織田
練習をしているある日、私は何か不服に思っていた事をみんなに告げた。
私たちは毎日練習しているが、目標が定まっていない。
だから小さな舞台でも良いから、ステージに立って演奏しようと提案した。
その私の不服に思っていた気持ちはみんなも感じていたみたいで、私の意見に乗ってくれた。
もう私たちは練習だけの毎日では満足行かなくなってしまった。
でも死んで蘇った愛梨を公に出すのは後ろめたいが、とにかく私たちは前に進まなくてはいけないと思ったのだ。
私がスマホのネットで調べて、野外のステージをする事に決まった。
その野外の小さなステージはビックアーティストになるための登竜門と言われているみたいで私達にとってうってつけの舞台だ。
場所はここから自転車で30分くらいのアウトレッド商品を扱う店が建ち並ぶ、とある町だ。
視察と言う事で私たちは、明さんが運転する原付で四人乗りしながら向かう。
明さんが運転する原付で四人乗りするのは何回目か?怖いが何かスリルがあって楽しい。
町に近づいてきた時、私たちは注目の的になってしまう。
いつも四人乗りは人通りの少ない道路でやっていたので、こうして注目されると恥ずかしいし、不良集団だと誤解されるのはちょっと嫌かも。
「明さん。私達注目されていますよ」
「大丈夫だって気にすんな」
明さんに大丈夫だと言われて、やっぱり安心する。
やっぱりあれからも明さんに対する気持ちは変わりはしない。
何て思っていると、後ろからパトカーが走ってきて、外線で、
『君たち何をしているんだ。左に寄って止まりなさい』
と警察の人だ。
やばい。だからここは素直に従った方が良いと思って、
「明さん」
私が『言う通りにしよう』と言う思いを込めて言うと明さんは、
「任せろ」
と、どうやら私の思いは違う風にとられてしまったみたいだ。
明さんはスピードを出して、パトカーから逃げきろうとする。
「ちょっと明さん」
『やめて』と言わんばかりにそういう。でも明さんにはまた違う風にとられて、
「だから任せろって言っているだろ。わたしはマッポがこの世で一番嫌いなんだよ」
何かその事で事情がありそうだが、今はそんな事を考えている余裕もなく、マッポ曰くお巡りさんから逃げきろうとする明さん。
「やっちゃいましょうよ明さん」
とエリちゃんがとんでもない事を言っている。
「任せろ」
パトカーに追いかけられ、猛スピードで逃げきろうとする明さん。
私は怖くて明さんの後ろからしがみついていた。
パトカーはサイレンを鳴らしながら、
『君達、こんな事をしてただですむと思っているのかね』
その問いに明さんは、
「上等だよ」
何か明らかに明さんは不良みたいな事を言っているが、そんな明さんもかっこ良く思ってしまう。
それよりも私は怖い。けど、明さんにしがみついていれば心配はいらないと思っている。
でも本当にこんな事をしても良いのだろうかと、自問自答してしまう。
交差点に差し掛かり、赤にも関わらずつききって、パトカーも同じようにサイレンを鳴らしながら、私たちを追いかけて来たが、バイクが横切って来てパトカーはそれをよけようとして、バランスを崩して、動けない状態になってしまった。
そこでエリちゃんが、
「ざまあみろ」
と言って中指を突き上げ、もはや私はついていけないし、さすがに罪悪感を抱いてしまった。
目的地に到着したのは良いが、あんな事をしてさすがにこれは人としてやってはいけない事だと思って、私はエリちゃんと、そのバイクを運転した明さんに言う。
「何をしているんですか明さん。それにエリちゃんもあんな態度をとって。もう少しで大惨事になっていたかも知れなかったんですよ」
「わりぃ」「うちも悪かったよ」
何て反省しているが、
「謝ってすむ問題じゃなかったかもしれないじゃないですか」
と私ははっきりと言う。大切な友達だから、でも明さんは、
「マッポ見るとな。ついな」
「ついって・・・」
私が続けようとしたところ愛梨が私の肩に手を添え、振り向くと、もういいと言わんばかりに首を左右に振った。
「何が良いのよ愛梨」
そこでハッと気がついて、もしかして愛梨、以前メモリーブラッドで明さんの心を読んで何か警察に関して暗い過去か何かある事を知っているんじゃないかと私の直感でそのように思った。
さっき明さんは言っていた。
