ユウリ
<250488|21025>
昔のアルバムを開いて愛梨との思い出に酔いしれていた。
愛梨は私の幼なじみで、私の唯一の親友だったのかもしれない。
幼い頃からの愛梨の写真を見ていると、笑顔でない写真など一枚もない。
本当に私にとって太陽のような存在であった。
好奇心旺盛の愛梨、臆病者の私、渡辺ユウリ。
私が後込みしてしまう事に積極的に突き進み、何度も私を巻き込んだのだが、いざ終わってしまうと案ずるより生むがやすかった事が多かった。
だから愛梨と一緒にいれば安心できた。
喧嘩も強く、私にちょっかいを出してくる男の子を泣かしてしまう程の強さだった。
愛梨は私を守ってくれる私の一番の友達だ。
でも、そんな愛梨は人気があって、愛梨と親しくなりたい友達はわんさかいて、そんな愛梨を取り囲む、友達達にはじかれ寂しい思いもした事がある。
そう言えば、私達が小学校四年の時だった。今でもはっきりと覚えている。
「愛梨のバカ」
と河川敷の川の前で体躯座りをしながら私は泣いていたのだった。
涙なんて誰にも見せられないので、誰も見ていないところで、沈む夕日に照らされながら私は泣いていたのだ。
愛梨はもう私の事なんか、見えていないと思っていた。
私は愛梨のようにうまく笑えないので私には友達を引きつける魅力なんてない。
私は一つ悲しい事を考えると、芋蔓式に悲しい事をふつふつと思い浮かべてひねくれた女の子だった。
そんな時である。
「ユウリ」
背後から私を呼んだのは、紛れもない愛梨だって事が分かって振り向こうとするが、涙なんてみっともなくて見せられないので振り向く事が出来なかった。
「泣いているの?」
そう愛梨に言われて私は今思うと駆けつけてくれて私は嬉しかったんだが、あの頃私はひねくれた性格だったので、素直にそう言えず「何よ」とつっけんどんな態度をとって、その場から走って立ち去ろうとしたのだが、愛梨に追いかけられて、私は転んでしまったんだ。
愛梨に心配され、転んだ私の所に来て愛梨は、「大丈夫」と言われて。
「平気よ」
私が立ち上がると、足をくじいてしまって、とても歩けるような状態ではなかった。
「ユウリ足見せてごらんよ」
「うるさいな私の事はほおっておいてよ」
再び立ち上がろうとするが、やはり立てずに「痛っ」とうめく。
そんな私に恐ろしく心配な愛梨は、
「ほおっておけないよ」
それでも私は歩こうとするが、歩けず、
「ユウリ」
そんな私に困惑する愛梨に、
「私の事はほっといてって言っているでしょ」
大声で愛梨を拒絶すると、本気で心配していた愛梨は私の頬を思い切りはたいた。
一瞬何が起こったのか理解不能な状態に陥り、親にも殴られた事もない私は小さな子供でも滅多に見せない大声で泣いていた。
そんな事をした愛梨の事が許せなかった。
愛梨なんか死んでしめば良いとさえ思った。
でも愛梨はそんな私を負ぶって、
「ユウリ大人しくしていろ」
私は愛梨の言う通り大人しくしていた。
それはまた暴れたりしたら、愛梨に殴られる事が怖かったからだ。
その時思った。
愛梨なんて嫌い。絶好だ。死んでしまえ何て。
でも私を負ぶっている愛梨の表情を見て思ったが、愛梨は私の事を本気で心配していると思った時、愛梨を憎む気持ちから徐々に、愛梨の私に対する優しさがにじみ出てきたのだった。
でも私は、だだをこねる子供のように、
「愛梨には私より、たくさん友達がいるじゃん。本当は私の事なんてどうでも良いと思っているんでしょ」
すると愛梨は、私を威圧的な視線で見つめて、また殴られるんじゃないかと思って「ごめんなさい。ごめんなさい」と連呼して謝った。
すると愛梨は表情をゆるめて、にっこりと笑って、
「ユウリは私の一番の友達だよ」
って。
愛梨は私が寂しがっているのを知ったんだ。
愛梨は誰よりも私の事を知っているから、もしかしたら私が河川敷で悲しんでいるんじゃあいかって、様子を見に来てくれたのだ。
そして私はそこにいた。
そして私は泣いていた。
そして私は私に対する愛梨の優しさを改めて知った。
今思い出すと、こっぱずかしくて甘酸っぱい思い出だが、あの時以来私は本当に信頼出来る友達、いや私の唯一の親友と呼べるのは愛梨だけだと知ったのだ。
その思いを心の寄せると胸が暖かい。
愛梨は歌がうまく歌うのが大好きだった。
それで私の六つ上のお姉ちゃんに私と愛梨をよくカラオケにつれていってもらい、その愛梨の歌声を聞かせてくれた。
