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愛梨

思い切って外に出ると、激しく照りつける太陽が私を照らし、少し悲しみがいえた感じがした。

 愛梨が亡くなったのは本当に悲しい。

 でも私はそんな弱い気持ちのまま生きたくない。

 一歩一歩目的地へ闊歩する。

 行かなきゃ、行かなきゃ、と自分に言い聞かせて、進んでいく。

 しかし私の行く手を遮るのは私の弱い気持ちだ。

 そんな時明さんの言葉がよぎる。

『お前は愛梨がいなきゃ何も出来ないのかよ』

 って。

 その悔しい気持ちはなぜか私の勇気になるように、その足を目的地に誘う。

 明さんの言っている事は正しいと思う。

 それに愛梨が死んで悲しいのは私だけじゃない。明さんだって、エリちゃんだって、それに愛梨の遺族の人たちも悲しいのだ。

 いつまでも私はその悲しみにとらわれてはいけない。

 強く生きる事を望むのなら、私はスタジオに行かなくてはいけない。

 それは誰のためでもなく、私が私であり、強く生きようとする私自身の為だ。

 だが、私の弱い心はその意志を阻むように、愛梨が死んでしまった残酷な真実を突きつけ打ちひしごうとする。

 照りつける太陽は私の体力を奪い、その場で倒れそうだった。

 このまま倒れてしまえば、いいんじゃないかと思ったが、それは私の決意を打ちひしごうとする弱い心だと知り、とりあえず、水分を補給する為に、自販機でミネラルウォーターを購入して、ベンチで一休みした。

 行かなきゃ、行かなきゃ。

 そう自分に言い聞かせ、再び立ち上がり、その足を目的地に向かって闊歩する。

 愛梨がいなきゃ何も出来ない何てもう言われたくない。

 愛梨がいなくなったバンドを続けるのに意味はあるのかと思うが、とにかく続ける続けないは別として、明さんとエリちゃんが待っているスタジオに行かなくてはいけない。

 続けないと思っても、二人にその話し合いだけでもしておこうと思う。

 私はただ二人にその話をしに行くだけなのに、なぜか怖くて逃げ出したい気持ちだ。

 折り返して帰りたいとも思うほどだ。

 私の親友である愛梨が死んで私の心は限りなく弱くなってしまった。

 私も死んでしまいたいと思ったが、リストカットをした時、なぜか死ぬ事に恐ろしく恐怖してしまった事を思い出し、私は死にたいと表向きでは言っているが、私の宇宙空間のように広い心のどこかに生きたいと言っている自分がいる。

 そんな自分に嫌気がさしてくるが、それは私の弱い心がそう言っているのだ。

 愛梨がいなくなった今、私は生きることが辛い。

 でも私は生きたいんだ。

 強く生きたいんだ。

 その心に追い打ちをかけるように、明さんの言葉がよぎる。

『お前は愛梨がいなきゃ何も出来ないんだな』

 そこで私は人目もはばからず叫んだ。

 周りは私の事を変な子だと思っているのかもしれないが、今はそんな事を気にする余裕なんてなかった。

 私はスタジオに到着しても明さんとエリちゃんに笑われてしまうだろう。

 笑われたって良い。

 そして私は走った。

 目的地まで向かって思い切り。

 途中疲れはてたが、それでも息を切らしながら目的地まで走った。

 そしてスタジオに到着して、受付で、二人が待っている部屋へ案内され、私は入った。

 息を切らして私はもう立っていられないが、かろうじて立って、二人の視線に目を向けた。

 目の前がもうろうとして、二人の顔を見ると、笑っていた。

 そんな私を笑っているのだろう。

 でも私は、

「私は愛梨がいなきゃ何も出来ない私じゃない」

 とその今の私の実直な気持ちを言った。

 そこで明さんが立ち上がり、そんな私に歩み寄ってくる。

 私が生意気な事を言ったから明さんを怒らせてしまったかもしれない。

 私は暴力を振るわれるんじゃないかと思って怖くてその目を閉じた。

 だが、私の身に何か暖かく、すごく優しく鼻孔をくすぐる何かに包まれた感じがして、その目をおもむろに開くと明さんに抱きしめられていた。

「明さん」

 と私はきょとんとして、訳が分からないと言った感じだった。そして明さんは私の耳元でささやいた。

「よく頑張ったな。お前のその勇気、見届けさせて貰ったよ」

「えっ?」

 思わずそう言って、明さんの私に対するその思いを吟味すると、じわじわと体全身に行き渡り、細胞の一つ一つが犇めきあう感覚にとらわれ、その私の瞳から大粒の涙が流れ始めた。

