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愛梨の気持ち。

あれから数日が過ぎて、バンドの練習は順調に進んだ。

 練習が終わって、私は冷蔵庫から人数分のスポーツドリンクをみんなのところに持っていった。

「エリちゃん」

 そう呼びかけて、スポーツドリンクを投げ渡してナイスキャッチ。

「サンキューサンキュー」

「お疲れエリちゃん。ドラムすごく安定して、みんなの演奏がスムーズに乗るようになってきたね」

「ああ」

「いつも明さんと練習しているんだね」

「ああ」

「・・・」

 私は嫉妬して言葉が出なかった。するとエリちゃんは、

「どうしたんだよ。そんな顔して?」

 そんな顔と言われて私はどうやら嫉妬して表情に出てしまった事に見透かされないように慌てて、

「べ、べ、別に何でもないよ」

 何てうろたえる。

 エリちゃんはそんな私を見て、訳分からないと言った感じで、首を傾げ、渡したスポーツドリンクを飲み干す。

 冷静に考えれば、エリちゃんと明さんが私が考えている関係になるはずないなんて分かっている。

 分かっているけど、この数日明さんの思いは強まってか?明さんと親密な関係のエリちゃんに嫉妬してしまう自分がいる。

 明さんの全てが知りたい。私と愛梨が出会う以前から知っているエリちゃんがうらやましい。

 何て思っていると、

「おい。どうした」

 と明さんの声が背後から聞こえて、私は、

「エッエッ」

 驚いてしまい、明さんは、

「どうしたんだよ?」

「何でもありません」

 と冷静になり。

「これ」

 とスポーツドリンクを差し出す。

「サンキュー」

 蓋を開け飲む明さん。

 その仕草を見てうっとりとしてしまう。

 それで愛梨の方に目を向けると、愛梨はどこか遠くを見つめて何か物思いに耽っている感じだ。

 そんな愛梨に、

「愛梨」

 と呼ぶと気づいておらず、

「愛梨」

 もう一度大きな声で呼ぶと、ようやく気がついて、

「あ、ああ」

 と返事をして振り返り、私はスポーツドリンクを渡す。

「ありがとう」

 愛梨もスポーツドリンクの蓋を開け飲む。

 そんな愛梨を見て、最近愛梨はいつもあんな感じだ。

 バンドの事以外、あまり私たちと接する事なく何かいつもどこか遠くを見ている。

 まあバンドでは愛梨は以前よりも、人を引きつけるような歌声を練習では披露している。

 それはそれで良いとしてきっとメモリーブラッドの件で何か思い悩んでいるのかもしれないが詳しくはわからない。

 心配で何度も愛梨の心を読みとろうと、愛梨の心だけを読める私のメモリーブラッドを使おうと思ったが、それはいけない事だといつも思いとどまってしまう。

 だったら話し合うのはどうだろうと思うが、何か今の愛梨に話しかけづらい感じだ。

 だからそっとしておいた方がいいんじゃないかと思って、黙っている。

 でも夜な夜な、私は横浜太郎の言葉が思い浮かんで、愛梨が消えてなくなってしまう事を畏怖して、同じベットで寝る事を良いことにその手袋に手を包んだ手を握って眠ることがある。