あの頃の愛梨はアイドルに憧れて、愛梨は大きくなったらアイドルになるのだと私にだけ教えてくれた。
だから私の夢も教えてあげた。
私は本を読んで空想をするのが好きなので、小説家になる事だと。
そんな私の夢を愛梨は笑わなかった。それに私もそんな愛梨の夢を笑わなかった。
でも私が幼い頃から今に至るまで、密かに描いていた小説を誰にも、親友の愛梨にさえ見せた事がなかった。
そして中学になって愛梨は夢を実現させるために、アイドルのオーディションを受けたのだが、結果は受からなかった。
世の中そんなに甘くない何て笑っていたけど、もしかしたら愛梨はショックを受けているんじゃないかって思ったが、全然そんな様子はなく、愛梨の意識は違う方に向いていた。
それはバンドだった。
愛梨は夢中になると、周りが見えなくなるぐらいに物事に没頭するような熱い子だった。
そんな愛梨に私はバンドをやらないと言われたが、私には向いていないと断った。でも私は幼少の頃ピアノをかじっていたので、ちょっと強引だが愛梨に試しにやって見ようよと言われて渋々だが、やってみた。
パートは愛梨がギターアンドボーカルで私がキーボード。
愛梨はおこずかい三ヶ月ぐらい前借りして、中古の安いエレキギターを購入して、私はいつも優しくしてくれるおばあちゃんにねだって安いキーボードを購入して貰った。
私達が住む所は騒音を気にする事はなく、田舎だったので練習はいつも私のうちの広い庭だった。
愛梨は本当に物事にのめり込むと周りが見えなくなり、夢中でギターの練習をしていた。
私も触発されて、キーボードを懸命に練習した。
初めて音が合った時の嬉しさは計りしれないほどの嬉しさだった。
そして文化祭で、ギターアンドボーカルの愛梨とキーボードの私でオリジナルの歌を披露した。
私たちの歌に興味を持ってくれる人、持ってくれない人もいたが、私は何かビックアーティストになった気分だった。
ちなみに曲は私が作詞をして愛梨が曲を作った。
そして中学三年になり、私たちも進路を決めなくてはいけない時期になったのだが、私と愛梨は別に深く考えず、地元の高校に通う事が決まった。
私は自分で言うのも何だが、学年では上位の成績をおさめていたので、担任の先生から、東京の進学校にいかないかと勧められたが、別に進学校に行ったからと言って、よき人生をおくれるとは限らないし、私の夢である小説家になる夢が叶うわけでもないし、別に愛梨と同じ地元の高校で良いと思って選んだのだ。
まあ小説家になる夢もあるが、愛梨とバンドでデビューしたいと言う夢もあった。
それで進路は決まったのだが、愛梨はあまり勉強が得意ではなく、私と同じ地元の高校に行けるか危うかったのだ。
だから試験間近、私は愛梨の勉強を付きっきりでみてあげて、無事合格を果たした。
愛梨は嬉しそうで、私も愛梨と一緒にいられる事が嬉しかった。
入学式の時思ったが、私たちも必然的に年をとり、愛梨とお別れしなくてはいけない日が来ることを思うと何か切ない気持ちだった。
でもそれは仕方がないことだが、今考える時ではないと思うので、愛梨と高校生活を楽しめれば良いと思ってその事をあまり考えないようにした。
そして本格的に高校生活が始まり、私と愛梨はバンドを組んでいたのだが、学校には軽音部はなかったので、愛梨の提案で、この学校に軽音部を立ち上げようと大きく出た。
愛梨は一度決めたら絶対に曲げないので、その意見に後込みしてしまった私も巻き込まれてしまった。
私は愛梨の後についていけば大丈夫だと思ったのだが、やはり臆病者の私はちょっと不安だった。
でも愛梨は本当にそれを成し遂げてしまった。
そして色々な因果があって、同じ学校の学年女番長の明さんとその明さんに忠実な女の子のエリちゃんが入った。
明さんがベースで、エリちゃんがドラムだ。
明さんは学年女番長で、喧嘩が強くて男の子さえおそれられていた女の子であり、どういう経緯でそうなったかは不明だが、愛梨と喧嘩して、愛梨に負けてしまったみたいだ。
それで明さんと愛梨さんは拳で通じあって、友達になり、明さんをバンドに誘ったのだった。
それについてくるように、明さんを尊敬しているエリちゃんもついてきた感じなんだな。
ベースとドラムが入った事によって、本格的なバンドとなった私達。
明さんもエリちゃんも愛梨のように熱い人で、私も負けていられないと、練習に熱が入った。
リーダーは愛梨だと私達三人は納得できた。
