メモリーブラッド
気がつけば、そろそろ夜明けで、日の出が延びようとしている。
エリちゃんと明さんは今日のところは休んで、また改めて携帯に電話すると言って別れた。
愛梨と私は二人きり、愛梨は何か気まずそうな表情で歩く。
愛梨には山ほど聞きたい事、叱りたい事がたくさんあるが、何か今の愛梨は反省している感じで、俯いて、私が自転車を手で引いてその横を歩いている。
何度も思う事だが、聞きたい事、叱りたいことはたくさんあるが、明さんの言う通り、また日を改めてた方が良いと思って、今は何も言わなかった。
でも何となく愛梨の手を見るとその手で心を読まれる事を恐れる私と憤る私がいる。
その手で今まで私達の心を読んでいたのかと思うと、裸を見られるよりも、嫌な気持ちに陥った。
本当に愛梨を殺してやりたい気持ちにもなったが、反省している愛梨を見て、その気持ちはなくなって、何か複雑な気持ちに陥った。
とりあえず私の家にたどりついて、よく見ると、私も愛梨も服も体も汚れていたが、清潔感に気を使わないといけないと思っている私でさえ、お風呂にも入る気力もなく、私がベットに横たわると、愛梨は床に寝転がった。
一緒のベットで寝れば良いと思ったが、きっと愛梨はその愛梨のメモリーブラッドで心を読みとる事に対して気を使っているのが分かった。
気にするなとはとても言えない。
その手で今まで黙って私達の心を読みとっていたのだから。
私のあんな事や、自分でも思い出すだけでも、背けたくなるような恥ずかしい思いや記憶を見られていたなんて思うと、死にたくもなるし、その前に愛梨を殺したい気持ちにもなった。
今まで、私達の記憶を読みとって、私達の知らない所で、さんざんほくそ笑んでいたことを思うと・・・いやそれはないんじゃないか?と思いとどまる。
確かにほくそ笑んでいた事は愛梨の事だからあるかもしれないが、でもその力でエリちゃんを助けられた。
自分の手のひらを見つめて、確か明さんにもこの手で心を読みとろうとしたが、読みとる事は出来なかった。
じゃあ愛梨は誰の手にでも触れれば、心を読みとる事が出来て、私は愛梨の事しか読みとれないのか?
実際に、床に眠っている、愛梨の手を取って、私の心も知られる事を覚悟して、手を触れようとしたが、やめておいた。
それは愛梨に読みとられて、裸を見られるよりも恥ずかしい思いをしたからだ。
でも愛梨はさんざん今まで、私達の心を読んでいた。
そう思うと、眠っている愛梨の手にその私の手を伸ばして読みとれるか試そうとしたところ、愛梨は寝言を言ってた。
「みんなゴメンな」
って。
後ろ姿で見えないが、愛梨は泣いている。
その時、恐ろしい事を思い出しそうになって、即座に布団に身を隠した。
呼吸が乱れていて、深呼吸をして落ち着いた。
そして私は思う。
愛梨が泣いている事を思うと、確かに私達の恥ずかしい記憶などを見て、ほくそ笑んでいた時も合ったかもしれないけど、それも含めて、私達に悪い事をしたと反省しているんじゃないかと思う。そうでなかったら、エリちゃんを助けよう何て思わない。
まあとにかく、愛梨が反省しているのは分かった。それにその力でエリちゃんを助ける事が出来たのだから。
後で明さん達と一緒に事情を聞くことにする。
それはそれで良いとして、さっき出会った、横浜太郎、吸血鬼で蘇った人間に関する職業を生業としていると聞いた。
奴は言っていた。
蘇った愛梨を殺すのかと聞いたところ、
それは君次第だよ。
って。
考えれば考える程、恐ろしい事だと思えてきた。
それにまるで私達の行動を以前から知っていたような感じだった。
でも敵ではないような感じだった。
生かすも殺すも君次第。
生かすも殺すも君次第。
生かすも殺すも君次第。
・・・・・・・・。
耳をふさいでも思い浮かんでくる疑念が次々と思い浮かび、私はつぶされそうになったところ、眠っている愛梨を抱きしめた。
忘れていたが、私は愛梨の手に触れたら、愛梨の心が読みとれる事を忘れていた。
それで眠っているからか?心の声は響かなかったが、愛梨の心を胸に感じた。
言葉ではない、何か愛梨の温もりだった。
私は確信する。
どうやら、私は愛梨だけの手を触れただけで愛梨の心の声を聞く事が出来るみたいだ。
