表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

ユウリの涙

警察署に到着して、やっぱり不安に思ったが、覚悟を決めるしかなかった。

 みんなも同じ気持ちかもしれない。

 それとこの織田という警察官と明さんとエリちゃんの間に何の因果関係があるのか気にもなった。

 取り調べに応じる時、私たちは一人一人別々の部屋に案内された。

 みんなと一緒にいた時は不安でも安心できたが、こうして一人にされると何か不安になってしまう。

 取り調べ室で一人待たされる。

 いったい何をされるんだろうとやはり不安は募ってくる。

 何て色々と不安に思っていると、ドアが開いて、先ほどの織田と言う私服警官が中に入ってきた。

「お待たせ」

「私たちをどうするの?」

「どうするって、素直に事情を話してくれたらすぐに返してあげるよ」

 織田と言う男は紳士な男性だが、先ほどの明さんが織田に対して不快な表情をしていた事がフラッシュバックして騙されてはいけないと自分に言い聞かせる。

「そんな顔しないでよ。別に君をとって食べようって訳じゃないよ」

 不安な表情が出てしまったみたいだ。それよりも私は。

「みんなはどうなるの?」

「とりあえず、素直に応じてくれれば、ちゃんと返してあげられるから」

 それを聞いてホッとした。

「君は羽鳥さんの友達でしょ」

「そうですけど」

「羽鳥さんは本当に友達思いでいい子だよ。これからも友達でいてあげてね」

 何て爽やかな笑顔にほっこりとしてしまう。

 でも先ほどの明さんの不快な顔が思い浮かび、軽く人を信じてはいけないと肝に銘じる。

 きっとこの織田という私服警官と明さんとエリちゃんは何かあったと私は見ている。

 それで以前四人乗りしていた時、それを追いかけて来たパトカーから逃げた。

 人に迷惑をかけてはいけない事は私が明さんに言わずとも分かるはずだ。それでも警察が憎い明さん。

 そして事情徴収は終わって、みんなとはち合わせた。

 明さんとエリちゃんの顔を見ると、何か悔しそうな顔をして黙っていた。

 そんな二人にどんな声をかければ良いのか分からず、このような時は黙っていた方がいいだろうとそっとしておいた。

 だから愛梨に、

「愛梨」

「ああユウリ」

「愛梨は大丈夫なの?」

「何が?」

「だって愛梨家族とか・・・」

 それ以上は言えず、愛梨の目を見てどうだったか確認する。

「大丈夫だよ。私はユウリの妹って事にしておいたから」

「はあ?」

「その確認のために、これから聡美姉ちゃんが来るって行ってたよ」

 それを聞いた瞬間、憤りの臨海点を越えて、

「バカじゃないの愛梨」

 と私が大声で言うと。

「君たち、ここをどこだと思っているの?」

 署を巡回している警察官に怒鳴られてしまった。

 そうだ。ここは警察署だ。こんなところでもめ事を起こしたら、また面倒な事になってしまう。

 それよりも聡美お姉ちゃんに警察でお世話になって居るなんて知られたら、怒られるだろうし、心配をかけてしまう。

 だから私は叫ぶ声を押し殺して、

「愛梨」

 愛梨の首を思い切り閉めあげる。

「落ち着けユウリ」

 メモリーブラッドで人の気持ちが分かって、大人しくなったと思ったら、人を巻き込むところが変わっていないのか?