 何で私は泣いているのだろう?と思って、それは愛梨に対する悲しみの涙なのかと思ったが、そうではなかった。

 それは明さんの私に対する優しさに感極まって、流している涙だった。

 涙なんて人前で見せるものじゃない。

 でも明さんの私を優しく包み込む抱擁は、まるで言葉では言っていないが『今は思い切り泣け』と言っている気がして私は子供でも滅多に見せないような嗚咽も漏らした。

「怖かった。・・・ここまで来るまで・・・すごく怖かった・・・死んでしまうほど・・・怖かった」

 そして私は心の中で誓ったのだ。

 きっと明さんはこのように優しくしてくれるのは、滅多にないだろうと。

 こんな風に私の涙を優しく受け止めてくれた人は愛梨に続いて明さんが二人目だ。

 だから私はもう愛梨が死んでしまった悲しみに涙は流さないって。


 私の涙が落ち着いた頃、明さんとエリちゃんの目的を聞いた。

 それは二つあり、一つ目は私の勇気を試した事ともう一つが本当の本題で、私達のバンドで愛梨がいなくなった今後どうするか話会う事だった。

 愛梨が亡くなって、もうバンドなど続ける意味などないと思っている。

 まあそれはそれで良いとして私達はもう愛梨が亡くなった現実を真摯に受け止め、今後の事を話し合わなくてはいけない。

 私達三人はベンチに座って、明さんが「どうする?」と切り出して、エリちゃんは俯き黙り、私は私で答えはすぐに出た。

「このバンドに愛梨の代わりはいないよ。だから私は抜ける」

 その思いは別に愛梨がいないから出来ないと言う意味で言ったのではない。

 私の意見に明さんは残念そうに「そうか」と納得してくれた。

 新メンバーを加入させて、再始動何て考えられなかった。

 愛梨がいなくなった今、愛梨の代わり何ていない。だからもうこのバンドを続ける意味なんかない。

 明さんもエリちゃんも黙っているが、私と同じ事を考えているような感じで、とても残念そうな顔をしていた。

 本当に不本意だが、私たちのバンドの中心の愛梨はもういないのだ。

 そして話の結論は解散と言うことで終わった。


 夕方頃家に戻り、部屋に入るとベットの上に思い出のアルバムが開きっぱなしだった。

 愛梨の写真に目がつくと、泣きそうな気持ちに駆られて、私は自分に誓った事を思い出してアルバムをすかさず本棚にしまった。

 そうだ。もう愛梨の事で泣かないと。

 それとは別で、私の勇気を見届けた明さんの抱擁が頭から離れなかった。

 その思いを寄せると、胸が熱くなる気持ちだった。

 愛梨が亡くなり、バンドは解散になって、私達を結びつける物はなくなったのだろうか。

 私の今の気持ちはバンドを続けられなくても、明さんとエリちゃんとは友達でいたいと言うのが私の本心だ。

 だったら二人の別れ際になぜそう言わなかったのか?臆病な自分に嫌気がさした。

 明日から夏休みだ。

 本当だったら、もっとテンションを上げていきたいところだが、そうならないのは言うまでもなく愛梨が亡くなった事が原因だ。

 ベットに寝転がり、私は人知れずつぶやいた。

「明日からどうしよう」

 学校も予定もない。

 部屋の中にいつまでもいたら、愛梨の事を思い出して悲しい気持ちに翻弄されてしまうだろう。

 夕飯の時間になり、みんなにも心配かけないように、もてなされた食事を無理して食べた。

 そんな私を見てお父さんとお母さんは嬉しそうにしていたが、お姉ちゃんは私の事を心配のまなざしで見ていた。

 とにかくもう愛梨の事で悲しむのはよそうと思う。

 亡くなってから一ヶ月の時が過ぎたが、まだ悲しい気持ちは残っている。

 忘れる事は出来ないが、とにかく明日から何かをしながら悲しみを紛らわすしかないだろう。

 私はもう充分泣いたし、だからいいだろう。

 でもその前に一人の夜は必然的に来る。

 その恐怖におびえ、私の明さんに対する誓いなど、いとも簡単に崩れ壊れる。

 そんな弱い自分に嫌気がさし、愛梨を悲しむ気持ちと同時に恨む気持ちが生じ始めた。

 こんな私は明さんに会わせる顔なんてない。

 今日明さんに私の勇気を労ってくれた優しい抱擁に誓ったのに、本当に私は愛梨がいなきゃ何も出来ないただの弱虫だ。

 泣かないって誓ったのに。


「愛梨のバカ」


 と人知れずつぶやいたつもりだが、


「ごめんねユウリ」


 と愛梨の声が聞こえた。

 我にかえり、辺りを見渡すと、私の部屋の片隅に紛れもない愛梨が悠然として立っていた。

 そんな愛梨を見つめて、愛梨は死んでしまったのにどうして私の前にいるのだろうと疑問に思い、その目をこすって再び愛梨のいる方へ目を向けると、それは幻覚でもない紛れもない愛梨だった。

