12☆ヒッピとザックさん
皆と朝食を食べる。
皆が訓練してるからかなぁ?
明らかに、食事が改善してきてるよ!
《よしよし!!》
笑顔で食べる。
美味しい物を食べる時、自然に顔が綻ぶ♪
昨日、宰相の後ろでメモをしていた、下っぱ文官が現れた。
フィリップ・ロイラーだと名乗りながら、
「気軽に、ヒッピと呼んでね!」
と、笑顔で元気に挨拶された。
うん、感じがいいね!
ヒッピは170センチ位で細身。
僕より5センチ位背が高く、体重は…まぁ、軽そうだ。
この国で僕より背が低い人、まだ見たこと無いんだけどさ…
茶髪にソバカス、親しみやすい笑顔。
歳が近そうだと思って聞いたら
「15歳、文官になったばかりなんだ。あ、でも12歳から見習い文官で、ずっと働いてたから、仕事は3年目だよ。任せてね!」
って、応えてくれた。
昨日の今日で手配済みとは、なかなか手際がいいねっ!?
今日はギルドでの手続きや、物件に案内してくれるらしい。
男子達が心配してくれるが、兵も1名つき、護衛と馬車の操縦者を兼ねるとの事だ。
宰相から
《上妻や小出にも、最初の1カ月は訓練に、毎日参加して欲しい》
との話を言付かる。
その間は文官と兵の2名が僕につく。
僕にもこの国の事や、一般常識の教育をしてくれる。
無論2人には、訓練に参加する他の勇者と同じ賃金を出すし、その後の待遇に変わりないとの事だった。
護衛の兵は、裏の広場に馬車を用意していて、すでに待機してるらしい。
心配した男子達が、食事が済んだ順番に、ぞろぞろ見に行った。
僕も、朝食を済ませてから、後に続いた。
馬車は簡素な荷馬車だった。
ずっと徒歩だったし、長時間歩かないでいいなら、これで充分だ。
兵はザック・モーガンさん。
《ザックと呼んでくれ》と言われたが、明らかに年長者で、感じの良さそうな人である。
呼び捨てはハードルが高かったから《ザックさん》で、落ち着いた。
ザックさんは175センチ位。
細身だがよく働く人特有の、しなやかな筋肉質。
兵って言ってたけど、騎士とは別らしい。
警察官と、自衛官みたいな感じなのかな?
赤色の短髪。
清潔感があり、穏やかで、誠実そうな顔をした、一緒にいて落ち着く感じの、おじさんだ。
思えば、この国で出会った人達は、やたら大きくて、偉そうにしてて、キラキラかムキムキの人達ばかりだった。
4日目にして、ようやく普通の、しかも誠実そうな人達に出会えた!
僕は男子達を説得した。
この人達なら、大丈夫だと思うから。
これでも、人を見る目はあるよっ!
夕方には帰ってきて、夕食の時に報告するのを約束して、皆をなんとか訓練に送った。
ヒッピが、今日の予定を話す。
まずは、商業ギルドに手続きにいく。
ギルドで、国への手続きも全部出来るらしい。
手続きが済んだら、鍵を受け取り物件へ。
物件に向かう途中で昼食や買い物をしながら、王都を簡単に案内してくれるって。
楽しみだな~
荷馬車は揺れるけど、耕運機での畑作業で慣れてるから、揺れは平気だ!!
敷地内なら、僕でも手伝いできるんだ。
父ちゃんは忙しいし、じいちゃんは腰が痛くなるからね。
馬車の操縦席と荷台には、遮るものが何もない。ヒッピやザックさんと話しやすいし、風がそよそよと気持ちいい。
馬車は、ゆっくり自転車に乗ってる時くらいのスピードだ。
道は石畳だし、街の中は人も多いから、飛ばせられない。
のんびり行こう。
ヒッピがいろいろ教えてくれる。
「王都は、中心部に王城があって、その周りが上街。
貴族の屋敷。
王族や貴族向けの超高級店。
王の親衛隊や、王族や王城警護の近衛隊の建物や訓練所。
大商人の館とかがあるんだ」
「今から渡るのが、堀川だよ。
ぐるりと一周、王都内にあるよ。
橋の両側に警備兵と護衛騎士がいて、両側でステータス・チェックしてるんだよ。
庶民は上街からの許可書がないと、まず入れないよ。
でも今は、宰相さまが発行してくれた書類があるから、大丈夫!