 愛梨には死んでほしくはない。

 いつも一緒にいて煩わしく思う時もあるが、それでも愛梨が死んでしまう事を思うと、私が私でいられなくなる自分が怖い。

 だからそんな愛梨を私は遠くから見守る感じで見ている。


 午後から私達は、別に何も予定もないので、また海に行く事になった。

 危険だが明さんの原付で私たち三人を乗せて原付の四人乗りだ。

「明さん。いくら何でも無理があるんじゃないですか?」

 私が言うと、

「私に任せろ」

 エンジンをかけて走行させる明さん。

 明さんがそういうなら、怖いが私は安心してしまう。

 私たち四人が乗っていて不安定で、かなりのスピードにすごく怖いが、何かテンションあがってすごく楽しい。

 私は明さんが運転する原付の真後ろで明さんにしがみつき、心がうっとりとしている。

 その後ろには愛梨で、エリちゃんは明さんが運転する前の足場にしゃがみ込んでいる。

 走行している最中にエリちゃんが突然、

「海最高」

 何て叫んで、つられて私も叫んでしまった。

「みんな最高」

 叫んで心なしか何か気持ちよかった。だから私は、最近テンションの低い愛梨に、

「愛梨も叫んでみなよ」

「エッ?」

 突然の事で困惑する愛梨。だから私は、

「愛梨」

 と叫んでごらんというような口調でその名を呼ぶ。

「・・・」

 黙り込んでうつむいてしまう愛梨。

 あれから私たちの前ではこんな感じ。

 何度も思う事だが、メモリーブラッドの件で悩んでいるんだろうけど、詳しくはわからない。

 でもこうも考えられる。もしかしたら愛梨はメモリーブラッドを駆使する事で人が変わってしまったんじゃないかって。

 それでも私、いやエリちゃんも明さんもそんな愛梨に対する気持ちは変わったりしない。

 メモリーブラッドの件だけど、エリちゃんも明さんも口には出さないが、それに気がついている感じがするのは気のせいか?

 とにかく愛梨は私達といて、別に嫌そうでもないし、愛梨が生きていればそれで良いと思っている。

 何て考えていると、走行している原付が砂利道を走ってバランスが崩れて不安定になり、原付は私たち共々、倒れてしまった。

 幸いにも倒れたところは、わき道に隣接する初茂った草がクッションとなって私は怪我はないが、三人は?

「大丈夫みんな」

 すると明さんが笑い出す。続けてエリちゃんも。つられて私も笑ってしまった。でも私は、笑っているが、

「笑い事じゃないよ」

 何て怒ったが笑いが止まらなくて、説得力に欠ける。

 たまらなく楽しくて、それでも笑いが止まらなかった。

 そんな時である。愛梨の方に目を向けると、「フフ」と少しだけ楽しそうに笑っている姿を見て、何か安心する。


 海に到着して、浜辺には海水浴を楽しむ人たちでいっぱいだった。

 私達は水着に着替えて、早速海に入る。

 でも愛梨は、相変わらずでそんな私とエリちゃんと明さんが遊んでいる傍ら、海には入らず体躯座りをして、どこか遠くを見ていた。

 いつもはそんな愛梨をそっとしておいた方が良いと思っていたが、私は愛梨の方へと向かい、

「愛梨も海に入ろうよ」

「あ、ああ」

 と返事をして愛梨は今一乗り気じゃないが、ちょっと強引だがその腕を引っ張って海へと連れていく。

 愛梨も海に入り私たちと戯れたが、無理して私たちに合わせている感じがして、やっぱりそっとしておいた方が良いのかな何て思ったりもする。

 そんな愛梨だが、愛梨が蘇っていなければ、私たちはこんなに楽しい夏休みを満喫する事は出来ずに、悲しみに打ちひしがれ、どこにも行けなかっただろう。

 遊び疲れて、ちょっと休憩って感じで浜辺に上がり、私は体躯座りをして明さんの隣。

 黙っている明さんも素敵だと思うのは私の心の中だけに秘めておけば良いと思っている。

 そういえば、メモリーブラッドで心を読む愛梨に対して、最近は私の気持ちを知っているなら、それで良いとは言わないが、せめて黙っていて欲しいと思っている。

 多分この気持ちは届かないだろう。ならせめて夢の中で良いから明さんを近くで感じていたいと思っている。

 何て思いに耽っていると、明さんが、

「ユウリ」

「はい」

「最近ユウリ変わったよな」

「何がですか?」

「何か以前よりもりりしく感じるし、以前は愛梨がわたし達のバンドを引っ張って来たが、今はお前が引っ張っている感じだよな。

 それに以前のお前は怒らないで聞いて欲しいんだけど、愛梨がいなきゃ何も出来ない弱虫だと思っていたよ」

 そこで私は考えさせられる。確かに私は変わった。明さんの言う通り、以前は思い出すだけでも自分が嫌になるが愛梨がいなければ何も出来ない甘ったれた女だった。

 明さんは私の事を見てくれているんだな。もしかしたら明さんは私の事が好きなのかな?