 そういうところ、本当に死んでも治らない大バカな奴だったとは。だったら今ここで愛梨を殺してやる。

「何をやっているんだ君たち」

 聞こえて来た声を聞き分けると穏やかな雰囲気の織田だった。

 私は愛梨を離して、

「何でもありません」

 私に首を絞められてせき込む愛梨。

「君たちはまだ未成年だ。だからみんなの家族には連絡しておいたからね」

 織田。

 それを聞いてどうやら私のお姉ちゃんだけでなく、明さんとエリちゃんの家族にも連絡が入ったみたいで、聡美お姉ちゃんが来るのは愛梨のせいじゃないことに、愛梨は、

「ユウリだけの家族だけじゃないだろ」

「愛梨の言い方が悪いから誤解しちゃったんだよ」

 何てみっともなくも私は逆ギレ。

 そこで思うがこんなやりとり、何か久しぶりだと感慨に耽ってしまう。

 ってそれどころじゃない。聡美お姉ちゃんにどんな顔をすれば良いのか私は困惑する。

 すると聡美お姉ちゃんは警察署に来た。

「ユウリと愛梨の姉ですが」

 そこで聡美お姉ちゃんと目が合って私は本当に申し訳がなく目をそらしてしまった。

 だったら、明さんの共犯者だなんて、言うんじゃなかった何て一瞬思ったが、そんな事を考える自分が嫌になり、思い切り目を瞑って打ち消した。

「ユウリ、愛梨ちゃん」

 鋭い眼光を向けながら私と愛梨の元へと歩み寄ってくる。

 そんな聡美お姉ちゃんに私は何を言えば良いのか分からず、とりあえず怒られる事は覚悟をする。

 だが聡美お姉ちゃんは、にっこりと笑って、

「ユウリ、愛梨ちゃん。あまり人に心配する事はしちゃダメだよ」

 と言うと明さんが、

「申し訳ありません」

 と深々と頭を下げた。

「明さん?」

 どうして謝るのと言いたげに首をちょこんと傾ける仕草をする。

「わたしがユウリさんと愛梨さんを巻き込んだんです」

 明さんは外見からしてヤンキーに見えるが、根はまじめですごく熱い人だ。

 そんな明さんに対して、聡美お姉ちゃんはにこっと笑って、

「あなたの事はユウリから聞いているよ。まあ、今回の件は、ちょっとやりすぎたかもしれないけど、私は明さんの事を信じているよ。だからこれからもユウリと愛梨ちゃんの事をよろしくね」