 いや私の前にいる愛梨は幻覚かもしれないし、もしかしたら不可解なお化けなのか何て思ったが、そんな事はどうでもよく、私は愛梨に飛びつくように抱きついた。

「愛梨。愛梨」

 幻覚でもお化けでも何でも良いから愛梨を側で感じていたい。

 愛梨は抱きつく私の背中を優しくさすって、「ユウリ」と紛れもない愛梨の声だった。

 しばらく夢中で愛梨に抱きついて、私の涙が落ち着いた頃、愛梨の体が人間の体温じゃない程冷たい事に気がついた。

「愛梨。冷たい」

 愛梨の目を見て言うと愛梨は暢気な笑顔で、

「何か私、死んで蘇ったみたいなんだけど、元の人間ではないみたいなんだなあ」

 何て。

 そんな愛梨を見て、とりあえず安心した気持ちから、心の底から煮え返るような憤りが生じて、そんな蘇った愛梨だが殺してしまいたい気持ちで愛梨に飛びかかった。

「落ち着けユウリ。何なんだよいきなり」

 愛梨に牽制され、それにあらがおうと愛梨に攻撃を加えようとするが、これが愛梨の力なのか?尋常じゃない程の力で、私は太刀打ち出来ない。

 愛梨は男の子にも負けない程喧嘩が強いし、あの明さんも負かしてしまうほどの強さだが、これが愛梨の力?いや人間の力なのかと疑った。

 もはや抵抗する事も出来ずに私は疲れはてて、床に伏した。そんな私に愛梨は、

「ユウリ悪かったよ」

 愛梨は自分が死んで私がどんだけ悲しかったか、その肌で感じて謝ったのだろう。

 でも私はそれでも愛梨が許せず、愛梨に鋭い視線を向けて、愛梨のその頬を思い切りはたいた。

 でも愛梨にはあまりダメージはない感じだが、愛梨に対する憤りの気持ちが一瞬で払拭され何かすっきりした。

 愛梨は痛みは感じていないが、私が叩いた頬をさすって悲しい顔をして、「ごめんなユウリ」と再び私に謝った。

 その顔からして私の懇親のピンタは愛梨に対して体の痛みはあまり感じていないみたいだが、心に思い切り響いたのだと感じだった。

 それで私は愛梨を許せた。


 とにかく愛梨が生きていて本当に良かった。気持ちが落ち着いた頃、なぜ死んだのに生きているのか事情を聞くことにする。

「愛梨、そこに正座しろ」

 ベットの側の床をさしてそういった。

「何だよ。まだ怒っているの?私は生きていたから良いだろう」

「そういう問題じゃない。とにかく座れ」

 愛梨を床に正座させ、私はベットに座って上目遣いで見つめてくる愛梨を上から目線で見下ろした。

「さあ、愛梨包み隠さず訳を話せよ」

「何か訳が分からないんだけど、昨日辺りから私蘇ったみたいでさ」

「蘇ったって言うけど、体は冷たいし、心臓も動いてないじゃん」

 愛梨の胸に耳をそばだてると、心臓の鼓動が聞こえない。

「私も気がついていたら、生きていたって感じでさ」

 視線を泳がせている事に私の心配で募らせた怒りをなだめようとしている愛梨だと分かった。

 そこで愛梨は急に話題を変えて、

「私実を言うと昨日蘇ったって言うか、とにかくユウリは私が死んで悲しんでるんじゃないかって、真っ先に会いに行こうと思ったんだよね」