 何て考えていると私の心にストッパーが生じて、それはあり得ないだろうと自分の気持ちに言い聞かせた。

 その後も遊んで、海水浴を満喫して日は暮れて、私たちは別れる。

「じゃあな」

 と、別れの挨拶をされる時、寂しい気持ちにもなるがそれは仕方のないことだ。でも夏休みはまだまだ長いし、また明日あえる。でもいずれこの夏休みも必然的に終わる事を考えると、何か切なく思ってしまうが、先の事よりも今を楽しもうと私は思っている。


 帰って私と愛梨は家の手伝いをする。

 以前いつもうちの手伝いをしている愛梨に対して聡美お姉ちゃんは私に言った。

『ユウリも愛梨ちゃんを見習ったら』

 って言われ、何かそんな事を言われて悔しく思い、私も愛梨と同じように家の手伝いをする事になった。

 どうして私がこんな事をしなくてはいけないんだと、最初は愛梨を恨んだが、やっている内に、最初は面倒だと思うけど、やってみると心がリフレッシュされ気持ちが良くて、私は帰ったら、愛梨と共に家の手伝いをしている。それに家事も料理も勉強になって女子力が上がる。

 そんな愛梨と共にいつも過ごしているが、あまり口数は少なく、寝る前の合間の時間私は、小説を書いたり勉強をするのだが、ふと愛梨を見ると、愛梨はどこか遠くを見て物思いに耽っている感じだ。

 別に元気がないわけでもなく、愛梨は変わってしまったのだろうな。

 きっかけはメモリーブラッドだろう。それでどうしていつもテンションマックスって感じの愛梨が変わってしまったのかは詳しくは分からないが、とにかく私は愛梨が生きていれば良いと思っている。

