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ユウリと明3

明さんは私が守るんだ。

 明さんは私が守るんだ。

 走りながら悪意のある視線を感じる。それに複数も。

 織田の取り巻きだろう。

 以前明さんから聞いたが、織田は覚せい剤密売組織の仲間で、明さんはその事実を知り、織田はそんな明さんを消そうとしているのだろう。

 警察がらみで、しかも裏の世界の人間までにも狙われたらまさに袋鼠だ。

 とてもじゃないが太刀打ち何てできない。

 でも愛梨の力ならどうにかなると思ったが、愛梨の力は借りずに、私自身の力で何とかしたい。

 危険な状況なのは分かっている。でも私は明さんと一緒にいたい。明さんをずっと側で感じていたい。

 だから愛梨の力を借りることが出来ないなら、逃げるしかない。

 何だろう?明さんの為なら、死んでも良いと思っている。

 港の閑散とした港を私と明さんは走る。

 さすがに疲れてきた。もう限界まで達して、倒れそうな私に明さんは、

「ユウリ、もう少しだ。私についてこい」

 明さん自身も精神的にも肉体的にも限界に近づいているだろう。

 はっきり言ってもうこの先にはどん詰まりの海だ。もう逃げ道なんてない。

 振り向くと、織田の取り巻きたちが何人か姿を現した。

 奴らは黒い覆面を被っていて、顔を露わにしていない。

 それに奴らは悠然とした感じで歩み寄るように近づいてくる。

 まるで私たちが怯え逃げる姿を見て堪能して楽しんでいるかのようにも思える。

 さっさと殺さないのは、人間の心理には人をいじめる本能のようなものが誰の心にも存在すると聞いた事がある。

 人を蔑みいじめ、それを楽しみ快楽を得る。

 そう思うと、これ以上感じたことのない恐怖の気持ちに染まりそうになったが、明さんと共にいる事にその恐怖を払拭して勇気に変えられる。

 明さんはともかく私一人だったら、観念して死を選んでいたのかもしれない。

 でも走る先は海だ。どこへ逃げようと言うんだ。

 でも明さんと一緒なら・・・。

 死を覚悟した時だった明さんが、地面に設置されているマンホールに手をかけ引っ張る。

 一人じゃ開かない。だから私も手を貸す。

 開きそうで開かない。

 悠然と歩いてくる連中は、私たちの行動に気が付いて、その足を走らせる。

「どこに逃げようって言うんだよ」

「へっへっへっ」

「・・・」

 取り巻きは三人。

 奴らは走ってくる。

 明さんも同じだと思うが、私も焦りだす。

 だからその焦る気持ちをこのマンホールの固い蓋を開ける力に変え、引っ張る。

 連中は近づいてくる。

 いくらケンカの強い明さんでも武器を持った連中に太刀打ちなどできない。

「どこへ行くって言うんだよ」

 と一人の取り巻きがボーガンを構え、私達二人に構えた。

 すると私のこめかみの辺りに、その矢が真空を裂く衝撃がかすったのを感じた。

 怖い気持ちに駆られている暇などない。とにかく逃げなきゃ。

 マンホールが開いた時、取り巻き三人に追いつかれてしまった。

「どこへ行こうって言うんだよ」

 と一人の男が私にめがけてナイフを突きつけて来た。

 覚悟を決め死を覚悟した時、明さんが、持ち上げたマンホールの蓋の縁で男の横顔を殴りつけ相手は悶える。

「この野郎」

「ただで済むと思うなよ」

 一人の男は先ほど私めがけて放ったボウガン。もう一人は鉄パイプを持って私たちに殴りつけようと構えている。

 明さんはそんな二人に持っている重たいマンホールを両手で構え、ハンマー選手が投げるような感じの体制で渾身の力で投げつける。

