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ユウリとエリ

もうなくなってしまった企画だが、机の上にエリちゃんのお姉ちゃんの結婚式を祝福するために書いた曲の詩をエリちゃんがたまたま見つめて、私はそれを見て、何かエリちゃんに罪悪感を感じてしまった。

 それはもうすんでしまった事だが、私はエリちゃんの気持ちも知らないで自分の気持ちを押しつけるような事に蟠る。

 そんなエリちゃんを見つめて、

「ごめんねエリちゃん」

 エリちゃんは困惑したように笑って、

「何で謝るんだよ」

「私エリちゃんの気持ちも知らないで、自分の気持ちを押しつけて単に自分の慢心を満たしていた」

 するとエリちゃんは、

「何でだよ。謝るのはうちの方だよ」

 私にその視線を向けられずに蟠っている。でも謝りたいのは私の方なので、

「でも私は・・・」

 ふと思って、明さんと愛梨の方を見てみると、私とエリちゃんの会話に気づいておらず、ゲームに夢中になっていた。

 もう一度エリちゃんに向き直り、謝ろうとすると、エリちゃんはその瞳を閉じて言う。

「どうして愛梨が、うちの危険を知って助けに来たのかどうか分からないし、それについてもしつこく問いだそうなんて思わないし、それにみんなうちの事情を聞こうと何て思っていない」

 一つ間をおくようにエリちゃんは、その真摯な目を突きつけ私に言う。

「そんなにユウリが悪いと思っているなら、事情をユウリにだけ話した方が良いかもしれないな。

 ユウリが悪いんじゃない事を証明させるために」

「・・・」

 その方が良いかもしれないと思って、明さんと愛梨がゲームで戯れている私の部屋から場所を変えた方が良いと思って、私のうちの一階の縁側に移った。

 そこで私は冷たい麦茶を入れて、エリちゃんに差し出して、縁側に座って話を聞く事にする。

 エリちゃんは大きく息をついて、縁側から見える夜空を見上げながら語る。

「うちの姉ちゃんが危険な目に合いそうになって、助けに行ったら危うく殺されそうになったところをなぜか愛梨に助けられた。

 そこまでは知っているよな」

 私は頷く。エリちゃんは私がもてなした麦茶を一口飲んで、

「それで愛梨は私を見透かすように言っていたよ。

 みんなを巻き込みたくない気持ちは分かる。

 でも一人で解決出来ない事に一人で挑むのはよくないよ。

 って。

 助けられたのは本当に良かったと思っている。愛梨の言う通り、うち一人ではどうにもならない問題だったし、それと愛梨の言っている事を思うとあいつもしかしたら、蘇って得たいのしれない力と共に人を見透かすような力があるんじゃないかって思ったよ」

 そういって私の目を見る。

 その目は愛梨の力の事を何か隠しているんじゃないかと問いだそうとしている目のような感じだったが、エリちゃんはその事を深く問いだそうとはせず、再び空を見上げて、

「まあ、それは別として、うちが助けようとした姉だけど、実を言うと知的障害を持っている姉なんだよね。

 その姉に近づいて婚約者を装い、お金をせしめようと誑かそうとした。

 その事が分かったのは、その男が何か怪しいと思って探偵に依頼して分かったんだけどな」

 と息をつくエリちゃん。続けて、

「うちは姉の事を恨んでいた。

 姉のおかげで私はさんざんひどい目にあってきた。

 姉がいるだけで、周りから蔑ろにされる事もあった。うちはそれで何度も苦しい思いもしたし、死んでしまいたいとも思った。

 だからそんな姉の事なんてほおっておけば良いと思った。

 親は姉の事ばかりで、そんなうちには干渉もしてこなかった。

 だから親もそんな姉の婚約者に騙されてしまえば良いと思ったよ」

 辛い思い出を淡々と語るエリちゃんに対して私も辛くなってくる。続けてエリちゃんは、

「でも姉のおかげで親も騙されて、さすがにうちも巻き込まれるのはごめんだと思ってな。

 それで渋々だけど、姉を助ける事にしたんだよ」

 と言って自分に何か呆れる感じでその瞳を閉じるエリちゃん。

 それは見て分かるが、姉の為でなく自分の為にしている事に自己中心的な自分を詰るような苦い表情だった。続けてエリちゃんは、

「それは一人ではどうにもならない事だとは分かっている。何度も明さんにも相談しようとしたが、自分の動機も不純していたし、明さんもユウリも愛梨もみんな巻き込みたくなかったからな。