 でも明さんは本当に申し訳なさそうに、目をキュッとつむって黙ってしまった。

 きっとそんな私たちを巻き込んだ自分が許せないと思っている。

 そんな律儀な明さんは本当に素敵だ。

 そしてエリちゃんの保護者は以前詐欺にあいそうになり、エリちゃんが助けようとして愛梨が助けたと思われる知的障害を負ったお姉ちゃんが来た。

「エリ、大丈夫なの?」

 エリちゃんはぶっきらぼうながらもその首を縦に振り、大丈夫だと言わんばかりに訴える。

 あれからエリちゃんとそのお姉ちゃんは和解したらしく、少しずつだがその色々な因果が合って遠くなってしまったお互いの距離を少しずつ縮めているみたいだ。

 そんな光景を見て何かほっこりとしてしまう。

 そこである男が明さんを目にした瞬間、すごい形相をして走って明さんの方に向かって、思い切り、その拳を丸めて、明さんの頬を殴った。

 その光景を目の当たりにした瞬間、鬼を見るよりも恐ろしい気持ちにかられ、胸が痛んだ。

 でもそんな臆病な気持ちを振り切って、

「やめてください」

 と言って、明さんの前に立ちふさがった。続いてエリちゃんも愛梨も。

 男はエリちゃんを以前から知っているように見つめ、そして私と愛梨を見て、

「またろくでもない奴を取り巻きにしたか。この恥知らずが」

 明さんの方を見ると、その鋭い眼光をろくでもない親に向けている。

「何だその目は?」

「・・・」

 明さんはひるむ事もなくその眼孔を怒り狂った親に向ける。

「ふん」

 と吐き捨て、織田の方に歩み寄り、

「申し訳ない」

 と言って懐から封筒を取り出して、

「十万はある、バカが迷惑をかけてすまなかった」

「受け取れません」

 と織田はきっぱりと断る。

 明さんの親は、封筒を懐にしまい、明さんを見て、

「恥知らずが」

 と言って去っていった。

 殴られて尻餅をついている明さんの元へと歩み寄り、私とエリちゃんは、

「大丈夫ですか明さん」「明さん」

 私はその手を差し伸べる。

「わりぃ」

 と言って私の手を取って私は明さんを立ち上がらせた。

 そこでエリちゃんが、

「織田てめぇ、わざわざどうして親に何か連絡したんだよ」

 織田に殴りかかろうとしたところ、

「エリ」

 と明さんはやめろと言わんばかりに一喝する。

 エリちゃんは悔しそうに「くっ」と吐き捨て、その拳を握り、奥歯をかみしめてうつむく。

 織田は、

「羽鳥さん。お父さんは君の事を本気で心配している。その事を考えてあげたらどうなのかな?」

 そこで私が口を挟み、

「心配している?何を根拠にそんな事を言うの?」

 と悲痛の声で訴える。

「確かにあの件以来、羽鳥さんの事を親は呆れているかもしれない。でも羽鳥さん、君は親に振り向いて貰おうと努力をしているのかい?」

 と織田は必死に訴える。『あの件以来』と言う言葉が気になったが、確かに織田の言っている事は正論だ。でも明さんは悔しそうにその瞳を閉じて、歯を食いしばっている。

 そして織田は、

「その事をよく考えるんだ」

 と言って織田は私達の前から去っていった。

 せっかく今日は私たちの初ライブを成功させた喜ばしい日なのに、この一件で気分は一転する。

 その後私の家でみんなで祝いのパーティーを明さんは企画したが、もはやその気分になれないのはもう言うまでもない。



 部屋の中で愛梨と二人きり、時計を見ると八時を示している。

 机に座って先ほど明さんが親に罵倒されながら、その頬を思い切り殴りつけた事を想像すると、全身が凍り付くような程の恐怖に苛む。

 明さんがかわいそう。

 明さんの家庭の事情は聞いたことはなかったし、実際にその場面を目の当たりにして、私に何か力になれないかと本気で思う。

 私は明さんの事が好き。だから明さんには幸せになって貰いたい気持ちでありたい。

 それは自分のエゴではなく自他的な事で。

 愛梨の方を見ると、家の家事を終えて、いつものように窓から遠くの景色を眺めている。

 愛梨は以前メモリーブラッドで明さんの心を読んだ事があるはず。だから明さんの事情を知っているはずだ。

 でも聞いてはいけないと思ったが、私は明さんの力になりたい。だから、

「愛梨」

「どうしたユウリ」

「明さんの事情を知っているんでしょ」

 すると愛梨はその瞳を閉じて、

「ああ」

 と神妙に頷く。

「だったら愛梨、教えてよ」

 だが愛梨はその首を左右に振って、断られてしまった。だから私は、

「どうしてだよ愛梨、これは明さんの問題だからか?それとも明さんのプライベートを語るのは失礼だからか?もしかして愛梨、また愛梨一人で明さんを助けようと考えているのか?」