マッポはこの世で一番嫌いだと。
その事情はともかく、
「とにかく今後いっさいあんな事はしないでくださいよ」
「分かったよ」
今一反省していないような明さん。
そんな明さんにもっと言ってやろうと思ったが、何か警察に関して深刻な事情があるんじゃないかと思って、それ以上は言えなかった。
もう少しで惨事になっていたのに、平然としている何て明さんじゃない。でもその警察に何か深刻な事情があるから、あんなひどい事でも平然として言ってしまったのかもしれない。
もうライブ何て気分でなかったが、とにかく私達は、ビックアーティストの登竜門と言われているアウトレットショップが並ぶ店の一角の舞台から演奏する音楽が流れているのに注目して舞台を見上げる。
見ていて様々なアマチュアアーティストが演奏していた。
お客さんも結構集まってる。
見ていて、大言壮語かもしれないが、私たちの演奏で今演奏している人たちよりももっとお客さんを魅了できるんじゃないかと思えてくる。
数々のアマチュアのアーティスト達が舞台に立ち、歌を披露する。
ノリノリのもあれば、面白くないものもあるし、とにかく私たちも舞台に立っていつか大勢のお客さんの前でと胸を膨らませたいところだが、先ほどの明さんの言動に何か失望してしまう自分がいた。
してしまった事は仕方がない。でも明さんは反省の色が全く見えていない感じだったので、何か・・・。
明さんに警察に対して何か深刻な事情があるかは知らないが、あんな事をしてはいけない。
でも私も共犯者だが、さっきのパトカーに悪い事をしたと罪悪感でいっぱいだ。
そんな感じでライブを見ていると明さんが私の肩に手を添えて、
「ちょっと」
と言ってどこか人目のつかないところにへと誘導した。
いったい何なのだろう?とついて行くと、明さんは、
「さっきは悪かったよ。改めてユウリに謝っておくよ」
「明さん」
ふと呟く。
「さっきからユウリ、わたしに対して、何か不快感を抱いていると思って、お前にそんな風に思われると何か」
照れくさそうに謝る明さん。でも私は、
「私に謝ったって仕方がないでしょ。もうやってしまった事は仕方がないけど、とにかく二度とあんな事をしないでよ。私も四人乗りに便乗したのも悪いけど、やっぱりあんな事しちゃいけないよ」
「わりぃ。つーか警察を見るとちょっとな」
私はやれやれと目を閉じて息をつき、そして言う。
「どんな事情があるか知らないけど、あんな人に迷惑をかけるような事しちゃいけないよ」
「お前の言う通りだな。本当にわりぃ」
明さんはその視線を泳がせて、今度は本気で反省しているようで、私は先ほど明さんに失望したと言ったが前言撤回だ。明さんはやっぱり素敵な人だと言う事が改めて分かった。
私と明さんの間に何か緊迫した空気が漂っていて、これからライブを鑑賞する空気ではなかったが、私は思い切って笑って。
「明さん。ライブ楽しもうよ」
と言って明さんの手を引いて私はライブ会場に走り出した。
その後ライブを堪能した。
帰り、私たちはライブを満喫して、さすがに帰りは四人のりはしないだろうと思って、明さんは分かったみたいだが、エリちゃんが、
「四人乗りで帰らないんですか明さん」
「帰りは歩いて帰ろう」
「何ですか?明さん。マッポに臆したんですか?マッポが怖くては世の中渡っていけないですよ」
「エリ、とにかくあの事でマッポが許せない気持ちはわたしも充分分かるが、やっぱり人に迷惑をかけてはいけないよ」
「明さん」
きょとんとするエリちゃん。その表情からエリちゃんは明さんの言葉が心に通じたみたいだ。その証拠にエリちゃんは、
「すいません明さん」
「謝らなくても良いよ。元はと言えばわたしが悪いんだから」
私たちの中に緊迫した空気が漂っていたので私は思い切って、
「とにかく帰って、また明日、練習しようよ。よーし、ここはユウリちゃんがみんなにジュースおごっちゃう」
するとみんな気分を次第に取り戻してくれた。
愛梨の方をちらりと見ると、そんな私を見て、うれしそうに笑っていた。
思えばこんなに辛気くさい空気に包まれたとき、いつも愛梨が明るく振る舞っていたっけ。
愛梨は本当に変わってしまった。
それはメモリーブラッドや色々とあると思う。
ちょっと前、愛梨とはお互いの気持ちを打ち明けてすっきりさせたが、以前の愛梨に戻ることはなく、何かいつも内気な感じで居る。
