コカトリア族
コカトリアという種族が小さな集落を築いたのはもう一世紀以上前の事だ。
この狭い世界で数多の種族と共存するのではなく、自分たちにあった小さな世界を生み出し、新しい生態系を築くことを彼らは実践したのだ。
彼らの始まりでもある始祖の悪魔【クーリ・ロンガ】は今も健在で集落の守り手として今も住民たちから慕われ、あがめられている。
結界や魔よけに特化していた羽を全身にまとった身の丈3メートルほどのニワトリ。知性を帯びた丸い瞳はぎょろりと光り、肉をついばむ口は研ぎたての包丁のように鋭く。手足は鶏のように波打った模様と、物をしっかりと掴む為の手のひらがついていた。
人語を理解してはいるが、彼女の声帯は現在のコカトリアと違い発達しておらず、がなるような声やくぐもった声しか出せないのである。
今は守護神として君臨するクーリ・ロンガは豊満な胸を持ち、若干ふくよかで、黄色見をほんのりと帯びた美しい白い羽毛で覆われている。
その能力も美貌も健在で、いまだに子宝に恵まれていると聞くのだから驚きだ。
集落の発足当時、彼女はあえて同種の鳥類のオスではなく周辺にいた数名の人間の奴隷を購入すると彼らに森を広げさせて自身の結界を張り、そこに神殿を設けさせた。
彼女は幾度となく奴隷と交わり、数多くの子供を孕み落とした。その中で望む形の子を作るのにおよそ数百のヒナを間引き、現在の生態系を築いたという。
すでに村には人間は残っていないが、当時は生まれた子供がメスならばその父親以外の奴隷と交わらせてより強い主を生み出そうとした。
しかし、遺伝子が組み変わるにつれて子孫の魔力や神格としての能力もまた薄れていったという。わずかに残る名残は全身の羽毛と手足の爪ほどでより人間に近い骨格をしている。
鳥の変装をした人間を想像して頂きたい。
おそらくはその通りだろう。
それでも獣を撃退するパワーに加えて、人間の技術と知恵がついたことがこの種の反映を約束し、過酷な魔獣の巣くう森での生活区域の拡大を可能にしたことに関係していることは疑いのない事実だった。
彼らの羽は食生活によりさまざまな色に変色すると言った特徴を持っている。
その羽は美しければ美しいほどに誇りと威厳を現して、村での発言力にまで影響をしていた。祭りや宴会の席では必ず舞を披露するという風習があり、年に一度だけ守護神の前で舞い、最も優れていた者に守護神に次ぐ発言力を与えるという取り決めもあるほどなのだ。
祭りの顛末を見ると、これは住民の誇りを表すだけのものではなく、クーリ自身を守護者としてではなく、母として身近に感じさせるといった狙いもあるように思えた。
集落の構成としては2~30人程が暮らす村が20ほど、円形に広がり、その中央に守護神の神殿がある。外を囲む村は守護神の力によって守られており、外的が絶対に近づけないようになっている。
住民たちは成長すると、女子は基本集落の外には出ずに子作りに専念する。男子は青年期になると国にとどまるか、新たに森を開拓して集落を持つかを選ぶことが出来た。
夫か戦士を選ぶことができたのだ。
なかには開拓と言う名目で外の世界を旅して回る者もいた。そういった者達は村では英雄のように扱われている。外での武勇を語り、帰省に来ただけですぐに戻る者も中にはいたが。大抵は一度戻ると外へは出たがらないらしい。
これは故郷ほど住みやすい場所は無いということなのかもしれない。
住民達は決して裕福ではないが、心は決して貧しくはなかった。
偉大な母を中心に団結を強めている。
彼らにとってはこの村こそが世界で、この村の人口こそが世界人口なのだ。
外から持ち込まれた文明は、この森の中では長く続くことはない。医療ですら自然界にあるもので(もちろん例外もあるが)十分と言っていた。
主食は家畜用の牛やブタ、集落の近くで取れる木の実や一年草である。集落の中には何本かの大木があり、そこでミツバチを飼育してハチミツも食べられる。
彼らの母国語である『ゴア語』は声帯の進化のために、今では話せるものが減っているらしく、大概は私たちと同じ言葉で会話をしている。
ちなみに、クーリは現在も外部の男性と頻繁に交わっているようなので一族の生態系はより複雑になりそうだ。
タロン・マッカート
Q 個人的にこの集落での生活はどう感じましたか?
A 大変住みやすい所だと感じました。インフェルノにもこのような場所があるのだと、正直自分の見解の狭さに反省させられましたね。食材の豊かさや生活水準の高さも印象的でした。
Q 集落で半年ほど生活されていたんですよね? 村人との交流はどういった感じだったのでしょうか?
A 驚くほどに友好的でした。むしろ私から新しい知識を引き出そうとしてくれたので、すぐに打ち解けることが出来ました。村にもともとあったパン粉を使ったパイの作り方を教えたのですが、村から出る頃には主産物の木の実を使ったジャムパイを振舞ってもらいました。
Q 中を見ると、獣人であるタロンさんも異性としてモテたりされたんですか?
A はい(笑) 同行していた男性も20人ほどから求婚されていました(笑) 私はそうでもなかったんですが、一番驚いたのはクーリ自身から求婚をされたことですね。もちろん丁寧にお断りさせていただきましたが、優しい母親のような印象だったのっでかなり驚かされました。
Q 関係を持った女性はいなかったと言うことですか。
A え~、まぁ、いませんでしたねぇ。残念ながら(笑)