「まあ、明の問題だし、明のプライベートを語るのは良くない。明は以前エリの事に対して『すべて一人で抱え込むな』って言っていたけど、あいつも人の事を言えないな」

「だったら愛梨、教えてよ。私は明さんとエリちゃんの力になりたい」

「それはダメだ」

「どうして?」

「あいつ等の為にならないし、あまりこの力で人のプライベートを語りたくない」

 だったら、私の愛梨の心だけ読めるメモリーブラッドで探ろうとしたがやめておいた。すると愛梨は、

「そんな顔するなよ。私も立ち会うから明日、あいつ等から事情を聞こう。もしあいつ等がまた自分達で抱え込もうと嘘をついたら、ユウリの手で私の心を読んでも良い」

「愛梨」

 愛梨の優しさを感じて、その名を呟く。

「それにあいつ等、私のこのメモリーブラッドの事に気づきかけているし友達だから、多分嘘はつかないだろう」

 そうか愛梨も気づいていたんだ。

 それはともかく明日事情を聞いて力になれるなら、いや力になりたい。大好きな明さんも友達のエリちゃんも幸せになって欲しいから。

 それと愛梨は相変わらず、メモリーブラッドが発動されないように、黒い皮の手袋をはめている。


 次の日の午後、今日もいつも通り、明さんとエリちゃんは練習にやってくる。

 いざエリちゃんと明さんに事情を聞こうと思うと、何か緊張する。

 でも私がこんなんじゃダメだ。

 エリちゃんと明さんには幸せになってもらいたい。

 そして二人はいつも通り、原付で二人のりしてやってきた。

 昨日の件何か聞きづらいが、事情を聞いて二人の力になりたいと思って、外に駆けつけ、二人の元へと行く。

「明さんエリちゃん。こんにちは」

「おうユウリ」

 明さんはニカッと笑って、大きな袋を取り出して、

「昨日の初ライブ成功のパーティーやってなかったな。だから今日はパァーとやろうぜ」

「明さん」

 そんな明さんにきょとんとしてしまう。


 その後今日は練習を少しだけやって、家でパーティーと言う事になった。

 明さんとエリちゃんは昨日の事、もう何も気にしていないと言わんばかりに、パーティーで盛り上がっている。

 そんな二人を見て、あまり過去の事でくよくよしないと言う面では二人らしいというか、元気ならそれで良いんだけど、私は何か昨日の件で腑に落ちないし、すっきりしない。

 愛梨は愛梨で、そんな二人に合わせて、盛り上がり、今明さんと対戦ゲームをしている。

 二人が昨日の事でくよくよと考えずに元気なら良いんじゃないかと思ったが、やはり私の気持ちはすっきりしない。

 そのすっきりしない気持ちを冷静になって考えると、ただ単に昨日の事を二人は気にしていないように見えるが私が気にしているんだ。

 それに心なしか?何か二人は無理してパーティーを盛り上げている感じがする。

 だから私はパーティーに盛り上がっているところ勇気を振り絞って二人に、

「エリちゃん。明さん」

 エリちゃんと明さんは私に注目する。愛梨はその目を閉じて黙っている。

「明さんは以前、みんなに言ったよね。悩み事や問題事を一人で抱え込まずに、打ち明けるのも大事だって」

 真摯な瞳を突きつけ私は明さんとエリちゃんに言う。だが明さんは、

「別にわたしは昨日の事で気にしていないし、抱え込むような事じゃないよ」

 何かやれやれと言った感じで、明さんは言う。

 確かに明さんが抱え込まずに黙って問題がなければそれでいいのかもしれない。だから話はこれで終わりだ。でも私は、

「明さんが気にしなくても私が気にする」

 そこでエリちゃんが、

「ユウリ、お前の気持ちは嬉しいけど、こればっかりはもうどうしようもないし、話したって過去は変えられないんだよ」

「確かに明さんとエリちゃんの過去の事は変えられない。でも私は知りたい。そして私は力になりたい」

「お前に何が出来るんだよ」

 エリちゃんの言う通りで私は返す言葉が見つからず、自分の無力さに嫌気がさしそうになったが、とにかく私は、

「分かっているよ。私が無力な事ぐらいは、でも私は知りたい。力になれないかもしれないけど、それでも力になりたい」

 私の心の底からの思いを二人に訴える。

 エリちゃんは明さんを見て『どうします』とアイコンタクトをとっているような感じだ。

 そして明さんは、

「聞きたければ愛梨から聞け。愛梨、お前は蘇って相手の心を読む力を得ていたんだろ。それでわたしたちの事を探ったんだろ」

「・・・」

 黙り込む愛梨。

 やっぱり愛梨の言う通り、明さんは気づいていたみたいだ。

「愛梨、わたしはお前に心を読まれたからって、恨んだりはしていない。お前はいたずらに人の気持ちを弄ぶ奴じゃないからな」

 せっかくのパーティーなのにしらけてしまって明さんは、

「わりぃ、すっかり空気が悪くなったな。今日のところはこれでお開きって事で」

 明さんに続いてエリちゃんも部屋から出て行こうとしたところ、愛梨が、

「明、話してあげなよ」

「あ?」

「聞こえなかったか?お前のその口からユウリに語ってやれよ」

 二人の間に不穏な空気が漂い、私は息を飲む。

 すると明さんは憤って愛梨の胸元を掴む。

「てめえ」

 だが愛梨は冷静に、

「お前はエリに言ったよな。自分一人で抱え込むなって。それは明、自分自身に言い聞かせるべきなんじゃないか?仲間を巻き込みたくない。その気持ちは大いに結構だが、お前の気持ちを確かめたけど、お前は私たちを侮っている。それは些か傲慢なんじゃないか?」

