21 下町探検家(決して迷子ではない!)
勇者が初めて宿に来て、2回目に来る前の事。
太郎は馬の世話をザックさんに聞きながらしたり、市場へ買い物に行きながら馬車の操縦を練習したりしていた。
いきなり操縦は出来ないので、操縦席に座るザックさんの膝の間に座り、一緒に操縦をしていた。
2~3日は備品作りをして宿の準備をしていたが、
『これはダメだ!』
『こんなの出したら、大騒ぎになるよ!?』
ザックさんとヒッピに、備品のダメ出しをもらって、客室や浴室、洗面所等からシャンプーやタオル、ハンドソープ等を回収した。
太郎は宿の準備に飽きた…
もとい、
宿の準備の合間に、気掛かりだった《ロイじいの家》に、ヒッピに連れて行ってもらった。
無論、ザックさんも一緒だ。
大八車の様な、手押しの木製荷車を作り、その上に料理や食材を一杯!
これで、追い返される事はあるまい!!
荷車の前でザックさんが引いて、ヒッピが後ろから押す。
僕はヒッピの横で、案内を聞きながらついて行く。
完璧なフォーメーション!
…迷う要素は無かったハズ…
うむ、迷子ではないな!
不思議な事に、目立つ荷車も、ヒッピも、ザックさんも、居なくなってたんだ!?
目の前から、突然消えるというミステリー!
っ、召喚されちゃったのかもしれない!?
心配した僕、仕方ないよ!?
僕も召喚された事があるんだ!
ザックさん、ヒッピに起きても不思議じゃない!
必死に探し回った!
全然、見つからない!
異世界か!?
異世界に行ってしまったら見つけようがない…
結構、ぐるぐる歩いた…
気が付いたら、外壁の前まで来てた。
目の前に壁。
そして亀裂がある。
人がギリギリ、通れそうな亀裂だ!
ところで僕はまだ、王都の外側を、見た事がない!
溢れる知的好奇心!
そんな知的な僕が、行動を抑えるのは難しい。
この状況、誰もが、外を覗くだろう!
自己認識は、時に、現実と異なる…それを忘れていた。
人がギリギリの隙間、
人よりぽっちゃりした僕…
悲劇が起こった。
挟まったんだ。
…お腹が。
人間は、頭の厚みと、肩幅が、1番大きいって、何かで聞いた様な…
何故、腹が!?
もがいても、もがいても、抜け出せない。
力尽きた僕は、じっと挟まってた。
もう、どうしようもない。
ザックさんかヒッピが、そのうち探してくれるだろう。
それか、親切な人が通らないか…
30分位、挟まってた。
体感では、3時間にも感じる長い時間だった。
親切な人が通りかかった。
優しげなお兄さんだ!
焦げ茶色のもしゃもしゃ(緩やかなウェービィ)ヘアのお兄さんは、優しかった!!
助けてもらったよ。
引っ張っても出ないから、革手袋をしてから、お腹や背中、お尻のつかえた所を痛くない程度に押しながら、パーツ毎に少しずつ動かして、20分ががりで出れた!
お兄さんが丁寧に助けてくれたから、怪我も無かった!
「お兄さん、ありがとう!!」
ここを通って、出入りしてるみたいで、邪魔だったみたいだ。
お兄さんは、冒険者で薬や食料品を買って、外壁の外で待つ怪我したお兄さんの所に戻ろうとしてたみたいだ。
冒険の話も少し聞けた。
大変そうだが、ロマン感じる職業だな!
僕がチート持ちだったら、冒険者になって《俺Tueee》チートで、異世界転移物っぽくなれたかな!?
…反射神経も、運動神経も、性格も、向いてないよな。
想像の中でも、無理だった。
人には向き、不向きがあるよな!?
自分を慰めた。
お兄さん達のパーティーが魔物討伐の帰り道に、別の魔物に襲われて、お兄さんの所に魔物が集中してお兄さんがピンチな所を、お兄さんのお兄さんが庇ってくれたけど、お兄さんのお兄さんがケガをしてしまった。
…早口言葉みたいになる。
カイルさんのお兄さんのアルさんが、庇ってケガしたんだな?
冒険の話を聞いてて、混乱したから、頭の中を整理する。
「冒険者、かっこいいだけじゃなくて、大変なんだね!?」
「まあね。危険と隣り合わせだからね」
カイルさんが、苦笑いする。
「ところで太郎君は、1人で帰れるの?」
「…ここが何処だか、よく分からないや。帰るところは…」
宿の住所、知らないや…
答えに詰まる。
「何か、目印とか分かるかな~?」
カイルさんが、優しく促してくれる。
「う~ん、東北地区で、廃墟みたいになってた古い宿なんだけど…」
知ってるかな!?
首を傾げて聞いてみる。
「あ~、止まり木亭の!?」
「元の名前は、知らないや…。お兄さん、場所分かる?」
「分かるよ!連れてってあげるよ」
「本当!?お兄さん、ありがとう!」
良かった!
助けてくれたカイルお兄さんが、知ってる宿で。
はぐれないようにと、お兄さんと手を繋ぐ。
王都は初めてで、まだ宿に来て数日だと話した。
一緒にいた2人が、突然消えたことも話した。
再会出来るといいんだけど…
心配だよ。
お兄さんと手を繋いで宿まで戻って暫くすると、ザックさんに再会できた。
2人と荷車が突然消えたと話すと、
「太郎がだろ!?」
と、ザックさんに言われる始末。
やれやれ、心配したんだぞ。
ヒッピの無事も確認した。
荷車と一緒に、ロイじいの家にいるらしい。
「これからは手を繋いで歩くぞ!」
と言われたが、これで2人が消える事は無いだろう。
僕も安心出来る!
突然の召喚は、怖いからね!?
ザックさんと、カイルさんは知り合いみたいだ。
僕はカイルさんに、聞いてみた。
「壁の外って、危なくないの?」
「そりゃ、危ないよ。
ただ、兄貴は働けないし…
1人で薬代や2人分の宿代、食費までは、稼げないしね。
仕方なく…だよ」
苦笑いしながら、教えてくれた。
なら、誘おう!
「じゃあさ、カイルさんとアルさん、ここに来ない?
開業前だからお金は要らないよ。
準備中だけど、部屋は使えるしさ~」
「っ、いいのかい?」
「うん、助けてくれたお礼だよ。
ザックさんの知り合いなら、身元も安心だしね!?
これから出掛けるから、夕方、お兄さんと来てよ。
後、この薬をお兄さんに試してみてよ」
ポーションを1本、カイルさんに渡した。
「荷物は多い? 2人で運べる?」
「大した量じゃないから、大丈夫だよ」
「じゃあ、夕方に。
裏門横の扉は開けておくから、お兄さん達が先だったら、入って庭で待っててね」
再会を約束して、お兄さんと一度別れた。
食べ物はあるし、ヒッピは向こうで食べてるだろうと、ザックさんが言う。
僕達も、そのまま宿で、昼食にした。
ザックさんと、しっかり手を繋いで、ロイじいの家に向かった。




