22 壁に白い妖精
※前話の冒頭部に加筆しました。
前作のカイル視点バージョン。
【冒険者ランクの解説】
G=10歳~見習い登録
F=12歳~仮登録
E=15歳~新人冒険者
D=一般冒険者
C=ベテラン冒険者
B=一流クラス(各都市のギルド支部長等)
A=英雄クラス(各国ギルド長等)
S=名誉ランク(ギルド総本部の総長や役員等)
見習い登録は年齢が上がるまで、ランクアップしません。
12歳で仮登録してもFEまでです。
15歳で本登録。開始はEからです。
GFは町内のクエストのみ受注できます。
Bに昇格するには、試験あり。
◇◆◆◆◆◆◇
Bランクからが少人数で、[凄い冒険者]って感じです。
強い魔物や魔族に対しては、国や教会の騎士団や魔術師団、勇者、Bランク以上の冒険者達への依頼で共同討伐をする感じです。
王都に
《スラムはある》
《スラムはない》
これは、どちらも正しい。
外壁の外側に、テントや、馬のいない古びた箱馬車、廃材で作った掘っ立て小屋…そんな物が集まるエリアがある。
北門と東門の中間くらいの場所だった。
王都であって、王都でない。
領土は王都だが、門の外は税金の対象外だ。
当然、国は把握してるが、現状は目こぼししてる。
わざわざ取り締まらなくても、そのうち魔獣にでも殺られればいいと、思ってるんだろうな…
住みたくて住むやつなんていない。
中に住めるなら、皆、住みたいさ!
きっかけは、兄貴の怪我だった。
俺達はC~Dランク6人のパーティーだった。
王都西側の[恵みの森]で、薬草採取と、ゴブリン討伐依頼を受けていた。
奥の貴重な薬草を採取し、依頼にあったゴブリンの小規模集落を討伐した。
小規模集落とは言え、数十匹の集団戦は、疲れた。
そこをコボルト数十匹に攻撃された。
疲労が回復する前、突然だった。
俺が居た側からの攻撃で、コボルトが集中してきた。
何匹かは対応出来るが、数が多くて洩れが出た…
《ヤバい!》
その時に兄貴が割り込んでくれて、俺の致命傷は避けられた。
ただ、命は大丈夫だろうが、兄貴が足をやられた。
そのまま戦闘が続き、兄貴の傷は酷くなる一方だった。
パーティーは、ギリギリで連戦を勝利した。
王都に無事到着し、分配してパーティーを解散した。
治療が長引きそうだったから、しょうがない。
初めは宿に居たが、王都の宿は高い。
2人分の宿代や食費、兄貴の治療費で、金がどんどん消えた。
安宿は住民に紛れたヤバいのが多い、そんな所にケガした兄貴を1人残すのも心配だった。
比較的ましな東スラムに移る選択肢しかなかった。
西スラムは犯罪者が多いが、東スラムは俺達みたいなのも多いからな。
知り合いを探して、その近くにテントを張り滞在した。
ケガ人だけ残して行くのはヤバい。
だから、知り合い達と交互に稼ぎにいったりする。
その日は、俺が仕事に行く日で、知り合い達が滞在してくれていた。
1人で受けれる討伐を終え、薬と食料品を買って戻ろうとしたら、壁が塞がってた…
人が挟まってたんだ…
俺も、自分が見なければ信じられなかっただろう…
挟まってたのは、色白でふっくらした可愛い子供だった。
しばらく挟まってたんだろう。
俺を見ると、安堵の表情を浮かべた。
次いで、無邪気な笑顔!
それから、恥ずかしそうに蒸気した、赤い顔。
《か、可愛いいなぁ~》
変化する表情が全て愛くるしい!!
こんな所にいて、よく拐われなかったな!?
「助けて!お兄さん!!」
可愛いい子供が、上目遣いに必死に頼み込んできた。
ゾクリと感情が体に走る。
「…は、挟まっちゃって、出れないんだよ~!?」
少し高い少年の声は、女の声よりは低く、耳に心地良い。
「…どうしたんだ?」
何故、挟まったんだ?と聞いたら
「亀裂があったんだよ!
王都の外には行った事がないから、チラッとだけ見ようとしたら、隙間に入り込んじゃって!?
出れないの!
お兄さん、助けて!
戻りたいから、引っ張って!」
人を疑わず、助けてもらえると信じている、無邪気な様子に驚く。
幼児でも、この子より用心深いぞ!?
どんな育ち方をすれば、ここまで無邪気に育つのだろうか!?
しっかり挟まった子供は、引っ張った位では、出れない。
時間がかかりそうだ。
子供が聞きたがる冒険者の話をしながら、助け出す事にした。
革手袋をして手の甲を保護し、子供の体を押しながら、少しずつ手前に体をずらす。
《柔らかい!女の尻や胸より、余程。》
柔らかさと、弾力、革のない指先に触れると吸い付く肌、もちもちで気持ちが良い。
こんな肌は、触った事がない。
ゆっくり、慎重に行った。
腹も、腰も、尻も、それぞれに触り心地が異なり、甲乙つけがたい。
腹は特にヤバかったな。
初めは服の上にある手も、いつの間にか服がずれると肌に触れてしまう。
下に、更に下へと、動かしそうになる。
こんな子供にしてはいけない!
理性を働かせつつも、理性が働いているのか、疑問になる。
時間をかけ、慎重に助け出した。
キズがないか確認した肌は、服から出ている顔や手よりも一層白く、シミやキズひとつない美しさだった。
「お兄さん、ありがとう!」
満面の笑顔でそう言われた。
そのまま別れたくなくて、子供に帰り道が分かるか確認する。
聞いて良かった。
帰り道が分からない様だ。
このまま、この子を1人にしたら、すぐに拐かされそうだ。
何とか無事に帰したい…
子供に覚えている場所の特徴を聞くと、知っている場所だった。
はぐれないように手を繋ぐ。
その手のか弱さ、柔らかさに驚く。
そっと、でも離さないように、しっかりと。
手を繋いで歩きながら、今度は子供の話を聞く。
連れが消えたと心配していたが、消えたのは子供の方だろう…
こんな可愛い子供だ、さぞや必死に探しているだろう。
元の[止まり木亭]で待っていると、必死な様子の初老の男が来た。
見覚えがある。
久しぶりだが、その人はザックさんだった。
子供も落ち着いたし、引き渡しも済ませた、さあ帰ろうと思っていたら、子供が必死に話かけてきた。
そして思いがけない提案をうけて、泊めてもらう事になった。
しかも、高価なポーションまで貰ってしまった。
ああ、兄貴に何から話せば、信じて貰えるだろうか…
可愛い白い妖精との、出会いからだろうか!?