 それでユウリ達に姉が結婚するとか言って、どこかでみんなに助けてもらいたかったんだよな。

 本当に自分が嫌になるよ」

 と言って大きくため息をつく。

 きっとエリちゃんはそんな自分が情けないと思っているのだろう。

 でも本当にそうなのだろうかと疑問に思い、今のエリちゃんに何て言って良いのか分からなかった。

 そんなエリちゃんは私の目を見て、

「だからユウリ、お前が悪いんじゃない。全部うちが悪いんだよ。

 自分の事で勝手にいらついて、あの時、ユウリに干渉されて、切れて本当に悪かったし、色々と嫌な思いさせて悪かったよ。

 良ければ、うちの事すっ飛ばしても良いよ」

 何てエリちゃんが言った瞬間だった、その事に対して考える余裕もなく背後から、何か走る勢いを感じて、気がつけば、エリちゃんは、縁側から、吹っ飛んで庭につんのめっていた。

 いったい何が起こったのかと驚いて見ると、明さんがエリちゃんを背後から、蹴り飛ばしていたのだった。

「ちょっ、明さん?」

 その後ろには腕を組んで見ている愛梨もいた。

 いったい何が起こっているのか?状況が理解出来ず、とにかくエリちゃんが心配でサンダルを履いてエリちゃんの元へと駆け寄る。

「大丈夫エリちゃん」

「ああ、大丈夫だよ」

 私は明さんに振り返り、

「明さん。いきなり何をするの?」

「エリ、今の話聞かせてもらったよ」

「・・・」

 黙り込むエリちゃん。

 明さんはマブダチであるエリちゃんの事はお見通しって感じの顔で、

「自分にも相手にも嘘をつくお前も気に入らないが、一番気に入らないのが、何もかもすべて自分で抱え込もうとするお前が気に入らないよ。

 人は一人では生きていけないんだよ。この先、また昨日のような事をして、また突っ走るつもりかよ。ふざけんなよ」

 こらえきれず涙する明さん。

「良いか?人は一人では生きていけないんだよ。

 そうやって自分一人で抱え込んでいたら、生きていけないよ。

 お前のその誰も巻き込みたくない気持ちは立派であたしも分かるよ。

 でも誰の人生でもこの先、様々な困難が待ち受けているんだよ。

 それを一人ですべて解決させよう何て不可能なんだよ。

 だからユウリがいて愛梨、そしてあたしがいるんだよ。 だからさっきも言ったけど、どうしてもダメな時は、あたし達、そして自分に嘘をつかずにあたし達を頼れよ。

 それがダチだろ。

 てめえがいなくなって悲しむ人間はいるよ。

 仮にお前の姉ちゃんや親が悲しまなくても、あたし達は悲しむ。

 その事をよく考えろ」

 するとエリちゃんは明さんに、

「じゃあ明さんはあの時、どうして・・・」

 と何か明さんに反論しようとしていたが、表情を歪ませて、言葉が詰まる。

 エリちゃんが言う『あの時』とはどのような時なのか?きっとエリちゃんと明さんの間に何か暗い過去が存在することが分かった。

 その証拠に明さんはエリちゃんが何を言おうとしているのか分かっている感じで、それ以上何も言えず、黙り込んでしまう。

 愛梨の表情を見てみると、視線をうつむかせ黙り込んでいる姿に、きっと愛梨は明さんとエリちゃんの間に起こった出来事を知っている感じだ。

 きっとメモリーブラッドで見たのだろう。

 知らないのは私だけだが、過去に起こった事を思い返したって、どうにもならないし、私が知ったところで何の意味もないだろうと思って、気にはなるが、その事に問いつめたりはしない。 

 先ほど、私達の関係が修復して、和やかな感じになったが、一難去ってまた一難か?