まあ人は変わる時があるだろうから、それはそれで仕方がないが、私は愛梨に対する思いは変わらない。
たまにこうも考える時がある。
愛梨は人間ではあるけど、普通の人間ではない。
そんな自分にどう感じているのだろうかと。
そう考えると愛梨が何かかわいそうで、悲しくもなるし怖くもなる。
愛梨とはお互いの気持ちを打ち明けて解決したというのに、次から次へと悩みがやってくる。そんな自分に嫌気がさすがそれはそれで仕方がないことだ。
だからちょっと怖いけど、その事に対して愛梨と後で話し合う。
そういった悩み事や心配事をため込むといけないから。
夏休みは中盤に入り、ビックアーティストの登竜門であるアウトレッドショップが建ち並ぶ店の一角の小さなステージであるアウェイスタジアムで私たちはライブに控える。
出番は次のアーティストの次だ。
私は緊張していて、それは明さんもエリちゃんでもあり、でも愛梨は不思議と緊張していないような表情で舞台を見据えている。
愛梨は性格は内気になったが、やはり以前の愛梨である大胆不敵なところは変わっていないかもしれない。
そんな愛梨を見ていると、何か緊張の糸がぷつりと切れた感じがして、バンドのリーダー的存在になった私は、
「ねえ、私たちはこれまで色々と様々な練習もこなしてきた。だから私も緊張しているけど、とにかくそんな緊張を吹き飛ばすぐらいの気持ちで全力で行こう」
拳を降りあげ、みんなにもそして私自身にも鼓舞してみんなに言い聞かせた。
すると明さんエリちゃん愛梨は自信に満ちた不敵な笑みを浮かべて、親指を突き上げた。
その姿を見て私も何か燃えてきて、後は全力を尽くすだけだと思えてくる。
そして私達の出番がやってきた。
司会の人が、
「さあ、次は無名のバンドで、まだ名前が決まっておらず、このステージが初めてのライブになるみたいです。
さあ、歌ってもらいましょう」
私たちはそれぞれスタンバって、ステージにたった。
ステージから、まばらだが何十人かの観客を見て、中学時代愛梨と文化祭で体育館のステージに立った事がフラッシュバックした。
あの時、緊張はしたものの盛り上がって、演奏した私と愛梨とその観客が一つになって、言葉でうまく説明できないけど、テンションマックスって感じでノリノリだった。
気がつけばエリちゃんの合図で、演奏していて、観客と私達は一体となっていた。
私たちは一つになり、ステージに立つ前は不安でいっぱいだったけど、日々の練習の成果も合ったし、ネット何かで色々なバンドを見てどんな時に盛り上がるとか、それに色々と話し合った。
私達はいつか大勢の観客の前で演奏できることを夢見て、がんばっている。
そして私たちの演奏に大言壮語だが、世界中の人に響いて、明日につながる勇気に変われば良いと思っている。
軽快な音に乗せる言霊は、その胸に伝わりやすいことを私は様々な音楽を聴いて知っている。
だから私は愛梨に誘われて、バンドを始めて、それに続くように、エリちゃん、明さんが加わった。
思えばきっかけは愛梨の熱い思いから始まり、今に至る。
音楽は私から言えば、心の安定剤だと思っている。
バンドでいつか大勢の観客を集めて、有名になりたいとか、大金持ちになりたいと言う気持ちもあるが、私たちはそれだけじゃない。
それだけでは心に伝えようとする軽快な演奏は出来ないと私たちから言わせればそうだと思う。
そして道行く人がその足を止め私たちの演奏に注目して、百人くらいの観客の人が集まっていた。
本当にテンションマックスって感じだ。
演奏の土台となるエリちゃんのドラム裁きはお手のもの。熱いビートを刻む明さん。自分で言うのも何だが私のキーボードで美しい音色を奏でる私こと渡辺ユウリ。
そして私たちの中心人物とも言えるボーカルアンドギターの愛梨。愛梨は観客のハートを掴んでいるようなパフォーマンスだ。
演奏が終わり、私たちは控え室で、喜びで分かち合っていた。
「何かすげー気持ちが良いんだけど」
興奮がやりやまない感じの明さんは高らかに言う。
「うちらの練習が実ったって感じだね。うちらもしかしてプロ行けるんじゃないかな?」
「もう感無量だね」
私が言う。
愛梨は唇を綻ばせて喜んでいる感じだ。
その後アンケートの結果では、数々のアーティストの中から私たちのバンドが断トツ一位を飾った。