それはともかく私は愛梨を亡くしたくない。
愛梨に心を読みとられたって良い、それで笑われたって良いから、愛梨には死んでほしくない。
私は愛梨が生きているから私でいられる。
さっきは本当に殺してやりたいと思っていたが、それはとんでもない事だ。
無神経な愛梨、いつも私を怒らせた。喧嘩の後、本当に死んでしまえと思ったりもしたが、時間がたつと、何か無性に合いたくなるそんな存在。
思えば今まで色々な人と出会いや別れを繰り返して、ここまで生きてきたが、考えても分からないが、愛梨との幼いときからの出会いに別れは今も訪れていない。
その証拠に今ここで愛梨と密着してその温もりを肌と心で感じている。
この包容を解いたら、また愛梨はこの私の手の届かない遠い場所に行ってしまうんじゃないかと思ってしまう。
だからこの包容を解いてはいけないと思っている。
いずれ愛梨とはこの先生きていれば、人生の分岐点に差し掛かり、別れを余儀なくされてしまう時が来る。
でもそんな悲しい事は考えたくない。
だからこうして今愛梨を抱きしめている。
小さな子供のようなわがままだが、ずっとずっと一緒にいたい。
ずっとずっと。
おもむろにその瞳を開くと、私はいつの間にかベットの上で眠っていた。
その体を起こして、まどろんだ瞳をこすって辺りを見渡して、愛梨がいない事に気がついて、何か無性に心配になって、ベットから降りて部屋から出ると、愛梨は廊下の床を磨いてた。
「お、おはようユウリ」
視線をさまよわせている事にきっと今朝の事を気にしているのが分かる。
とりあえずホッとして、そんな愛梨に何て言ったら良いのか分からず、黙って部屋に戻って、ぼんやりとしてしまった。
そんな浮ついた意識の中で、時計を見ると、午後五時を示していた。
昨日は愛梨に聞きたい事叱りたい事、山ほどあったが、もうあまりそういう気持ちにもならなかった。
何となくその手で胸をなで下ろして、「ハッ」と我に返り、愛梨の手で私の心を読まれる事をひどく恐れてしまい、だっとのごとく廊下に出て、
「愛梨」
と言って、愛梨は少し驚いた様子で、
「どうしたの?ユウリ」
そこで愛梨の手を見る。
その手を見ると、白いレースの手袋をはめていた。
愛梨が私の視線を追ってその手にはめている手袋を見せて、
「ああ、これか」
視線をさまよわせ何かわだかまりを抱いた感じで、何か言いにくそうに、
「ゴメンなユウリ。こうしていれば・・・」
何かを続けようとしていたが、その事を具体的に言えないのだろう。
それは愛梨の秘密にしていた能力である手を握るだけで相手の心を見ることが出来るメモリーブラッド。
その心を見られる事を愛梨はすごく私が嫌な事を分かっていて、だから言葉に出せない程、悪いと思っている。
そんな愛梨を察して、
「分かったから」
「・・・」
再び視線をさまよわせ黙り込む。
実を言うと、私も愛梨のそのメモリーブラッドで私の心を読まれていたなんて想像するのも嫌で、具体的にその訳も言いたくないほどだ。
思い出すと、殺してやりたい気持ちにも陥りそうだ。
でも愛梨のその目を見てみると、本当に今まで黙っていて申し訳ないと思っているみたいで、許せる気持ちになった。
それにその力でエリちゃんを助ける事が出来たし、本当に良かった。
とにかくメモリーブラッドとエリちゃんの件は後でゆっくりと話し合わなければいけない。
まあそれはそれで良いとして今日の所は、私も愛梨もお風呂に入る事にする。
そこで気がついたが、お風呂に一緒に入ると言う事は互いに裸になり、それは女同士いつも見られているし、別に気にならないが、問題は愛梨の手だ。
まさかお風呂に入るのにその身につけている手袋をはめたまま入る訳にはいかないだろう。
だから一緒には入ったが、愛梨もその点は気を使っているみたいでいつも愛梨の頭を洗って上げていたが、今日は愛梨は自分からその短い髪を洗っていた。
まあそれも含めて、昨日から私と愛梨の関係が何かぎくしゃくしている感じだ。
こんな私と愛梨との関係初めてだ。
いつも天真爛漫で、周りの迷惑も考えないで巻き込んでいく愛梨とは違う。
多分その手で私の心を読んだのはもちろんの事、その他にも、色々と私に気を使っているのかも。
そんな愛梨にどんな言葉をかけて上げれば良いのか、分からなかった。