 再び穏やかではない空気に包まれる。

 夜明けか?真っ暗だった空が、少しだけ明るみが露わになっている。

 そして明さんはエリちゃんの元へと裸足で縁側から降りて、その手を差し出した。

「だったら、あの事について納得行かないなら、お前が納得するまで話すよ」

 エリちゃんは複雑そうな表情で黙り、しばし目を閉じて、そして開いてその手を取ってエリちゃんは立ち上がった。

 すると明さんは、

「悪いな。みっともない所を見せちゃって」

 そんな事はない何て言えないけど、私は、

「とにかく明さんとエリちゃんの新しい一面を見れて、良かったと思っている」

 とそれは私の嘘偽りのない本心からの言葉だった。

 明さんはみっともない所なんて言うけど、考えてみれば私と愛梨との間によく喧嘩があって、二人によく見られたものだ。

 だからお互い様だし、先ほど言った通り二人のまた新しい一面を見れて良かったと思っている。

 まあ、一難去ってまた一難なんて皮肉ってしまったが、こうしてまた私達は結束を深められたんじゃないかと思っている。

 でも私達はまだ知らなかった。

 明さんとエリちゃんとの間に起こった事が関係して、とんでもない事件に巻き込まれる事を。


 お昼頃起きたら、愛梨は廊下で一生懸命掃除をしていた。

 私のうちに世話になっているからと言って、毎日毎日何も文句も言わないで偉いと思う。

「おはよう」

 と愛梨と挨拶を交わして、

「うん。おはよう」

 と愛梨は挨拶を返してくれる。

 昨日は明け方まで練習してしまったので、とりあえず、朝からは無理だから、朝は休んで、また昼から練習することになった。

 それまで二人を待つ事にする。

 時計を見ると0時45分を示していた。

 約束の時間は午後一時だ。

 それまで何をして待っていようかと思って、ただぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。

 そして私は今朝の事を思い出す。

 明さんがエリちゃんに対して、自分ですべてを抱え込もうとするエリちゃんに怒りを露わにしたことを。

「人間は一人では生きていけない」

 と、その時言った明さんの言葉を要約して何となく呟いた。

 人間は一人では生きていけないとよく言うが、それは本当だと思う。

 きっとエリちゃんはそれは知っていても、ただ知識では知っているだけで、心には諭されていなかったのかもしれない。

 でなければ、誰にも迷惑をかけたくないからと言って、すべて自分で抱え込もうなんて思わないだろう。

 でもそのエリちゃんの気持ちも分かるし、すべてが間違いとは言えない。

 生きているのだから、迷惑をかける時もあるのだろう。でもかけすぎてはいけない。

 それと何とかしようとする気持ちは大事だが無理な事、あるいは無謀な事に挑むのは良くない。

 それらの事を含めてだが、だから人間は一人では生きていけないのだ。

 今朝、明さんがエリちゃんに対して熱弁して叱っていた姿を思い浮かべると、何かうっとりとしてしまう。

「明さんかっこいい」

 と思わず言ってしまった。

 そこで私はハッと我にかえり、辺りを見渡すと、誰もいなかった。

 誰かに今の言葉、聞かれていないか心配だったんだな。

 そういえば、メモリーブラッドで愛梨に私の心を読まれていたのだった。

 昨日も思った事だが、多分知っているだろう。

 そういえば、私はなぜ愛梨にメモリーブラッドを私に隠していたのか?聞くのを忘れていたが、私の部屋のドアの隙間から廊下をかいま見て、改めて愛梨を見ると、何か聞きづらいと言うか、何というか、聞いてはいけないような気がするし、聞き出す勇気がない訳でもないが、それはやめておいた方が良いような気がした。