同じ舞台に立ったユニットもしくはバンド、アイドルの人たちが私たちに敬意を表すかのように、『すごかったよ』『最高だね』『私たちも負けていられない』とか言われて、何か照れてしまった。
心なしか?何か大勢のお客さんの前で歌う日が近く感じる。
夕暮れになり、
「荷物はこれぐらいかな?」
実を言うと私たちは車の手段がないので楽器を手分けして歩いて持ってきたのだ。
特にドラムを運ぶのが大変だった。
そんな大変さも今日最高のライブをして、愛梨曰くテンションマックスって感じだったので苦にはならない。
大荷物にも関わらず、明さんは子供みたいに、
「マジ最高」
と飛び跳ねる。その気持ちは分かる。私だって今、摩天楼から飛び降りて空でも飛べそうな程の感じだ。続けて明さんは、
「これから飲まない?」
飲むと聞いて、私は、
「お酒?」
「わたし、酒は飲んだことないけど、何か今飲んでみたい」
それに便乗するようにエリちゃんは、
「いいすっね」
だから私は、
「二人とも私たちは未成年でしょ」
「堅いこと言うなよ。愛梨はどうする?多数決で決めようぜ」
明さんがとんでもない提案をする。だから私は、
「お酒はダメだよ」
すると愛梨は、
「私は別に良いけどな」
最近内気な性格に変わったと思ったら、やっぱり中身は変わっておらず、私はそんなみんなに憤り。
「とにかくお酒は私が許さないから。以前、明さん人に迷惑かけないって言ったよね」
すると反省の表情でその視線を泳がせる。そんな明さんに追い込むように、威圧的な視線を向ける。そして明さんは、
「分かったよ。酒はやめるよ。じゃあ今日はユウリんちでジュースで乾杯ってのはどうだ」
私は納得してにっこりと笑って、
「それなら良いよ」
「じゃあ今日はユウリんちでパーとやろうぜ」
高々とその拳を上げ、明さんが言う。そこでエリちゃんが、
「何だよ明さん。最近ユウリの言いなりだな」
「うるせえよ」
何てみんなで笑ってこの後家で、初ライブ成功の暁に宴会を開こうと思ったが、思いもよらない事態が私たちの目の前にやってきた。
それは帰り道、数分後の事だった。
品格の合りそうな灰色のスーツ姿の男が明さんに話をかけてきた。
「羽鳥さんじゃないか」
その男を目にした瞬間、明さんは先ほどの喜びに満ちた表情から一転して、強ばる。続けてその男は、
「そういえば数日前、原付で四人乗りをしていたのは君だろ」
その発言からしてこの男は私服警官だと言う事が分かった。そんな私服警官に明さんは、
「だから何なんだよ」
その男に対して反抗気味に訴える。エリちゃんの方を見ると、顔も見たくないとでも言いたい感じで、嫌そうにその視線を逸らしていた。
愛梨は腕を組んで、その様子をうかがっている。愛梨のその感じからして、もしかして愛梨はこの男が明さんとエリちゃんに何かとんでもない因果関係があり、その事実をメモリーブラッドで見て知ったんじゃないかと思えてくる。
そして男は、
「とりあえず署まで来てもらえる」
「行けば良いんだろ。とりあえず主犯者はわたしだ。だからこいつらは巻き込むなよ」
そんな明さんに対して私は、
「私も行くよ。私も共犯者だもん」
明さんに寄り添う私。それに続くように、
「うちも行く」「私も」
エリちゃん愛梨。
「来なくて良いよ」
と大声で訴えるが私は、
「別に私は明さんの為じゃない。自分も共犯者なのに、明さんを一人で行かせたら、私はそんな自分が許せなくなる」
ここは私自身の意見を言わせてもらう。それに続くように、
「うちもユウリの意見と同じっすよ」「私も」
エリちゃんに愛梨。
私とエリちゃんと愛梨は明さんの為でなく、それぞれの明さんに対する思いのためだ。
私たちも共犯者なのに、明さん一人で行かせたら、私たちは明さんを犠牲にするような感じに後で苛んでしまう。
私も共犯者だし、友達である明さんを一人で行かせるわけにはいかない。
「勝手にしろ」
何て明さんは言っていたが、心なしか明さんはちょっぴり嬉しそうな顔を垣間見えた感じがした。
警察にやっかいになるなんて、初めてで何か不安に思ってくるが、みんなが居てくれて不思議と怖くは感じられない。
私服警官の男、名前は織田と言うらしく、織田が向かう警察署まで私たちはそれに逃げも隠れもせずついていく。




