13☆ボロ宿 ビフォー&アフター
宿を、呆然とみた。
隣に立つザックさんに、無言で顔を向ける
「…地図で確認した。ここで間違いない」
憐れみの表情を浮かべながらも、きっぱり断言した。
反対の隣をみると、
ヒッピが顔を背けて、頭を抑えてる。
《やっちまった》感、半端ない!
ヒッピが何度も確認してきた意味が、ようやく分かった…
さっきまで生まれて初めての大きな買い物に、舞い上がってたよ。
今は急速に、弾け飛んだけど…
うっ…、仕方ないよね…!?
18歳、高校生だもの!
土地や、建物の購入手続きなんて、初めてだったんだもの!!
『…ぅう~、うわぁ~ぁん!』
僕の頭の中に住む[小人]が、僕に代わって、悲鳴をあげる。
さらにヒッピの小声が、追い討ちをかける。
「 ぁぁあ、信じられない。 …前より、さらにボロくなってた。廃墟じゃんかっ! …物件、見もしないで、契約書にサインしちゃうんだから… 」
せっかく励まし、気持ちを盛り上げようとしたのに…
ヒッピがトドメを刺した!
致命傷だよ!?
うぅ、泣きそうだけど、泣いてもしょうがない。
《パアッ~ン!!》
頬っぺたをおもいっきり叩いた。
気合い注入だ!!
何とかしなくちゃ!
ほ、本当に、何とかしなくちゃ!
考えろ、考えるんだっ!
自分にハッパかける!
…考える。
あっ、思い出した!
チェックした後、桃を食べた…くらいで、忘れかけてたけど。
【生活魔法】と【桃チート】があるじゃないかっ!!
…生活魔法も、お風呂に入れないから[清潔保持]に使ってた位だったけど。
自分が【魔法のある異世界にいる】ことを、思い出した!
まずは、結界だ!
安全は必須。
敷地をぐるりと回りながら、桃の種を埋めていく。
四隅だけじゃなく、一定間隔で沢山!
幸い、種は沢山ある。
何せお腹が空いて、食べてたからな!?
上妻や小出も、一緒に頑張ってくれたからなっ!
埋めたら、神様に祈る。
後、大じいちゃんにも祈っておく。
何か桃を通じてなら、大じいちゃんには、祈りが届きそうだから!
僕に災いとなるものが、入れませんように…
僕に悪意や敵意を持つものが、入れませんように…
僕に一切の攻撃が、通じませんように…
この敷地や建物の中にいる、僕と、僕の味方、大切な人達が、安全に、心身健やかに過ごせますように…
桃の種だし、桃の神様かな!?
《桃神様、頼みます!!》
《大じいちゃんも、頼みます!》
真剣に祈った。
そりゃあ凄まじく、真剣に祈った!
頼りの無い世界で、他に頼りは無いんだ。
働く当てが無かったら、200万円の一時金なんて、1年足らずで無くなるだろう…
仕事が、お金が、無くなった時が、
生命の危機に即直結するんだ。
…淀んだ空気が浄化されたかのように。
…爽やかな風が、舞ったように感じた。
うん、多分、大丈夫!
桃神様に届いたと思う。
後、大じいちゃんにも!
結界の次は、掃除だ!
こんな埃だらけじゃ、確認に入るのも躊躇うよ。
僕は掃除が行き届き、新・築・同・様・に綺麗な宿をイメージして、生活魔法をかけた。
おっと、修繕しなくても大丈夫そうだ!
新・築・の・宿・に見えるよ!
これなら、中に入っても、問題ないな。
何故だか、2人がまだ呆然としていたが、僕は中に入った。
《おっ!》
実際に見る前のイメージ通りだ。
部屋には水回りが無いな。これじゃ、不便だよ。
後で、間取りを考えて、リフォームしなくちゃな~
1階、2階、3階、屋根裏と見回り、下におりたら厨房や地下倉庫っぽい場所を見る。
地下倉庫なんて、聞いてなかったから、得した気分だ。
裏から庭、馬小屋を見る。
庭、馬小屋と、次々に生活魔法をかけた。
庭の草が無くなったら、殺風景になった。
桃でも植えておこう♪
《桃・栗3年、柿8年!》
早くて3年かな。
桃の収穫を楽しみに、後、今日の記念に、桃の種を数個、庭の一角に植えた。
うん、大丈夫そうだな!!
安心しながら、やることを考える。
間取り考えてリフォーム、水回りは、必須だ。
後は家具の変更。
特に、ベッドはひどい。
固くて、寝心地が悪そうだ。
絶対、何とかしよう!って、心に決める。
他に、買うのは…
食器や、調理器具、食材かな!?
一番お金のかかりそうな修理が、掃除ついでの生活魔法で何とかなって、良かったよ♪
不便を解消するためのリフォームなら、予算に合わせて、順番にすればいいだろう…
僕は、一安心した。
200万円じゃあ、あそこまでボロくなった住宅の改修費に足りない事くらい、僕でも分かる!
心軽く外に出ると、まだ、馬車の前で、ヒッピもザックさんも立ってった。
「中に入ってくれても、良かったのに…」
って、2人に声をかけたら。
ザックさんが
「あ~、何だ…? 今のは何だ!?」
って聞くから
「ん? 何って、生活魔法ですよ!? 生活魔法。
たいした事ないですよ。
このスキルが役立たずで、僕、追い出されるんです。
でも、役に立たない、ショボいスキルって言われても、やっぱり、魔法って便利ですよね。」
って、話した。
剣と魔法のファンタジー世界の住民が、魔法に驚くとは、これ如何に!?
何を今更って、思ってしまう。
生活魔法は、城関係者も知ってるし、秘密じゃないから、いいよね!?
追い出されるくらい、平凡なんだろうし。
2人共、僕の身辺につくんだから、スキルの事も聞いてるだろうに…
鍵をかける。
皆との約束を守るため、ヒッピに声をかけ、ザックさんに馬車を動かしてもらった。
疲れたのか、帰り道のヒッピは無口だった。
僕は昼寝したから、平気!
見損ねた、王都の町並みを見ながら帰った。