食事の時も何かその視線をうつろわせて、悩んでいる様子だ。
食事を作ってくれた聡美お姉ちゃんも心配していた。
でも今はそっとしておいた方が良いかもしれない。
部屋に一緒にいる時、ベットに腰をかけて窓の外のどこか視線を遠くに向けている。
時計は八時を示して、とりあえず、今日の所の宿題はこれぐらいにして、バンドの練習をしようと声をかけたかったが、なぜかかけづらく、私は一人で部屋を出て、外でキーボードの練習をしておいた。
バンドは練習が命の一つだから、一日怠ったら、それを取り戻すのに三日はかかる。
だから愛梨も一緒に練習をしないと明さんやエリちゃんにも迷惑がかかってしまう。
でももしかしたら、愛梨同様、昨日の件でエリちゃんも明さんもそれどころじゃないかもしれない。
にも関わらず私は練習をした。
メトロノームのリズムに合わせて。
でもどうした事か?気が乗らない。
練習する気も失せてぼんやりと遠くを見つめてしまう。
きっとエリちゃんの事で練習に身が入らないのだろう。
だったら、私も気も乗らないし、こんな練習したってあまり意味がないような気がする。
庭から私の部屋の窓を見つめると、愛梨は窓を開けて、身を乗り出して空を見上げている。
名前を呼ぼうと思ったが、今の愛梨に何を言えば良いのか分からず、私はとりあえずそっとしておく。
私はそのまま俯いて、思う。
みんなこのままバラバラになってしまうんじゃないかと。
愛梨が蘇って、またみんなでバンドを再開して、その結束も堅くなったというのに落ち込みそうだった。
私達のバンドは誰がかけてもダメだが、その中心である愛梨があんな感じだったら・・・。
そう思って、倉庫からエレキギターを取り出してアンプにつないで、大音量でかき鳴らした。
愛梨はその音にすごく驚いた反応で思わず、
「うわ」
と声が漏れ、そんな私に注目する。
「愛梨」
とその名を呼ぶ。
「ユウリ?」
私はもう一度ギターをかきならして、愛梨に来いと言わんばかりに、首をしゃくった。
すると愛梨が徐々にその悩みに染まった表情から一転して徐々に、その表情を綻ばせた。
愛梨はいつも私達の練習場所の庭に降りてきて、私は持っていたギターを愛梨に手渡した。
そして私と愛梨はエリちゃんと明さんの録音を元に演奏した。
テンションマックスって感じの愛梨、私達のバンドは愛梨が中心だ。愛梨がいつまでも悩んでいたら、これから私達の演奏を聴く人を魅了する事は出来ない。
それに今、ちょっと私達はエリちゃんの件でブルーだけど、いつまでもそんな事で悔やんでいたって何もならない。
時計を見ると午後八時だが、今は夏休みで、私の家は夜中でも演奏したって誰の迷惑もかからない。だから私は、早速明さんの携帯に電話をした。
愛梨に今呼びかけたら、迷惑なんじゃないかと言われたが、そんなの構わないと思って、明さんの携帯に連絡して、明さんとエリちゃんを呼びかけた。
明さんは「今から?」とちょっと困惑気味だったが、私がちょっと強引かもしれないが、ちょっと無理を言って、エリちゃんと来るように呼びかける。
早速、明さんが運転する原付でエリちゃんを乗せてやってきた。
私はそんな二人に身を乗り出して、
「早速練習しようよ」
すると明さんは、
「まさかユウリに言われるとはな」
唇をつり上げてニヤリと笑う明さんを見て、改めて思う事だが、ドキッと気持ちが高ぶる。
私は明さんに対して特別な感情を抱いていたのを忘れていた。
それとは別に昨日の件をみんなで話し合うのは後だ。
とにかくバンドで人を魅了する目的で結成された私達が、こんなんじゃダメだ。
まあ、私たちはまだ人前では演奏した事はない。
だからこれから私達の演奏でお客さんを魅了したいなら、何度も言うようだが、こんな事で立ち止まっていたらダメだ。
練習がひと段落した時、時計は午後十一時を示していた。
そして私達は部屋に戻り、今日はみんなでお泊まりしながら、バンドの練習に明け暮れたい所だが、私はもう良いと思っているが、やっぱり明さんは納得していない感じで、昨日の事に対して明さんは私達に言う。
「お前等、昨日の件で何があったか何てとやかく聞かないけど、これだけは約束してくれ。
自分でもどうにも出来ないような悩み事や、出来事が合ったら、絶対にお前等の友達である私達に助けを求めろ。