「何で会いに来なかったのよ」

 と訳を聞く。

「昨日さ、学校に行ったんだけど、偶然、明がいつまでもくよくよしているユウリに活を入れているところを目撃してさ、昨日からユウリの様子を見ていたんだよね」

 それで愛梨は穏やかな笑顔で嬉しそうに、

「ユウリ、本当にくじけずに頑張ったね。ユウリが明とエリがいる目的地のスタジオに行くところを私はずっと見ていたよ。

 明もユウリのその小さな勇気を労ったところは本当に私の胸は熱くなったよ」

 何だろう?心に今まで感じた事のない、怒り、いやそれを通り越して殺意と言う気持ちに翻弄され、体中がプルプルと震えだした。

 落ち着いてと自分に言い聞かせる。

 愛梨は蘇ったんだよ。ここでまた愛梨が死んだら、また私は悲しい気持ちに陥るよとも言い聞かせる。

 だが愛梨は穏やかな笑顔で、

「ユウリは私がいなきゃ何も出来ないと思っていたよ」

 その言葉は私の理性を粉々に砕いた。

 私は16年人間をやっているが、ここまで人に怒りを感じたのは生まれて初めてで、これも初めての体験で人が怒りの臨海点を越えた時、笑ってしまうんだって。

 そんな私を見て愛梨は、「ユウリも嬉しいか」と嬉しい笑顔だと勘違いしているみたいだ。

 丁度手元にハンマーがあった。

 それを手にして本気で愛梨の脳天をかち割ってやりたい気持ちで愛梨に身を乗り出して近づいた。

「ユウリ?どうしたんだ?」

 私の異変に気がついたみたいだ。

 私はその目を細め、

「愛梨。死んでよ」

 と言ってそのハンマーを愛梨の頭に振りかざそうと考えたが、そこで私の理性が芽生えて「やめろー」と叫んでいる感じがして、やめた。

 思えば愛梨は、無神経で、私がしゃくに障る事を何も気にもとめず言われた事があった。

 それで何度もぶっ飛ばしてやりたい気持ちにもなったし、極端な話殺してやりたいとも思った。

 とにかく愛梨が生きていて良かったじゃないかと言い聞かせ、私の理性が怒りを抑えてくれた。

 だが愛梨は、

「また私、ユウリに対して失礼な事を言っちゃったかな?」

 分かってくれる事は良いが、何か愛梨は反省の色が見えないので、また再び憤り、愛梨の首元をつかんで本当に殺そうと思ってしまう。

 だが、愛梨は抵抗する事はしないで、私にされるがまま黙っていた。

 首を思い切り、つかんで殺そうとしたが、また私の理性が働いて、その手を離した。

 そこで私は気がついた。

 どうしてこんなに愛梨に対して殺意を抱くほどの憤りを感じてしまうのか。

 愛梨が死んで、私は本当に悲しかったのだ。

 そんな私の気持ちも知らないで、暢気な愛梨にムカついたのだと言う事が分かった。

 愛梨が死んで悲しい気持ちで忘れていたが、以前にも無神経な事を言われて、殺してやりたい気持ちにもなった事があった。

 それともう一つ、私は明さんに勇気を試され、それを成し遂げた事を愛梨は私を労ったが、なぜか愛梨にそう言われて殺意を抱くほどムカついた気持ちは自分でも分からなかった。