 二人は投げつけられた円盤にひるみ、明さんはこの隙に私の手を取り、マンホールの中へと入ってとりあえずこの場は逃げることが出来た。

 マンホールの中は、降りる際にコンクリートに梯子のように一つ一つつかむ手すりが設置されている。

「落ち着けよユウリ」

 恐怖で落ち着いていられない私の気持ちを汲み取る明さんの声に安心して、明さんに続いて落ち着く。

 そうだ。私には明さんがいる。だから怖くない。

 するとマンホールの入り口から、織田の取り巻きの男がボーガンを構えて、

「死ねこの野郎」

 そういってボーガンを放つ。

 その瞬間すべてがスローモーションになった。

 真空を切り裂くその凄まじい速さのボーガンがゆっくりと私にめがけて放たれる。

 そんな中私の脳裏に様々な記憶が交錯した。

 明さんが好き。

 明さんに守られる自分ではなく明さんを守れる自分でいたい。

 明さんの思いを私のものにしたい。

 明さんを守るのは私だ。

 明さんを守るのは私だ。

 気が付けば私は凄まじい速さのボーガンを手に握ってつかんでいた。

 そしてスローモーションだった事が我に返った事のように何が何だかわからないが普通の速さに戻った。

 とにかくつかんだ矢を握りしめながら、明さんに続いて降りた。

 そして地面に辿り着いて、中は真っ暗で、明さんが持っていたスマホのライト機能を使って辺りを照らして、明さんと共に走った。

「急ぐぞ」

「はい」

 私は明さんに続く。

 マンホールの中は、整備されていて、真っ暗なトンネルのようなところで、何とも言えない異臭が漂っている。

 地下の中は密封された空間なので、私たちを追う連中の声と足音が響く。

 そこで明さんは通路の角に曲がり、私もそれに続き、明さんはいったん立ち止まり私に、

「音を立てるな」

 小声で言われ、そしてスマホの明かりも消す。

 私は明さんに言われた通り、その口を閉じ、念のため、声が出ないようにその口を手で押さえようとすると、さっきとっさに放たれつかみ取ったボーガンの矢を握りしめていた。

 投げ捨てようとして明さんにその手をつかまれ止められた。

 それで我に返るように、音を立ててはいけないんだと言う事に気づかされる。

 スマホの明かりを消して、真っ暗で何も見えない視界が徐々に慣れていきうっすらと見えるようになってきた。

 奴らの声と足音がこだまする。手分けをしたのか、その音はまばらになり、次第に、奴らも音を出したら気づかれる事に気が付いたのか?地下は静寂に包まれ、その静寂の中、いくつか水滴が落ちる音がする。

 明さんは私の肩を音を立てないようにたたき、アイコンタクトで、『音を立てないように行くぞ』と言っている。音を立てないように明さんは進み、私も続いた。

 壁伝いに音を立てないように進む。奴らに気づかれないように。

 そして明さんが扉を見つけて、明さんは私の方を振り向いて顎をしゃくって『静かに来い』と言わんばかりにジェスチャー。

 言われた通り扉の前に行くとドアはさびていて、安易に開く感じがしない。

 でも明さんはここで時間を稼いで、この中に隠れようと言葉にしなくても明さんを見て何となくわかった。

 明さんが音を立てないように錆びて厳重そうな扉のドアノブに手をかけ私も力を合わせようとその手を重ねた。

 こんな状況に不謹慎だが、私は好意を持っている明さんに胸が張り裂けそうな感じに陥りそうだった。

 明さんが私の目を見て、見つめる明さん。

 一体何だろうと思ってじっと私も見る。

 ドキドキする。

 そこでハッと我に返り、それは明さんの『一緒に開けるぞ』と言うアイコンタクトに気が付き一瞬慌てたが、冷静になって音を立てないようにその厳重で硬そうな扉を音を立てないようにゆっくりと開けようと力を入れた。