 そこで私が、『喧嘩はやめて』と言いたかったが、それよりも早く明さんは熱くなり、愛梨にその拳を突きつけようとして、私は見ていられず、目をそらした。

 その頬に拳が突きつけられた音がして、私は泣きたかったが、そんな泣き虫な自分じゃ、エリちゃんと明さんの力になれないと思って、涙をこらえて恐る恐るその閉じていた瞳を開けると、明さんが倒れていた。

 私は明さんが心配で明さんのところへ駆けつけ、

「明さん」

「くっ」

 と悔しそうに吐き捨てる明さん。私は愛梨に、

「愛梨、いくら何でもやりすぎだよ。そうまでして私は・・・・」『明さんの事情を聞きたくない』と勢いで言ってしまおうと思ったが、それは自分に嘘をついている事になってしまうので言えなかった。

 そんな私を察して愛梨は、

「ユウリ聞きたいだろ。メモリーブラッドで本心を探るんじゃなくて。だから明、エリ、お前等の口から聞かせてやれよ。嘘偽りなくな」

 私も愛梨の意見に同感だ。でも、

「喧嘩は良くないよ」

 と愛梨に私のひたむきな思いを込め見つめる。

「ユウリ、これは喧嘩じゃない。私は明が私たちを侮っていた事への戒めみたいなものだよ」

「わたしは侮ってなんかいないよ」

「いいや侮っている。私たちを巻き込みたくないとか、自分一人で何とかしようとする事時点で、お前は私達の事を侮っている」

「くっ」

 悔しそうに唇をかみしめ黙り込む明さん。それで愛梨は、

「明、お前の口からユウリに話してやれよ。ユウリは力はないけど、きっとお前達の力になってくれるよ。それに私もユウリもお前が思っているほどの弱い人間じゃない」

 そこで私は、

「話したくないなら、それで良いよ。でも明さんもエリちゃんも私と愛梨に心配をさせるような事はやめて」

 と私は切実な思いでそう言って、あまりにも切実すぎてこらえきれず涙が出てしまった。

 そうだ。私や愛梨に心配させて欲しくない。昨日の一件でもしかしたら、明さんとエリちゃんは永遠の闇に葬られてしまうんじゃないかと考えてしまった。

 もしかしたらまた私の被害妄想なのかもしれないが、それでも良い。

 もうあんな悲しい思いはしたくない。

 涙が止まらず自分でも嫌になるくらいに、その場で涙を拭いながら立ち尽くした。

 みんな私の事を見ている。こんな涙、みんなに見られたくない。特に明さんに見られて、弱虫なんて思われたくない。

 これまで弱虫な自分を決別して、バンドを引っ張って来たつもりだが、私は何も変わっていない。

 本当に涙が止まらない。

 だから私がその場から立ち去ろうとした時、暖かい抱擁に包まれた。

 この感触、すぐに明さんだと言う事が分かった。

「悪かったよユウリ、確かに愛梨の言う通り、わたしはお前達を侮っていたのかもしれない。だから話すよ。それでもし良ければ、力を貸してくれ」

 明さんのこの二度目の抱擁で分かったが、明さんは私の事を弱虫だなんて思っていない。

 弱虫だなんて思われているそのことが私の被害妄想だ。

 もし弱虫だなんて思っていたら、こんな暖かな抱擁で本音を言ったりしない。

 でもどうしてだろう。明さんの抱擁で私自身は弱虫なんかじゃないと分かったが、涙腺が故障したかのように涙が止めどなく溢れてくる。

 それは明さんの優しさに感極まっていたからだな。

 でも出来れば、涙は誰にも見せたくないのが本音だ。

 だからこれからはもう涙なんて見せない・・・と言う約束は出来るかどうか不安だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