 それと今日明さんに言われたが、以前の私と今の私を思い浮かべると私も変わった。

 何か自信が持てるようになって、自分じゃない感じがしている。


 夜中、何か音がして目覚めると、私のスマートホンに一通のメールが届いた音が鳴る。

 こんな時間にメールなんて。

 そう思ってスマホを手に取りメールを見ると、


 差出人・横浜太郎。


『ユウリちゃんに話がある。吸血鬼の愛梨ちゃんの事でね。今から、繁華街に来てくれないか?』


 そのメールを見て私は息をのんで、眠っている愛梨の顔を見た。

 愛梨は何事もなく小さな寝息をたてて眠っている。

「愛梨は私が守る」

 そう人知れずにつぶやき、私は着替えて外に出た。

 自転車に乗って繁華街へ。

 時計は午前二時を示していて、外は真っ暗で、ちょっと怖いが、そんな思いよりも、愛梨がいなくなってしまうのが怖いので、私は繁華街へと急いで自転車をこいで先を急ぐ。


 繁華街に到着して、男に絡まれて私が命をねらわれそうになった時、愛梨が理性をなくして、男たちを殺そうとしたときの事がフラッシュバックして息を飲んだ。

 繁華街に入ると、そこは相変わらず、いかがわしい場所で、キャバクラや風俗店の客引きなどをしている人がいて、道行く人も、柄の悪そうな人ばかりだ。

 そんな中後込みをしてしまいそうになるが、それでも私は愛梨の事をなくしたくない気持ちで、恐る恐る繁華街の中へと入っていく。

 自転車を降りて、歩いていると、見知らぬ素行の悪そうな人に声をかけられる。

「ねえ、君家出でもしたの?」

 そいつの目を見てすぐに分かったが、その目は私の弱みにつけ込む目だと気がつき、怖くなってそいつを振り切って逃げ、先を急いだ。

 男は「おい」と言って私の背後から声をかけていたが、別に気にすることもなく、走った。

 繁華街の中央広場に到着して、何か妙な感じがして、その方向に目を向けると横浜太郎はいた。

 横浜太郎は以前と同じ格好をしていて、頭に赤いバンダナをつけて、ジーパンに白いTシャツで私が来るのを待っていたのか、大股を広げて、噴水の石段に座っていた。

 改めて横浜太郎を見ると、何か普通の人とは違う、オーラを感じる。

 私に気がついて横浜太郎は、

「よぉ、待っていたよ」

 何がおかしいのか?ニヤリと笑う横浜太郎。

「こんなところに呼び出してどういうつもりなの?」

「ごめんごめん。怪しい奴に声をかけられたみたいだね。君みたいなレディにこんなところを指定したのはいささか失礼だったかもね」

 こいつは先ほどから私の事を見ていたのだろうか?何か怖くなってくる。そんな私を見て、

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。別に君をずっと監視しているわけじゃない」

「じゃ、じゃあ、何なの?」

「さあ、こうして長年生きていると、人を見るだけでも、何となく分かるようになってくるんだよ」

 長年って言ったが、この人は長年生きている年輩者のような風貌じゃない。

 それはそれで良いとして、私は本題を切り出す。

「愛梨の事で話って何なの?」

「フッ」

 と笑って、

「以前も言ったかもしれないけど、愛梨ちゃんを生かすも殺すもユウリちゃん次第って言ったよね」

 確かにそうだ。以前の事を要約するとそのような事を言ってた。それで私は夜な夜なその言葉が思い浮かんで苛んでいる。

 横浜太郎はそのギラリと光る愛梨と同じ赤い赤い瞳を突きつけ、私は息を飲む。

「その顔からすると、ユウリちゃん、夜な夜な俺が言った言葉に苦しんでいたみたいだけど、安心して良い。君はそんなに苦しむ事はないよ。もう少し気を楽にして良いよ」

 そう言われて、愛梨に対しての心配が少しだけ、ゆるんだ感じだ。

「そうそうリラックスして良い。君が愛梨ちゃんを思う気持ちが変わらない限り、愛梨ちゃんは大丈夫だ」

 さらにそう言われて、愛梨に対する心配の気持ちはゆるんだが、ここでその気持ちを緩めてはいけない事だと思って、気を引き締めるように言い聞かせる。

「そうだよ。安心して良いけど、安心しすぎて気を緩めたりするのも良くない」

「どうして、私の思っている事が分かるの?」

 そこでハッと気がつき、

「もしかしてあなたもメモリーブラッドを司る吸血鬼なの?」

「メモリーブラッド?」

 意味が分からないと言った感じで、横浜太郎は考える仕草をして、私がその事に説明しようとしたが、横浜太郎は理解が早く、

「なるほどメモリーブラッドか。愛梨ちゃんの人の心を読む能力をメモリーブラッドと名付けているのか。ちゃんと道理にかなっているし、良いネーミングだ」

「・・・」

 そんな事はどうでもいいと言うような感じで目で訴えると、やはり横浜太郎は理解が早く。

「おっとゴメン。話を戻そう。

 じゃあ、何なの?ってユウリちゃんは言いたいんだろうけど、正確な年は忘れたけど、こう見えてもユウリちゃんよりも五六十倍の年を生きているから、ユウリちゃんが言葉にしなくても分かってしまうもんなんだな。年をとって色々と経験していると色々な事が見えてくるのと同じ事だ。ユウリちゃんも年をとりながら色々な事を経験していれば、色々な事が見えてくるよ。