 厳重そうに見える扉も思ったよりも厳重ではなく私と明さんが共にゆっくりと力を入れてすんなりと空いた。

 私と明さんは中に入り扉を閉めた。

 中は密封された部屋で内側からカギがかけられる。

 明さんがカギをかけ、

「ここでしばらくは時間を稼げるだろう」

 そういってやはりここでも油断はせず、小声で私に語り掛けた。

 スマホで明かりをつけてうっすらとだが私と明さんが入った部屋は明かりに包まれた。

 明さんは少し気を抜いて壁に寄りかかり、そのまま体躯座りをして目を閉じた。

 明さんと二人きり。そう思うと体全体が熱くなり、激しく明さんを求める私がいた。

「どうしたユウリ」

 私は慌てて首を左右に激しく振って何でもないとアピールする。

「そうか、お前も少し休んだ方が良い。ここなら連中もちょっとやそっとじゃ見つけられないからな」

 そういって明さんは目を閉じて体躯座りのまま首を垂れて眠っている感じだ。

 奴らの気配が感じられない。

 明さんの所に行き、その顔を覗き見ると本当に疲れてやつれた顔をしている。

 思えば織田たちに狙われて精神的にも肉体的にも滅入っているだろう。

 私は眠っている明さんの顔をじっと見つめた。

 私はこんな状況にもかかわらず明さんを激しく求めている。

 私はこんなにも明さんを思っている。

 明さんのすべてが欲しい。

 身も心もすべて。

 でも私たちは女同士。じゃあどうして私が男性じゃないのか神様を責める私が心に存在する。それにどうして私は同性である明さんにこのような感情を抱いてしまったのか?そんな事わからない。

 もし明さんが私の気持ちを知ったら、・・・。それはすごく怖い。

 真実を聞きたくない。でも明さんをものにしたい。私の小さな子供のようなわがままだけど、もう何でもいい。私は明さんをものにしたい。ここで明さんと共に死んでもいい。

 明さんを私の物にしたいここなら誰にも邪魔は入らない。ここで明さんと死んでもいい。

 このままじゃあ、私たちは連中に殺されてしまうだろう。

 でもここは密封されたドア、内側からしかドアが開かない。

 我に返ると、私は明さんのそのプルンと潤った唇を重ねていた。

 明さんはそんな私に気が付いて、

「ん?」

 とっさに私から離れて、

「どうしたユウリ」

 明さんも私に口づけをされた状況に困惑の表情をしている。

 もう明さんしか見えなくて私から離れようとする明さんを追う。

 明さんはどういう訳か、立つことが出来ずに体躯座りのまま迫る私から後ろに引く。

 そういえば私は明さんを物にしたいあまりその手を先ほど放たれた矢を杭にして縛ったんだっけ。

 そんな明さんに抱き着いて、「明さん」と耳元で囁いた。

「こんな状況に変な冗談はやめろ」

 明さんはこんな状況でも大声を張り上げず、小声で私にその怒りを訴える。

 やっぱりそうだ。明さんに私のこの気持ちは届かない。届くはずがない。

 でも私の思いは届かなくても、抱きしめて鼓動は近くに感じているが心は地球の裏側よりも距離が空いてしまっている。

 そう思うと涙がこみ上げて来た。

「・・・」

 涙を流している私に明さんは気づいていて、何を思っているのか?黙っている。だから私は、

「ごめんなさい明さん。こうでもしないと私の気持ちは治まらない。私は分からないけど明さんの事が好きなの。でも私と明さんは同性で結ばれる事なんてない。確かにこの世界には同性愛って存在しているけど、私のこの思いは明さんに届かない。届くはずがない。だからこうするしかない。こうするしかない」

「お前の気持ちは分かったよ。その事は後にして、とりあえずこの状況から出る事を考えよう」

「ダメ。そんな事をしたらもう明さんは私の前から、いや明さんのその瞳に私を映してももう分かり合える事はなくなる」

「そんな事はないよ」

「嘘」

 私がそうはっきりと大きな声を出した瞬間、激しい音がして、ビクッとすくみ、振り向くと扉が打ち破れた音だった。まばゆい光を突きつけられ、あまりのまぶしさに目を背ける。