ここからが、下町だね。
庶民向けの店や、宿、家があるんだ」
僕達も順番に橋の両側で、ステータス・チェックを受ける。
2人は、胸元のピンズ(?)も提示してる。
職業毎に紋章のデザインが違い、ステータスと一致してるか、確認されるらしい。
書類も、ヒッピが提示してる。
橋の門も、王都の門も、夜には締めてしまう。
朝晩、最初と最後の鐘が合図だ。
「今、南に向かってるよ。
門は東・西・南・北、四方にあるんだ。
内門、外門があるから、全部で8ヵ所だね。
内門は橋って読んで区別してるよ。
北門は普段閉じてて、あまり使ってないかな。
外の南門が大門って言って、一番出入りが多いよ。
大門から南橋にかけてが、大通り!
ギルドや、高級宿、大商会の店、一般向けでも高級品を扱う店が多い、賑やかな所だね。
北は工業エリア、職人の工房や個人店が多いね。
東西は、普通の家や宿、市場、個人店が多いよ」
「あ、あれが商業ギルド。
麦穂と金貨がマークだよ。
斜め向かいの、ドラゴンに剣が、冒険者ギルド。
王冠と剣=騎士団、王冠の入った盾=近衛と親衛隊の印だよ」
騎士団は、王や王家、国の剣として戦うから。
近衛と親衛隊は、王や王家を守るから、盾のデザインなんだって。
金の王冠が、王を守る親衛隊。
銀の王冠が、王家(王族)や王宮(プライベート空間)、王城(社交、公務で使用)を守ってる、近衛騎士団。
馬の世話があり、ザックさんは馬車に残る。
僕はヒッピに続いてギルドに入った。
◇◆◆◆◆◆◆◆◇
ギルドでは個室に案内された。
ここで説明されて、手続きをする。
事前に話が通っており、スムーズだ。
まずは商業ギルドの説明、ギルドの費用、国の税金について、規模や種類によって異なる為、詳しく教えて貰った。
商業ギルドは、商売に関わる全てを仕切ってる組織だ。
庶民の小遣い稼ぎの1日露店から、外国と商売する大商会まで、対象は広い。
商業用地や店舗の売買、貸出をしてて、不動産屋の一面もある。
税金を代理回収して納めたり、手続きを代行したり、市役所や勤務会社の様な一面も。
ギルド登録料について。これは登録種類によって異なり、僕のは高い方だった。
登録料は、
【1日露店=小銀貨1枚】
【1月露店=銀貨5枚】
【1年露店=銀貨35枚】
【国内行商=金貨1枚】
【国外行商=金貨10枚】
【国内店舗=金貨10枚】
【国内国外店舗=金貨50枚】
まで細かくある。
フリーマーケットの1日1000円の出店料~国際企業の出資金5000万円まで、って感じかな!?
年会費は1日露店と1月露店以外は、毎年登録料の1/10を払う。
税金は1日露店以外は、登録料の1/2を払う。
短い期間で登録しても、何回も再登録して期間が長くなれば、追加費用が発生する。
売買による名義変更は、新規扱い。既に加入している人が購入した時は、一律手数料。
権利の相続・贈与は、一律手数料。
それぞれ1/20が手数料となる。
人頭税は、居住地によって変わる。
王都(下町)=金貨2枚
※ 上街は、城が管理。
下級貴族だと、なかなか許可されない。費用は、個別審議。
各領都=金貨1枚
門があって、安全な場所は高い。
街~町=銀貨数十枚。門のあるなし、門の耐久性で変わる。
村=銀貨10枚。柵がある程度だから、安い。
200万円~10万円か…。凄い差だなぁ…。
日本でも、住む場所によって住民税は変わるけど、ここまでは…。
露骨に違うのは、命の安全に直結してるから…、なんだろうな。
登録や税金の手続きが済んだ。
分かりやすく説明してくれたけど、難しい話に頭が疲れた。
宿の名前や営業開始日を決めたら、また連絡に来る必要がある。
来年からは商業ギルドに来て、自分で手続きするのか…。
来年も、この国にいるのかなぁ…
宿の購入手続きに移る。
僕の希望と国の予算が、一致するのは1件のみ。
下町の郊外で北東側。
敷地も広く、馬車を数台停めれて、さらに旋回も行える。
少し荒れているが、小さな畑もある。
裏庭に井戸、20頭は入る馬小屋。
宿は木造3階建てに、屋根裏がある。
1階が食堂で数十人が1度に入れる。
2階3階が客室。食堂と同規模が泊まれる。
屋根裏は従業員の部屋に丁度良いらしい。
聞けば聞く程、希望通りだった。
ヒッピが《良いのか》と、小声で何度か聞いてきた。
中古とは言え、なかなかの物件に聞こえる。
もう僕は、自分が素敵な宿のオーナーになって…の、想像でいっぱいだった。
ヒッピの小声は、僕の頭を素通りしていった。
ギルド加入の流れに乗って、サクサクと購入書類も記入した。
そして手続きは、無事に終了したのだ!
