄槌を下してやろうと思って、その拳を丸めて立ち向かったが、愛梨の母親にその拳が触れた瞬間、情景が変わった。

 その情景は夜部屋で涙を流して布団で眠っている愛梨の姿だった。

「また明日ユウリに会える。悲しくない。お母さんは心の余裕がないから私にあんな態度をとってしまっている。お母さんも大変なんだ。でも私にはユウリがいる。ユウリ」

 その愛梨を見ると十二歳くらいの愛梨だった。

 愛梨は私の前ではいつも笑っていた。それは地上に太陽が降り注ぎ、すべての生命にいたわりを与えるのと同じように愛梨は私にとってとても大切な存在だった事に改めて気づかされる。

 そして愛梨もそんな私の存在を私と同じように考えていた。

 ケンカも良くしたし、死んでしまえば良いなんて思った事もあった。

 でもそんな愛梨の良いところも悪いところもすべてひっくるめて私は好きだった事に気づかされる。

「ユウリ。ユウリ」

 愛梨はそう私の名前を連呼して悲しい現状をこらえていた。

 こうして愛梨は私の前ではいつも笑っていたが、誰もいない夜の闇の中で密かに泣いていたことを私は初めて知って、心が締め付けられるように痛む。

 私は泣きながら眠っている愛梨に触れようとした時、再び情景が変わった。


 そして私は愛梨が死んでしまった真実を知ってしまった。いや知らなければいけない事だと思っている。

 その愛梨を助ける方法の手がかりになりそうだ。

 私が私である為に愛梨という存在は必要だと思っている。


 瞳を開けると私の瞳に映ったのは明さんとエリちゃんの顔だった。

「ユウリ」

「大丈夫か?」

 明さんとエリちゃんが口々に言う。

 私はまだ意識が覚束ないが、これから二人に話す内容は分かっていた。

 それは愛梨が死んだ理由を。

 意識がはっきりしてきて私は二人にメモリーブラッドで知り尽くしたことを告げる。


 愛梨は母親に保険金をつぎ込まれて殺された。

 親は保険金を受け取ってどこかへ消えてしまった。

 愛梨の母親はあんなだったけど、母親は愛梨に対して不器用だけど自分に愛情を尽くしてくれていたと知っていた。

 でも母親のきもちは真っ暗な気持ちへと変化していって、それは愛梨も感じていた事だった。それで自分が死ねば母親は幸せになれるから、何も言わずに気づかないふりをして母親の陰謀に乗ったのだった。

 でも死ぬ直前に思ったみたい。

 愛梨自身が死ねば私達が悲しむ事を。

 でもやむ得なかった。

 そして愛梨は蘇り、私の家意外に行く当てがなかった。

 

 二人に事情を話して、少ししゃべり続けて、その乾いた喉を冷たいカルピスを一口飲んで潤した。そして私は軽く息をつく。

 そこで明さんが、

「どうして愛梨が蘇ったのかは分からないままか?」

「それは私も知りたいけど、そこまでは愛梨の記憶を探っても分からなかった」

 そこでエリちゃんが、

「とりあえず今日はこれぐらいにして明日考えよう。姉貴も心配するからな」

 時計を見ると午後八時を回っていた。

「そうだね」

 二人にはもう少し側にいて欲しいと思ったが、仕方がない事だ。明さんにもエリちゃんにも家族はいる。

 そこで明さんが私の肩に手を添えて、

「そんな顔するなよ。また明日会えるんだから」

 そんな顔とはどんな顔か?どうやら私は気づかぬうちにみんなに心配するような顔をしてしまった。

 でも明さんが私の気持ちを察してくれて嬉しくて、

「ありがとう明さん」

 実直な気持ちを伝える。


 二人は明さんが運転する原付で帰って行った。

 その後ろ姿を見つめて、人知れず私は「また明日会える」と呟き部屋に戻った。

 部屋に戻ると愛梨はベットの上で眠ったままだ。

 見つめていると心配の念が募る。だから私は頬を両手でピシりと叩いて、気分を変えた。悩んでいても仕方がないと。

 時計を見ると午後八時半を示している。

 もう夕飯の時間は過ぎているし、いつも夕飯を支度してくれるお姉ちゃんが今日は遅いし、まだ帰っていない。

 ちょっと心配になったが、何か仕事で用事あるのだと思って私は愛梨がいつも私の家の手伝いをしている事をやろうとしたそんな時、電話が鳴り響いた。

 リビングにおいてある子機を取り、

「はいもしもし渡辺です」


 私は夜の地平線を自転車で走る。

 聡美お姉ちゃんが働く水族館で水槽が突然落下して、その下敷きになり意識不明の重体と聞いた。

 聞いた時は私は悪夢を見ているかのように目の前が真っ暗に染まりそうになったが、とにかくそういう気持ちに陥らないように家を出て自転車に乗り、搬送された病院へと向かう。


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