 奴らがここをかぎつけて来たことが分かったが、もはや万事休す、私は明さんとなら死んでもいいと思ってその瞳を閉じて覚悟を決めた。

「やっと見つけたよ。子猫ちゃん達」

 連中の一人の薄汚い声が耳に響く。

 私はもう怖くはなかった。明さんと一緒なら。そう思っている矢先に、

「諦めるなユウリ」

 そういって立ち上がったのが明さんだった。

 私が縛ったロープを自力でほどいて、その杭にしていた奴らに突きつけられたボーガンの矢を握りしめ、連中の一人の肩に刺した。

「ぎゃああ」

 と断末魔のような悲鳴を上げもがく連中の一人。

 明さんは私の手を取り、

「行くぞユウリ」

 私の手を取り走って、私も続く。

 明さんどうしてこんな私を助けるのだろうと、考えている余裕もなく複雑な思いを抱きしめながら走る。

 もはや連中に見つかり、音が響く地下を静かに行く余裕などない。ひたすら逃げるしかない。

 連中の気配、その足音が地下に響く。

「どこにいるんだよ」

「逃げないで出てきたらどうなんだ?」

 連中の大声が地下に響く。

 恐怖で染まりそうな気持を明さんの後に続いて振り払った。

 走っていると明かりが見えてきた。

 その方向へと明さんと共に向かう。

 慌てて私は転んでしまった。

 明さんはもうこんな私を見捨てて行けばいいと思ったが、明さんは私の手を引き、

「しっかりしろ」

 と言って立ち上がり、再び出口と思われる明かりの方向へと向かった。

 出口までもう少し、また織田の手があるのかもしれないが一抹の可能性でもいいから、生きると強く願い、明さんの手に引かれながら私は走る。

 そして出口に到着して、表に出た。

 助かったと思ったのは束の間で、出口の前に黒いスーツを着た織田が立ち尽くしていた。

 それを目にした瞬間、目の前が真っ暗に染まりそうなほどの絶望の気持ちに陥った。

 織田は私と明さんをそれぞれ見ている。

「やっぱりお前の仕業だったんだな?」

「何のことだ」

 平然ととぼける織田。

 ちらりと明さんの方を見ると、明さんも精神的にも肉体的にも憔悴しきっていて、その目を閉じて黙っている。

 そんな明さんを見て私は思った。

 私は明さんにあんな事をしたから、きっと明さんとの関係はこれで終わりだろう。だったらせめて明さんには生きていてほしいと私は罪滅ぼしで叫びながら織田に立ち向かった。

「ユウリ」

 こんな私の身を案じて明さんは言う。

 私は喧嘩なんかしたことない。ましてや男の人に立ち向かうなんて無謀だが、私にはもう何もない。明さんに許してくれなんて言わない。このまま生きたら生き恥をかくだろう。だから私は命を懸けて戦う事を選ぶ。

 その拳を丸めて織田の顔面に突きつけようとしたが、織田はやはり警官でそういった護身術を習っていると思われるので、するりとよけられて、私はその勢いで倒れ伏してしまう。

 倒れて織田の方を見ると私を見下ろして黙り込んでいる。

「そんなに私たちを持て遊ぶ事が楽しい?」

 そういって立ち上がり、再び拳を丸めて織田の顔面をめがけて突きつけたが、織田に腕を取られて織田にけん制され動けなくなる。

 そしてそんな私が見ていられないと言わんばかりに明さんも立ち向かう。

 だが、いくらケンカが強い明さんでも織田はそれ以上に強く、攻撃をかわされ、軽くけりを食らい倒れてしまう。

「くそ」

 と明さんは吐き捨て、

「愛梨」

 と気が付けば呟いていた。

 すると私たちが出てきた出口の方から織田の追手の者がボーガンを構えて放って来た。

 またその矢が私めがけてスローモーションのように見える。

 さっきは無我夢中でそれをつかむことが出来たが、織田にけん制され、それに掴む気力もない。

 だから私はその目をつむるしかなかった。

 痛みを感じない。

 矢は私めがけて織田の追手の者達に放たれた。

 私は顔面に矢を突きつけられ絶命してしまったのか?でも私は意識はある。

 その目を恐る恐る開くと、私に矢が刺さったのではなく織田の肩に矢が刺さっていた。

 連中が間違えて織田に打ったのかと思ったが、私はしっかりとスローモーションのように飛んできた矢が私をめがけていた事を。

 私達の命を狙った織田が私を庇う何て状況が理解できなかった。

 明さんもこの状況に疑いのまなざしを向けている。

「君たちは逃げるんだ」

 織田は私達にそう大声で言いかける。すると追手の連中が、

「さっきからてめえが邪魔をしていたのかよ」

「邪魔をしていたって」

 連中の言葉を汲み取ってみると、織田は敵じゃなく味方だった?

 じゃあ織田じゃなかったらいったい誰が私たちにこんな事をするんだろう。

 それにどうして織田が私達を助けようとしたのか?