練習が終わると、私達四人はよく町に出てカラオケに行ったり喫茶店でお茶したりして遊んだりもした。
いつまでもこのような関係でいたいと思っていた。
愛梨は私を素敵な所につれていってくれる。
でもやはり私達はいつか人生の分岐点に差し掛かり、別れを余儀なくされる時が必然的に訪れる事を私は恐れていた。
だったらバンドでデビューしていつまでも一緒と行きたいと思ったが、世の中そんなに甘くはないし、仮に夢が叶っても互いに無理が生じてしまうだろう。
そう考えると悲しいし切ない。
私達は子供のままでは生きていけないだろう。
それは大人になれば分かる事だ。
だからせめて高校を卒業するまで、みんなと楽しめばいいのだ。
それに高校を卒業したからと言って、人生の分岐点に差し掛かっても、バンドは続けられる。
まあ夢を追いかけてバンドでデビュー目指すのも良いかもしれないが、さっきも同じ事を言ったが世の中そんなに甘くはない。
とにかく遠い先の事を考えるのはやめて今を楽しもうと言い聞かせる日々の中、とある夏の兆しに当たる梅雨の季節に愛梨は帰らぬ人となってしまったのだ。
その話を聞いて、私はひどい冗談だと思いたかった。
いや信じたくなかった。
だがそれは紛れもない残酷な真実だった。
その真実を受け入れた時、悲しみを通り越して目の前が真っ暗に染まって、絶望に陥った。
愛梨の通夜は行われたのだが、私は行けなかった。
ショックで数日間学校には行けなかった。外にも出れなかった。
私も愛梨の後を追いたいとリストカットで自殺をしようと思ったが、なぜか死ぬ事を恐れて、出来なかった。もはや死ぬ事しか考えられなかったが、私は死ぬ事をなぜか恐れてしまった。
とにかくこのまま引きこもっていたらお母さんやお父さん、お姉ちゃんにも心配をかけてしまうので、とにかく外に出て学校には行った。
同じクラスの友達は、そんな私を察して、そっとしておこうよ何てひそひそと聞こえてきた。それに同じバンドの明さんもエリちゃんもそっとしといてくれたんだな。
私はみんなに気を使われている。みんな優しい。そんなみんなには悪いが、愛梨の死の悲しみからは逃れる事は出来ずに、授業中も休み時間もお昼時間も頭を垂れて黙り込んで座っていた。
そして今日、愛梨が亡くなって一ヶ月が経過して、夏休み前日。
いつものように頭を垂れて座り込んでいた私の前に、明さんとエリちゃんに校舎裏につれて行かれた。
乱暴にも胸元をつかまれて壁際に押しつけられて、その鋭く光るような瞳を突きつけられ私は明さんに言われた。
「てめえいつまでそうしているんだよ。黙ってみてれば、てめえいい加減にしろよ」
明さんなりの優しさだとは気づいていたが、そんな明さんは怖いし、愛梨が亡くなった事の悲しみが増幅して、涙が止まらなかった。
まともに目も合わせられず、私は黙っていた。
そんな私を見て明さんは、
「黙ってないで何とか言ったらどうなんだよ」
と罵られてしまった。
自然と震えてきて、何も見たくないし何も聞きたくないので思い切り目をつむって両手で耳を押さえていた。
明さんは堪忍袋の緒を切らして、私の手をつかみあげた時、後ろからエリちゃんの声がした。
「明さん」
それはもうそれぐらいにしたらと言うような感じの台詞だった。
「くっ」
と吐き捨て思い切りつかんだ私の腕を離して、私は尻餅をついた。
私の事はもうほおっておいて欲しかった。
明さんは何も言わず、背を向け行ってしまった。
そこで明さんを慕うマブダチ的のエリちゃんが、
「愛梨が死んで、明さんもうちも辛いんだよ。それに明さんも、うちもいつまでもお前みたいにうじうじしている人間が一番嫌いなんだよ。
とにかくユウリ、その気があるなら明日ここに来い」
そう言って私に一枚の名詞のような紙を胸ポケットの中に入れて、明さんの後を追って去っていった。
私はその場でしゃがみ込んで目をつむって、耳を塞いで震えていた。
もう何も見たくない。もう何も聞きたくない。
「私の事はもうほおっておいて・・・」
と私は連呼していた。
動きたくもなかったが、とにかく家まで帰り、部屋にこもって布団にくるまって泣いていた。
私の事はもうほおっておいて欲しい。
でも何だろう?さっき明さんとエリちゃんに言われた言葉が頭の中でかけ巡った。
聞こえないようにしたいが、それは耳にこだましているのではなく、心にこだましているのでそれを塞ぐ事は出来ない。
でもその事もいつか忘れて気にならなくなるだろう。
だが、私はそれでいいのか?