 それに俺は人間じゃないし、人間以上に生きて色々な経験をして、人間が言う賢者よりも、聡いのは当然だね」

 もう横浜太郎は私が言葉にしなくても、私の言いたい事、聞きたい事が分かる感じだ。その証拠に横浜太郎は、

「おっと、もう話は分かったみたいだから、本題に入ろう。

 愛梨ちゃんの事だけどね。

 ユウリちゃんのその気持ちが変わらなければ、あまり心配することはない。

 だからユウリちゃんが愛梨ちゃんがいなくなる事をあまり不安がる必要はない。

 ただそれが言いたかっただけだよ」

「どうしてそんな事で」

「どうしてってか?それはユウリちゃんが愛梨ちゃんを心配しすぎて、ユウリちゃん自身が壊れて、愛梨ちゃんもその過剰の心配に耐えきれなくなって来るって、見えてきたからね」

「それも高老の知識の何かなの?」

「それ以上だね。俺は多少の未来は見える。それは予言とか予知とかそういった類のものじゃない」

「それも何らかの太郎さんが生きて培えて来た推理力って言うか、何らかの感じの筋道を辿って分かる事なの?」

「うん。だいたいそんな感じ。思っていた通り君は賢い」

「・・・」

 誉められているようだが、何か複雑な感じだ。

「まあ、俺が言いたいのはそれだけだ」

 立ち去ろうとする横浜太郎に対して、

「どうして私にそんな事を教えてくれるの?」

 振り返り横浜太郎は、

「俺の生業は吸血鬼ハンター。ユウリちゃんの思いが吸血鬼である愛梨ちゃんの制御となっている。

 つまりユウリちゃんが愛梨ちゃんの保護者的存在となっている限り、愛梨ちゃんはその制御が解かれる事はないだろう。

 もしその制御が解けて、愛梨ちゃんが人に危害を加えるような事があれば、俺はそれを阻止するために」

「阻止するために?」

 その続きを促す。

「それはもう考えれば分かるんじゃないかな?ユウリちゃんのような賢い女の子なら」

 私は息を飲み、とりあえず、

「じゃあ、どうして愛梨は蘇って吸血鬼になってしまったの?」

「それはユウリちゃん自身で身を持って知ることだね。

 でも俺はユウリちゃんを信じている。いやユウリちゃんは信じられると言った方が良いかもしれないね」

「それも太郎さんの推理力?」

「俺は神様じゃないからね。いくら人間離れしているからって俺も元は不完全で愚かな人間だった。だから俺の推理力も完璧じゃない。これは俺個人の思いさ」

「じゃあ、それは私次第って事?」

 と言って気がつけば、横浜太郎の姿はもうなかった。

「ちょっと、太郎さん」

 大声で呼びかけ、辺りを見渡すと横浜太郎の姿はなかった。   

 聞きたい事はたくさんあった。

 危険で怖いはずの繁華街の事を忘れて、探し回ったが、どこにもいなかった。

 私は諦めて、帰る事にする。

 そろそろ夜明けだ。

 横浜太郎の事を思い浮かべて、どうやら悪い人でもなさそうだ。

 愛梨に対する心配の念が大分解消された感じだ。

 そういえば横浜太郎は言っていた。

 私の過剰の心配が愛梨の気持ちに負担となり、私たちはお互いにダメになってしまうって。

 じゃあ、最近愛梨の様子がおかしいのは、私の過剰な心配が負担になっているからなのかな?