 それはともかくエリちゃんの話に戻るが、明さんはエリちゃんに対して、こうも言っていた。

 相手にも自分にも嘘をつくなって。

 それは何となく分かるが、まだ頭の中ではっきりしていない。でも少し考えれば分かることだと思って、遠くを見渡しながら、息をついて確信はないが分かるような気がした。

 それは昨日の話を思い返してだが、エリちゃんは姉が騙されて、その被害が自分に被る理由で姉を一人で助けると言って、そんな姉の事よりも自分の事しか考えていない自分を攻めていたっけ。

 多分、エリちゃんの中にお姉さんに対する気持ちが合ったからかもしれない。

 だったら危険を省みず、自分一人で助けよう何て思わない。

 それに普段のエリちゃんの言動を見てもそう思える。

 エリちゃんは不器用で誤解されやすいし、自分一人ですべてを抱え込もうとする癖がある。

 でもエリちゃんはとても優しくて友達思いだ。

 だから多分、お姉さんに対して強い恨みを持ちつつも、その知的障害を持ったお姉さんに対して優しい記憶が合ったのかもしれない。

 まあ詳しくは分からないが、昨日明さんがエリちゃんに対して言っていた言葉を思い返してみるとそうかもしれない。

「フゥー」

 と息をついて、自称吸血鬼ハンターと名乗った横浜太郎の事が頭に飛び込んできた。

『吸血鬼になった愛梨を殺すつもりなの?』

 と私が聞いた時、横浜太郎は言った。

『それは君次第だ』

 って。

 そう思い出すとすごく怖くなり、愛梨の事が恐ろしく心配になり、部屋を出て、愛梨を探した。

「愛梨」

 と廊下にはいなくて、さらに心配になり、興奮して呼吸がうまく整わず、「愛梨」と呼び、慌てるように一階に行くと愛梨はいた。

「ユウリ?」

 どうしたんだ?と言うようにきょとんとする愛梨。

 そんな愛梨を見て私はホッと胸をなで下ろした。

 そうだ奴は『それは君次第』って言ってた。

 冷静に考えれば、私が愛梨を大事に思っていれば、愛梨を亡くす事はない。

 何て思いにふけっていると、手をパチンと叩いて、その音に意識が愛梨の方に向かった。

「どうしたんだよユウリ」

 私は何て言ったら良いか分からず、ついぶっきらぼうに、

「何でもないよ」

 何て言ってしまった。

「ふーん」

 何も気にしていないと言った感じの反応で、愛梨は、

「そろそろ、明とエリが来ると思うから、準備でもしておこう」

「うん」

 と愛梨の言うとおり準備に取りかかる。

 まあ、ぼんやりして色々と思いに耽って、横浜太郎の事を思い出して、愛梨の事が恐ろしくも心配になったが、今こうして愛梨は私の前にいる。

 横浜太郎が私に突きつけた『それは君次第』って言葉が反芻されるが、こうして愛梨を近くに感じているのだから、恐れる必要などないとは思っても恐れる時もあるだろう。

 愛梨は私が守る。

 どんな事が合っても。

 何て考えながら倉庫で愛梨と練習の準備をしていると、外から原付のエンジンの音がして、二人が来たと思って外に出ると、二人は明るい挨拶を私と愛梨にくれた。

 また私達の夏休みの一日が始まる。

 私が落ち込んでいたら、いや私達のバンドのメンバー一人でも落ち込んでいたら、人を魅了するような演奏は出来ないと思う。

 だからみんなが落ち込む時、その時私が鼓舞して、また立ち上がる原動力に変えていく。逆に私が落ち込んでいる時、私にはみんながいる。

 でも私も含めてみんなが落ち込んでいる時は、・・・今は分からないから、その時考えよう。

 さあ練習だ。まだ見ぬお客さん達へ、私達の演奏を届けたい。

 そうだよ。私も含めてみんなも落ち込んでいたら、この先出会うであろう、人達の為に立ち上がるんだ。

 それが間違いなのか正解なのか分からないが、とにかく立ち止まっている暇などないのだ。  


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