あんな乱暴な言い方だが、明さんもエリちゃんも意地悪をして言っている訳じゃない。
あれは私に対する思いやりだ。
愛梨が亡くなって悲しいのは私だけじゃなく、明さんもエリちゃんも同じだ。
明日から夏休みだ。
ずっと引きこもっていたい。
でも夏休みが終わったら学校が始まる。
そう考えると、今度、明さんやエリちゃんにどんな顔をすればいいのか分からなくなる。
じゃあ私は死んでしまえばいいんじゃないかと思ったが、死ぬ事の恐怖に私は苛む。
じゃあ、何で愛梨は死んでしまったの?
私の一番の友達で親友である愛梨。
死因は溺死だったと聞いた。
不慮の事故に神様も残酷だ。
もうどこにも行きたくない。ずっと愛梨を思っていたい。
それで私は気がつけば思い出を記録する愛梨との写真を眺めていたのだ。
愛梨を感じていたい。
でも愛梨は死んでしまった。
その真実が私のその思いを打ちひしぐように絶望の淵に落とされるかのような気持ちにされる。
私はどうすれば良いの?
そんな時、乱暴な言い方だったが、明さんとエリちゃんの優しい思いが頭に浮かんだ。
でも怖い。
でも私は行かなくてはいけないような気がする。
このままではいけない。
愛梨、教えてよ。
そう思っても、写真の中の愛梨は笑っているだけだった。
先ほど、エリちゃんが私の胸ポケットに入れた一枚の名詞を取り上げて見た。
そこは隣町にある小さなスタジオだった。
行く行かないかは私が決める事だろう。
行かなくては二人を裏切るような感じで罪悪感に苛みそうで怖い。
だったら行った方がいいんじゃないか?
でも怖い。
でも行かなくてはいけない。
行くも行かなくても、どちらも怖い。
どうすればどうすれば。
私の中で激しく葛藤する。
そこで思い出す。オリジナルの曲を打ち合わせをしていた喫茶店で話し合った時のみんなの反応を。
「この曲お前等が作ったのかよ。最高じゃん」
明さんが絶賛する。
「まあ、正確にはユウリが作詞で私が作曲編曲したんだけどね」
と鼻高々の愛梨。ちなみに私はたいした事はないと思っていたが、明さんにそう絶賛されて、嬉しかった。
明さんはうっとりとした表情で私に言った。
「ユウリの詩って聞いていると何か勇気が沸いてくるな」
って、あの時、明さんにそう言われて私はすごく嬉しかったんだ。
明さんに誉められた事は愛梨以外に初めてだった。それに続くようにエリちゃんにも誉められた。
その事を思い出すと、愛梨に対する悲しみが少しだけ癒された感じがした。
でも明さんに愛梨といつもべったりとしている私にこうも言われた事もあった。
「お前は愛梨がいなきゃ何も出来ないのかよ」
って。
その時は愛梨が、まあまあと言った感じで治めてくれたが、私の中でネックになって夜、ちょっぴり悔しい気持ちに悶々とした事もあった。
改めて考えると、愛梨が亡くなった悲しみは別として、すごく悔しい気持ちに陥った。
でもそれは、今朝も同じように明さんは言っている事はきついが、決して意地悪で言っている訳じゃない。
でも悔しい。明さんをぶっ飛ばしてやりたいと思ったが、私は愛梨みたく強くもないし、思っただけで私にはそんな勇気なんてない。
そうだよ。私は愛梨がいなきゃ何も出来ないんだよ。
そう自分に言い聞かせようとすると、なぜか私の心が拒絶するように嫌な気持ちに陥った。
でも私は愛梨がいないと何も出来ないとそれでも言い聞かせようとするが、何かそんな自分が嫌だ。
私はどうすれば良いのか?答えは簡単だ。
明日エリちゃんに誘われたスタジオに行くべきだと。
でも恐ろしく怖い。
そんな悶々とした気持ちの中気がつけば、私はいつの間にか眠ってしまったのか、朝を迎えていた。
そしてたどり着いた答えは、恐ろしく怖いがエリちゃんに誘われたスタジオに行くことだった。
私は明さんが言う『お前は愛梨がいなきゃ何もできないのかよ』何て思われたくない。
でも私の弱い気持ちは明さんの言う通りだと、開き直って、いつまでも引きこもっていたいと言う気持ちも存在していた。
私の中で強く生きようとする気持ちと、逃げ出したい弱い気持ちが私の心の中で戦っている感じだ。
私の心の中ですくっていた弱い気持ちは本当に手強い。
色々な誘惑な気持ちが思い浮かび、強く生きようとする私の意志を打ちひしごうとしている。
でも私はその気持ちに負けてはいけない気がする。