 その事について愛梨と話し合わなければいけない。

 最近の愛梨とは話しかけづらくなっていて、話しかけづらいが、そんな事を言っていられないだろう。

 お互いの気持ちを分かちあって・・・いやそれが愛梨に負担をかけてしまうんじゃないかと思うが、とにかくその辺は考えなくてはいけないだろう。

 それと横浜太郎の事は愛梨には黙っていた方がいいだろう。もしメモリーブラッドか何かでばれてしまったら、何かまずいことになりそうなのだが、それはそれで構わないし、別に隠すつもりはない。

 ばれたらばれたでその時考えればいいし。

 何て色々と考えながら、家が見えてきた、私の家の方から愛梨の姿が見えてきた。

「ユウリ」

 愛梨は心配そうに私にそう大声で言った。

 そして私のところまで人間とは思えない程のすさまじい早さで来た。

「ユウリ、こんな時間まで何をしていたんだよ」

「ごめん」

 と謝るしかなかった。

「心配したんだぞ。起きたらユウリがいなくて」

 愛梨は本気で心配して怒っている。その気持ちは愛梨に対する私の気持ちと同じだと気づかされる。

 愛梨を心配している私が愛梨に心配されるなんて。

 何て考えていると愛梨は手を振りあげ、頬をぶたれる覚悟をして、目を瞑った。

 愛梨が私を心配させた時も同じ気持ちだ。だから私は愛梨にぶたれても仕方がない。

 ぶたれるのかと思いきやキュッとその目を閉じていると、愛梨特有の冷たい包容に包まれた。

「愛梨」

 きょとんとする私。

「実を言うと、少し気持ちが楽になったよ。こうして私もユウリの事を心配することが出来て」

「愛梨?」

「私が吸血鬼になってメモリーブラッドを使えるようになって、ユウリや明にエリの心を読んで、みんな私の事を心配している。

 そんな私いなくなってしまえば良いなんて考えた。

 でも私がいなくなったら悲しむ人はいる。

 そんな風にみんなに心配されてばかりで、そんな自分が辛くて、変だけど、こうしてユウリを心配して、何か安心した」

 愛梨の気持ちを聞いて心に掛かっていた心配のネックがポロリと落ちた感じだった。だから私は、

「バカだな。愛梨は充分私たちの助けになっているよ。あの時エリちゃんを助けられるのは愛梨しかいなかった。それに愛梨がいなかったら、私達はこんなに楽しい夏休みを満喫する事は出来なかったよ。

 だから夏休みが終わっても、愛梨は私たちの側にいてよ」

 私の気持ちを伝えると、愛梨はとっさに私から離れて、そっぽを向いた。

 愛梨は泣いている。

 私はその涙を見ると何か思い出してはいけない事を思い出しそうなので、それは愛梨も分かっているのだろう。

 だから愛梨は私にその泣き顔を見せたりはしなかった。

 しばらく愛梨の涙が乾くまでほおっておいた方がお互いのためだと思って、その場から離れて、家に入り、部屋に戻り、もう少し眠っておこうと、ベットに横たわってその目を閉じた。

 そこで先ほどの横浜太郎の事を思い返してみる。

 私が愛梨を心配することによって愛梨はそれが重荷となって耐えられなくなるって。

 でももう心配いらないのかもしれない。

 先ほどお互いの気持ちを知り合って、その気持ちを分かち会い強めた感じだ。

 もしかしたら、横浜太郎はこの事まで推理していたのかもしれない。

 横浜太郎の年齢は推定私の五六十倍を生きているから、約千年は生きている事になる。

 人間で言う賢者よりも、年と経験を積んでいるから、確実な予言に近い程の推理が出来るのだろう。

 でも横浜太郎は言っていたが、彼も元は不完全で愚かな人間だから、その推理が完璧ではないとも言っていた。

 まあ、それはともかく愛梨に対する過剰の心配をすることはなくなった。

 でも油断はしてはいけないと思う。

 心配の気持ちが全くなくなったら、それは危険な気がする。

 心配や様々な嫌な感情は友達以上、両親以上に自分とつきあわなくてはいけない存在なのだ。

 だからそのような感情は合って良い。いや、ないと私は私でいなくなる。いやそれは人は人ではなくなると言った方が良いかもしれない。

 それから夜な夜な横浜太郎の事を思い出し、愛梨がいなくなってしまう事に苛む事はほとんど減って、気持ちが楽になった。


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