鍵をギルド職員から受け取り、足取り軽く退室する。
場所がよく分からないから、地図はヒッピに渡した。
何だか、そわそわ落ち着かないヒッピと、馬車に戻る。
何だろう!?
そう思いつつも、僕は浮かれていた。
ヒッピの様子に一瞬、違和感が生じるも、すぐに消え失せた。
ザックさんと合流する。
馬車をギルドに預けたまま、3人で少し歩く。
この辺りは飲食店が多く、近くの広場には露店があるらしい。
でも僕はお金を持ってない。
ヒッピが経費として食事代を預かってるが、額は少ないらしい。
お店に入ると1人分位の予算。
1人で行けと言う…
僕はその予算を使って、3人で露店で食べるのを提案した。
ヒッピやザックさんとなら、一緒の方が楽しいだろう♪
スパイスの風味や、濃いめの味付けが美味しかった。
2人とも毎日3回、食べてる訳では無いみたいだ。
庶民は1日1~2食だと、ヒッピが話す。
日本でも、昔はそうだったらしいな。
大じいちゃんも、そんなこと言ってたし。
2人が痩せてる理由がわかった。
騎士は高給取りだが、兵の給料は安く、装備品の支給が最低限で、自前がかなりらしい。
…ザックさんがボヤいてた。
ザックさんは49歳。
子供はいないらしい。
姉さん女房で10歳年上の奥さんが、去年亡くなったらしい。
【剣術】スキル持ちで、警備兵にはなれたが、身長は175センチ。
庶民としては背の高い方だけど、スキル持ちとしては小柄だ。
大柄な人が多い騎士や兵の集団の中、大変だったんだろうな…
60~70歳位が寿命な庶民。体が動かなくなって来たら、退職を考えるらしい。
《もうすぐだ》と笑って話す姿が切ない。
親しみを感じてた人と、親しくなれたのは良かったが…、しんみりしてしまう。
何て言っていいのか困って、無言になる。
《ザックさんに、桃食べて長生きしてもらおう》と思った。
ヒッピも語った。
ヒッピの名字は、身寄りの無い子供の世話をしてる《ロイじい》事、ロイラーさんの名前からとって、自分達で名乗ってたらしい。
孤児院みたいだ。
といっても、ロイじいの自宅で、補助金がある訳じゃない。
王都で孤児になって、ロイじいに拾ってもらったらしい。
ロイじいの家があるけど、ロイじいはもう働けない年齢で、ヒッピや他の子達が、お金を出したり、小さい子供やロイじいの世話をしてるみたいだ。
ヒッピは、ロイじいの家から出て、今は文官の宿舎に住んでるけど、仕送りしてるんだって。
今は何とか人頭税が払えてるみたいだが、8歳9歳の子達が3人いる。
さらに小さい子も何人か…。
その子達が10歳になる、2年後が厳しそうだし…
その先もある…。
王都の人頭税は、10歳から金貨2枚だ。
今は3人で働いて4人分、800万円の税金を払っているのに…。
2年後に600万円相当も税金が増えたら、そりゃ大変だろう。
ロイじいの家は、僕の宿から近いらしい。
《一度、ヒッピに連れてってもらおう》と思った。
この世界、10~12歳位の年齢で働き始める。
ヒッピも10歳から、いろんな仕事をして来たらしい。
12歳で文官見習いになれたのは、スキルのおかげだと話す。
ヒッピは【文書管理】と【計算】の2つのスキルを持ってた。
ギルドに戻って、馬車に乗る。
考え込んでたハズなのに、馬車の揺れと、満腹感、それにヒッピのガイド音声が合わさって、眠気を誘う。
兵舎からギルドまでは、1時間ちょっとかかった。
ギルドから宿までは、2時間以上かかるらしい。
うとうと、寝てたみたいだ。
ヒッピの案内、何も覚えてないや。
ザックさんの《着いたぞ~》で、ようやく目が覚めた。
建物を見て、本当に目が覚めた!!
想像以上にボロ宿だった…。