 本当に改めてだが、愛梨が生きていて良かった。

 そんな愛梨を私は抱きしめた。

「おい。ユウリ」

 そんな私にちょっと困惑気味に言ったが、この私の抱擁を外したら、また愛梨が死んでどこかに行ってしまうんじゃないかと思ってしばらく離さなかった。

 私の気持ちが落ち着いた頃、愛梨から離れて、愛梨は、

「ごめんねユウリ、心配かけちゃって」

「本当だよ」

 とちょっと怒ったりする。

「とにかくユウリが元気になって良かったよ。私はここで退散するよ」

「ちょっ退散って。行く宛はあるの?」

「とにかく私も親のところに帰るよ」

 何か分からないが、ここで愛梨と別れたら、もう二度と会えないんじゃないかと畏怖して。

「今日はうちに泊まって行きなさいよ」

「いや、それは何か悪いから良いよ」

「良いから」

 ちょっと強引だが、今日のところは愛梨を引き留めて、私の家に泊まらせる事にした。

 それに愛梨には聞きたいことがたくさんあるし。

 明日とにかく愛梨が生きていた事を明さんとエリちゃんにも伝えておかなければいけないと思う。

 二人も心配したし、悲しんだし。

 その事に関して愛梨には二人に面と向かって謝らせておいた方が良いだろう。

 話がひと段落ついた頃、先ほどから気になっていた事を愛梨に言う。

「愛梨、あんたその服ボロボロじゃん。それに何か臭うよ」

「だね。私、女としてちょっとやばいよね」

 あまり気にしてないような感じで、正真正銘の愛梨だ。でも女の子としてもっと身だしなみには気にして欲しいと思う。

 ちなみに愛梨が今着用している服は、タイトな青いジーパンに赤いカッターシャツだ。

 愛梨をお風呂に入れたいと思うが、お風呂場まで親やお姉ちゃんに見つからないように、お風呂場まで愛梨を連れていった。

 別に愛梨の事を隠さなくても問題はないと思うのだが、愛梨が生きていた事にみんなびっくりすると思うので今は隠しておいた方が良いと思ったのだ。

 私もついでにお風呂に入り、今思ってもシュールだが、愛梨の体は冷たく、心臓も動いていない。

 まあそれはともかく、愛梨の短い髪はボサボサで、体も汚れていてかなり臭う。

「ほら愛梨、まず髪洗うから」

「サンキューユウリ」

 私がいつも使っている髪を潤わせるシャンプー、そしてさらさらにさせるコンディショナーを使う。

 まあ愛梨は私のように髪は長くないので、手入れはあまりかからないだろうな。

 とにかく女の子は身だしなみをきちんとしないといけないと思う。

 だから同じように体も丹念に私が磨いた。

 下着は私のパンツで問題ないが、ブラは合わずブカブカで、仕方がないのでスポーツブラを着用させ、上着は白いワンピースを着用させた。

「スカートかよ。ズボンはないの?」

 不服を言う愛梨に対して、少しいらだち、

「仕方がないでしょ。私はスカートしかはかないし」

「何か落ち着かないな」

 そういえば、愛梨って最近制服以外にスカートを履いたところを見たことがない。

 それはともかく私は、

「ほら愛梨、髪乾かすから、鏡の前で座って」

「いいよ別に、自然にしていれば、すぐ乾くから」  

「良いから言う事を聞いて」

 と強制的に鏡の洗面台の前に座らせて、ドライヤーでそのショートカットの髪を乾かした。

 ここで親が来たら何かまずい気がするが、とにかく急ぐように愛梨の髪をドライヤーで乾かす。

「悪いなユウリ、こんな事までさせちゃって」

「女の子は身だしなみが大事だからね」

「私普段ドライヤー何て使わないから、何年ぶりだろう」

 部屋に戻り、愛梨は等身大を映す鏡の前に立って自分の姿を見て、何かそわそわしている。

「何かこの格好落ち着かないな」

「そう?愛梨その格好似合うと思うけど」

「からかうなよ」

 何て愛梨は言うが、私は本心で私の白いワンピースを着てかわいいと思っている。

 まあアイドルに憧れていた愛梨は、昔は良くスカートを履いていたが、その夢を諦めてスカートを履かなくなってしまったんだな。

 あの時、愛梨はあまり気にしていないような感じだが、どこかで悔しくて何かしらの衝撃を受けたんじゃないかと思っている。

 でも愛梨は私のようにいつまでもくよくよと思い悩む性格じゃない事は知っている。

 思えば愛梨は今まで私の前では涙を流した事もない。

 さんざん私の涙を見ているのに、何かずるいと、ふと思う時があった。

 それはともかく時計を見ると、十時を少し回ったところだ。

 そういえば、愛梨が死んでしまったショックでしばらくニュース番組を見ていない。

 だから最近世間で何が起こっているのか分からないので、テレビをつけてニュース番組にチャンネルを合わせる。

「何だユウリ、何か面白い番組でも見るのか?」

「いやニュースは見ておかないとね」

 そういうと、私が座っているベッドの隣に座ってきて、愛梨も私と同じようにそのニュース番組に目を向ける。

 まともにニュースを見たのは一月ぶりで、政治や経済の事に関しては継続して見ていないとあまり理解が出来ない。

 ため息をつくと、愛梨がリモコンをとって、

「そんなつまらない番組なんていいから、もっと面白い番組見ようぜ」

「ちょっと」

 ここでいつもの私なら怒るところだが、何かこんなやりとりが何か懐かしい気持ちになりほっこりとして、やれやれと笑ってしまった。


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