私が言いたいのはそれだけだ」
と明さんはそういって、どうして愛梨がエリちゃんの危機を知ったとか、どうして私がそれを追いかけたのかとか?そういった事情を明さんは聞かなかった。
要は明さんが言いたいのは、自分でもどうにも出来ない悩み事が合ったら、友達である明さんやその知人に言えって。
そんな明さんを見ていると、すごくかっこいいと思って、その姿を見ると、胸が高ぶる。
こんな事誰にも言えないし、誰かに知られたら、もしかしたら死んでしまう程の羞恥を味わうだろう。
そこでハッと気がついて、もしかしたら、この事、愛梨のメモリーブラッドで知られてしまっているんじゃないかと思って、愛梨の目をとっさに見ると、愛梨は私と目が合って、『何?』と言った感じで気がつく。
私はとっさに視線を逸らして、メモリーブラッドの事を考える。
きっと知られている。
そう感じた時、その場で消えてしまいたい、いっそ誰かに殺してもらいたいとも思ってしまう。
何て心の中でもだえていると、
「どうしたんだユウリ」
明さんの声が聞こえて、
「いいいい、いや、いや、いいいやや。別に・・・」
すごく動揺してしまっている。
もはや私の心はパニック状態だ。そこでエリちゃんが、
「どうしたんだ?いきなりそわそわして」
私は「アハハ」何て笑ってごまかすしかなかった。
こんな風になったのも愛梨のせいだと思って、愛梨にその威圧的な視線を向ける。
愛梨はうろたえて、
「何だよユウリ」
とにかく私は落ち着いて、深呼吸をして、気持ちを切り替えて、
「さあ、練習練習」
これからは個人練習だ。
練習だから練習に没頭しようと思ったが、愛梨がメモリーブラッドで私が明さんに対する思いを知っているのか確認したいがそれはやめておいた方がいいような気がした。
私はなぜか愛梨だけの手を握れば愛梨だけの心を読む能力を持っている。
じゃあこの悶々とする気持ち、どうすればいいんだろう。
そんな能力を黙って持っていた事で密かに私の記憶を探って、密かにほくそ笑んでいる愛梨の顔が思い浮かんで、愛梨を殺してしまいたい気持ちに陥りそうだった。
知られているんじゃないか?それとも知らないのか?そんな気持ちが私の心の中でグルグルと巡り、悶々とさせる。
だったらいっそう私の愛梨だけの能力を知る事が出来るメモリーブラッドでってそれはいけないだろう。
何となく愛梨の方を見ると、ギターを弾く時は、そのメモリーブラッドが発動されないようにはめられている手袋を外していた。
外していた事に今気がついた。みんなの気持ちを鼓舞する事でいっぱいで忘れていた。
そんな愛梨と目があって、愛梨はニコッと笑顔で『何』と言った感じで私を見る。
私はとっさにその視線を逸らしてしまう。
何か目を見られているだけでも、そのメモリーブラッドが発動されているんじゃないかと思ってしまう。
愛梨の目をそらした私を愛梨は見ているのだろうか?分からないがとにかく今は愛梨とは距離をとっていたかった。
とにかく練習練習。みんなを鼓舞した私がこんなんじゃダメだろう。
でも人の心を知られるのは本当に嫌だ。
私は愛梨にも知られたくない事はたくさんある。それは愛梨も同じだろう。いやここにいる明さんやエリちゃんだってそうだ。
きっと愛梨はエリちゃんと明さんの手にも触れているから、その心を読んだのだろう。
そういえば愛梨、以前私の手をじっと握っていた事を思い出す。
その時何を思っていたのか分からないが穏やかな表情をしていた。
いやそれ以前、愛梨が死んで蘇った時、明さんとエリちゃんにその喜びとは別に、怒りを受けて痛めつけられた時、海を眺めながら、言ってた。
『二人とも私の事を本当に思っている』
とその泣き顔を見る事は出来なかったが涙を流していた。
どうして愛梨は、この能力を隠していたのか?それが疑問だが、再び愛梨の方を見ると、練習に没頭している。
まあそれはともかく今は練習に没頭して気を紛らわせる。
その後練習に身が入り。色々と話し合い、『こうした方が良いんじゃないか』とか『ここはこうしよう』とか話し合った。
それで練習して、私達は充実してテンションが上がって、その後、練習の頃合いの時、みんなでゲームとか語り合っている時だった。