 そんな事を考えている余裕なんてない。

 私たちが出てきた地下の入り口から、どういう因果でそうなったのか分からないが私達を狙う追手がやって来た。

 数を合わせて五人はいる。それに奴らは武器を持っていて、いくら明さん、それに私達の味方となったのか分からないが圧倒的な強さを持つ織田でさえ連中には太刀打ちできない。

 織田の言う通り、逃げようと思ったが、それはいけないような気がした。

 明さんの目を見ると、明さんもそう感じている様子だった。

 でも私たちにどうすることも出来ない。そんな私達が困惑していると織田が、

「何をもたもたしているんだ。俺の事は構わずに行け」

 それでも私はおとり何て出来ないと思ったが、明さんは意を決したかのように、

「ユウリ」

 明さんの手を取り、私は明さんに続く。

 だが私達を狙う連中は地下から出てきた連中だけじゃなく、私たちが逃げる先にも二人いた。

「逃げられるとでも思っているのかよ」

「お前らはここでおしまいだよ」

 とサバイバルナイフを構えて私達に向ける。

 時間稼ぎと言いたいところだが、もはや逃げ道をふさいだ二人は本気で私達を殺すつもりで、そのナイフを猪突猛進に向かって走ってくる。

 私と明さんは互いに庇いあうかのように抱き合った。そして私はその瞳を閉じて、「愛梨」と人知れず呟いていた。

 思えばこれまでいくつもの奇跡みたいなもので私たちは生き延びて来た。

 でももう奇跡は起きないだろう。

 何で私たちがこんな連中に命を狙わなくてはいけないのか、私は自分の運命を呪いたかった。もしかしたら明さんも同じかもしれない。

 私たちはただ日々バンドの練習をして夢を追いかけているだけなのに。

 でも良いか。私は明さんにあんな事をしてしまった。今はこうしてお互いの身を案じて抱き合っているが本当は顔向け何て出来ないほど、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 本当に「生きていてすいません」と私たちのバンド名の運命の神様に由来したフォルトゥーナに懺悔したい。

「ユウリ。明」

 何だろう?聞き間違いか?愛梨の声が私の聴覚がとらえた。

 その目を開けると、目の前に私達の逃げ道をふさいだ二人が愛梨の吸血鬼である人並み外れた力で打ちのめされていた。

 その光景を見て喜びの気持ちに心が染まった。

 でもそれも束の間で、愛梨が来たらもう私たちは助かったも当然。

 それはおかしな事かもしれないが、このまま死なせてくれればよかったのにと我ながら不謹慎な事を思ってしまう。


 私達を狙った連中は愛梨の力によって一掃され私たちは助かった。

 そして警察が駆けつけ、連中は警察に逮捕された。

 連中の一人の男が逮捕間際に明さんに向かって叫んでいた。

「フォルトゥーナの明、どうして俺の愛に答えてくれないんだ。俺はこんなにもお前の事を愛しているのに・・・」

 と何か支離滅裂な事を言って送検され、覆面のその素顔は人を顔や姿で判断するのはよくないと思うが、何か見るに堪えない自己中心的な顔立ちだった。

 まあとにかく助かったのは良かったが、私は明さんに愛梨にエリちゃんにどう顔向けしていいのか分からないほど困惑していた。

 そして日が沈みかけたころ、明さんは織田に対して聞きたいことがたくさんあるような感じで織田もそんな明さんに話があると言った感じだ。

「どういう風の吹き回しだ」

 明さんは織田に対して、その真摯な瞳を突きつけ言う。エリちゃんもその真意を知りたいと織田にその瞳を向けている。

 織田は何から話していいのか分からないと言ったような顔で視線を俯かせている。

 正直言ってそんな事は私にとってどうでもいいことだと思っていた。

 何だか分からないけど、後でみんなに詰られるのが怖いと思っている。

 それはそれで、織田は、何か話そうとしていたが、気が変わったような感じで、

「お前らに話すことは何もない」

 と言って私達から背を向け立ち去ろうとした所、愛梨が、手袋を外して織田の手をつかんだ。

「メモリーブラッド」

 と呟き愛梨がどういう訳か織田の真意を探ろうとしている。

「何だいったい」

 織田はそんな愛梨に手を振り払った。そして愛梨は言う。

「誤解されたままで良いの?あなたの明に対する本当の気持ちを教えてあげなよ。あなたは黙っていればそれでいいかもしれないけど、明とエリは納得していない。だから明とエリにあなたの口からその真実を教えてあげなよ」

 織田はその目を閉じて、再び開き、その瞳には改めて思うが何の穢れも感じないものだった。

 織田は明さんに対して何か訳があったんだ。

 その訳とは、私達四人は聞き耳をそろえて聞くことにする。

 織田はどこか夕焼けの海の向こうの遠くに視線を送り言う。


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