ジョージの洗濯屋さん
ある小さな町に、腕のいい洗濯屋さんがありました。
洗濯屋のジョージは、しみがついて薄汚れたシーツを真っ白に洗いあげましたし、
ボブのおじょうさんの可愛らしいブラウスも、しわひとつなくアイロンがけしました。
トムが結婚式に着ていくシャツはぱりっとのりがきいていて、
リリーの柔らかなドレスは、よりふわりとして手元に戻りました。
ジョージは自分が洗った服で、みんなが笑顔になるのがとても好きでした。
そんなジョージですから、町の人からとても好かれていました。
でもジョージの洗濯屋さんがおおはやりするのは、他にも理由があったのです。
何か悲しいことがあったとき、着ていた服をジョージの洗濯屋さんに持っていくと、
ジョージが洋服を奇麗に洗っている間に、お客さんの悲しみは薄れてしまうのです。
最初は偶然だと思っていた人も、同じことがあまりにも続くので、
「ジョージはきっと心も洗ってくれるんだ」と、うわさするようになりました。
こうしてジョージの洗濯屋さんはいつもお客さんでいっぱいになったのです。
お店には毎日服が持ち込まれ、相変わらずジョージは忙しく働いているようでした。
ところがある時から、ジョージの洗濯屋さんは看板をださなくなりました。
しかもどうしてお休みなのか、誰に聞いてもわからないのです。
ノックをしても、ジョージが出てくることはありません。
どうやら留守のようです。
それでもジョージがお店を出して十年、看板を出さない日が続いたことなんてありませんでした。
「手分けして探してみよう」
心配した町の人たちは、ジョージの名前を呼びながらあちこち歩き回りました。
ジョージは程なく見つかりました。
町の隅っこで小さく丸まって、人に見つからないようにしているかのようでした。
「きみは本当にジョージなのかい?」
最初にジョージを見つけたトーマスは、思わずそうたずねました。
なぜって、ジョージの体は、緑色のこけにすっかりおおわれてしまっていたからです!
「はじめは少しだけだったんだ」
ジョージは言います。
「だけどある朝起きたら、体中が緑色になっちゃってたんだよ」
自分ではがしてみると、とても痛いのです。
こんなお化けみたいなかっこうでは、洗濯屋さんは開けません。
どうしていいのか分からなくなったジョージは、仕方なくこの場所で人目に付かないようにしていたのでした。
トーマスはかわいそうなジョージの右手を握りました。
するとその手から、ぽろりとこけが落ちました。
そのとたん、トーマスははげしい悲しみにおそわれました。
そしてなぜか、自分のお母さんが天国へ召された時のことを思い出しました。
トーマスはわんわん声を上げて泣き出してしまいました。
「泣かないでおくれよ」
ジョージがなぐさめようとしても、トーマスの涙はとまりません。
ジョージも悲しくなってきて、しくしくと泣き始めました。
今度はアンが、かわいそうなジョージの左手を握りました。
するとまた、ジョージの体からこけがぽろりと落ちました。
そのとたんにアンの瞳から涙がこぼれおちました。
アンは飼い犬のロンが、迷子になって戻ってこなかった時のことを思い出したのです。
泣いている三人を見ていた町長が、うむむとうなりました。
「ジョージの洗濯屋に世話になったみんなに、すこしずつこけを取るように言うのだ」
こうしてたくさんの町の人たちが集まりました。
ジョージのこけを取るたびに、泣いている人の数が増えました。
友達にうそをつかれたこと、
仲間はずれにされたこと、
大切なものをなくしたこと、
大失敗をしてしまったこと、
大好きな人とのお別れ……
みんなが思い出したのは、ジョージの洗濯屋さんに服を持っていった時のことでした。
水たまりができるくらいみんなが泣いた頃、ジョージの体はすっかりきれいになりました。
泣いていた人たちも、きれいになったジョージを見てにこにこと笑いました。
今日もジョージの洗濯屋さんは大繁盛です。
しみがついて薄汚れたシーツを真っ白に洗いあげ、
ティムのおじょうさんの小さなブラウスも、しわひとつなくアイロンがけしました。
トーマスがパーティに着ていくシャツはぱりっとのりがきいていて、
アンの繊細なドレスは、しなやかに美しくなり手元に戻りました。
だけどもう、悲しいことがあった時、服を持っていくひとはいません。
かわりに楽しいことがあった時、服を持っていくのです。
そうするとジョージの洗濯屋からは、楽しそうな鼻歌がきこえてくるのでした。
少し暖かい気持ちになってくれたら嬉しいな、と思います。
普段暗いのばっかり書いてるとは思えない出来です、自分としては。
さすが3年もの。